多発性骨髄腫

腰や背中のしつこい痛み、あるいは健康診断で指摘された貧血や腎機能の低下。実はその不調、体を守るはずの細胞ががん化する「多発性骨髄腫」という血液のがんが原因かもしれません。この病気は50歳頃から増え始め、日本では年間10万人あたり約6人が発症すると報告されています。

初期症状がほとんどないため気づきにくい一方、進行すると骨折や倦怠感などで生活の質を大きく下げてしまう可能性があります。この記事では、多発性骨髄腫とはどのような病気なのか、その原因や症状、最新の治療法までを詳しく解説します。ご自身の体のサインを正しく理解し、適切な一歩を踏み出すためにぜひご一読ください。

多発性骨髄腫の概要

多発性骨髄腫は、血液細胞のがんの一種です。 私たちの体には、ウイルスなどから体を守る「形質細胞」があります。 この形質細胞ががん細胞に変化したものが、多発性骨髄腫です。

がんになった形質細胞は「骨髄腫細胞」と呼ばれます。 骨髄腫細胞は、主に骨の中心にある「骨髄」で無秩序に増え続けます。 骨髄は、健康な血液細胞を作る大切な工場のような場所です。 また、骨髄腫細胞は体を守る能力がない異常なタンパク質(Mタンパク)も作り出します。

骨髄腫細胞やMタンパクが増えると、体に様々な影響が現れます。

  • 骨への影響 骨がもろくなり、痛みが出たり骨折しやすくなったりします。
  • 腎臓への影響 Mタンパクが腎臓に負担をかけ、機能が低下することがあります。
  • 血液への影響 正常な血液が作られにくくなり、貧血や感染症のリスクが高まります。

この病気は50歳頃から増え始め、高齢の方に多く見られます。 日本の統計では、1年間に10万人あたり約6人が発症すると報告されています。

病気が進行すると、痛みや倦怠感によって生活の質(QOL)が低下します。 QOLとは、その人らしい生活を満足して送れているかを示す指標です。 近年の研究では、病気の進行を抑え、治療がうまくいくほどQOLが改善することがわかっています。 適切な治療で症状を和らげ、病気と上手につきあっていくことが大切です。

多発性骨髄腫の種類

多発性骨髄腫は、体の状態によっていくつかの種類に分けられます。 この分類は、すぐに治療を始めるべきか、様子を見るかの判断に繋がります。 分類は主に、以下の3つのポイントで判断されます。

  • Mタンパクの量 体を守る能力のない、異常なタンパク質の量です。
  • 骨髄腫細胞の割合 骨髄の中に、がん細胞がどれくらいあるかを示します。
  • 症状や臓器障害の有無 骨の痛みや貧血、腎臓の障害などがあるかを確認します。

これらの情報から、ご自身の状態がどの段階にあるのかを判断します。

種類

特徴

症候性多発性骨髄腫

一般的に「多発性骨髄腫」として治療が必要な状態です。

骨の痛みや骨折、貧血、腎臓の障害などの症状が現れています。

無症候性多発性骨髄腫

Mタンパクなどは増えていますが、症状や臓器障害はありません。

「くすぶり型骨髄腫」とも呼ばれ、すぐに治療はせず、定期的な検査で経過を注意深く観察します。

意義不明のM蛋白血症(MGUS)

Mタンパクがごくわずかに認められるだけで、無症状です。

骨髄腫に進行する可能性は低いですが、経過観察が必要です。

このほかにも、骨の一か所にだけ骨髄腫細胞のかたまりができる場合や、 Mタンパクが血液や尿に現れない珍しいタイプもあります。 ご自身の状態を正確に知ることが、適切な治療への大切な第一歩です。

多発性骨髄腫の原因

多発性骨髄腫がなぜ起こるのか、そのはっきりとした原因はまだわかっていません。 しかし、体を守る「形質細胞」の設計図である遺伝子に異常が起こることが、 病気のはじまりだと考えられています。

現在のところ、原因として特定されているものはなく、誰にでも起こる可能性があります。 一般的に、親から子へ遺伝する病気ではないとされています。

多発性骨髄腫になると、体を守る「免疫」という仕組みの働きが弱まることがあります。 免疫力が低下すると、健康なときにはおとなしくしているウイルスが、 再び活発になることがあるため注意が必要です。

  • ウイルスの再活性化 多くの人の体に潜んでいる「ヒトポリオーマウイルス2(HPyV-2/JCV)」などが、 免疫力の低下をきっかけに活動を再開することがあります。 このウイルスの再活性化により、ごくまれに脳に影響が出る病気を引き起こす可能性が報告されています。 最近の研究では、新型コロナウイルス感染がこの状態を悪化させる可能性も指摘されています。

このように、病気そのものの原因は不明ですが、 病気による免疫力の低下が、別の問題につながることもあります。 原因を明らかにし、より良い治療法を見つけるための研究が世界中で続けられています。

多発性骨髄腫の症状

多発性骨髄腫は、初期の段階では自覚できる症状がほとんどありません。 そのため、健康診断で貧血や腎臓の異常を指摘されて見つかることも多いです。

病気が進むと、骨髄腫細胞が増えることで様々な症状が現れます。 ご自身の体調と見比べて、当てはまるものがないか確認してみましょう。

【多発性骨髄腫の主な症状チェックリスト】

  • 骨の症状
    腰や背中、あばら骨などが痛んだり、軽い衝撃で骨折したりします。 これは、骨髄腫細胞が骨を溶かす細胞を元気にしてしまうためです。
  • 貧血による症状
    動悸や息切れ、だるさ、疲れやすさを感じます。 血液工場である骨髄が、骨髄腫細胞で占領されてしまうためです。 その結果、酸素を運ぶ赤血球が十分に作られなくなります。
  • 腎臓の障害による症状
    むくみや食欲不振などが現れます。 異常なMタンパクが腎臓に負担をかけ、機能が低下するためです。
  • 高カルシウム血症による症状
    のどが渇く、吐き気、食欲不振、便秘などが起こります。 骨が溶けることで血液中のカルシウム濃度が高くなるのが原因です。
  • 免疫力の低下による症状
    風邪をひきやすく、治りにくくなります。 体を守る正常な抗体が作られなくなり、感染症にかかりやすくなります。

これらの症状は、生活の質(QOL)に大きく影響を及ぼします。 近年の研究では、病気の進行を抑え、治療がうまくいくほど、 生活の質が改善することが明らかになっています。

また、免疫力が著しく低下すると、体に潜むウイルスが再活性化し、 ごくまれに脳に影響を及ぼす病気を引き起こすことも報告されています。 つらい症状を和らげるため、気になる変化は早めに医師へ相談しましょう。

多発性骨髄腫の検査・診断

多発性骨髄腫の診断を確定し、治療方針を決めるために検査を行います。 検査は、病気の進行度や体の状態を正確に把握する大切な情報源です。 どのような検査で、何がわかるのかを一つずつ見ていきましょう。

主な検査には、血液検査や骨髄検査などがあります。

検査の種類

主に調べること

血液検査

・骨髄腫細胞が作る異常なMタンパクの量

・貧血の有無や腎臓、肝臓の機能など

尿検査

・尿へ排出される異常なタンパク質の有無

骨髄検査

・診断を確定するための重要な検査

・骨髄中の骨髄腫細胞の割合や染色体の異常

画像検査

・X線やCT、MRIなどで全身の骨の状態を確認

これらの検査は、診断の時だけでなく、治療が始まってからも定期的に行います。 治療の効果を確かめ、体に良くない影響(副作用)が出ていないかを確認するためです。

研究の報告によると、副作用が原因で治療の継続が難しくなる方もいます。 全体の1割以上の方が、副作用によって治療を中止するというデータもあります。 そのため、定期的な検査で体の状態を注意深く見守ることが非常に大切です。

また、治療がどのくらい効いているかを判断するための基準についても、 より良い治療法に繋げるため、専門家の間で現在も検討が続けられています。 これらの検査結果を総合的に判断し、今後の治療計画を立てていきます。

多発性骨髄腫の治療

多発性骨髄腫の治療は、症状が現れたときに開始するのが基本です。 骨の痛みや貧血など、生活に影響が出る状態を「症候性骨髄腫」と呼びます。 症状がない段階では、定期的な検査で注意深く様子を見ていきます。

治療の目的は、がん細胞である骨髄腫細胞を減らすことです。 そして、病気の進行を抑え、つらい症状を和らげることを目指します。 患者さんの年齢や体力、持病などを考えて、最適な治療法を選びます。

【主な治療の選択肢】

対象となる方

主な治療法

65歳くらいまでで、体の状態が良い方

自家造血幹細胞移植を組み合わせた治療

66歳くらいからの方や、持病がある方

お薬を中心とした体に負担の少ない治療

骨の痛みなどが特に強い場合

放射線で痛みを和らげる治療(お薬と併用)

【治療法の詳しいお話】

  • お薬での治療(薬物療法)
    現在の治療の中心となる方法です。 骨髄腫細胞だけを狙うお薬(分子標的薬)などを組み合わせて使います。
  • 自家造血幹細胞移植(ASCT)
    新しい薬が登場した今でも、とても重要な治療法の一つです。 特にリスクの高い患者さんでは、病気の進行をより長く抑える効果が期待できます。
  • からだを支える治療(支持療法)
    骨を強くするお薬や感染症の予防など、症状を和らげる治療も大切です。 生活の質を保つために、病気そのものの治療と並行して行います。

治療は長く続くことが多く、継続することが何よりも大切です。 しかし、ある研究では、治療の途中で約半数の方が中止してしまうと報告されています。 そのうち、1割以上の方は副作用がつらいことが原因でした。 我慢せず、つらい症状は医師や看護師に伝えることが重要です。

また、治療を続けるうちにお薬が効きにくくなる「不応性」という状態になることもあります。 どのような状態を「効きにくい」と判断し、次の治療を選ぶかは専門家でも難しい問題です。 だからこそ、主治医とよく話し合いながら、一緒に治療を進めていきましょう。