歯肉膿瘍

歯ぐきにできた、ぷくっとした「おでき」のような腫れ。ズキズキとした痛みや違和感に、「これは何だろう?」と不安になった経験はありませんか?それは、体からのSOSサインである「歯肉膿瘍」かもしれません。

この病気は大人だけでなく、健康な子どもや10代にも起こることが研究で報告されています。原因は魚の骨が刺さったといった単純な傷だけでなく、複数の細菌がチームを組んで悪さをしていることもわかってきました。

放置すると歯を支える骨まで炎症が広がり、最悪の場合は歯を失うことにも繋がります。この記事では、あなたの歯ぐきを守るため、歯肉膿瘍の意外な原因から正しい治療法までを詳しく解説します。

歯肉膿瘍の概要

歯肉膿瘍(しにくのうよう)とは、歯ぐきの中に膿がたまってしまう病気です。 歯ぐきが赤くぷくっと腫れ上がり、まるで「おでき」のように見えることもあります。

この膿の正体は、体の中に入り込んだ細菌と、体を守る白血球が戦った後のものです。 戦いの結果、細菌や白血球の死がいが液体となって袋状にたまることで、腫れや痛みが生じます。

歯肉膿瘍は大人だけの病気ではありません。 多くの研究で、健康な子どもや10代の若い人にも起こることが報告されています。 最初は小さなふくらみでも、放置すると細菌が増えて症状が悪化するかもしれません。

歯肉膿瘍が疑われるサインには、以下のようなものがあります。

  • どんな状態? 歯ぐきの一部が赤く腫れ、膿がたまってぷくっと膨らんでいる状態です。
  • どんな感じ? ズキズキとした痛みや、押したときの痛みを感じることがあります。 ものを噛むときに違和感を覚えることもあります。
  • 誰に起こる? 年齢にかかわらず、子どもからご高齢の方まで誰にでも起こる可能性があります。

歯肉膿瘍は、お口の中のトラブルを知らせる体からのSOSサインです。 見た目の変化がわかりやすい病気なので、気づいたら早めに歯科医院を受診しましょう。

歯肉膿瘍の種類

ひとくちに歯肉膿瘍といっても、実は種類があります。 膿ができる「原因」と「場所」によって、大きく分けられます。 正しい治療のためには、どのタイプかを見極めることがとても大切です。

歯肉膿瘍は、主に原因によって2つのタイプに分けられます。

  • 歯が原因のタイプ(歯原性膿瘍) 虫歯や歯周病がひどくなり、歯の根っこまで細菌が感染して膿がたまります。 膿の中には複数の種類の細菌がチームで存在していることが多く、これが治療を難しくさせる要因の一つです。 放置すると、歯の周りだけでなく、あごの骨まで炎症が広がる(顎骨骨髄炎)こともあります。
  • 歯ぐきが原因のタイプ 食事中に魚の骨が刺さったり、歯みがきで歯ぐきを傷つけたりするなどの外傷が原因で起こります。 外からの傷がきっかけで、細菌が入り込んで膿を作ってしまいます。

また、膿がどこにできるかによっても分類されます。 歯ぐきの表面に近いものから、あごの骨や顔にまで広がる深刻なものまで様々です。

分類

種類

主な原因や特徴

原因による分類

歯が原因のタイプ

虫歯や歯周病が悪化し、歯の根っこに感染が広がる

歯ぐきが原因のタイプ

食べ物のかけらが刺さったり、歯みがきで傷つけたりする

場所による分類

浅い場所にできるタイプ

歯ぐきの表面に近い部分に膿がたまる

深い場所に広がるタイプ

歯の根やあごの骨、顔にまで膿が広がることもある

このように、膿のできる原因や場所によって治療法が変わります。 自己判断はせず、歯ぐきの腫れに気づいたらすぐに歯科医院を受診しましょう。

歯肉膿瘍の原因

歯ぐきに膿がたまる歯肉膿瘍は、お口の中の細菌が原因で起こります。 しかし、普段から口の中にいる細菌が、なぜ急に悪さをするのでしょうか。 それには、いくつかの「きっかけ」が重なっていることがほとんどです。

原因は大きく3つのグループに分けられます。

  • 外からの直接的な傷 歯ぐきに傷がつくことで、そこから細菌が入り込みます。
  • お口の環境の悪化 歯周病などが進むと、細菌が住みやすい環境ができてしまいます。
  • 体全体の抵抗力の低下 体の免疫力が落ちると、細菌と戦う力が弱まってしまいます。

1. 歯ぐきへの直接的な傷

食事中や歯みがきの際にできた、ほんの小さな傷が原因になることがあります。

  • 食べ物のかけらや異物 ポップコーンの皮や魚の骨などが、歯と歯ぐきの間に刺さる。 できた傷口が細菌の侵入口となり、中で炎症を起こし膿がたまります。
  • 強すぎる歯みがき ゴシゴシと力任せに磨くと、歯ぐきに目に見えない傷ができます。 この小さな傷からも細菌は簡単に入り込んでしまいます。

2. お口の環境の悪化

歯周病や深い虫歯があると、細菌が増えやすい環境になってしまいます。 歯周病が進行して歯周ポケットが深くなると、そこは細菌の絶好のすみかです。

近年の多くの研究で、歯肉膿瘍の原因は1種類の菌だけでなく、 複数の細菌がチームを組んで悪さをしていること(多菌種性)がわかっています。 この細菌チームは、治療を難しくさせる要因の一つと考えられています。

3. 体の抵抗力の低下

疲れやストレスがたまっていたり、他の病気にかかっていたりしませんか。 体の抵抗力(免疫力)が落ちていると、普段はおとなしい細菌も活発になります。 体を守る力が弱まった隙をついて細菌が増殖し、膿瘍をつくってしまうのです。

このように歯肉膿瘍は、一つの原因だけでなく、 お口の環境や体全体のコンディションなど、様々な要因が重なって起こります。

歯肉膿瘍の症状

歯肉膿瘍になると、お口の中に様々なSOSサインがあらわれます。 最初は軽い違和感でも、放っておくと症状が悪化することがあります。 ご自身の状態と当てはまるものがないか、チェックしてみましょう。

<歯肉膿瘍のサイン チェックリスト>

  • 見た目の変化 歯ぐきが赤く腫れていたり、一部が白っぽくぷくっと膨らんでいたりします。 これは体の中で細菌と白血球が戦い、膿がたまっているサインです。
  • 痛みの変化 ズキズキとした痛みや、腫れた部分を押したときの痛みがあります。 膿が神経を圧迫することで、このような強い痛みを感じます。
  • 感覚の変化 歯が浮いたような感じがしたり、噛んだときに違和感があったりします。 炎症が歯を支える組織にまで広がり始めている可能性があります。
  • 膿や口臭 歯ぐきから自然に膿が出たり、口臭が強くなったりすることがあります。 膿や細菌が作り出すガスが、口臭の原因になるためです。

症状が進行すると、膿がどんどんたまって歯ぐきが大きく腫れあがります。 さらに悪化すると、歯を支えるあごの骨にまで炎症が広がることもあります。 そうなると歯がグラグラし始め、最悪の場合は歯が抜け落ちてしまいます。

歯肉膿瘍は大人だけの病気ではありません。 近年の研究では、健康な子どもや10代の若者にも起こることが報告されています。 一つでも当てはまるサインがあれば、早めに歯科医院を受診しましょう。

歯肉膿瘍の検査・診断

歯ぐきの腫れや痛みで歯科医院に行くと、まずはお口の中を詳しく調べることから始めます。 見た目だけではわからない原因を突き止めるために、いくつかの検査を組み合わせて行います。

歯科医院で行う主な検査は、以下の通りです。

  • お話を聞く(問診)と見る(視診) いつから、どんな風に痛むのかなどをお聞きします。 そして、歯ぐきの腫れ具合や色、膿の出口がないかを直接目で見て確認します。
  • 歯と歯ぐきの隙間を測る検査 専用の細い器具で、歯周ポケットの深さを測ります。 歯周病が原因の場合、このポケットが細菌のすみかになって深くなっていることがあります。
  • レントゲン撮影 目では見えない歯の根っこや、あごの骨の状態を確認します。 炎症がどこまで広がっているかを把握するために、とても大切な検査です。

これらの基本的な検査に加えて、原因の細菌を特定するために膿を少しだけ採取して調べる「細菌検査」を行うことがあります。 世界中の多くの研究から、歯肉膿瘍の原因となる細菌の種類は、住んでいる地域によっても異なることがわかってきています。 そのため、どの薬(抗生物質)が効きやすいかを事前に調べることで、より効果的な治療につなげることができます。 これらの検査結果を総合的に判断し、一人ひとりに最適な治療計画を立てていきます。

歯肉膿瘍の治療

歯肉膿瘍の治療で最も大切なのは、原因となっている膿を体の外に出すことです。 膿は細菌のすみかです。これを取り除かないと、炎症はどんどん広がってしまいます。

治療の中心は「切開排膿(せっかいはいのう)」という処置です。 これは、歯ぐきを少しだけ切って、中にたまった膿をしっかり出す治療法です。 治療は、以下のような流れで進められます。

<歯肉膿瘍の基本的な治療ステップ>

  1. 麻酔をする 処置の痛みをなくすため、歯ぐきに部分的な麻酔(局所麻酔)をします。
  2. 膿を出す(切開排膿) 麻酔が効いたら、膿がたまっている部分を小さく切開し、膿をすべて排出します。
  3. きれいに洗う 膿を出し切った後、生理食塩水などでその部分をきれいに洗浄します。 原因が魚の骨などであれば、この時に取り除きます。

外科的に膿を出す処置が治療の基本ですが、お薬を使って治療をサポートします。

  • 抗生物質 細菌の増殖をおさえるための飲み薬です。 世界中の研究で、歯肉膿瘍の原因菌は住んでいる地域によって違うことがわかっています。 そのため、お住まいの地域で効果の高い薬を選ぶことが重要です。
  • 鎮痛剤 ズキズキとした痛みがつらい場合に、症状を和らげるために使われます。

ご自身の判断で市販のうがい薬を使うのは絶対に避けてください。 まれに、うがい薬の成分で重いアレルギー反応が起きたという報告もあります。 必ず歯科医師の指示に従い、処方されたお薬を正しく使うことが大切です。