鼻せつ

鼻せつ

鼻の中にできた痛いおできに悩んでいませんか。赤く腫れ上がる「鼻せつ」は、鼻をいじる癖に免疫力の低下が重なると発症しやすくなります。原因は皮膚の常在菌「黄色ブドウ球菌」で、誰にでも起こりうる病気です。

この記事では、鼻せつの原因や症状の段階、そして抗菌薬や切開排膿といった具体的な治療法までを解説します。なぜ症状が繰り返されたり重症化したりするのか、その背景にある体質との関係性にも触れていきます。

ご自身の症状を正しく理解すれば、自己判断で潰すリスクと専門的な治療の重要性がわかります。快方へ向けた適切な次の一歩を踏み出すためにお役立てください。

鼻せつの概要

鼻せつとは、鼻の入り口(鼻前庭)にある毛穴や皮脂腺に細菌が感染し、赤みや強い痛みを伴うおできができる皮膚の病気です。症状が進むと鼻の先端が真っ赤に大きく腫れ上がるため、「ピエロの鼻」と表現されることもあります。

原因菌の多くは、私たちの皮膚や鼻の中に普段からいる「黄色ブドウ球菌」です。

では、なぜ誰もが鼻せつになるわけではないのでしょうか。

きっかけは、鼻をよくいじったり、鼻毛を抜いたりした際にできる小さな傷です。そこから細菌が入り込んで炎症を起こします。

しかし、感染が成立するかどうかは、単に菌が入り込むだけでなく、私たちの体の状態が大きく関わっています。菌の病原性の強さ、体の免疫力、そして鼻の中の環境という、さまざまな要因のバランスによって決まると考えられているのです。※

例えば、体調不良や生活習慣の乱れによって免疫力が低下していると、普段は問題にならない菌でも繁殖しやすくなります。また、鼻の中の細菌バランス(マイクロバイオーム)の状態も、感染のしやすさに影響を与えることがわかってきました。※

つまり、鼻をいじる癖があることに加え、体の抵抗力が落ちているタイミングが重なったときに、鼻せつは発症しやすくなるといえます。

鼻せつの種類

鼻せつは、おでき(せつ)の数や炎症の広がり方によって、主に2つの状態に分けられます。

下表にその特徴を整理します。

状態

特徴

癤腫症(せつしゅしょう)

・「せつ」が一度に複数できたり

・治っても繰り返しできたりする状態

癰(よう)

・癤腫症より重症で、隣り合った複数の毛穴に炎症が深く広がった状態

・皮膚の奥で膿の袋がつながり、広範囲に硬く腫れ、強い痛みを伴う

なぜ、このように何度も繰り返したり、重症化したりするのでしょうか。

その背景には、単に鼻をいじる癖だけでなく、原因菌である黄色ブドウ球菌が鼻の中にすみつきやすい「体質」が関係していると考えられています。

実は、黄色ブドウ球菌が鼻の中に定着しやすいかどうかは、その人の免疫応答の強さ、鼻の中にもともといる細菌たちのバランス(マイクロバイオーム)、さらには生活習慣や遺伝的な要因まで、さまざまな要素が複雑に絡み合って決まるのです。※

また、近年では黄色ブドウ球菌が作り出す「PVL(Panton-Valentine Leucocidin)」という毒素が、重症化に関わっていることもわかってきました。この毒素を持つ菌は感染力が強く、家族間で感染を広げる可能性も指摘されています。

このように、症状が広がったり、何度も繰り返したりする鼻せつは、単なる「おでき」と軽視できません。背景にある体質や菌の性質まで見据えた対応が必要になるため、早めに医療機関へご相談ください。

鼻せつの原因

鼻せつの原因は、黄色ブドウ球菌という、私たちの皮膚や鼻の中に普段からいる「常在菌」が引き起こします。

きっかけは、鼻をいじる癖や、鼻毛を抜く習慣などによって鼻の入り口にできる、目に見えないほどの小さな傷です。この傷が、細菌の侵入口となります。

しかし、菌が侵入したからといって、必ず感染が成立するわけではありません。
鼻せつが発症するかどうかは、次の3つの要素のバランスによって決まると考えられています。※

  1. 菌の要因(病原性の強さ)
    原因となる黄色ブドウ球菌そのものが持つ、病気を引き起こす力の強さです。
  2. からだの要因(免疫力の状態)
    私たちの体が持つ抵抗力のことです。疲れやストレス、睡眠不足、あるいは糖尿病などの持病によって免疫力が低下していると、菌の活動を抑えきれなくなります。
    また、生まれ持った免疫応答の強さ(遺伝的要因)も、菌の定着のしやすさに関係していることがわかってきました。※
  3. 環境の要因(鼻の中の細菌バランス)
    鼻の中には、多種多様な細菌がバランスを保ちながら生息しています(マイクロバイオーム)。このバランスが崩れ、悪影響を及ぼさない細菌が減ってしまうと、黄色ブドウ球菌が異常に増殖しやすい環境が生まれてしまいます。※

つまり、鼻をいじるなどの「きっかけ」があり、さらに「からだ」の抵抗力が落ち、「鼻の環境」が悪化するという複数の条件が重なったときに、普段は問題にならない常在菌が病原性をあらわし、鼻せつを発症するといえます。

鼻せつの症状

鼻せつの症状は、毛穴で増殖した原因菌と、体を守ろうとする免疫細胞との戦いによって起こる「炎症」が正体です。この戦いの激しさに応じて、症状は段階的に変化します。

症状の経過は、大きく2つの段階に分けられます。

  • 初期症状(炎症のはじまり)
  • 鼻の入り口が赤くなり、触れると熱っぽく感じる
  • 小さく硬いしこりができ、押すと痛む
  • 中心にニキビのような膿の点(膿疱)が見えることもある
  • 進行した症状(炎症のピーク)
  • しこりが大きく腫れあがり、ズキズキと脈打つような強い痛みが生じる
  • 中心に白い膿が透けて見える(膿瘍)
  • 鼻全体や頬、唇にまで赤みと腫れが広がることもある

このような症状が起こる背景には、単に鼻をいじる癖だけでなく、体の状態が深く関わっています。

私たちの体は、菌の病原性の強さ、体の免疫力、そして鼻の中にもともといる細菌たちのバランスという、3つの要素が均衡を保つことで健康を維持しています。※

しかし、疲労やストレスで免疫力が低下すると、このバランスが崩れ、普段はおとなしい黄色ブドウ球菌が異常に増殖し、強い炎症反応を引き起こしてしまうのです。

まれに炎症が鼻の奥や周囲の組織にまで広がると、顔全体の腫れや頭痛、発熱といった症状を伴うケースもみられます。

特に、原因菌が抗菌薬の効きにくいタイプ(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌:MRSA)である場合、治療が難しくなることも報告されています。※

自分で潰すと、細菌をさらに奥深くへ押し込んでしまう危険があるため、絶対にやめてください。気になる症状に気づいたら、速やかに医療機関を受診しましょう。

鼻せつの検査・診断

鼻せつの診断は、特別な機械を使うのではなく、まず医師が患部を直接見て、触れて状態を確かめる「視診」と、患者さんからお話を聞く「問診」から始まります。

鼻のどこが、いつから、どのように痛むのか。
赤みや腫れの具合、熱っぽさの有無。

そして、鼻をいじる癖や鼻毛を抜く習慣がないかなど、症状の経過や日常生活についてお伺いすることが、診断の重要な手がかりとなります。

多くの場合、この診察だけで鼻せつと診断できますが、症状が長引いたり、何度も繰り返したりする場合には、さらに踏み込んだ検査を行うことがあります。

なぜなら、その背景に抗菌薬が効きにくい耐性菌が隠れていたり、炎症が体の深くまで及んでいたりする可能性があるからです。

症状や経過に応じて、主に以下のような検査を検討します。

検査の種類

目的(何を調べるか)

培養検査・薬剤感受性検査

・原因となっている細菌の種類を特定する

・どの抗菌薬(抗生物質)が最も効果的かを見極める

鼻腔培養検査

・抗菌薬の効きにくいMRSAが鼻の中に常在していないかを確認する

血液検査

・炎症が体全体に広がっていないかを調べる(白血球数、CRP値)

特に重要となるのが、細菌を特定する検査です。

患部の膿を綿棒で少しだけ採取して原因菌を特定し、同時に、どの抗菌薬がその菌に有効かを調べます(薬剤感受性検査)。これにより、いわば「狙いを定めた治療」が可能になります。

また、鼻せつを繰り返す方には、鼻の入り口を綿棒でぬぐう「鼻腔培養検査」を行うことがあります。

これは、治療の難しくなるMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)が鼻の中にすみ着いていないかを確認するための検査です。

もし、この検査でMRSAが見つからなければ、おできの原因がMRSAである可能性は極めて低いと判断できます。実際に、MRSAによる皮膚の感染症を除外するうえで、この検査の信頼性は非常に高いことが多くの研究で示されています※。

これらの検査結果を総合的に評価し、診断を確定したうえで、一人ひとりの状態に合わせた最適な治療方針を決定します。

鼻せつの治療

鼻せつの治療は、原因となっている細菌の活動を抑える「抗菌薬(抗生物質)」と、たまってしまった膿を外に出す「外科的処置」の2つが大きな柱です。

炎症の程度や膿のたまり具合を見極め、一人ひとりの状態に合わせてこれらの治療を組み合わせていきます。

1. 抗菌薬による治療(内服・点滴)

軽症の場合は、主に黄色ブドウ球菌に効果のあるセフェム系の抗菌薬などを内服して治療します。

しかし、腫れや痛みが強かったり、熱が出たりしている場合は、体の中で炎症が強く起きているサインです。この場合は、抗菌薬を点滴で投与し、血流に乗せて直接患部に届け、より迅速に菌の増殖を抑える必要があります。

2. 外科的処置(切開排膿)

ズキズキと脈打つような強い痛みは、皮膚の下に膿がたまってパンパンに張っていることが原因です。

この状態では、抗菌薬だけでは効果が十分に行き届きにくいため、局所麻酔をしたうえで皮膚を小さく切開し、中の膿を排出する処置(切開排膿)を行います。膿という「菌のすみか」を取り除くことで、痛みや腫れは劇的に和らぎ、治癒までの期間を早めることが期待できます。

治療方針を決めるうえで特に重要となるのが、原因菌が薬の効きにくい「メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)」ではないかを見極めることです。

そのために、鼻の入り口を綿棒でぬぐう検査を行うことがあります。この検査でMRSAが見つからなければ、おできの原因がMRSAである可能性は極めて低いと判断できることが、多くの研究で示されています※。

ご自身で潰してしまうと、細菌を皮膚の奥深くや血管の中に押し込んでしまい、重症化する危険があります。気になる症状があれば、決して触らずに、できるだけ早く医療機関を受診してください。