埋伏歯

歯科検診で「埋伏歯(まいふくし)」を指摘されたものの、痛みなどの自覚症状がなく、どう対処すべきか悩んでいませんか。顎の骨に埋もれた歯は、気づかないうちに隣の歯や歯並び全体に悪影響を及ぼす可能性があります。

この記事では、親知らずに代表される埋伏歯の原因や放置するリスクについて解説します。レントゲンやCTによる診断方法から、抜歯や経過観察といった治療の選択肢まで詳しく紹介する内容です。

ご自身の歯の状態を正しく理解し、今後の適切な対処法を知ることで、隠れたリスクへの不安が解消されます。歯科医師に相談する前に、ご自身の状況を判断するための一助となるはずです。

埋伏歯の概要

埋伏歯(まいふくし)とは、本来生えるべき時期を過ぎても、顎の骨や歯ぐきの中に埋まったまま出てこない歯を指します。歯が骨の中に完全に埋まって外から見えない「完全埋伏歯」と、歯の頭が少しだけ顔を出している「半埋伏歯(不完全埋伏歯)」の2種類に分けられます。

最もよく知られているのは親知らず(第三大臼歯)ですが、上の顎の犬歯や下の顎の小臼歯など、他の歯でも起こる可能性があります。

自覚症状がないケースも多く、ご自身では気づきにくいのが埋伏歯の厄介な点です。そのため、顎の骨にできた嚢胞(のうほう)という袋状の病変を詳しく調べる過程で、埋伏歯の存在が明らかになることも少なくありません※。

埋もれているからといって問題がないわけではなく、気づかないうちに隣の歯の根を溶かしてしまったり、歯並び全体を乱す原因になったりします。レントゲンで埋伏歯を指摘された場合や、歯の本数が足りないと感じる場合は、隠れたリスクがないか歯科医院で詳しく調べることが大切です。

埋伏歯の種類

埋伏歯は、歯がどのくらい顎の骨や歯ぐきに埋まっているかによって、「完全埋伏歯」と「半埋伏歯」の2種類に大別されます。

ご自身の歯がどちらの状態に近いかを知ることで、起こりうるリスクや対処法を具体的にイメージしやすくなります。

それぞれの特徴を下表に整理します。

種類 | 見え方 | 主なリスク

完全埋伏歯 | 歯が骨の中に完全に埋もれ、外からは全く見えない状態 | ・自覚症状がないまま、歯の周囲に嚢胞(のうほう)という袋状の病変を形成することがある※ ・隣の歯の根を溶かしてしまう(歯根吸収)可能性がある

半埋伏歯 (不完全埋伏歯) | 歯の頭(歯冠)の一部が歯ぐきから顔を出している状態 | ・歯と歯ぐきの隙間に汚れが溜まりやすく、細菌が繁殖する ・周囲の歯ぐきが腫れる「智歯周囲炎(ちししゅういえん)」や、虫歯・歯周病の原因になりやすい

埋伏歯は親知らず(第三大臼歯)に最も多く見られますが、上の顎の犬歯や下の顎の小臼歯など、他の歯でも起こり得ます。

特に、自覚症状が出にくい完全埋伏歯は注意が必要です。気づかないうちに嚢胞が大きくなるケースもあり、その管理は慎重に行われます。

状態によっては、嚢胞の治療(開窓術など)とあわせて埋伏歯を抜かずに保存し、矯正治療で正しい位置に動かしていく方法が検討されることもあります※。

どちらのタイプであっても、放置すると周囲の歯や顎の骨に悪影響を及ぼす可能性があるため、レントゲンやCTによる歯科医院での正確な診断が欠かせません。

埋伏歯の原因

埋伏歯は、歯が生えるためのスペース不足や歯が生える方向の異常など、いくつかの要因が重なって起こります。

生まれつきの顎の形や歯の大きさが関係することもあれば、後天的なトラブルが原因になることもあり、背景は一人ひとり異なります。

主な原因を以下に整理します。

歯が並ぶスペースの不足

現代人は食生活の変化などから顎が小さい傾向にあり、すべての歯がきれいに並ぶためのスペースが足りなくなりがちです。

特に、一番最後に生えてくる親知らず(第三大臼歯)は、すでに他の歯が並んでいるためスペースがなく、埋もれたままになってしまう代表例といえます。

歯が生える方向・位置の異常

歯がまっすぐ上(下)に向かわず、斜めや真横を向いて生えようとすると、隣の歯や骨に引っかかってそれ以上進めなくなります。

歯の種である「歯胚(しはい)」の位置が初めからずれていることが原因と考えられています。

乳歯のトラブル

後から生える永久歯の「案内役」でもある乳歯にトラブルがあると、埋伏歯の原因になることがあります。

・乳歯が早く抜けすぎた場合

隣の歯が空いたスペースに倒れ込んできて、永久歯が生える場所を塞いでしまう。

・乳歯がなかなか抜けない場合

永久歯が行き場を失い、乳歯を避けて本来とは違う方向へ進んでしまう。

過剰歯(かじょうし)などの障害物

本来の歯の本数より多く作られてしまった「過剰歯」や、歯の成分からできた「歯牙腫(しがしゅ)」などが骨の中にあると、それが障害物となり正常な歯の萌出を妨げます。

嚢胞(のうほう)などの病変

顎の骨の中に液体や膿がたまった袋状の病変である「嚢胞」ができると、その圧力で歯が動かされたり、正常な萌出が妨げられたりします。

実際に、顎にできた嚢胞を詳しく調べると、埋伏歯が一緒に見つかることは珍しくありません※。

その他、遺伝的な要因や、子どもの頃に顎を強くぶつけたなどの外傷が影響する場合もあります。

埋伏歯の症状

埋伏歯の症状は、歯がどの程度見えているかによって大きく異なり、自覚症状がまったくないケースから、強い痛みや腫れを伴うケースまでさまざまです。

歯の一部が顔を出している「半埋伏歯」では、次のようなトラブルが起こりやすくなります。

・歯ぐきの腫れや痛み(智歯周囲炎)

歯と歯ぐきの間にできた隙間に汚れがたまり、細菌が繁殖して炎症を起こします。重症化すると、顔が腫れたり口が開きにくくなったりすることもあります。

・隣の歯への悪影響

埋伏歯と手前の歯の間は歯ブラシが届きにくいため、食べかすが詰まって虫歯や歯周病の原因になります。まれに、埋伏歯が隣の歯の根を溶かしてしまう「歯根吸収」という深刻な状態を引き起こすこともあります。

・歯並びや噛み合わせの乱れ

埋伏歯が他の歯を内側から圧迫することで、全体の歯並びが少しずつ乱れたり、噛み合わせが悪くなったりする原因になります。

一方、歯が骨の中に完全に埋まっている「完全埋伏歯」の場合、痛みなどの自覚症状はほとんどありません。

しかし、症状がないからといって安心はできません。気づかないうちに歯の周りに「嚢胞(のうほう)」という袋状の病変ができたり、隣の歯の根を溶かしたりと、水面下で問題が進行していることがあります。

埋伏歯の治療、特に抜歯には痛みや不安が伴うイメージがあるかもしれません。

しかし、近年では治療中の不安を和らげるための鎮静法も進歩しています。作用時間が短く、回復が早い鎮静薬を使うことで、よりリラックスした状態で処置を受けられるようになりました※。

また、抜歯後の痛みをできるだけ抑える工夫も報告されています。手術の際に使う局所麻酔に鎮痛成分を組み合わせることで、術後の痛み止めの使用量を減らす試みもその一つです※。

このように、症状の有無にかかわらず、埋伏歯はさまざまなトラブルの火種となる可能性があります。気になる症状がある場合はもちろん、自覚症状がなくても、レントゲンなどで埋伏歯の存在を指摘された際は、一度歯科医院で詳しく調べてもらうことが大切です。

埋伏歯の検査・診断

埋伏歯の診断は、お口の中の診察と画像検査を組み合わせ、歯が埋まっている位置や向き、周囲の神経・血管との関係を正確に把握することから始まります。

検査の具体的な流れは、下記のとおりです。

・視診・触診

まずはお口の中を直接拝見し、歯ぐきの腫れや硬さ、歯の頭がわずかにのぞいていないかなどを丁寧に確認します。

・X線(レントゲン)撮影

次にお口全体が1枚に写る「パノラマレントゲン」を撮影し、埋伏歯の有無や大まかな位置、傾きを把握します。ほとんどの埋伏歯はこの検査で発見可能です。

・歯科用CT検査

レントゲンだけではわからない、より詳細な情報が必要な場合にCT検査を追加します。歯の根と顎の骨の中を通る太い神経や血管との三次元的な位置関係を正確に確認でき、抜歯などの外科処置の安全性を高めるために欠かせない検査といえます。

これらの検査結果を総合的に分析し、埋伏歯の状態や周囲への影響を診断したうえで、一人ひとりに合った治療方針を決定します。

抜歯が必要と判断された場合でも、手術への不安が強い方には、点滴でウトウトと眠ったような状態になる「静脈内鎮静法」をご提案できます。

近年、従来のものより作用時間が短く、処置後の回復が速い新しい鎮静薬も使われるようになりました。この方法は治療中の不安を和らげる効果が高く、患者さんの満足度向上にもつながることが報告されています※。

埋伏歯の治療

埋伏歯の治療は、必ずしも抜歯が第一選択となるわけではありません。歯の状態や位置、将来的なリスクをCTなどの精密検査で総合的に評価し、一人ひとりに合った方針を慎重に決定します。

具体的な治療の選択肢は、主に以下の4つに分けられます。

・経過観察

自覚症状がなく、レントゲン検査でも隣の歯や顎の骨に悪影響を及ぼしていない場合に選択されます。ただし、将来的に問題を引き起こす可能性はゼロではないため、何もせず放置するわけではありません。問題が起きていないかを定期的にチェックしていく必要があります。

・抜歯

歯ぐきの炎症を繰り返したり、周囲の歯や骨に悪影響を及ぼしたりしている場合、抜歯が検討されます。

<抜歯が検討される主なケース>

・歯ぐきの炎症(智歯周囲炎)を繰り返している

・埋伏歯や隣の歯が虫歯・歯周病になっている

・歯並びや噛み合わせを乱す原因になっている

・嚢胞(のうほう)などの病変を伴っている

抜歯に際しては、多くの方が術後の痛みを心配されます。近年の歯科医療では、手術後の痛みをできるだけ抑えるための研究が進められています。例えば、手術で用いる局所麻酔に特定の鎮痛成分を組み合わせることで、術後の痛みが和らぎ、服用する痛み止めの量を減らせることが報告されています※。

・開窓(かいそう)・牽引(けんいん)

犬歯など、歯並びや噛み合わせの要となる重要な歯が埋まっている場合に検討される方法です。歯を抜かずに温存するため、まず歯ぐきを小さく切って歯の頭を露出させ(開窓)、そこに矯正装置を取り付けてゆっくりと正しい位置へ引っ張り出します(牽引)。

・消炎処置

歯ぐきに強い腫れや痛みがある場合は、まずその炎症を鎮めることを優先します。強い炎症がある状態で無理に抜歯をすると、麻酔が効きにくかったり、細菌が周囲に広がるリスクがあったりするためです。抗生剤の内服などで炎症を落ち着かせてから、改めて抜歯などの処置を検討する流れとなります。

どの治療法がご自身の状態にとって最適なのかは、精密な検査結果をもとに歯科医師が判断します。埋伏歯について不安や疑問があれば、まずは一度ご相談ください。