那須・ハコラ病

ご自身やご家族が那須・ハコラ病と診断され、進行する認知機能の低下や骨の症状に直面し、情報が少ない中で不安を感じていませんか。この稀な遺伝性の病気は、20歳代頃からの骨の病変や40歳代からの神経症状を経て進行し、適切な理解が求められます。

この記事では、那須・ハコラ病の概要、その遺伝的な原因、段階的な症状の進行、確定診断に不可欠な遺伝子検査、そして現在の対症療法について詳しく解説します。

本記事を通じて病気への理解を深め、今後の治療や生活設計を検討する上での一助となることを目指します。専門家との対話の一歩として活用できるでしょう。

那須・ハコラ病の概要

那須・ハコラ病(正式名称:多発性嚢胞性骨異形成を伴う硬化性白質脳症、略称:PLOSL)は、骨に特有の病変と、ゆっくりと進行する認知症が主な特徴となる遺伝性の病気です。この病気は、残念ながら多くの場合、50歳前に命を落とすことが指摘されています ※。

進行する病状と現れる症状

那須・ハコラ病は、時間とともに症状が変化していく特徴があり、臨床経過は大きく4つの段階に分けられることが知られています ※。

1. 骨症状期

多くは20歳代頃から、骨の内部に袋状の「嚢胞性病変(のうほうせいびょうへん)」ができやすくなります。これにより骨がもろくなり、ちょっとした衝撃でも骨折するリスクが高まるのです。

2. 神経症状初期

40歳代頃からは、脳の働きに変化が現れ始めます。具体的には、以下のような症状が見られ始めることがあります。

・性格が変わる

・物事の判断が難しくなる

・物忘れがひどくなる

これらの症状は「進行性の早発性認知症」へとつながっていく前兆と考えられています。

3. 神経症状後期

認知症の症状がさらに進行し、日常生活への支障が大きくなる時期です。

遺伝の仕組みと診断方法

那須・ハコラ病は「常染色体潜性遺伝形式」という遺伝の仕方をします。これは、両親からそれぞれ受け継いだ遺伝子のうち、原因となる特定の遺伝子(アレル)の両方に変異がある場合に発症する病気です。両親はそれぞれ変異を一つずつ持っていても病気を発症しない「保因者(ほゆうしゃ)」であるケースも考えられます。

診断の第一歩は、患者さんに現れている骨の嚢胞性病変や、さまざまな臨床症状を詳しく調べることです。しかし、確定診断のためには遺伝子検査が不可欠となります。具体的には、「TYROBP」または「TREM2」という原因遺伝子の両方(二アレル性変異)に変異があることを特定する必要があります ※。ここでいう「二アレル性変異」とは、両親から受け継いだ2つの遺伝子(アレル)の両方に変異が見られる状態を指します。

また、遺伝子変異を一つ持っている保因者のご家族についても、TYROBP遺伝子に変異がある場合は、骨の嚢胞性病変のリスクや、将来的にアルツハイマー病を発症するリスクとの関連が指摘されています ※。そのため、ご家族を含めて病気への理解を深め、今後の人生設計を考える上で、専門家による遺伝カウンセリングは極めて重要であるといえるでしょう。

現在の治療と予後

現在のところ、那須・ハコラ病に対する根本的な治療法は、まだ確立されていません。そのため、患者さんの苦痛を少しでも和らげ、生活の質を保つための「対症療法」が治療の中心となります。

対症療法には、次のような内容が含まれます。

・整形外科的対応: 骨折や骨の痛みに対して、適切な治療が行われます。

・神経症状・精神症状への対応: 認知症の進行や精神的な症状に対して、薬による治療や、さまざまなサポートが行われることがあります ※。

患者さんだけでなく、そのご家族を含めたきめ細やかなケアや生活のサポートも、この病気と向き合っていく上で欠かせない要素です ※。

那須・ハコラ病の種類

那須・ハコラ病は、その発症に関わる遺伝子の違いによってタイプが分けられます。非常に稀な病気のため、どの遺伝子に変異があるかを特定することが、病気の全体像を理解する上で重要です。

この病気の主な原因遺伝子として、以下の2つが知られています。

・TREM2遺伝子

・DAP12(TYROBP)遺伝子

特に、TREM2遺伝子の変異は那須・ハコラ病の発症に深く関わっています。最近の研究では、このTREM2遺伝子に「c.257del」という新たなフレームシフト変異が見つかり、那須・ハコラ病の変異スペクトラムがさらに広がることが示されています ※。この変異があると、mRNA(メッセンジャーRNA)は作られても、その後のタンパク質量が著しく減少してしまうことがわかっています ※。

また、同じ遺伝子に変異があったとしても、患者さんごとに現れる症状のタイプや程度には個人差があることが特徴です。これは「表現型の不均一性」と呼ばれ、例えば次のような症状の現れ方があります。

・神経症状が強く現れるケース: 認知機能の低下が目立つ

・骨の症状が目立つケース: 骨折のリスクが高い、骨の痛みが強い

これまでの54症例のレビューからも、この神経変性症状と骨症状の多様性が改めて確認されています ※。

そのため、原因がはっきりしない早期発症型の認知症の症状がある場合は、骨の症状が見られなくても、早期に遺伝子検査を受けることが大切です ※。これにより、那須・ハコラ病の正確な診断と、今後の治療方針や生活設計に役立つ可能性があります。

那須・ハコラ病の原因

那須・ハコラ病の主な原因は、TREM2(トレムツー)という特定の遺伝子に異常が生じることです。この遺伝子異常が、全身の免疫システムに重要な役割を果たす細胞の機能を狂わせ、最終的に脳や骨に特有の病変を引き起こします。

TREM2は、脳の中にあるミクログリア(脳内の免疫細胞)や、体内のマクロファージ(異物を食べる細胞)、そして破骨細胞(骨を溶かす細胞)といった、全身の骨髄系細胞と呼ばれる免疫に関わる細胞の表面に存在する受容体です※。これらの細胞は、体の免疫反応や炎症の調整、老廃物の処理、さらには骨の形成と吸収のバランスを保つ上で、極めて大切な働きを担っています。

しかし、何らかの原因でTREM2遺伝子に変異が起きると、このTREM2タンパク質の機能が低下したり、作られる量が著しく少なくなったりします※。例えば、TREM2遺伝子に「c.257del」という特定の変異があると、mRNA(メッセンジャーRNA)は作られても、肝心なタンパク質の量が大幅に減ってしまうことがわかっています※。これは、まるで工場で設計図(mRNA)はできても、製品(タンパク質)が十分に作られないような状態です。

その結果、ミクログリアやマクロファージなどの細胞が正常に働かなくなり、体内で以下のような問題が生じます。

・脳内では、炎症が悪化しやすくなる

・本来取り除かれるべき不要な物質(アミロイドβなど)が蓄積しやすくなる※

・骨の細胞の機能にも異常が生じる

これらの変化が複合的に作用することで、脳や骨に病的な変化が生じ、那須・ハコラ病の様々な症状につながると考えられています※。特に、TREM2の機能不全は、ミクログリアの活性化を低下させ、不要な物質の除去能力を損なうため、神経炎症(脳内の炎症)を悪化させ、病気の進行を早める可能性も指摘されています※。

TREM2遺伝子の変異は、那須・ハコラ病の発症に深く関わるだけでなく、アルツハイマー病や前頭側頭型認知症、パーキンソン病といった他の神経変性疾患のリスクを高めることも知られています※。このことは、TREM2が脳の健康を保つ上でいかに根本的で重要な役割を担っているかを物語っているといえるでしょう。

那須・ハコラ病の症状

那須・ハコラ病は、進行性の認知機能低下と、骨がもろくなる骨の病変が特徴の遺伝性の病気です。これらの症状は、病気の原因となるTREM2遺伝子の変異によって、脳内の免疫細胞である「ミクログリア」の働きが損なわれ、神経炎症(脳の炎症)が悪化することで引き起こされると考えられています※。

この病気の症状の現れ方や進行度は、患者さんによってさまざまです。骨の症状がない場合でも、早期発症型の認知症が見られる場合は、那須・ハコラ病を特定するためにも早期の遺伝子検査が重要になることがあります※。

那須・ハコラ病の臨床経過は、主に次の4つの段階を経て進行することが知られています※。それぞれの段階で、特徴的な症状が現れます。

・潜伏期

この時期には、病気は始まっているものの、自覚できるようなはっきりとした症状はほとんど見られません。

・骨症状期

20歳代頃から、骨の内部に「嚢胞性病変(のうほうせいびょうへん)」と呼ばれる袋状の変形が現れ始めます。これにより骨がもろくなり、軽い衝撃でも骨折しやすくなるほか、痛みを感じることもあります※。特に手や足の骨に影響が出やすい時期です。

・神経症状初期

40歳代になると、脳の機能に変化が表れ、神経の症状が目立ち始めます。具体的には、性格が変わる、物事をうまく判断できない、物忘れがひどくなるなど、前頭葉の働きに関わる症状や、進行性の早発型認知症が見られるようになります※。

・神経症状後期

認知症の症状がさらに進行し、日常生活を送ることが非常に困難になる時期です。残念ながら、多くの場合、50歳になる前に命を落とすことが報告されています※。

この病気は、同じ遺伝子に変異があったとしても、現れる症状のタイプや程度には個人差がある「表現型の不均一性」という特徴があります※。たとえば、認知機能の低下が特に目立つ人もいれば、骨折のリスクが高いなど骨の症状が強く現れる人もいます。そのため、早期診断には、骨の症状だけで判断せず、総合的な視点と遺伝子検査が不可欠といえるでしょう。

那須・ハコラ病の検査・診断

那須・ハコラ病の診断は、患者さんの体の変化や心の状態を総合的に見極め、複数の検査を組み合わせることで確定されます。この病気は多様な症状を示すため、診察では症状の細かな変化に注意を払うことが重要です。

診察と臨床症状の確認

まず、医師は患者さんのこれまでの病歴を詳しく聞き取り、現在の症状について細かく確認します。那須・ハコラ病を疑うきっかけとなるのは、20歳代頃からの骨の痛みや骨折の経験です。さらに、40歳代以降に見られる性格の変化や物忘れなど、認知機能の低下の有無も重要な手がかりとなります※。

那須・ハコラ病は「表現型の不均一性」という特徴があります。これは、同じ遺伝子に変異があっても、骨の症状が目立つ場合や、認知機能の低下が強く現れる場合など、患者さんによって症状の現れ方がさまざまに異なることを意味します※。そのため、診察での病歴の聞き取りは、骨と神経、両面からの情報を丁寧に集める必要があります。

画像検査による内部状態の確認

次に、体の内部で何が起きているかを確認するため、画像検査が行われます。これにより、体内で進行している病的な変化を客観的に捉えることが可能になります。

画像検査の種類は次のとおりです。

・骨の画像検査 エックス線検査やMRI検査などを用いて、骨の内部に袋状の「骨嚢胞性病変(こつのうほうせいびょうへん)」が形成されていないかを調べます。この病変は骨がもろくなる原因となり、那須・ハコラ病の特徴的な所見の一つです。

・脳の画像検査 脳のMRI検査では、大脳の白質(神経線維が密集している部分)が硬く変化する「硬化性白質脳症(こうかせいはくしつのうしょう)」が見られることがあります。これは脳の機能に影響が出ていることを示唆しており、認知機能低下の原因を探る上で重要な情報となります。

遺伝子検査:確定診断と未来への道しるべ

臨床症状や画像検査の結果から那須・ハコラ病が強く疑われた場合でも、最終的な確定診断には遺伝子検査が不可欠です。那須・ハコラ病は、特定の遺伝子である「TYROBP」または「TREM2」の両方(二アレル性変異)に変異があることで発症する「常染色体潜性遺伝形式」という遺伝の仕方をする病気のため、遺伝子レベルでの確認が必須となります※。ここでいう「二アレル性変異」とは、両親から受け継いだ2つの遺伝子の両方に変異が見られる状態を指します。

特に注意が必要なのは、骨の異常が見られなくても、早期発症型の認知症の症状がある場合です。このようなケースでは、できるだけ早く遺伝子検査を受けることが強く推奨されます※。例えば、TREM2遺伝子に「c.257del」というフレームシフト変異があると、遺伝子の設計図であるmRNAは作られても、肝心なタンパク質が作られにくくなることがわかっています※。このような機能障害が認知機能低下につながるため、骨症状の有無だけで判断せず、遺伝子検査による正確な診断が極めて重要となるのです。

遺伝子検査の結果は、単に病気の確定診断に留まりません。ご家族の中に遺伝子変異を持つ「保因者(ほゆうしゃ)」がいる可能性も明らかになる場合があります。TYROBP遺伝子に変異がある保因者の場合、将来的に骨嚢胞性病変やアルツハイマー病の発症リスクとの関連が指摘されているため、ご家族を含めた遺伝カウンセリングは、今後の人生設計を考える上で欠かせないといえるでしょう※。

那須・ハコラ病の治療

那須・ハコラ病の治療は、現在のところ根本的な原因を取り除く方法は確立していませんが、病気の進行を遅らせ、患者さんの苦痛を和らげ、生活の質(QOL)をできる限り保つための「対症療法」と、きめ細やかな生活支援が治療の中心となります※。治療の目標は、患者さんご自身の日々の生活を支え、不安や苦痛を少しでも軽減することです。

治療の主な柱

那須・ハコラ病の治療は、患者さん一人ひとりの症状や進行度に合わせて、多角的にアプローチします。主な治療の柱は次のとおりです。

・骨症状への対応

那須・ハコラ病では、骨の内部に「嚢胞性病変(のうほうせいびょうへん)」と呼ばれる袋状の変形ができやすいため、骨がもろくなり、ちょっとした衝撃でも骨折するリスクが高まります※。そのため、骨折のリスクを減らすための予防策を講じること、そして万が一骨折した場合には、適切な整形外科的治療とリハビリテーション(機能回復訓練)を行うことが重要です。骨の痛みに対しては、鎮痛薬などで症状の緩和を図ります。

・神経症状・精神症状への対応

病気が進行すると、人格の変化や認知機能の低下、抑うつ(気分が落ち込む)、不安といった神経症状や精神症状が現れることがあります※。これらに対しては、それぞれの症状に合わせて薬を調整したり、精神科医や専門のカウンセラーによるサポートを受けたりします。患者さんの状態や症状の程度に応じて、専門医が丁寧に症状を管理し、苦痛の軽減を目指します。

・生活支援と包括的なケア

那須・ハコラ病は進行性の疾患であるため、日常生活におけるさまざまな支援が不可欠です。例えば、食事や入浴、移動などの介助、精神的なサポート、そして社会的な支援制度の活用などが挙げられます。医師、看護師、理学療法士、作業療法士、ソーシャルワーカーといった多職種が連携し、患者さんだけでなく、そのご家族を含めた包括的なケアを提供します。また、TYROBP遺伝子に変異がある保因者のご家族については、骨嚢胞性病変のリスクやアルツハイマー病発症リスクとの関連も指摘されているため、遺伝カウンセリングを通じて、病気への理解を深め、今後の人生設計を考えるサポートも重要となります※。

新しい治療法の開発に向けた研究

那須・ハコラ病は、「TYROBP」や「TREM2」といった特定の遺伝子の変異が原因で発症することがわかっています※。特に、TREM2(トレムツー)遺伝子は、脳内の免疫細胞である「ミクログリア」だけでなく、単球、マクロファージ、破骨細胞といった全身の「骨髄系細胞」の表面に存在する受容体であり、広範な炎症反応の調整に根源的な役割を担っています※。

このTREM2遺伝子に変異が起きると、ミクログリアが十分に活性化されず、脳内で不要な物質(アミロイドなど)の除去能力が低下します。これにより神経の炎症が悪化し、病気の進行を早める可能性も指摘されています※。

そのため、現在ではこのTREM2の働きを正常に戻すことを目的とした、モノクローナル抗体(特定のタンパク質を狙う薬)や小分子アゴニスト(薬の一種)、そして遺伝子治療などの新しい治療法の研究が精力的に進められています。将来的には、これらの研究が進むことで、より効果的な治療法が見つかる可能性も期待されていますが、臨床応用には疾患の不均一性や最適な投与時期・用量の検討など、まだ多くの課題が残されています※。