正常圧水頭症
「物忘れが増えた」「歩幅が狭くなり、転びやすくなった」。ご自身や大切なご家族に現れたそんな変化を、単なる「年のせい」だと諦めていませんか? その症状、実は60歳以上の高齢者に多く見られる「正常圧水頭症」という病気のサインかもしれません。
この病気は、最新の研究で糖尿病の方は発症リスクが約3.1倍にもなると指摘されています。しかし、何より知っていただきたいのは、正常圧水頭症が「手術によって改善が期待できる認知症」だという大きな希望です。
本記事では、見過ごされがちな正常圧水頭症のサインや原因、そして希望の光となる治療法について詳しく解説します。諦める前に、まずは正しい知識を身につけましょう。
正常圧水頭症の概要
正常圧水頭症とは、脳を守る液体「脳脊髄液」の流れが悪くなる病気です。 行き場を失った液体が脳の中心にある「脳室」という部屋に溜まります。 その結果、脳が内側から圧迫されて、様々な症状を引き起こします。 この病気は、特に60歳以上の高齢の方によく見られます。
最大の希望は、「治療で改善する可能性がある認知症」だという点です。 主な症状は以下の3つで、「三徴候(さんちょうこう)」と呼ばれます。
- 歩行障害
歩幅が狭くなり、すり足で歩くようになります。 方向転換が苦手になり、転びやすくなるのが特徴です。 - 認知障害
物忘れが目立ったり、ぼーっとしたりすることが増えます。 全体的に意欲がなくなり、反応が鈍くなることもあります。 - 尿失禁
トイレが近くなったり、間に合わずに漏らしてしまったりします。
症状がゆっくり進むため、「年のせい」と勘違いされやすい病気です。 しかし、最近の研究では、生活習慣病との関連が指摘されています。 複数の研究を統合した分析によると、以下の病気を持つ方は注意が必要です。
- 高血圧
- 糖尿病
- 心臓の病気
- 過体重(肥満)
これらの病気を持つ人は、持たない人に比べ発症リスクが高まるのです。 気になる症状があれば、年のせいと諦めず、専門の医療機関に相談しましょう。
正常圧水頭症の種類
正常圧水頭症は、原因によって大きく2つのタイプに分けられます。 どちらのタイプなのかを明らかにすることは、治療の方針を考える上で大切です。
1. 特発性(とくはつせい)正常圧水頭症
「特発性」とは、特別な原因が見当たらない、という意味の言葉です。 なぜ発症するのか、はっきりとした理由がわからないタイプを指します。 正常圧水頭症全体の約20~30%を占め、主に60歳以上の方に見られます。
症状がゆっくりと進行するため、「年のせいかな?」と見過ごされがちです。 しかし、前の見出しでお伝えした通り、生活習慣病との関連も考えられています。
2. 続発性(ぞくはつせい)正常圧水頭症
「続発性」とは、何かの出来事に「続いて発症する」という意味です。 こちらは、他の病気や頭のケガが原因となって起こるタイプを指します。 正常圧水頭症の約70~80%がこのタイプで、原因が明確なのが特徴です。
原因となる主な病気やケガは、以下の通りです。
- くも膜下出血 脳の血管が破れてしまい、脳の周りに血が広がってしまう病気です。
- 頭部外傷 交通事故や転倒などで、頭を強くぶつけてダメージを受けることです。
- 髄膜炎(ずいまくえん) 脳を守っている膜に細菌などが感染し、炎症が起きる病気です。
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種類 |
原因 |
割合 |
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特発性正常圧水頭症 |
はっきりしない |
約20~30% |
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続発性正常圧水頭症 |
他の病気やケガ |
約70~80% |
このように原因は異なりますが、現れる症状はどちらのタイプもよく似ています。 気になる症状があれば、原因を特定するためにも専門の医療機関を受診しましょう。
正常圧水頭症の原因
正常圧水頭症は、原因によって2つのタイプに分けられます。 きっかけがはっきりしている場合と、そうでない場合があるのです。
1. 原因がわかる「続発性(ぞくはつせい)」
こちらは、他の病気や頭のケガがきっかけで発症するタイプです。 脳を守る液体「脳脊髄液」の流れや吸収が悪くなることで起こります。
- くも膜下出血 脳の周りに出血が広がり、髄液の流れ道が塞がれてしまいます。
- 頭部外傷 頭を強くぶつけ、髄液を吸収する部分が傷つくことがあります。
- 髄膜炎(ずいまくえん) 脳を覆う膜の炎症で、髄液の流れが悪くなることがあります。
これらの病気やケガの後に、歩きにくさなどが出たら注意が必要です。
2. 原因がわからない「特発性(とくはつせい)」
明らかな原因が見当たらないのに、発症するタイプです。 高齢の方にみられる正常圧水頭症の多くが、このタイプにあたります。
正確な原因は不明ですが、近年の研究で生活習慣病との関連が判明しました。 複数の信頼できる研究を分析した結果、以下の病気を持つ方は要注意です。
- 高血圧 リスクが約2.3倍
- 糖尿病 リスクが約3.1倍
- 心臓の病気 リスクが約2.3倍
- 過体重(肥満) リスクが約2.0倍
これらの病気は血管にダメージを与え、脳脊髄液の吸収を妨げます。 その結果、発症のリスクが高まるのではないかと考えられています。
正常圧水頭症の症状
正常圧水頭症には、特徴的な3つの症状があります。 これらは「三徴候(さんちょうこう)」と呼ばれ、数カ月から数年かけてゆっくり進行します。
ただ、最初から3つの症状がすべてそろうわけではありません。 3つの症状がみられるのは約60%とされ、多くは歩行障害から始まります。 ご自身やご家族に当てはまるものがないか、確認してみましょう。
【正常圧水頭症の3つのサイン】
- 1. 歩行障害 最も早く現れやすく、頻度の高い症状です。 歩幅が狭くなり(小刻み歩行)、足が上がらず地面をこするようになります(すり足)。 バランスをとるため、足を開いて歩く(開脚歩行)のも特徴です。 方向を変えるのが苦手でふらついたり、転びやすくなったりします。
- 2. 認知障害 物忘れが目立つようになります。 集中力が続かず、注意が散漫になったり、ぼーっとしたりすることが増えます。 自発性がなくなり、呼びかけへの反応が遅くなるなど、無気力・無関心に見えることもあります。
- 3. 排尿障害 トイレの回数が多くなる「頻尿」がみられます。 急に強い尿意を感じて我慢できなくなる「尿意切迫感」も特徴です。 その結果、トイレに間に合わずに漏らしてしまう「切迫性尿失禁」も起こります。
これらの症状は、加齢による変化や他の病気とも似ています。 しかし、正常圧水頭症は「治療で改善する可能性がある」病気です。 「年のせい」と決めつけず、気になる症状があれば専門医に相談しましょう。
正常圧水頭症の検査・診断
正常圧水頭症の診断は、一つの検査だけで決まるわけではありません。 問診や診察、複数の検査を組み合わせて、慎重に判断していきます。 「年のせいかな?」と感じる症状の原因を突き止めるための大切なステップです。
診断は、主に以下の流れで進められます。
- ステップ1:問診・診察 はじめに、医師が患者さんやご家族から詳しいお話を伺います。 「いつから、どんな症状で困っているか」などを確認します。 過去の病気やケガ、特に高血圧や糖尿病などの持病も重要な情報です。 これらの生活習慣病は、発症のリスクを高めることがわかっているためです。
- ステップ2:画像検査(CT・MRI) 頭のCTやMRIを撮影し、脳の状態を写真で詳しく確認します。 この検査では、脳の中にある「脳室」という部屋の大きさを調べます。 正常圧水頭症では、脳室が大きくなっているのが特徴です。 アルツハイマー型認知症でも脳室は大きくなります。 しかし、頭のてっぺん部分の脳の溝が狭くなるのが、正常圧水頭症の特徴です。 この違いが、他の病気と見分けるための重要な手がかりになります。
- ステップ3:髄液タップテスト 画像検査で正常圧水頭症が強く疑われた場合に行う検査です。 治療の効果を予測するための、非常に重要なテストだと考えてください。 腰から細い針を刺し、溜まっている脳脊髄液を少しだけ抜き取ります。 髄液を一時的に減らすことで、症状が改善するかどうかを確認するのです。 このテストで歩きやすさなどが改善すれば、手術で良くなる可能性が高いと判断できます。
これらの検査結果を総合的に評価して、正常圧水頭症の診断が確定します。
正常圧水頭症の治療
正常圧水頭症は、手術によって症状の改善が期待できる病気です。 「治療で良くなる可能性がある認知症」の一つとも呼ばれています。 特に、歩きにくさ(歩行障害)は改善しやすいのが大きな希望です。
治療の基本は、脳に溜まりすぎたお水(脳脊髄液)を逃がすことです。 脳への圧迫を減らし、脳の働きを助けることを目的とします。 そのために行われるのが「シャント手術」という治療法です。
シャント手術は、お水を逃がすための「バイパス」を体の中に作る手術です。 細い管(チューブ)を使い、お腹の中などへお水を流します。 手術は1時間ほどで終わり、入院はリハビリを含めて2週間程度が目安です。
シャント手術には、お水をどこからどこへ流すかで種類があります。 患者さんの状態に合わせて、最も適した方法を医師が選びます。
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手術の種類 |
つなぐ場所 |
特徴 |
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脳室腹腔(V-P)シャント術 |
脳室 ⇔ お腹(腹腔) |
最も一般的に行われる方法です。 |
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腰椎腹腔(L-P)シャント術 |
腰の背骨の中 ⇔ お腹(腹腔) |
脳に直接触れないため、体への負担が少ないとされます。 |
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脳室心房(V-A)シャント術 |
脳室 ⇔ 心臓(心房) |
お腹に手術歴がある場合などに選ばれます。 |
手術では、お水の流れる量を調節する「バルブ」という装置を埋め込みます。 このバルブは、手術の後でも体の外から磁石で簡単に調整ができます。
そのため、手術をして終わりではなく、定期的な調整が非常に重要です。 症状の改善具合を見ながら、その人に合った最適な水の量を見つけます。 この丁寧な調整こそが、治療の効果を最大限に引き出す鍵となるのです。













