巨人症

「うちの子、周りよりずっと身長が高いかも…」「最近、昔の指輪や靴のサイズが合わなくなった」。そんな喜ばしいはずの変化が、実は病気のサインだとしたらどうしますか?その背景には「巨人症」という病気が隠れているかもしれません。

巨人症は、脳の司令塔である「下垂体」にできた腫瘍が原因で、成長ホルモンが過剰に分泌されてしまう病気です。単に背が高くなるだけでなく、放置すれば糖尿病や高血圧などの深刻な合併症を引き起こす可能性も指摘されています。

この記事では、巨人症がなぜ起こるのかという原因から、顔つきの変化や関節の痛みといった具体的な症状、そして最新の治療法までを詳しく解説します。ご自身や大切なご家族の体の変化を正しく理解するために、ぜひ読み進めてみてください。

巨人症の概要

巨人症(きょじんしょう)とは、体を大きくする「成長ホルモン」が、子どもの時期に過剰に出てしまうことで、身長が著しく高くなる病気です。

私たちの脳の奥には「下垂体(かすいたい)」という、ホルモンを出す大切な司令塔があります。巨人症のほとんどは、この司令塔にできた良性のできもの(腫瘍)が原因です。このできものが、成長ホルモンを必要以上につくり出してしまいます。

成長ホルモンが過剰になる病気は、発症する年齢によって病名と主な症状が異なります。

発症する時期

病名

主な症状

子ども(骨の成長が終わる前)

巨人症

身長が異常に伸び続ける

大人(骨の成長が終わった後)

先端巨大症

手足やあご、鼻など体の先端部分が大きくなる

巨人症は、単に背が高くなるだけの病気ではありません。体全体にさまざまな影響を及ぼす可能性があります。

非常にまれなケースですが、耳の軟骨が骨のように硬くなる「石灰化」という変化が起こることも報告されています。このように、身長の伸びだけでなく、体全体の変化にも注意が必要な病気です。

巨人症の種類

巨人症は、成長ホルモンが多く出始める時期によって、大きく2つのタイプに分けられます。

どちらも脳の「下垂体」にできた腫瘍が原因ですが、症状の現れ方が全く異なります。子どもの時期に発症する「巨人症」と、大人になってから発症する「先端巨大症」です。

タイプ

発症する時期

体に起こる主な変化

巨人症

子ども(骨の成長が終わる前)

・身長がぐんぐん伸び続ける

・それに合わせて手足も長くなる

先端巨大症

大人(骨の成長が終わった後)

・身長は変わらない

・手足の指やあご、鼻などが大きくなる

この違いは、骨が成長する仕組みと深く関係しています。子どもの骨の端には「骨端線(こったんせん)」という、成長するための軟骨部分があります。

骨端線が開いている時期に成長ホルモンが増えると、骨が長くなり身長が伸び続けます。一方、大人になり骨の成長が止まると骨端線は閉じるため、身長は伸びません。その代わり、手足や顔のパーツといった体の先端部分が大きくなるのです。

また、原因となる腫瘍の性質も治療法を考える上で重要です。研究では、腫瘍に含まれるコラーゲンという線維の量が、腫瘍の硬さに関わることが示されています。

この硬さは、手術で腫瘍を取り除く際の方法を決める重要な手がかりになります。さらに、コラーゲンは腫瘍が周りの組織へ広がっていくことにも影響すると考えられています。

巨人症の原因

巨人症は、体を成長させる「成長ホルモン」が、必要以上に分泌されることで起こります。その原因のほとんどは、脳の下垂体にできる良性のできもの(腫瘍)です。

なぜ腫瘍ができてしまうのか、その詳しい仕組みはまだ研究の途中です。しかし、体の細胞に起こるいくつかの異常が、原因として考えられています。

  • 細胞内の情報伝達の異常 私たちの体の中では、細胞同士が信号を送り合っています。この信号のやり取りに間違いが起こり、細胞を増やす指令が止まらなくなることがあります。
  • 細胞増殖のブレーキ故障 細胞には、無限に増え続けないようにするブレーキ機能があります。この大切なブレーキが壊れてしまい、細胞が異常に増殖して腫瘍を形成します。
  • 体の設計図(遺伝子)の変化 体の設計図であるDNAが傷ついたときに、それを修復する機能がうまく働かないことも原因の一つです。まれに、遺伝的な要因が関わっていることも報告されています。

これらの原因は、どれか一つではなく、複数が複雑に絡み合って発症すると考えられています。

また、ごくまれにですが、下垂体以外に原因が隠れていることもあります。膵臓(すいぞう)や肺にできた腫瘍が、下垂体を刺激する物質を出し、間接的に成長ホルモンの分泌を促してしまうのです。

巨人症の症状

巨人症のサインは、身長がぐんぐん伸びることだけではありません。 成長ホルモンが多すぎると、見た目や体調に様々な変化がゆっくりと現れます。

<見た目に現れる主な症状>

  • 手や足が大きくなる 以前より靴や指輪のサイズが合わなくなった、という変化もサインです。
  • 顔つきの変化 おでこや頬骨、あごが前に出てきたり、鼻や唇、舌、耳が厚くなったりします。
  • 歯並びが悪くなる あごの骨が成長することで、かみ合わせに影響が出ることがあります。
  • 皮膚が厚くなる 汗をかきやすくなったり、皮膚がごわごわした感じになったりします。

また、非常に珍しいですが、耳の軟骨が骨のように硬くなるという報告もあります。 これは、巨人症の患者さんで見られた症状として、医学的に記録されています。

<体調に現れる主な症状>

  • 頭痛
  • 視力の低下、視野が狭くなる 原因である脳の腫瘍が大きくなり、視神経を圧迫するために起こります。
  • ひどいいびき、睡眠時無呼吸症候群 舌やのどの組織が大きくなることが原因です。
  • 関節の痛み
  • 糖尿病や高血圧

これらの症状は、成長ホルモンが骨だけでなく、皮膚や内臓にまで影響するためです。 体を支えるコラーゲンという成分のバランスが崩れることも、症状の一因と考えられています。

変化は何年もかけて少しずつ進むため、ご本人やご家族も気づきにくいのが特徴です。 気になる症状があれば、一度専門の医療機関へご相談ください。

巨人症の検査・診断

「もしかして巨人症かも?」と心配になったとき、病院ではいくつかの検査を組み合わせて慎重に診断します。身長が高いだけでなく、体の内部で何が起きているのかを正確に把握するためです。

検査は主に、血液を調べる「血液検査」と、原因を探る「画像検査」の2つのステップで進められます。

1. 血液検査 まずは血液中のホルモンの量を調べて、成長ホルモンが本当に多いのかを確認します。

  • 成長ホルモン(GH)の値 巨人症の直接的な原因となるホルモンです。 ただし、このホルモンは時間帯によって量が大きく変わるため、1回の測定だけでは判断が難しい場合があります。
  • IGF-I(アイジーエフワン)の値 成長ホルモンの命令で肝臓などで作られる物質です。 GHと違い、一日を通して血の中の量が安定しています。 この値が高い場合、成長ホルモンが常に多く出ている可能性が高いと考えられます。

さらに、ブドウ糖(甘いジュース)を飲んで、成長ホルモンの変化を見る詳しい検査(ブドウ糖負荷試験)も行います。健康な人では成長ホルモンの分泌が抑えられますが、巨人症の場合は十分に抑えられません。

2. 画像検査 血液検査で成長ホルモンの過剰が確認されたら、次にその原因を特定するために頭の中を調べます。

  • MRI検査 強力な磁石を使って、脳の断面を詳しく撮影する検査です。 脳の中心にある「下垂体」に、ホルモンを出す腫瘍がないかを確認します。 腫瘍の大きさや正確な位置を知ることは、治療方針を決める上でとても重要です。

また、最近の医学の進歩により、診断の精度はさらに向上しています。腫瘍が出す特別な「目印」を捉える新しいPET検査などが開発されており、原因となる腫瘍をより早期に、そして正確に見つけ出すための研究が進められています。

これらの検査結果を総合的に見て、医師が最終的な診断を下します。

巨人症の治療

巨人症の治療目標は、成長ホルモンの過剰な分泌を正常に戻すことです。 原因である脳の腫瘍に働きかけ、体への全体的な負担を減らします。 治療の柱は「手術」「薬物療法」「放射線療法」の3つです。 患者さんの状態に合わせて、これらの治療法を組み合わせて進めます。

1. 手術療法

  • 腫瘍を取り除く、最も基本となる治療 多くの場合、治療の第一の選択肢となるのが手術です。 原因である脳の下垂体にできた腫瘍を、直接取り除きます。 手術は主に、鼻の穴から内視鏡という細いカメラを入れて行います。 この方法だと、脳に直接触れることなく腫瘍を摘出できます。

2. 薬物療法

  • ホルモンの働きをコントロールする治療 手術で腫瘍を全て取りきれなかった場合などに用います。 また、体の状態から手術が難しい場合にも選択されます。 お薬には、主に次のような種類があります。
  • 成長ホルモンの分泌を抑えるお薬 腫瘍に直接働きかけ、ホルモンが作られるのをブロックします。
  • 成長ホルモンの働きを邪魔するお薬 成長ホルモンが、体の様々な場所で作用するのを防ぎます。

3. 放射線療法

  • ピンポイントで腫瘍を攻撃する治療 手術やお薬だけでは、十分な効果が得られない場合に行われます。 腫瘍に放射線を集中してあて、ホルモンの分泌を抑えます。 腫瘍が大きくなるのを防ぐ効果も期待できます。

近年では、一人ひとりに最適な治療を選ぶ考え方が進んでいます。 手術で取り出した腫瘍の性質を遺伝子レベルで詳しく調べるのです。 これにより、病気の今後の経過や再発のリスクを予測できます。 その情報をもとに最適な治療法を探すのが「精密医療」です。

巨人症は高血圧や糖尿病などの合併症を伴うことがあります。 そのため、これらの病気の治療も並行して行うことが大切です。 また、この病気は国の指定難病になっており、医療費の助成制度を利用できます。 詳しくは担当の医師や医療機関へご相談ください。