病気や事故の後、「約束を忘れることが増えた」「以前より怒りっぽくなった」など、大切な人の変化に戸惑うことはありませんか?その原因は、脳の損傷によって引き起こされる「高次脳機能障害」かもしれません。外見からは分からないため「見えない障害」とも呼ばれ、ご本人ですら気づきにくいのが大きな特徴です。
実は、この障害の原因の約8割は脳卒中であり、誰にでも起こりうる身近な問題です。しかし、その分かりにくさから周囲に理解されず、ご本人もご家族も「なぜ?」と悩んでしまうケースが少なくありません。この記事では、そんな高次脳機能障害の症状や原因、最新の治療法までを詳しく解説します。大切な人を支えるための第一歩として、ぜひご一読ください。
高次脳機能障害の概要
高次脳機能障害は、病気や事故で脳が傷つくことで起こる障害です。 これまで当たり前にできていた、考える、覚えるといったことが難しくなります。
具体的には、脳が担っている次のような知的な活動に影響が出ます。
- 新しいことを覚える(記憶)
- 一つのことに集中する(注意)
- 気持ちを落ち着かせる(感情のコントロール)
- 計画を立てて物事を進める(遂行機能)
- 言葉で伝えたり、人の話を理解したりする(言語)
この障害の原因で最も多いのは、脳卒中などの脳血管障害で約8割を占めます。 最近の研究では、くも膜下出血後の回復を予測するうえで重要だと示されました。 年齢や病気の重さと並び、高次脳機能障害の有無が予後を左右するのです。
この障害は、手足の麻痺のように外見から分かりにくいのが大きな特徴です。 そのため「見えない障害」とも呼ばれ、ご本人ですら気づきにくいのです。 日常生活や学校生活の中で、初めて問題として明らかになることも少なくありません。 周りの人が本人の変化に気づき、適切にサポートしていくことがとても大切です。
高次脳機能障害の種類
高次脳機能障害とひとことで言っても、原因や症状は人それぞれです。 そのため、主に「原因」と「症状」の2つの視点から分類されます。 一人ひとりの状態を正しく理解するために大切な考え方です。
まず、障害が起こる「原因」による分類を見ていきましょう。
- 脳の血管が詰まったり破れたりする病気です。
- 高次脳機能障害の原因で最も多く、約8割を占めます。
- 脳卒中の後、傷ついた脳で「炎症」が続くことがあります。
- この炎症が、記憶などの機能低下に関わると考えられています。
- 不健康な食生活や生活習慣が、脳卒中のリスクを高めます。
- 交通事故や転落などで頭を強く打つことが原因です。
- 特に若い世代では、この頭部外傷が原因となることもあります。
- 脳炎のような感染症や、一時的に脳に酸素が届かない状態でも起こります。
次に、どのようなことが難しくなるかという「症状」による分類です。 代表的な症状と、具体的な困りごとを下の表にまとめました。
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症状の種類
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どんなことが難しくなる?
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記憶障害
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新しい出来事を覚えられない、友達との約束を忘れてしまう
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注意障害
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集中力が続かない、周りの音が気になって一つのことに集中できない
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遂行機能障害
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計画を立てて行動できない、料理などの段取りが悪くなる
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社会的行動障害
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感情をうまく抑えられない、急に怒ったり泣いたりする
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これらの障害は、どれか一つの症状だけが現れることは少ないです。 多くの場合、記憶障害と注意障害など、複数の症状が組み合わさります。 そのため、一人ひとりの状態に合わせた丁寧なサポートが大切になるのです。
高次脳機能障害の原因
高次脳機能障害は、脳が何らかのダメージを受けることで起こります。 その原因は人によってさまざまですが、主に次の3つが知られています。
- 脳血管障害(のうけっかんしょうがい) 脳の血管が詰まる脳梗塞や、破れる脳出血などの「脳卒中」が原因です。 高次脳機能障害を引き起こす原因で最も多く、全体の約8割を占めます。 特に60歳以上の方は、この脳血管障害が原因となるケースが大半です。
- 頭部外傷(とうぶがいしょう) 交通事故や転落事故などで頭を強く打ち、脳が傷つくことで起こります。 原因の約1割を占めており、比較的若い世代にもみられるのが特徴です。
- その他の原因 ウイルスによる脳の感染症(脳炎)や、一時的に脳へ酸素が届かなくなる「低酸素脳症」、あるいは脳腫瘍なども原因となり得ます。
脳がダメージを受けると、体は傷ついた部分を治そうとします。 この時に「炎症」という反応が起こることが、最近の研究で注目されています。
特に脳卒中の後では、この炎症反応が記憶力などの低下に関わるとされます。 「TNF-α」という物質が関わる炎症が、脳の正常な働きを妨げるのです。 この炎症を抑えることが、新しい治療法の開発につながると期待されています。
高次脳機能障害の症状
高次脳機能障害の症状は、脳が傷ついた場所や範囲で一人ひとり異なります。 外見からは分かりにくく、ご本人も障害に気づきにくいのが大きな特徴です。 そのため、周りの方の「もしかして?」という気づきが、とても大切になります。
代表的な症状には、次のようなものがあります。
- 記憶障害 新しい出来事や情報を覚えられず、約束などをすぐに忘れてしまいます。 さっき話した内容を忘れ、何度も同じ質問を繰り返すことがあります。
- 注意障害 集中力が続かず、一つのことに注意を向け続けるのが難しくなります。 ぼんやりしてミスが増えたり、周りの音が気になって作業が進まなかったりします。
- 遂行機能障害(すいこうきのうしょうがい) 物事の計画や段取りを立てられず、効率よく行動することができません。 例えば、料理を作る時に、何から手をつけて良いか分からなくなります。
- 社会的行動障害 感情のコントロールが難しくなり、急に怒ったり泣いたりすることがあります。 欲求を我慢できず、思ったことをすぐに口に出してしまうこともあります。
脳卒中などの後では、脳の中で「炎症」が続くことが分かってきました。 研究では「TNF-α」という物質が関わる炎症が、記憶などの機能低下に関わると考えられています。
また、症状が似ていても、一時的な意識の混乱である「せん妄」とは異なります。 せん妄は、高熱などの後に起こりやすいですが、原因がなくなれば回復します。 高次脳機能障害は脳の損傷によるものなので、この区別が重要です。
これらの症状は、どれか一つだけではなく、複数が重なって現れることも多いです。 そのため、日常生活では様々な困りごととして表面化します。
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症状の種類
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日常生活での困りごとの例
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記憶障害
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「何度も同じことを質問する」「買い物で買うものを忘れる」
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注意障害
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「会話の途中で話が飛んでしまう」「探し物が見つからない」
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遂行機能障害
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「料理の手順がわからなくなる」「計画通りに出かけられない」
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社会的行動障害
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「思ったことをすぐに口にしてしまう」「こだわりが強くなる」
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高次脳機能障害の検査・診断
高次脳機能障害の診断は、一つの検査だけで決まるわけではありません。 医師がパズルのピースを一つひとつ集めるように、情報を集める必要があります。 ご本人やご家族のお話、脳の画像、専門テストを総合して判断します。
診断は、主に次の3つのステップで進められます。
- 問診(ご本人・ご家族からのお話) 日常生活での「困りごと」を詳しくお伺いします。 外見では分かりにくいため、ご家族からの情報がとても重要です。 例えば、次のような変化がないかを確認します。
- 新しいことを覚えにくい、約束を忘れる
- 集中力が続かず、うっかりミスが増えた
- 計画を立てて物事を進められない
- 以前より怒りっぽくなった、感情的になった
- 画像検査(CT・MRIなど) 脳のどの部分に損傷(傷)があるかを画像で確認します。 脳卒中や事故によるケガの跡を見つけることができます。 症状の原因が脳の物理的な変化にあることを裏付けます。
- 神経心理学的検査 記憶力や注意力、判断力といった脳の働きを客観的に評価します。 質問に答えたり、パズルや簡単な作業をしたりするテストです。 これにより、どの能力がどの程度低下しているのかを把握します。
これらの検査と同時に、似た症状を示す他の状態ではないかを見極めます。 例えば「せん妄」は、高熱などで一時的に意識が混乱する状態です。 原因の治療で回復しますが、もとの病気の治療を複雑にすることもあります。 研究でも、せん妄を早期に認識し、対応することの重要性が示されています。 そのため、高次脳機能障害と正確に見分けることが非常に大切なのです。
このように様々な角度から状態を把握し、生活の支障の原因が、脳の損傷によるものだと確定した場合に、高次脳機能障害と診断されます。
高次脳機能障害の治療
高次脳機能障害の治療は、失われた機能を取り戻すことだけが目的ではありません。 残された能力を最大限に引き出し、自分らしい生活を送れるようにすることが大切です。 治療は一つの方法だけでなく、ご本人に合わせて様々なアプローチを組み合わせます。
治療の主な柱は、次の3つです。 これらはバラバラではなく、連携して進めることが回復への近道となります。
- リハビリテーション 治療の中心となり、専門家がチームで計画を立てます。
- 薬物療法 症状を和らげ、リハビリの効果を高めるためにお薬を使います。
- 環境調整と生活習慣の見直し 生活しやすいように、周りの環境や生活リズムを整えます。
治療の中心となるリハビリテーションでは、専門のスタッフが一人ひとりを支えます。
- 作業療法 食事や着替えなど、日常生活の具体的な動作を練習します。 家事や仕事に近い作業で、社会生活への復帰を目指します。
- 言語聴覚療法 「話す・聞く」といった言葉の機能や、飲み込みの問題を改善します。 円滑なコミュニケーションや食事をサポートします。
- 理学療法 安全に歩く、立ち上がるといった体の基本的な動きの回復を目指します。
リハビリと並行し、薬物療法や生活習慣の改善も行います。 お薬で注意力を高めたり、感情を穏やかにしたりして、リハビリに集中しやすくします。 最近の研究では、薬物療法とリハビリを統合した包括的な管理が重要とされています。
さらに、栄養バランスの取れた食事も、脳の働きを支える上で欠かせません。 特に脳卒中などが原因の場合、適切な栄養管理が回復を助ける可能性も報告されています。 治療は長い道のりになることもありますが、ご家族や専門家と協力し、一歩ずつ進んでいくことが何より大切です。