もやもや病
脳の太い血管がゆっくりと細くなり、脳梗塞や脳出血のリスクを高める「もやもや病」という病名に、戸惑いや不安を感じていませんか。この病気は日本で初めて報告され、国の難病にも指定されており、小児期から成人期まで幅広い年齢層で注意が必要です。
この記事では、もやもや病の概要から、その複雑な原因、年齢ごとに異なる症状、そして診断のための検査方法や最新の治療選択肢までを網羅的に解説します。
病気への理解を深め、適切な知識を得ることで、不安を和らげ、ご自身や大切な方がこの病気と前向きに向き合うための一助となることを願っています。
もやもや病の概要
もやもや病は、脳の太い血管がゆっくりと細くなり、脳への血流が悪くなることで、脳梗塞や脳出血といった深刻な状況につながる恐れがある進行性の病気です。この病気がもたらす大きな特徴は、脳が不足した血液を補おうとして、異常な細い血管(側副血行路)が網目のように多数発達する点です。この血管が脳血管造影検査で、まるで煙のように「もやもや」と見えることから、この病名がつけられました。
この病気は日本で初めて報告された疾患であり、国の難病に指定されています。そのため、この病気と診断された場合は国の医療費助成制度の対象となり、医療費の自己負担が軽減されることがあります。
発症する時期は、主に以下の2つの年齢層に集中する傾向があります。
・小児期: 特に10歳未満の子どもに多く見られます。
・成人期: 30代から50代にかけて発症するケースが少なくありません。
このように、もやもや病は子どもから大人まで、幅広い年齢層で注意が必要です。早期に発見し、適切な診断と治療を受けることで、病気の進行を抑え、日常生活を安定して送れる可能性が高まります。
もやもや病の種類
もやもや病は、発症の原因によって大きく2つの種類に分類されます。それが「特発性もやもや病」と、他の病気が原因で起こる「二次性もやもや病(症候群)」です。この分類は、病気への理解を深め、患者さん一人ひとりに合った治療方針を決める上で重要です。
特発性もやもや病
特発性もやもや病は、現時点では原因が特定できない場合に診断される種類です。遺伝的要因が関与していると考えられており、家族内での発症例も報告されています。特に日本人を含む東アジアの人々によく見られるという特徴があります。主な症状として、脳の血流不足からくる手足のしびれや麻痺、けいれん発作などが見られます。
二次性もやもや病(症候群)
二次性もやもや病は、既存の別の病気や状態が引き金となって発症する種類です。原因となる病気や状態には、以下のようなものがあります。
・甲状腺機能亢進症
・ダウン症候群
・神経線維腫症1型
・頭部への放射線治療後
これらの病態が脳の血管に変化を引き起こし、もやもや病と同じような症状を示す場合があります。そのため、原因となった病気の治療と並行して、もやもや病への適切な管理が必要です。
また、もやもや病は発症する年齢によって、症状の現れ方が異なる特徴があります。
・小児期に発症する場合
・脳の血流不足による虚血発作が多く見られます。
・例えば、泣いたり、熱を出したり、激しい運動で息が荒くなった際、過呼吸により脳の血管が一時的に収縮しやすくなります。
・これにより、手足のしびれや脱力などが生じやすい特徴があります。
・成人期に発症する場合
・小児期と同じく虚血発作も起こりますが、脳出血で発症するケースも少なくありません。
・細くてもろくなった血管が破れて出血すると、意識障害や重い神経症状につながる可能性があります。
ご自身の病態やもやもや病の種類について不明な点があれば、専門医に相談し、正確な診断と適切な治療方針について話し合うことが大切です。
もやもや病の原因
なぜ脳の血管が狭くなり、特徴的な「もやもや」とした血管が生まれるのか、その根本的な原因は複雑で、いまだにその全容解明には至っていません。しかし、これまでの研究により、主に二つの要因が深く関わっていることがわかってきました。一つは遺伝的な背景、もう一つは他の疾患や状態による影響です。
遺伝的な要因
もやもや病の多くは、「特発性もやもや病」というタイプに分類されます。このタイプは、特定の原因が特定できない場合に診断されますが、近年、遺伝的な要因が深く関与していることが強く示唆されています。
特に注目されているのが、「RNF213」という遺伝子の変異です。この遺伝子は、血管の細胞の増殖や成長、炎症反応など、血管の健康を維持するさまざまな働きに関わっていると考えられています。このRNF213遺伝子に変異があると、脳の血管が徐々に狭くなりやすい「素因」を持つことになります。
この遺伝子変異は、日本人を含む東アジア地域のもやもや病患者さんに多く見られるのが特徴です。そのため、もやもや病が日本で最初に報告され、国の指定難病とされている理由の一つとも考えられます。
ただし、RNF213遺伝子に変異があっても、必ずしもすべての人がもやもや病を発症するわけではありません。この遺伝子変異は病気の発症に関わる「素因」の一つであり、発症にはまだ特定されていない環境要因など、複数の要素が複雑に絡み合っているとされています。
他の疾患や状態の影響
もやもや病のもう一つのタイプは、「症候性もやもや病」と呼ばれます。これは、既存の別の病気や治療が引き金となり、もやもや病と似た血管の変化が起こるものです。
症候性もやもや病の原因となる代表的な疾患や状態は、次のとおりです。
・甲状腺機能亢進症
・ダウン症候群
・神経線維腫症1型
・頭部への放射線治療後
これらの疾患や状態が、脳の血管に何らかの影響を与え、もやもや病と同じような血管の狭窄や異常な血管の発達を引き起こすと考えられています。そのため、症候性もやもや病と診断された場合は、元の病気の治療と並行して、脳血管の状態を慎重に管理することが重要です。
もやもや病の原因究明は、今も世界中で活発に研究が進められています。病気のメカニズムがより深く解明されれば、将来的に新たな治療法の開発につながる可能性も期待されています。
もやもや病の症状
もやもや病で起こる症状は、脳の血管に起きるトラブルの種類と患者さんの年齢によって、現れ方が大きく変わります。この病気の症状は、主に「脳への血流が一時的に足りなくなる虚血(きょけつ)性」のタイプと、脳の血管が破れて出血を起こす「脳出血性」のタイプの二つに分けられます。
一過性脳虚血発作(TIA)による症状
この症状は特に小さなお子さんに多く見られます。脳へ送られる血液が一時的に減ることで、脳の機能が低下するものです。症状は通常、数分から数時間で自然に改善することがほとんどです。
具体的な症状は、以下のとおりです。
・片側の手足に力が入らない、あるいはしびれる
・ろれつが回りにくい、言葉が出にくい(失語)
・視野の一部が見えにくくなる、ぼやけるなどの視覚障害
・意識がぼんやりする、集中できない
・頭痛やけいれん発作
特に、激しく泣いたり、熱いものを冷ますために息を吹きかけたりする過呼吸の状態では、一時的に脳の血管が収縮し、脳への血流が悪くなることがあります。これにより、手足のしびれや麻痺(まひ)といった症状が誘発されることがあります。
脳出血による症状
この症状は大人の方に多く見られます。もやもや病によって新しく作られた細くてもろい血管が破れて出血を起こすため、突然激しい症状が現れることが特徴です。
具体的な症状の例を次に示します。
・突然、頭を強く殴られたような激しい頭痛
・意識がもうろうとする、意識を失う
・片側の手足に麻痺(まひ)が生じる(片麻痺)
・体のしびれや感覚の異常
・吐き気や嘔吐
・けいれん発作
年齢による症状の特徴
もやもや病の症状は、患者さんの年齢によって現れやすいタイプが異なります。主な特徴は以下の表のとおりです。
年齢 | 現れやすい病態 | 具体的な症状の傾向
小児期 | 虚血性(血流不足による症状)が最も多い | ・手足の麻痺やしびれ ・ろれつが回らない、言葉が出にくい ・視覚障害 ・意識障害、けいれん ・頭痛 ※過呼吸で誘発されやすい
成人期 | 脳出血による症状が多い 次いで虚血性 | ・突然の激しい頭痛 ・意識障害 ・片方の手足の麻痺 ・吐き気や嘔吐 ・けいれん発作
高齢期 | 虚血性(脳梗塞や一過性脳虚血発作)が多い | ・手足の麻痺やしびれ ・ろれつが回らない ・視覚障害 ・頭痛 ※小児期の虚血症状と似た症状が現れることがあります
もしこれらの症状に心当たりがある場合や、ご家族に心配な様子が見られる場合は、迷わず医療機関を受診し、専門医に相談することが大切です。早期に診断を受け、適切な対応を始めることで、症状の進行を抑え、安定した日常生活を送れる可能性が高まります。
もやもや病の検査・診断
もやもや病の検査と診断は、患者さんの症状や病状に合わせて、複数の専門的な方法を組み合わせて総合的に行われます。診断プロセスは、まず症状の聞き取りから始まり、その後に脳の状態を詳しく調べる画像検査や血流検査などへと進みます。
主な検査方法は、次のとおりです。
・MRI(磁気共鳴画像法)とMRA(磁気共鳴血管撮影)
脳の内部構造や血管の状態を詳細に確認できる検査です。この検査では、脳の血管が狭くなっている部分や、もやもや病に特徴的な「もやもや血管」と呼ばれる細い血管の存在を明らかにします。X線を使わないため、放射線被ばくの心配はありません。
・脳血管造影
もやもや病の確定診断に特に重要な検査です。太ももの付け根などからカテーテルという細い管を血管に挿入し、造影剤を注入しながらX線で脳の血管を撮影します。この検査により、特徴的なもやもや血管の形状や、主要な脳の動脈がどの程度狭くなっているか(狭窄の度合い)を詳細に把握できます。診断だけでなく、もし手術が必要になった場合の治療計画を立てる上でも、重要な情報をもたらします。
・脳血流検査(SPECTなど)
脳の血液の流れ(血流)の状態を評価する検査です。脳のどの部分の血流が低下しているか、また、血流が不足した際に脳がどれくらいの予備能力を持っているかを調べます。これにより、脳虚血(脳への血流不足)の程度や、将来的な脳梗塞などのリスクを評価するのに役立ちます。
・遺伝子検査
ごく一部のもやもや病では遺伝的な要因が関わることがわかっていますが、現状では特定の遺伝子検査だけで診断が確定することはありません。しかし、研究目的や、ご家族にもやもや病の方がいる場合に検討されることがあります。
これらの検査結果を総合的に判断し、厚生労働省が定めている診断基準に基づいて、もやもや病であるかどうかの診断が行われます。
診断の結果、患者さんの状態によっては、その後の治療方針として薬物療法や外科的治療が検討されます。たとえば、血液をサラサラにする「抗血小板薬」が、もやもや病の予後改善に有益である可能性が指摘されています※。特に脳出血を経験した患者さんの死亡率を低下させたり、脳卒中のリスクや機能状態(修正Rankin Scale)を改善したりする効果がメタアナリシスで示されており、脳内出血のリスクを増加させることはありません※。
また、特に小児では、診断後に外科的な血行再建術が検討されることがあります。外科的治療では、脳の血流を増やすために、いくつかの手法が用いられます。例えば、直接的に血管をつなぐ「直接法」や、他の血管を利用する「間接法」、あるいは両者を組み合わせる「複合バイパス」などです。研究では、直接法や複合バイパスの方が術後の血管新生(新しい血管ができること)は優れる傾向が見られますが、手術に伴う創傷合併症のリスクは高まることがわかっています。長期的に見ると、直接法や複合バイパスが脳卒中や死亡のリスクを抑制する可能性があるという中程度の証拠はありますが、明確な利益が確立されているわけではありません※。
ご自身の病状や検査結果について不明な点があれば、納得できるまで医師に質問し、正確な診断と適切な治療方針について十分に話し合うことが大切です。
もやもや病の治療
もやもや病の治療は、脳の血流を改善し、将来的に起こりうる脳卒中(脳梗塞や脳出血)を防ぐことを主な目的とします。患者さんの年齢や症状、病状の進行度合いに応じて、大きく分けて「外科的治療」と「内科的治療」が選択されます。専門医が患者さん一人ひとりに最適な治療法を提案し、病気の進行を抑え、安定した日常生活をサポートします。
外科的治療
外科的治療では、脳の血流が不足している部分に、人工的に新しい血液の通り道を作る手術を行います。これは、狭くなった脳の血管が原因で起こる脳虚血発作や脳梗塞、あるいは、もろくなった血管からの脳出血を防ぐために重要な治療です。
主な手術方法は、次のとおりです。
・直接バイパス術: 頭皮にある血管(通常は浅側頭動脈)を、直接脳の表面の血管につなぎ合わせる方法です。手術直後から脳への血流が増える効果が期待できます。
・間接バイパス術: 頭皮の組織(例えば、側頭筋や帽状腱膜など)を脳の表面に置いて、時間をかけて自然に新しい血管が脳へ伸びてくるのを促す方法です。血管が新しく形成されるまでには時間がかかりますが、長期的な血流改善効果が期待できると考えられています。
・複合バイパス術: 直接バイパス術と間接バイパス術の両方を組み合わせた治療法で、それぞれのメリットを活かすことを目指します。
小児もやもや病の場合
小児もやもや病では、外科的治療による再血管化が検討されることが多くあります。研究によると、直接・複合バイパス術は、間接バイパス術と比較して、術後に新しい血管がよりよく形成される(血管新生効果が高い)傾向があると報告されています※。具体的には、術後に良好な血管新生を示す「松島グレードA/B血管新生比率」が高いことが示されています※。これは、新しい血管がよりしっかりと脳に血流を供給している状態を指します。
しかし、長期的に見ると、直接・複合バイパス術が脳卒中や死亡のリスクを間接バイパス術よりも明確に低減するかどうかについては、まだ確固たる証拠は確立されていないという見方もあります※。また、直接・複合バイパス術は、手術部位の傷口の合併症(例えば、感染や出血など)のリスクが間接バイパス術よりもやや高い傾向にあることも指摘されています※。
どの術式を選択するかは、患者さんの年齢、病状、血管の状態、そして合併症のリスクなどを総合的に考慮し、専門医が慎重に判断します。
内科的治療
内科的治療は、主に薬を使って症状を管理し、脳梗塞などの発作を予防することを目的とします。特に脳の血流不足がそれほど重くない場合や、手術のリスクが高いと判断される場合に選択されることがあります。
抗血小板療法
血液をサラサラにする「抗血小板薬」は、血栓(血の塊)ができるのを防ぎ、脳梗塞のリスクを減らすために使われます。もやもや病患者さん全体で見ると、抗血小板療法によって脳卒中のリスクが下がり、特に脳出血を起こした患者さんの死亡率が改善する可能性が示唆されています※。ある研究では、抗血小板療法が脳卒中リスクを約半分に、また機能状態の悪化リスクも低減すると報告されています※。
「抗血小板薬は出血のリスクを高めるのではないか」と心配される方もいらっしゃるかもしれません。しかし、もやもや病に対する抗血小板療法は、脳内出血のリスクを増加させることはないと考えられています※。
ただし、抗血小板療法の効果については、まださらなる研究が求められています※。治療の決定にあたっては、医師と十分に相談し、リスクとベネフィットを理解することが重要です。
その他の内科的治療
頭痛やめまいなどの症状が強い場合は、それらの症状を和らげるための対症療法が行われます。例えば、頭痛薬や吐き気止めなどが処方されることがあります。
いずれの治療法も、定期的な診察と画像検査(MRI、MRAなど)で病状の変化や治療効果を評価し、必要に応じて治療計画を調整していきます。生活習慣の改善(禁煙、血圧管理など)も、脳卒中予防のために非常に大切です。













