筋無力症
「夕方になると、まぶたが重く下がってくる」「腕がだるくて上がりにくい」。その症状、単なる疲れではなく、脳からの命令が筋肉にうまく伝わらなくなる「筋無力症」という病気のサインかもしれません。
2018年の調査では日本の患者数は約29,210人、10万人に約23人が発症するとされ、誰にとっても他人事ではない病気です。また、近年の研究では新型コロナウイルス感染が発症の引き金になる可能性も指摘されています。
この記事では、筋無力症の詳しい原因や症状の種類、そして希望となる新しい治療法までを分かりやすく解説します。ご自身の症状の正体を知り、適切な対処法を見つけるための第一歩として、ぜひお役立てください。
筋無力症の概要
筋無力症は、脳からの「筋肉を動かせ」という命令が、神経と筋肉のつなぎ目(神経筋接合部)でうまく伝わらなくなる病気です。これにより、体のさまざまな部分で筋力が低下したり、疲れやすくなったりします。
この病気の主な原因は、ウイルスなどから体を守る「免疫」の異常です。免疫システムが誤作動を起こし、神経と筋肉のつなぎ目を攻撃してしまうのです。このような病気を自己免疫疾患と呼びます。
筋無力症のポイントは以下のとおりです。
- 体の仕組み 神経から筋肉への命令伝達が妨げられる病気です。
- 主な原因 自分の体を誤って攻撃する免疫の異常によります。
- 主な症状 まぶたが下がる、物が二重に見える、疲れやすいなどです。
- 症状の変動 朝は比較的調子が良く、夕方や運動後に悪化しやすいです。
2018年の調査では、日本の患者数は約29,210人と報告されています。これは10万人に約23人が発症する計算で、誰にでも起こりうる病気です。この病気は遺伝したり、他人にうつったりすることはありません。
近年の研究では、新型コロナウイルス(COVID-19)感染をきっかけに、筋無力症を含む様々な神経の症状が現れる可能性が示されています。まずは病気について正しく理解することが、治療への大切な第一歩となります。
筋無力症の種類
筋無力症は、原因によって大きく2つの種類に分けられます。 どのタイプかを知ることが、ご自身に合った治療への近道です。
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種類 |
主な原因 |
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重症筋無力症 |
免疫の勘違いで、自分の体を攻撃してしまうことが原因です。 |
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先天性筋無力症候群 |
生まれつき、神経と筋肉のつなぎ目に問題があることが原因です。 |
患者さんの多くは「重症筋無力症」です。 この病気は、症状や原因によってさらに細かく分類されます。
症状があらわれる場所による分類
- 眼筋型(がんきんがた) 症状が目やまぶたの筋肉に限られるタイプです。 まぶたが下がる、物が二重に見えるなどの症状が出ます。
- 全身型(ぜんしんがた) 目の症状に加えて、手足やのどなど全身に症状が広がります。 食べ物が飲み込みにくい、疲れやすいなどの症状がみられます。
原因となる「自己抗体」による分類
重症筋無力症は、免疫が作り出す「自己抗体」の種類が重要です。 自己抗体とは、本来体を守るはずが、自分を攻撃してしまう物質です。
- アセチルコリン受容体(AChR)抗体陽性
- 筋特異的キナーゼ(MuSK)抗体陽性
- 抗体陰性(どちらの抗体も見つからない)
この抗体の種類を調べることは、治療法を決める上で非常に大切です。 近年、特定の自己抗体を持つ患者さんに有効な新しい治療法が登場しています。
例えば、AChR抗体やMuSK抗体を持つ全身型の方には、特定の免疫の働きを抑える薬(補体阻害薬や新生児Fc受容体阻害薬)が高い効果を示すことが研究でわかってきました。
このように、自分の病気のタイプを正確に知ることが、より良い治療を選ぶための重要なカギとなるのです。
筋無力症の原因
筋無力症は、体を守るはずの免疫システムが、誤って自分自身を攻撃してしまう「自己免疫疾患」です。この病気は遺伝したり、人から人にうつったりすることはありません。
私たちの体がスムーズに動くのは、脳からの命令が神経を通り、筋肉へ正確に伝わるためです。この神経と筋肉のつなぎ目では、情報の受け渡しが行われています。
- 神経から出る物質 「アセチルコリン」という情報伝達物質が放出されます。
- 筋肉にあるアンテナ 「アセチルコリン受容体」が、その情報を受け取ります。
しかし、筋無力症では免疫が「自己抗体」という物質を作り出します。この自己抗体が、情報を受け取るアンテナを攻撃し、壊したり働きを邪魔したりするのです。そのため、脳からの命令が筋肉に届きにくくなり、筋力低下などの症状が現れます。
なぜ自己抗体が作られるのか、根本的な原因はまだ不明です。しかし、胸にある「胸腺」という免疫の司令塔のような臓器の異常が、深く関わっていると考えられています。
また、特定の感染症が、この病気の引き金になる可能性も指摘されています。近年の研究では、新型コロナウイルス感染後に、筋無力症を含む様々な神経の症状が現れることが報告されています。ウイルス感染が、免疫システムのバランスを崩す一因となるためと考えられています。
筋無力症の症状
筋無力症の症状は、筋肉を使い続けると疲れやすくなるのが特徴です。 少し休むと回復しますが、また動かすと症状が出てきます。 この「使っていると症状が悪化し、休むと良くなる」という変動が、診断の大きな手がかりになります。
症状の強さは、日によって、また時間帯によっても変わります。 特に、朝は比較的調子が良く、夕方にかけて悪化する傾向があります。 全身の筋肉に症状が出る可能性がありますが、心臓や腸などの内臓の筋肉は通常、影響を受けません。
こんな症状で困っていませんか? ご自身の状態をチェックしてみましょう。 症状は、特に目や口、手足など、体の特定の筋肉に出やすいです。
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症状が出る場所 |
具体的な症状の例 |
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目 |
・まぶたが重い、夕方になると下がってくる ・ものが二重に見えたり、ぼやけたりする ・目が疲れやすく、シャンプーが目にしみやすい |
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顔・口・のど |
・食べ物が飲み込みにくい、食事中にむせる ・長く話していると声がかすれ、鼻声になる ・うまく笑えず、表情が作りにくい |
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手足・体 |
・腕がだるくて上がらず、ドライヤーが使いにくい ・階段の上り下りがつらく、手すりが必要になる ・症状が重いと、呼吸が苦しく感じることがある |
これらの症状は、筋無力症のサインかもしれません。 近年の研究では、新型コロナウイルス(COVID-19)感染をきっかけに、筋無力症を含む様々な骨格筋の症状が現れる可能性が示されています。 気になる症状があれば、自己判断せず専門の医療機関に相談しましょう。
筋無力症の検査・診断
筋無力症の診断は、パズルのピースを一つひとつ集めるように進みます。 問診で症状を詳しく伺い、いくつかの検査を丁寧に行います。 一つの検査だけで決めるのではなく、総合的に判断することが大切です。
診断の第一歩は、患者さんのお話を詳しくお聞きすることです。 「いつから」「どんな時に」症状が出るか、些細なことでも教えてください。 特に、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)などの後から症状が出始めたといった情報も、診断の重要な手がかりになることがあります。
【診断を確定するための主な検査】
- 血液検査 自分の体を攻撃してしまう「自己抗体」がないか調べます。 筋無力症の多くの方で「抗アセチルコリン受容体抗体」が見つかります。
- 筋電図検査 筋肉に繰り返し弱い電気を流し、神経からの命令の伝わり方を見ます。 筋無力症では、だんだんと反応が弱くなる特徴的な変化が見られます。 これを「waning(ウェイニング)現象」と呼びます。
- 薬剤の注射による検査 症状を一時的に良くする薬を注射し、変化を観察します。 まぶたの下がりなどが、注射後に改善するかどうかを確認します。
- 画像検査(CTなど) 胸にある「胸腺」という免疫に関わる臓器の状態を調べます。 胸腺に異常がないかを確認するために行われることがあります。
これらの検査結果を総合的にみて、最終的な診断が下されます。 近年の研究では、新型コロナウイルス感染が筋無力症を含む様々な骨格筋の症状を引き起こす可能性が示されています。 気になる症状があれば、自己判断せずに専門の医療機関にご相談ください。
筋無力症の治療
筋無力症の治療目標は、症状を上手にコントロールすることです。 そして、病気になる前と変わらない生活を目指します。 治療法は一つではなく、あなたの状態に合わせて選んでいきます。 いくつかの方法を組み合わせて治療を進めることが一般的です。
主な治療法 筋無力症の治療は、大きく分けて以下の方法があります。
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治療の種類 |
具体的な内容 |
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お薬による治療 |
・症状を和らげる薬(対症療法) 神経から筋肉への命令が伝わりやすくなる薬を使います。 ・免疫の働きを調整する薬 体の免疫が自分を攻撃する働きを抑える薬です。 |
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胸腺摘出術 |
免疫の司令塔である「胸腺」に異常が見られる場合、 手術で取り除くことが検討されます。 |
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症状が急に 悪化した時の治療 |
・血液浄化療法 血液の中から、症状の原因物質を直接取り除きます。 ・免疫グロブリン大量静注療法 免疫の働きを整える薬を点滴します。 |
新しい治療の選択肢 近年、新しい仕組みで働く薬が登場し、治療の幅が広がりました。 これまでの治療で効果が十分でなかった方にも希望となっています。
- 補体阻害薬 自己抗体が筋肉を攻撃するのを手伝う「補体」という物質があります。 この補体の働きをブロックする薬です。 ある研究では、自分で注射できるタイプの薬(ジルコプラン)で、 日常生活の動きが改善したと報告されています。
- 新生児Fc受容体(FcRn)阻害薬 症状の原因となる自己抗体が、体の中で再利用されるのを防ぐ薬です。 これにより、悪い自己抗体を体の外へ排出しやすくします。 このタイプの薬(ロザノリキシズマブ)も、 日常生活の動作を改善する効果が示されています。 頭痛などの副作用が見られることもありますが、 全体として安全に使いやすいことがわかってきました。
複数の研究をまとめた分析でも、これらの新しい薬は有効とされています。 どの治療法があなたに合っているかは、症状や原因によって異なります。 主治医とよく相談しながら、最適な治療方針を決めていきましょう。





