過眠症

夜にしっかり寝ているはずなのに、日中に耐えられないほどの眠気に襲われることはありませんか。周りからは「寝不足」や「怠けている」と誤解されがちですが、それは本人の意思ではどうにもできない「過眠症」という病気のサインかもしれません。

その原因は、睡眠時無呼吸症候群やナルコレプシーなど多岐にわたります。意外なことに、約28万人を対象とした海外の研究では、新型コロナ後遺症で最も多かった症状が過眠を含む「睡眠障害」であったと報告されており、誰にとっても無関係な問題とは言えなくなっています。

この記事では、あなたの眠気がどのタイプに当てはまるのか、その原因から最新の検査・治療法まで詳しく解説します。ご自身の症状と照らし合わせ、改善への第一歩を踏み出しましょう。

過眠症の概要

夜にしっかり寝ているはずなのに、昼間に耐えられないほどの眠気に襲われることはありませんか。もし日常生活に影響が出ているなら、それは「過眠症」という病気かもしれません。

周りからは「寝不足」や「怠けている」と誤解されがちです。しかし、本人の意思の力だけでは解決できない、医学的な治療が必要な状態です。大切な会議や授業中に眠ってしまい、社会的な信用を失うなど、深刻な問題につながることもあります。

過眠症では、具体的に次のような状態が見られます。

  • 普通は眠らないような場面で突然眠る 人と話している最中や食事中など、意図せず意識が飛ぶように眠ってしまいます。
  • 朝、起きるのが非常に困難 目覚まし時計が鳴っても気づかない、体が動かせないほど起き上がることが難しい状態です。
  • 昼寝をしても眠気が取れない 少し仮眠をとってもすっきりせず、強い眠気が一日中続いてしまいます。

過眠症の原因はさまざまですが、最近では感染症との関連も指摘されています。例えば、新型コロナウイルス感染症の後遺症(Long-COVID)に関する大規模な研究があります。その報告によると、後遺症に悩む人々の中で最も多く見られたのが、過眠症を含む睡眠障害でした。

ご自身の眠気が「もしかしたら普通ではないかもしれない」と感じたら、それは大切なサインです。一人で悩まずに、まずは専門の医療機関へ相談することを検討してください。

過眠症の種類

「日中の強い眠気」という症状は同じでも、その原因は一つではありません。過眠症は原因によっていくつかの種類に分けられ、それぞれ対処法が異なります。

ご自身の眠気がどのタイプに当てはまるかを知ることが、改善への第一歩です。

脳の働きが関係する過微症

脳の覚醒を維持する機能に、何らかの問題があって生じる過眠症です。

  • ナルコレプシー 日中に突然、自分ではコントロールできないほどの強い眠気に襲われるのが特徴です。また、笑ったり驚いたりして感情が高ぶった時に、体の力が抜けてしまう「情動脱力発作」を伴うことがあります。
  • 特発性(とくはつせい)過眠症 ナルコレプシーのように日中の強い眠気がありますが、情動脱力発作は見られません。夜に10時間以上寝ても日中眠いタイプと、夜の睡眠時間は普通でも眠気が強いタイプに分かれます。

他の病気や生活習慣が原因の過眠症

体の病気や生活スタイルが、眠気を引き起こしている場合もあります。

  • 睡眠時無呼吸症候群 眠っている間に呼吸が止まるため、脳や体が十分に休めません。その結果、日中に強い眠気が現れます。過眠症の原因として非常に多い病気です。治療法も確立されていますが、一部の患者さんには合わないこともあり、新しい治療法の研究も進められています。
  • 周期性四肢運動障害 睡眠中に足などがピクッと動くことが繰り返され、眠りが浅くなる病気です。子どもの有病率は0.3%と低いものの、ADHD(注意欠如・多動症)との関連も指摘されています。診断には専門的な検査が必要で、治療として鉄剤の補充が検討されることもあります。
  • 行動誘発性睡眠不足症候群 いわゆる「寝不足」が慢性化した状態です。仕事や学業、生活習慣によって、必要な睡眠時間が確保できていないことが原因です。

過眠症の主な種類

特徴の例

ナルコレプシー

・日中の耐えがたい眠気<br>・感情の変化で体の力が抜けることがある

特発性過眠症

・日中の強い眠気<br>・夜たくさん寝ても日中眠い

睡眠時無呼吸症候群

・大きないびき、睡眠中の呼吸停止<br>・日中の強い眠気

周期性四肢運動障害

・睡眠中に足がピクピク動く<br>・眠りが浅く、日中に眠くなる(子どもにも見られる)

過眠症の原因

夜にぐっすり眠っても昼間に眠い場合、その原因は一つではありません。原因は主に3つのタイプに分けられます。ご自身の眠気がどこから来ているのか、一緒に考えてみましょう。

脳の仕組みによるもの

脳には、体を「起きている状態」に保つ目覚まし時計のような機能があります。この機能に何らかの問題が起こり、日中に強い眠気が出てしまうタイプです。代表的な病気に「ナルコレプシー」や「特発性過眠症」などがあります。

生活習慣によるもの

日中の眠気の原因として、実は最も多いのが慢性的な睡眠不足です。これは「行動誘発性睡眠不足症候群」と呼ばれます。仕事や勉強などで、必要な睡眠時間が日常的に足りていない状態です。

他の病気が原因となるもの

体の病気や心の不調が、眠気を引き起こしている可能性もあります。

  • 睡眠の質を低下させる病気 睡眠時無呼吸症候群や、むずむず脚症候群などがあります。
  • 心の病気 うつ病などでも過眠の症状が見られることがあります。
  • 感染症の後遺症 新型コロナ後遺症(Long-COVID)も原因の一つです。約28万人を対象とした研究では、後遺症で最も多い症状は過眠を含む「睡眠障害」でした。

また、一部の病気では性別によって症状の出やすさが違うこともわかっています。約80万人を対象とした研究では、パーキンソン病の患者さんにおいて、男性の方が女性よりも過眠を訴える割合が高いと報告されています。

このように原因はさまざまで、自分では気づきにくいものも多いため、専門の医療機関で相談することが大切です。

過眠症の症状

夜しっかり寝たはずなのに、日中に強い眠気に襲われるのが過眠症の主な症状です。単なる寝不足と違い、本人の意思ではコントロールできないのが特徴です。

大切な会議や食事中など、普通なら眠らない場面でも意識が飛ぶように眠ってしまいます。

この中心的な眠気の症状に加えて、過眠症の種類によっては次のような特徴的なサインが見られます。

  • 情動脱力発作(じょうどうだつりょくほっさ) 笑ったり驚いたりして感情が高ぶった時に、突然体の力が抜けてしまう症状です。ひざがガクンとしたり、ろれつが回らなくなったりします。
  • 睡眠麻痺(すいみんまひ) いわゆる「金縛り」のことです。寝入りばなや朝方に、意識ははっきりしているのに体を動かせない状態になります。
  • 入眠時幻覚(にゅうみんじげんかく) 眠りにつくタイミングで、非常にリアルで鮮明な夢のような体験をすることです。
  • 朝の目覚めの悪さ 夜に10時間以上寝ても眠気が取れません。朝もすっきり起きられず、頭がぼーっとする「睡眠酩酊(すいみんめいてい)」という状態になることもあります。

これらの他にも、集中力の低下や頭痛、立ちくらみなどを伴う場合もあります。

また、最近では新型コロナ後遺症との関連も指摘されています。約28万人を対象とした海外の研究では、後遺症で最も多かった症状が過眠を含む「睡眠障害」であったと報告されました。

もし、このような症状に心あたりがあれば、それは体からのサインかもしれません。一度、専門の医療機関に相談することをおすすめします。

過眠症の検査・診断

日中の強い眠気の原因を探るため、専門の医療機関では丁寧な問診と詳しい検査を行います。 自己判断で「寝不足のせい」と決めつけず、客観的なデータで原因を特定することが大切です。

まずはお話を聞くことから(問診・睡眠日誌)

はじめに医師が、あなたの眠気について詳しく質問します。 いつから眠いのか、どんな状況で眠くなるのか、生活の中で何に困っているかなどを教えてください。

あわせて、日々の睡眠時間や眠気の様子を記録する「睡眠日誌」をお願いすることがあります。 ご自身の睡眠パターンを客観的に把握するための、大切な情報になります。

睡眠の質と眠気の強さを調べる専門検査

問診だけではわからない、睡眠の質や脳の状態を「見える化」するために専門的な検査を行います。 これらの検査は、眠気の裏に隠れた他の病気を見つけるためにも非常に重要です。

  • 終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG) 体にセンサーをつけ一晩入院し、睡眠中の脳波や呼吸、足の動きなどを記録する検査です。 睡眠時無呼吸症候群や、眠りを妨げる足のぴくつき(周期性四肢運動障害)がないか調べます。 特に子どもの場合、この足の動きが眠りの質を下げ、日中の眠気につながることがあります。
  • 反復睡眠潜時検査(MSLT) PSG検査の翌日に行う、日中の眠気の強さを客観的に測る検査です。 日中に2時間おきに4〜5回、ベッドで横になり、どれくらい早く眠りに落ちるかを測定します。 ナルコレプシーの診断には、この検査が特に重要な手がかりとなります。

これらの検査結果と問診の内容を総合的に判断し、過眠症の診断や原因の特定を行います。 正確な診断こそが、適切な治療への第一歩となるのです。

過眠症の治療

過眠症の治療は、まず原因を特定することから始まります。 残念ながら、現時点では根本的に治す方法は確立されていません。

治療の目標は、日中のつらい眠気などの症状を和らげることです。 症状を上手にコントロールし、学業や仕事への影響を減らします。 治療は主に、次の3つの柱を組み合わせて行われます。

  • 薬物療法 脳を覚醒状態に保つ働きのある薬(精神刺激薬)が中心です。 日中の耐えがたい眠気を抑え、集中力を維持する助けになります。 ナルコレプシーに見られる特有の症状にも、別の薬が使われます。 笑うと力が抜ける「情動脱力発作」などには、抗うつ薬が有効な場合があります。
  • 生活習慣の見直し 薬の効果を最大限に引き出すため、生活習慣の見直しも欠かせません。 毎日できるだけ同じ時間に寝て起き、睡眠のリズムを整えましょう。 日中に計画的な短い仮眠(15~20分程度)をとることも効果的です。
  • 原因となっている病気の治療 他の病気が眠気の原因なら、その治療を優先します。 例えば、睡眠時無呼吸症候群ではCPAP(シーパップ)治療が一般的です。 しかし、装置のマスクが合わない方もいらっしゃるのが実情です。
    CPAPが合わない場合の選択肢として、最近では「舌下神経刺激療法(HNS)」があります。 これは、眠っている間に舌の神経を電気で刺激し、空気の通り道を確保する治療法です。 ある研究では、他の外科手術よりも睡眠中の無呼吸の回数を効果的に減らしたと報告されました。 ただし、日中の眠気の改善効果については、他の手術と大きな差はなかったとされています。

どの治療法が最適かは、お一人おひとりの状態によって異なります。 気になる症状があれば、まずは専門の医療機関に相談することが大切です。