開放隅角緑内障

視野が少しずつ欠けていく開放隅角緑内障は、初期に自覚症状がほとんどなく、気づかないうちに進行する病気です。特に40歳を過ぎたら誰もがリスクを抱える身近な病気であり、「自分は大丈夫だろうか」と漠然とした不安を感じていませんか?一度失われた視神経は元に戻らないため、早期発見と適切なケアが重要といえます。

この記事では、開放隅角緑内障の基本知識から、タイプ別の原因、検査方法、そして「眼圧を下げる」治療目標に向けた多様なアプローチを解説します。眼圧を効果的に下げる新たな点眼薬や、患者さんの負担を軽減する低侵襲手術、投与技術の進化など、最新の治療法まで詳しくご紹介します。

この記事を読むことで、ご自身の目の状態を正しく理解し、治療への不安を解消できるでしょう。最適な治療選択肢を見つけ、ご自身の視機能を長く維持するための具体的な行動へとつながります。未来の視界を守るため、ぜひ最後までお読みください。

開放隅角緑内障の概要

開放隅角緑内障は、眼の圧力が不自然に高まることで視神経がダメージを受け、じわじわと視野が欠けていく病気です。この病気の特徴は、初期段階で自覚症状がほとんどなく、気づかないうちに進行してしまう点にあります。そのため、早期発見と適切な治療の開始が、何よりも重要といえるでしょう。

眼の中には「房水(ぼうすい)」という液体が常に作られ、排出されることで一定の圧力を保っています。開放隅角緑内障の場合、房水の排出路である「隅角(ぐうかく)」の構造自体には問題がありません。しかし、その先のフィルター機能が低下することで房水がスムーズに流れず、結果として眼圧が上がってしまいます。高い眼圧が続けば、視神経は持続的にダメージを受け、その機能は少しずつ失われるでしょう。残念ながら、一度傷ついた視神経は元の状態に戻ることがありません。そのため、これ以上視野が狭まらないよう、病気の進行を食い止める治療が何よりも大切です。

治療の主体となるのは、眼圧を下げるための点眼薬です。点眼薬は、房水の作られる量を抑えたり、房水が外へ流れ出るのを助けたりすることで、視神経にかかる負担を和らげる働きがあります。点眼薬の効果を最大限に引き出すためには、指示された量を正確に、そして継続的に点眼することが不可欠です。

近年、点眼薬の投与方法についても研究が進んでいます。例えば、Nanodropper(ナノドロッパー)というアダプターを用いることで、従来の点眼薬よりも少ない量(マイクロドロップ)で点眼が可能になることがわかってきました※。ある研究では、このマイクロドロップのチモロール点眼薬が、従来の点眼薬と同程度の眼圧を下げる効果を示すことが報告されています※。さらに、マイクロドロップの使用は、従来の点眼薬と比較して、安静時の心拍数や血圧など全身への影響をわずかに軽減する可能性も示唆されています※。これは、点眼薬による全身性の副作用が気になる患者さんにとって、選択肢の一つになり得ると考えられます。

病気の進行を食い止め、ご自身の視機能を長く保つためには、定期的な眼科検診が何よりも大切です。特に40歳を過ぎたら、症状がなくても一度は眼科で緑内障の検査を受けることを強くおすすめします。

開放隅角緑内障の種類

開放隅角緑内障は、房水(ぼうすい)の排出経路である「隅角(ぐうかく)」が物理的には広いにもかかわらず、何らかの理由で房水がスムーズに流れなくなり、眼圧の上昇や視神経の障害が起こる緑内障です。この病気は、その発症メカニズムによって大きく二つのタイプに分けられます。

原発開放隅角緑内障(げんぱつかいほうぐうかくろくないしょう)

原発開放隅角緑内障は、緑内障の中で最も多くの患者さんにみられるタイプです。他の目の病気や全身の病気が原因ではないにもかかわらず発症します。眼の中を循環する房水の「出口」にあたる線維柱帯(せんいちゅうたい)という部分に、目に見えない変化が生じることで房水の排出が滞り、眼圧が上がると考えられています。

このタイプはさらに、眼圧が比較的高い状態にある「高眼圧緑内障」と、眼圧は正常範囲内であるにもかかわらず視神経が傷ついてしまう「正常眼圧緑内障」に分けられます。特に日本人では、この「正常眼圧緑内障」が多いことが知られています。

治療は、まず眼圧を下げるための点眼薬が中心です。点眼薬で十分な効果が得られない場合や、病気の進行が速いと判断される場合には、手術が検討されます。近年では、体への負担が少ない「低侵襲緑内障手術(MIGS:Minimally Invasive Glaucoma Surgery)」が発展してきました。代表的な術式として、次のようなものがあります。

  • Preserflo Microshunt(プレザーフロー マイクロシャント):
    この手術では、非常に小さなシャント(人工の細い管)を眼の中に挿入し、房水の排出路を新たに作ることで眼圧を下げます。ある研究では、原発開放隅角緑内障の患者さんに対し、Preserflo Microshuntを挿入後12カ月で、眼圧が平均9.07mmHg、緑内障治療薬の使用量が平均2.37剤、それぞれ有意に減少したと報告されています※。また、低眼圧症や前房出血といった初期の合併症はみられるものの、全体として重篤な有害事象のリスクは低いと考えられています※。
  • Kahook dual-blade(カフック デュアルブレード)ゴニオトミーやマイクロフックを用いたトラベクロトミー:
    これらの手術は、房水の排出路である線維柱帯を切開することで房水の流れを改善します。KDBゴニオトミーは、マイクロフックを用いたトラベクロトミーと比較して、術後12カ月にわたって切開部の断面積をより大きく維持できることがわかっています。しかし、大きな切開部を形成できるKDBゴニオトミーであっても、術後の眼圧コントロールにおいては、マイクロフックを用いたトラベクロトミーに対する優位性は認められていません。また、KDB群では術後12カ月において、眼内の炎症を示すフレア値がマイクロフック群よりも高値を示す傾向があったことも報告されています。

続発開放隅角緑内障(ぞくはつかいほうぐうかくろくないしょう)

続発開放隅角緑内障は、別の病気や薬の副作用、あるいは目の外傷などが引き金となって眼圧が上昇し、結果として緑内障を発症するタイプです。その原因は多岐にわたり、例えば以下のようなものが挙げられます。

  • 眼の中の炎症:ブドウ膜炎などの炎症が房水の排出経路に影響を及ぼすことがあります。
  • ステロイド薬の長期使用:内服薬や点眼薬として使われるステロイドが、房水の排出を阻害し眼圧を上昇させるケースがあります。
  • 糖尿病網膜症など:進行した糖尿病網膜症によって眼の中に異常な血管(新生血管)が生じ、それが房水の排出路を塞ぐことがあります。
  • 眼の外傷:外からの強い衝撃によって、房水の排出経路がダメージを受けることがあります。
  • 落屑症候群(らくせつしょうこうぐん):
    眼の中で作られる異常なタンパク質(落屑物質)が線維柱帯に詰まり、房水の排出を妨げることで眼圧が高くなる状態です。

このタイプの緑内障では、眼圧を下げる治療と並行して、原因となっている病気や状態の治療を行うことが重要となります。原因を取り除くことや、その進行を抑えることが、緑内障の症状改善につながります。

開放隅角緑内障の原因

開放隅角緑内障の主な原因は、眼圧の上昇によって視神経が傷ついてしまうことです。眼圧とは、目の内部にかかる圧力のことです。目の形を保ち、その機能を維持するためには、ある程度の圧力が必要ですが、この圧力が適正値よりも高くなると、非常にデリケートな視神経に大きな負担がかかってしまいます。

私たちの目の中では、房水(ぼうすい)という透明な液体が常に作られています。この房水は、目の中で栄養を運び、その後、瞳孔を通り、目の前にある隅角(ぐうかく)という空間へ流れ込みます。最終的に、隅角に位置する線維柱帯(せんいちゅうたい)というフィルターのような組織を通って、目の外へと排出される仕組みです。このスムーズな房水の循環によって、眼圧は常に適切な値に保たれています。

しかし、開放隅角緑内障の場合、房水の排出経路である線維柱帯に目に見えない変化が生じ、房水がうまく目の外へ流れ出せなくなります。まるで排水溝が詰まってしまうかのように、房水の排出が滞ってしまうのです。その結果、目の内部に房水がたまり続け、眼圧が慢性的に上昇してしまうことがあります。

上昇した眼圧は、デリケートな視神経に持続的なダメージを与え、少しずつ視野が欠けていく原因となります。残念ながら、一度傷ついた視神経は元に戻らないため、これ以上視野が狭まらないように、眼圧をコントロールすることが非常に重要です。眼圧がこの病気の進行に深く関わっていることは、眼圧を下げるための多様な治療法が日々研究され、実践されていることからも明らかです。例えば、点眼薬の効率を高めるデバイスの開発※など、さまざまなアプローチで眼圧コントロールの改善が目指されています。

開放隅角緑内障の症状

開放隅角緑内障は、初期段階でほとんど自覚症状がなく、ご自身では病気に気づきにくいという特徴があります。これは、病気が時間をかけてゆっくりと進行するため、脳が視野の一部が欠けているのを無意識に補ってしまう機能や、両方の目で互いの視野をカバーし合うためと考えられています。

そのため、多くの場合、視野の異常を自覚するのは、病気がかなり進行し、視野の欠損が広範囲に及んでからになるといえます。進行すると、次のような症状が現れる可能性があります。

  • 視野の一部が欠ける、暗く見える、ぼやけて見える
    (多くの場合、中心部ではなく視野の周辺部から欠け始めるため、より一層気づきが遅れる原因となります)
  • 視力そのものの低下
    (視野の欠損が広がり、視神経へのダメージが進行した場合に起こります)

これらの症状を自覚した時には、残念ながら病気がかなり進行している可能性が高いといえます。だからこそ、症状がなくても定期的に眼科検診を受け、早期に病気を見つけることが何よりも大切です。

開放隅角緑内障の検査・診断

開放隅角緑内障は、初期には自覚症状がほとんどないため、複数の精密な検査を総合的に行い、早期に「病気を見つける」ことが診断の鍵です。検査で現状を正確に把握し、治療へとつなげることが、視野の維持にとって重要となります。

診断のために、主に次の検査が行われます。

  • 眼圧検査
    眼圧は緑内障の発症や進行に深く関わるリスク因子の一つです。眼圧計で眼球の硬さを測定し、基準値より高い場合は緑内障の可能性が考えられます。定期的に測定することで、眼圧の変動パターンも確認できます。
  • 眼底検査
    眼底にある視神経乳頭(視神経の入り口)の状態を詳細に観察します。緑内障で視神経がダメージを受けると、この乳頭に萎縮や陥凹(へこみ)が見られるようになるため、その変化から緑内障の有無や進行の度合いを評価する手がかりとなるでしょう。
  • 視野検査
    視野の欠損は、緑内障の代表的な症状ですが、病気の初期段階では無意識に脳が欠損部分を補うため、ご自身で気づくのは困難です。視野検査では、光の点が見える範囲を客観的に調べ、視野のどの部分がどれくらい欠けているかを正確に把握します。これにより、病気の進行度や、治療の効果を評価する重要な指標が得られます。
  • 隅角検査
    房水(目の内部を満たす液体)の排出口である「隅角」の形態を、専用のレンズを使って直接観察する検査です。開放隅角緑内障では、この隅角が詰まっていないにもかかわらず眼圧が上昇します。この検査は、隅角が物理的に狭くなることで眼圧が上がる「閉塞隅角緑内障」との区別をつけるために欠かせません。
  • 光干渉断層計(OCT)検査
    視神経線維層や黄斑部の厚さを、非常に高い精度で測定できる画像検査です。緑内障が進行すると、視神経がダメージを受けることでこれらの部位の厚みが薄くなります。OCT検査は、ごくわずかな厚みの変化も捉えられるため、病気の早期発見や、治療による進行抑制の評価に役立ちます。

これらの検査で得られた結果を医師が総合的に判断し、開放隅角緑内障であるかを診断します。診断後は、患者さん一人ひとりの状態に合わせた眼圧コントロールのための治療方針が立てられます。

近年、緑内障手術は進化を遂げており、房水の排出口である線維柱帯を切開する「低侵襲緑内障手術(MIGS)」の選択肢も増えています。しかし、手術方法の選択は慎重に行う必要があると考えられています。例えば、線維柱帯を切開する術式の一つである「Kahook dual-blade(KDB)ゴニオトミー」と、マイクロフックを用いた「ab internoトラベクロトミー」を比較した臨床研究があります※。この研究では、原発開放隅角緑内障または落屑緑内障の患者さん、それぞれ29名を対象として、術後の線維柱帯切開部の形態変化や眼圧コントロールについて評価されました※。

研究の結果、KDBゴニオトミーはマイクロフックを用いた術式と比較して、術後1週間から12カ月後まで、線維柱帯の切開断面積をより大きく維持できることが示されています。特に、マイクロフックを用いた術式では、術後1カ月、6カ月、12カ月時点で、切開部が前眼部光干渉断層計(AS-OCT)で識別できない患者さんの割合が高かったことも報告されました※。

しかし、興味深いことに、KDBゴニオトミーで切開断面積を大きく維持できたからといって、術後の眼圧コントロールにおいてマイクロフックを用いた術式より優れているという結果は認められていません※。これは、単に切開部が大きいだけでは眼圧降下効果に直結しない可能性を示唆していると考えられます。また、KDBゴニオトミーを受けた患者さんでは、術後12カ月時点で眼内の炎症を示す「フレア値」が、マイクロフック群よりも高値を示す傾向があったことも指摘されています※。

このように、新しい術式が開発されても、その効果やリスクについては多角的な検証が重ねられており、クリニックではこうした最新の知見を踏まえながら、患者さんにとって最適な治療法を提案できるよう努めています。

開放隅角緑内障の治療

開放隅角緑内障の治療は、一度傷ついた視神経が元に戻らない特性を理解した上で、これ以上視野が狭まらないよう「眼圧を下げること」を最大の目標に進めます。患者さん一人ひとりの病状の進行度合いやライフスタイルに合わせて、点眼薬、レーザー治療、手術治療など、最も適した方法を検討していきます。

点眼薬による治療

開放隅角緑内障の治療では、多くの場合、点眼薬が最初に選ばれる治療法です。毎日点眼することで、眼の中を循環する房水の量を適切に調整し、視神経への負担を減らすことを目指します。

点眼薬は、主に以下の2つのタイプがあります。

  • 房水の産生を抑えるタイプ:眼の中で作られる房水の量を減らすことで、眼圧の上昇を抑えます。
  • 房水の排出を促すタイプ:房水の排出口である線維柱帯からの流れを良くし、眼圧を下げます。

これらの点眼薬は、患者さんの眼の状態や眼圧の目標値に応じて、単独で使うこともあれば、複数の薬剤を組み合わせて使うこともあります。

近年では、既存の点眼薬で十分な効果が得られない方のために、新しいタイプの薬剤も登場しています。例えば、「Netarsudil(ネタルスジル)」という点眼薬は、既存の「Ripasudil(リパスジル)」よりも眼圧をさらに下げられる可能性が示されています。ある研究では、NetarsudilはRipasudilと比べて平均日中眼圧を**-1.74mmHg**さらに低下させる優位性が報告されています※。また、Netarsudilの方がRipasudilよりも有害事象(副作用)の発生率が低いことも示されており、特に結膜充血は両者で多くみられるものの、Netarsudilの方が発生が少ない傾向にありました※。

さらに、点眼薬の投与方法にも工夫が凝らされています。例えば、「Nanodropper(ナノドロッパー)」というアダプターを使うことで、従来の点眼薬よりも少ない量(マイクロドロップ)で点眼ができるようになりました。チモロールという緑内障治療薬のマイクロドロップは、従来の点眼薬と同じくらいの眼圧を下げる効果があるだけでなく、心拍数や血圧など全身への影響をわずかに軽減できる可能性も示唆されています※。全身への副作用が気になる方にとって、こうした技術は新たな選択肢となりえます。

点眼薬の効果を最大限に引き出し、病気の進行を抑えるためには、医師の指示通りに毎日正確に点眼し続けることが何よりも大切です。自己判断で点眼をやめたり、回数を減らしたりすると、眼圧が再び上昇し、取り返しのつかない視神経のダメージにつながる恐れがあります。

レーザー治療

点眼薬だけでは眼圧が十分に下がらない場合や、点眼薬による副作用が強く継続が難しい場合に、レーザー治療が検討されます。レーザー治療は、主に房水の排出経路である線維柱帯という部分に、光を照射することで房水の流れを改善し、眼圧を下げることを目的としています。

レーザー治療は、比較的短時間で終わり、体への負担が少ないというメリットがあります。しかし、すべての人に同じ効果があるわけではなく、効果の持続期間にも個人差があります。治療後も定期的な眼圧測定や視野検査を行い、効果が薄れてきた場合には、点眼薬の調整や別の治療法を検討する必要があります。

手術治療

点眼薬やレーザー治療を行っても、眼圧のコントロールが困難な場合や、病気の進行が急速に進む場合には、手術治療を検討します。手術の主な目的は、房水の排出経路を新たに作るか、既存の経路を広げることで、眼圧を安定させることです。

近年では、患者さんの体への負担をできるだけ少なくする「低侵襲緑内障手術(MIGS)」と呼ばれる術式も開発されています。例えば、「Preserflo Microshunt(プレザーフロー マイクロシャント)」という非常に小さなチューブ状の医療機器を眼の中に埋め込む手術があります。この手術では、房水の新しい排出口を作ることで眼圧を大幅に下げ、緑内障治療薬の使用量を減らせる効果が期待されています。あるメタアナリシスでは、PF-MSを挿入後12カ月で、眼圧が平均9.07mmHg、緑内障治療薬の使用量が平均2.37剤、それぞれ有意に減少したと報告されています※。初期の合併症として、一時的な低眼圧症や前房出血がみられることがありますが、全体的に見ると重篤な有害事象のリスクは低いと考えられています※。

このほかにも、線維柱帯切除術など、患者さんの眼の状態や全身の健康状態を考慮して、最適な手術方法が選択されます。

治療の継続と定期的な検査の重要性

開放隅角緑内障の治療は、一度始めて終わりというものではありません。病気の進行を食い止め、ご自身の視野をできるだけ長く維持するためには、根気強く治療を継続していくことが不可欠です。

たとえ自覚症状がなくても、眼圧の変動や視野に変化がないかを確認するため、定期的に眼科を受診し、検査を受けるようにしましょう。治療に対する不安や疑問があれば、遠慮せずに医師に相談し、ご自身の病状や治療について理解を深めることが、病気の進行を抑えるための大切な一歩となります。