健康診断で血液の異常を指摘されたり、原因不明の貧血や疲れやすさが続いたりしていませんか。それは「骨髄異形成症候群(MDS)」のサインかもしれません。この病気は血液を作る骨髄の機能に異常が起こり、一部は急性骨髄性白血病という、より進行した血液のがんに移行する可能性があるため、不安に感じる方も少なくないでしょう。
しかし、近年では治療法が大きく進歩しています。複数の研究を統合した分析では、アザシチジンとベネトクラクスという薬の組み合わせが生存期間を延ばす可能性も報告されました。ご自身の病気を正しく理解し、どのような選択肢があるかを知ることが、不安を和らげる第一歩となります。
この記事では、骨髄異形成症候群の原因から症状、そして最新の治療法までを詳しく解説します。ご自身の状況と照らし合わせながら、最適な治療を見つけるための情報としてお役立てください。
骨髄異形成症候群の概要
骨髄異形成症候群(MDS)とは、血液をつくる工場である 「骨髄(こつずい)」の機能に異常が起こる病気です。 その結果、健康な血液をうまくつくれなくなります。
私たちの骨髄には「造血幹細胞」という細胞があります。 これは赤血球や白血球といった血液のタネになる細胞です。 MDSでは、この造血幹細胞の遺伝子に傷がつきます。
その結果、骨髄の中では次のような異常が起こります。
- 異形成(いけいせい) できあがった血液細胞の形や働きが、 正常ではなくなってしまいます。
- 無効造血(むこうぞうけつ) 血液細胞が成長の途中で壊れたり、 うまく育たなくなったりします。
これらの異常により、血液中の正常な細胞が減少し、 貧血や感染症、出血といった症状を引き起こします。 この病気は主に高齢の方に多く見られるのが特徴です。
また、MDSの一部は「急性骨髄性白血病(AML)」という、 より進行した血液のがんに移行することが知られています。
MDSとAMLは関連が深いため、治療法の研究が盛んです。 近年の研究では、新しい治療の可能性が示されています。 複数の研究を統合した分析(メタアナリシス)では、 アザシチジンとベネトクラクスという薬の組み合わせが、 生存期間を延ばす上で有効な可能性が報告されました。
また、治療が難しい移植後の再発といった状況でも、 ベネトクラクスと低メチル化剤(HMA)の併用療法が、 将来の治療選択肢となる可能性が示唆されています。 このように、治療法の開発は着実に進んでいます。
骨髄異形成症候群の種類
骨髄異形成症候群(MDS)は、実は一つの病気ではありません。 いくつかの種類(病型)に分かれており、どの種類かによって、 今後の見通しや治療方針が大きく変わります。
種類分けは、血液検査や骨髄検査の結果から総合的に判断します。 主に、以下の3つのポイントが重要になります。
- 芽球(がきゅう)の割合 血液細胞の赤ちゃんにあたる「芽球」が、 骨髄や血液の中にどれくらいいるかを見ます。
- 異形成(いけいせい)の様子 赤血球や白血球などの形に異常がないか、 どの細胞に異常が多いかを確認します。
- 染色体の異常 細胞の設計図である染色体に、 病気に関わる特定の異常がないかを調べます。
さらに、治療方針を決める上で大切なのが「リスク分類」です。 これは、将来、急性骨髄性白血病へ進む可能性の高さに応じて、 患者さんを2つのグループに分ける考え方です。
- 低リスク群 主に貧血が中心で、病気の進行が比較的ゆっくりなタイプです。
- 高リスク群 白血病に移行する可能性が高く、より積極的な治療を検討します。
特に高リスク群の治療法は、研究によって進歩しています。 複数の研究を分析した結果、アザシチジンとベネトクラクスという 薬の組み合わせが、生存期間を延ばす可能性が示されました。
また、移植後の再発など治療が難しい場合でも、 ベネトクラクスと低メチル化剤を組み合わせる治療法が、 将来の選択肢となる可能性が報告されています。 ご自身の病状を正確に知ることが、適切な治療への第一歩です。
骨髄異形成症候群の原因
骨髄異形成症候群がなぜ起こるのか、その原因は 多くの場合、残念ながらはっきりとは分かっていません。 しかし、血液のタネである「造血幹細胞」が持つ設計図、 つまり遺伝子に後からキズがつくことが原因と考えられます。
遺伝子にキズがつくきっかけとして、 以下のようなものが関係する可能性が指摘されています。
- 年齢を重ねること 年をとると細胞が入れ替わる回数が増えるため、 設計図のコピーミスが起こりやすくなります。
- 過去の治療の影響 別のがんを治すための抗がん剤や放射線治療は、 がん細胞だけでなく正常な細胞の遺伝子にも影響します。
- 特殊な化学物質など ベンゼンなど一部の化学物質に長期間さらされることや、 過去に大量の放射線を浴びた経験も原因になりえます。
しかし、ほとんどの場合は、このようなはっきりとした きっかけがなく発症することが多いのが現状です。
近年の研究では、遺伝子の働きを調整する 「マイクロRNA」という小さな物質の関与もわかってきました。 ある研究では「mir-151a-5p」というマイクロRNAが、 骨髄異形成症候群を含む血液のがんの発症に 関わっている可能性が報告されています。 この物質は、がんの種類によって病気を進めたり、 逆に抑えたりと、複雑な働きをすることがわかっています。 こうした遺伝子レベルの研究は、将来の新しい治療法の 開発につながるため、とても期待されています。
ここで大切なのは、この病気でみられる遺伝子のキズは、 生まれた後にできる「後天的なもの」だということです。 そのため、基本的に親から子へ遺伝する病気ではありません。
骨髄異形成症候群の症状
骨髄異形成症候群の症状は、血液をつくる工場の どの生産ラインに問題が起きるかによって変わります。 そのため、症状のあらわれ方は人によってさまざまです。
症状がほとんどなく、健康診断で偶然見つかる方もいます。 これは、病気が静かに始まっているサインかもしれません。 どの血液細胞が減るかによって、次のような症状が出ます。
- 赤血球が減った場合(貧血) 赤血球は、全身に酸素を届ける大切な役割を担います。 この赤血球が減ると、体は酸素不足の状態になります。 その結果、階段で息が切れたり、疲れやすくなったりします。 顔色が悪く見えるのも、貧血のサインの一つです。
- 白血球が減った場合(感染しやすくなる) 白血球は、体に入ってきたウイルスや細菌と戦う兵隊です。 この兵隊が減ってしまうと、体の守りが手薄になります。 風邪をひきやすくなったり、一度ひくとなかなか治らない、 原因不明の熱が続くといった症状があらわれます。
- 血小板が減った場合(出血しやすくなる) 血小板は、ケガをしたときに出血を止める働きがあります。 血小板が不足すると、血が固まりにくくなってしまいます。 ぶつけた覚えがないのに青あざができたり、 鼻血や歯ぐきから出血しやすくなることがあります。 皮膚に赤い点々(点状出血)が見られることもあります。
これらの症状の中で、特に多くの方にみられるのが貧血です。 貧血によるだるさや息切れは、生活の質を大きく下げます。 ここで一つ、知っておいていただきたいことがあります。
複数の信頼性が高い研究を分析した報告によると、 輸血などで貧血の数値が改善した場合でも、 つらい倦怠感が完全には良くならないことがあるとされます。 これは、血液検査の数字だけでは測れない、 病気そのものが体に与える複雑な影響のためです。 そのため、一つひとつの症状と丁寧に向き合うことが大切です。
骨髄異形成症候群の検査・診断
健康診断の血液検査で異常を指摘されたり、貧血などの 症状が続いたりすると、この病気が疑われることがあります。 正確に診断するためには、詳しい検査が欠かせません。
診断で最も中心となるのは「骨髄検査」です。 これは、血液をつくる工場である骨髄の状態を、 直接のぞいて調べるための大切な検査になります。 局所麻酔をした後、腰の骨に細い針を刺して、 骨髄の液体や組織を少しだけ採取して調べます。
骨髄検査で調べる主なポイント
- 血液細胞の形(異形成) できあがった血液細胞の形が、 いびつな不良品になっていないかを確認します。
- 未熟な細胞(芽球)の割合 がん細胞のもとになる「芽球」という赤ちゃん細胞が、 骨髄の中で異常に増えていないかを調べます。
- 染色体・遺伝子の異常 細胞の設計図である遺伝子に、 病気の原因となるキズがないかを分析します。
特に、遺伝子の検査は治療方針を決める上で重要です。 例えば「TP53」という遺伝子にキズが見つかると、 病気の勢いが強く、治療が難しい傾向にあります。
複数の研究を分析した報告によると、この遺伝子に キズがある方が造血幹細胞移植という強力な治療を 受けても、3年後の生存率は21%と厳しい結果でした。 しかし、移植をしない場合と比べると、 生存の可能性が高まることも示されています。
このように詳しい検査で病気の性質を正確に知ることが、 一人ひとりに合った治療を選ぶための第一歩なのです。
骨髄異形成症候群の治療
骨髄異形成症候群の治療は、一つの決まった方法ではなく、 病気の進みやすさ(リスク)や患者さんの状態に合わせて、 いくつかの選択肢を組み合わせて考えていきます。
治療方針を決める上で、まず大切なのが「リスク分類」です。 将来、急性骨髄性白血病へ進む可能性が高いかどうかで、 「低リスク群」と「高リスク群」に分けて考えます。 その上で、患者さん一人ひとりの年齢や体の状態、 そしてご本人の希望を考慮して治療計画を立てます。
治療の選択肢は、主に次の3つの柱からなります。
- 支持療法 貧血や出血などのつらい症状を和らげる治療です。 主に低リスク群の方が対象となります。
- 化学療法(お薬の治療) お薬を使って、病気の進行を抑える治療です。 主に高リスク群の方が対象です。
- 造血幹細胞移植 病気を根本から治すことを目指す、最も強力な治療です。 主に高リスク群の比較的お若い方が対象になります。
低リスク群の治療
低リスク群で症状が軽い場合は、すぐに治療を始めず、 定期的な検査で注意深く様子を見ることもあります。 貧血などの症状が出てきた際には、輸血で赤血球を補充するなど、 つらい症状を和らげる「支持療法」が中心となります。
高リスク群の治療
高リスク群では、病気が白血病へ進むのを抑えるため、 より積極的な治療を検討します。
中心となるのは「アザシチジン」などのお薬を使う化学療法です。 特にご高齢の患者さんでは、アザシチジンと「ベネトクラクス」 というお薬を組み合わせる治療が有効とされています。 複数の研究を分析した報告では、この組み合わせが 生存期間を延ばす上で最も効果が期待できるとされました。
病気を根本から治すことを目指せる唯一の治療法が、 「造血幹細胞移植」です。 しかし、体への負担が非常に大きいため、誰でも 受けられるわけではありません。 また、もし移植後に病気が再発してしまった場合でも、 ベネトクラクスと低メチル化剤を組み合わせる治療法が、 新たな選択肢として考えられています。 ある研究分析では、この治療で約4割の方が 半年後も生存されていたと報告されており、 将来の希望となる可能性があります。
どの治療法を選ぶかは、病状だけでなく、 患者さんの希望や生活背景も大切になります。 医師と十分に話し合って、ご自身に合った治療を 一緒に決めていくことが何よりも重要です。