上腕骨骨幹部骨折

肩とひじを結ぶ腕の太い骨が折れる「上腕骨骨幹部骨折」。これはすべての骨折の約4%を占め、交通事故やスポーツなど、誰にでも起こりうる決して珍しくないケガです。

しかし、この骨折には見過ごせない大きなリスクが潜んでいます。骨のすぐそばを通る大切な神経を傷つけてしまうと、手首が動かなくなる「下垂手」という深刻な後遺症につながることがあるのです。

一方で、この骨折は「骨がつきやすい」という意外な長所も。ですが、近年の研究では手術をした方が腕の機能回復が良いというデータも。ご自身の状態を正しく理解し、最適な治療を選ぶことが、後悔しないための鍵となります。

この記事では、上腕骨骨幹部骨折の知っておくべき3つの特徴から最新の治療法まで詳しく解説します。あなたの未来を守るための大切な知識を、ぜひここで手に入れてください。

上腕骨骨幹部骨折の概要

上腕骨骨幹部骨折とは、肩とひじを結ぶ腕の太い骨(上腕骨)の真ん中あたりが折れるケガのことです。すべての骨折の中で約4%を占めるといわれており、決して珍しい骨折ではありません。

この骨折には、知っておくべき3つの大きな特徴があります。

  • 大切な神経を傷つけやすい 骨のすぐそばを「橈骨神経(とうこつしんけい)」という神経が通っています。この神経は、手首や指を伸ばす筋肉を動かす大切な役割をしています。骨折の衝撃でこの神経が傷つくと、手首がだらんと垂れてしまい、自力で持ち上げられなくなる「下垂手(かすいしゅ)」という後遺症が残ることがあります。
  • 骨がつきやすい環境にある 上腕骨の周りにはたくさんの筋肉があり、血液の流れがとても豊富です。そのため、他の部位の骨折に比べて骨がくっつきやすいという長所があります。この特徴から、ギプスなどで固定する手術をしない治療法(保存的治療)が選ばれることもあります。
  • 手術治療のメリットが大きい 最近の研究では、手術で治療した方が腕の機能がより良く回復し、骨がしっかりとつく可能性が高いことがわかってきました。特に、できるだけ小さなきず口で手術を行う「低侵襲手術」は、合併症が起こる確率が低く、回復も良好だと数多くの研究で報告されています。

上腕骨骨幹部骨折の種類

ひとことで「腕の真ん中の骨折」といっても、その折れ方や状態によっていくつかの種類に分けられます。骨折の種類を正しく知ることは、ご自身の状態を理解し、適切な治療法を選ぶための第一歩になります。

上腕骨骨幹部骨折は、主に「骨の折れ方」と「皮膚の状態」という2つの見方で分類されます。

骨の折れ方による分類

骨がどのような形で折れたか(骨の折れ目がどう入っているか)によって、以下のように分けられます。折れ方によって、骨がくっつきやすいか、手術が必要かなどが変わってきます。

骨折の種類

特徴

横骨折

骨に対して、ほぼ水平にポキッと折れた状態

斜骨折

骨に対して、ななめに折れた状態

らせん骨折

腕をねじるような力が加わり、らせん状に折れた状態

粉砕骨折

骨が2つのかけらではなく、3つ以上に砕けてしまった状態

特に粉砕骨折は骨が不安定になりやすく、骨がなかなかつかない状態(偽関節)になるリスクも高いため、手術が必要となることが多い骨折です。

皮膚の状態による分類

骨折した部分の皮膚がどうなっているかによって、大きく2つに分けられます。これは治療の緊急性や感染症のリスクを考える上で非常に重要です。

  • 閉鎖骨折(単純骨折) 折れた骨が皮膚の外に飛び出していない、一般的な骨折です。
  • 開放骨折(複雑骨折) 折れた骨の先が皮膚を突き破り、外に出てしまっている状態です。骨折した部分が外の空気に触れるため、細菌に感染する危険性が非常に高くなります。ある研究では、開放骨折を手術で治療した場合、合併症が起こる確率は約37%にもなると報告されており、極めて慎重な治療が必要になります。

これらの骨折の種類は、治療法の選択や、骨がつくまでの期間にも影響します。最近の研究では、手術で治療した方が腕の機能がより良く回復し、骨がしっかりとつく可能性が高いこともわかってきています。ご自身の骨折がどの種類にあたるのか、医師からしっかりと説明を聞いておきましょう。

上腕骨骨幹部骨折の原因

上腕骨骨幹部骨折は、腕の真ん中あたりに強い力が加わることで起こります。 原因はさまざまですが、主に次の3つのパターンに分けられます。

  • 直接的な強い衝撃 交通事故や高い場所からの転落、スポーツでの衝突などがあります。 腕に直接、大きなエネルギーが加わることで発生します。 このような強い力で折れると、骨が横に折れたり(横骨折)、 バラバラに砕けたり(粉砕骨折)することが多くなります。
  • 腕をねじる力 腕相撲や野球のボールを投げる動作などが原因です。 腕を強くひねる力が加わることで、骨がらせん状に折れます。 これは「らせん骨折」と呼ばれ、特徴的な折れ方です。
  • 骨が弱くなる病気 がんが骨に転移した場合や、重い骨粗しょう症が挙げられます。 骨がもろくなっているため、普段なら問題ないような弱い力でも、 骨折してしまうことがあります。これを「病的骨折」と呼びます。

また、骨折の治り方には生活習慣も影響します。 特に喫煙は、骨がつくのを妨げる大きな原因になることがわかっています。 ある研究では、喫煙が骨の治りを悪くする独立した危険因子だと報告されました。 たばこは血液の流れを悪くするため、骨を治すために必要な栄養や酸素が、 骨折した場所に届きにくくなるためです。 思い当たることがあれば、医師に相談することが大切です。

上腕骨骨幹部骨折の症状

腕の真ん中あたりを骨折すると、体にさまざまなサインがあらわれます。 まず、骨折した場所に激しい痛みと腫れが生じるのが一般的です。 多くの方は、けがをした腕を反対の手で無意識に支えてしまいます。 これは、腕が動かないようにするための自然な防御反応なのです。

骨折の主な症状には、以下のようなものがあります。

  • 激しい痛みと腫れ 骨折した部分に強い痛みが生じ、みるみる腫れてきます。 内出血によって、皮膚が青紫色になることもあります。
  • 腕の変形 腕が普段とは違う方向に曲がって見えることがあります。
  • 動かせなくなる 痛みと骨の不安定さから、腕やひじを動かせません。
  • ぐらぐらする感じ 折れた骨がぐらぐらして、腕が不安定に感じられます。

特に、以下のサインが見られる場合はすぐに医療機関を受診してください。 神経や血管といった大切な組織が傷ついている可能性を示しています。

【すぐに受診すべき危険なサイン】

  • 骨が皮膚を突き破って外に出ている
  • 手や指先が冷たい、または白っぽく変色している
  • 手首を上にそらす動きや、指を伸ばす動きができない
  • 手の甲や親指の付け根あたりにしびれを感じる

もし適切な治療を受けても痛みが長く続いたり、不安定な感じが治らなかったりする場合、骨がうまくついていない「偽関節(ぎかんせつ)」という状態かもしれません。ある研究では、一度手術をしても約4人に1人は骨がうまくつかない状態が続いてしまうと報告されています。気になる症状があれば、遠慮なく医師に相談しましょう。

上腕骨骨幹部骨折の検査・診断

腕を強くぶつけたり、転んだりして骨折したかもしれないと、 とても不安な気持ちでいらっしゃると思います。 正確な診断は、適切な治療への大切な第一歩です。 医師はまず、けがの状況を詳しくお聞きします。 その後、腕の状態を目で見て、優しく触れて確認します。 神経や血管が傷ついていないかどうかも丁寧に調べます。

より詳しく骨の状態を調べるために、次のような検査を行います。

  • レントゲン(X線)検査 骨の写真を撮る、骨折診断の基本となる検査です。 腕のどの部分が、どのように折れているのかを正確に把握し、 骨のずれ具合などをはっきりと確認することができます。
  • CT検査 レントゲンを、さらに詳しく立体的に見るための検査です。 骨の折れ方が複雑な場合や、手術を計画する際に役立ちます。 骨の状態をより細かく把握することが可能です。
  • 超音波検査や造影剤を用いた検査 腕のしびれや、指先が冷たいといった症状がある時に行います。 骨の近くにある血管や神経が傷ついていないかを確認します。

これらの検査結果と診察を合わせて、骨折の種類を診断します。 その際、普段の生活習慣についてもお聞きすることがあります。 特に喫煙は、骨の治りに大きく影響することがわかっています。 ある研究では、手術をしても骨がうまくつかない原因を調べたところ、 喫煙が大きな危険因子であることが報告されました。 たばこは血液の流れを悪くするため、骨を治すための栄養が、 骨折した場所に届きにくくなるのです。 正しい診断と治療計画のためにも、正直にお伝えください。

上腕骨骨幹部骨折の治療

上腕骨骨幹部骨折の治療には、手術をしない「保存的治療」と、手術で骨を固定する「手術的治療」の2つの選択肢があります。どちらの方法を選ぶかは、骨のずれ具合や折れ方、年齢や生活スタイルなどを総合的に考えて、医師が慎重に判断します。

近年の多くの研究結果を分析した報告では、手術で治療した方が腕の機能がより良く回復し、骨がしっかりとつく可能性が高いことがわかってきました。手術には、主に次の2つの方法があります。

治療法

特徴

プレート固定術

折れた骨の部分を、金属の板(プレート)とネジで直接固定する方法です。特に、できるだけ小さなきず口で手術を行う**MIPO(低侵襲プレート固定術)**は、他の手術法に比べて合併症や、骨がうまくつかない「偽関節」になるリスクが最も低いと報告されています。

髄内釘固定術

骨の中心にある空洞に金属の棒(釘)を入れ、内側から骨を固定する方法です。この方法は、体の深い部分で細菌に感染するリスクが低いという長所があります。ただし、約19%の方に何らかの合併症が起こるという報告もあります。

まれに、治療後も骨がうまくつかない「偽関節(ぎかんせつ)」という状態になることがあります。一度この状態になると治療は簡単ではありません。ある研究では、偽関節を手術で治そうとしても、残念ながら約4人に1人は再び骨がつかないままだったと報告されています。

偽関節の手術を成功させるためには、ご自身の協力も非常に大切です。特に喫煙は、骨がつくのを妨げる大きな原因になることがわかっており、禁煙することが強く勧められます。もし偽関節になってしまっても、ご自身の足の骨(腓骨)を移植する方法があり、**約90%**という高い確率で骨がつくことが報告されています。

どの治療法にも良い点と注意すべき点があります。担当の医師とよく相談し、ご自身の希望も伝えながら、納得のいく治療法を選んでいきましょう。