前腕骨骨折

転倒やスポーツ中の接触など、日常に潜む些細なきっかけで起こる「前腕骨骨折」。実は、若い方の腕の骨折の中で最も多いものの一つであり、誰の身にも起こりうる身近なケガです。

しかし、この骨折の本当の怖さは、その後の後遺症にあります。前腕は、ドアノブを回すなど「手をひねる」という複雑な動きを担う重要な部分。骨のズレが少しでも残ったまま治ってしまうと、その大切な機能に生涯影響が残る可能性もあるのです。

なぜ、この骨折には関節の骨折と同じくらい精密な治療が求められるのでしょうか。この記事では、前腕骨骨折の原因や見逃してはいけない症状、そして後遺症を残さないための最新の治療法までを詳しく解説します。

前腕骨骨折の概要

前腕骨骨折(ぜんわんこつこっせつ)とは、ひじから手首の間にある骨が折れてしまうケガのことです。この部分は「前腕」と呼ばれ、2本の長い骨で構成されています。

  • 橈骨(とうこつ)
  • 親指側にある骨です。
  • 尺骨(しゃっこつ)
  • 小指側にある骨です。

この2本の骨がお互いに連携して動くことで、私たちは手のひらを返したり、ドアノブを回したりといった、複雑な「ひねる動き」ができています。

前腕骨骨折は、特に若い方の腕の骨折のなかで最も多いものの一つです。前腕は非常に複雑で大切な機能を持っているため、治療は慎重に行われます。

もし2本の骨が両方とも折れてしまった場合、その治療は関節の骨折と同じくらい精密さが求められます。これは、骨の長さや向き、ねじれが少しでもずれたまま治ってしまうと、手をうまくひねれなくなるなどの後遺症が残る可能性があるからです。

そのため、骨の形を正確に元に戻し、金属の板などで固定する手術が治療の基本となることが多くあります。

前腕骨骨折の種類

前腕骨骨折と一口に言っても、どの骨がどのように折れたかによって、いくつかの種類に分けられます。骨折の種類を正しく見極めることが、適切な治療への第一歩となります。

骨折のパターンは、主に以下の3つに分けられます。

  • 橈骨単独骨折
  • 親指側の橈骨(とうこつ)だけが折れるケースです。
  • 尺骨単独骨折
  • 小指側の尺骨(しゃっこつ)だけが折れるケースです。
  • 前腕両骨骨折
  • 橈骨と尺骨の両方が折れてしまうケースです。

特に若年層に多いのが、前腕両骨骨折です。この場合、2本の骨の長さや向き、ねじれを元通りに治さないと、手のひらを返す動きができなくなる後遺症が残るため、関節の骨折と同じくらい精密な治療が求められます。

また、骨折と同時に関節が外れてしまう「脱臼骨折」という特殊なタイプもあります。これらは診断が難しく、見落とされると後遺症につながるため特に注意が必要です。

骨折の名前

どんな骨折?

モンテギア骨折

ひじに近い方の尺骨が折れ、ひじ側の橈骨の関節が外れます。

ガレアッツィ骨折

手首に近い方の橈骨が折れ、手首側の尺骨の関節が外れます。

Essex-Lopresti損傷

ひじにある橈骨の頭が複雑に折れ、2本の骨をつなぐ膜(骨間膜)が大きく損傷します。

お子様の場合は、骨がまだ柔らかいため、完全にポキッと折れずに、ぐにゃりと曲がる「若木骨折(わかぎこっせつ)」という子ども特有の骨折をすることがあります。

子どもの骨折は、成長に影響を与えないよう慎重な治療が必要ですが、最近では体の中で溶けてなくなる釘を使った手術など、お子様の負担を減らす新しい治療法も出てきています。

前腕骨骨折の原因

前腕骨骨折は、ひじから手首までの腕に強い力がかかることで起こります。 特に活発に活動する若い世代に最も多い腕の骨折の一つです。

日常生活の中に、骨折につながる場面はいくつか隠れています。 主な原因は、大きく分けて次の3つです。

  • 転んだとき 転んだはずみで、地面に強く手をつくことで起こります。 これは最も多い原因で、自分の体重が一気に腕にかかります。 その重さに骨が耐えきれずに折れてしまうのです。
  • スポーツ中のケガ サッカーやラグビーなど、選手とぶつかり合うスポーツで発生します。 スノーボードのように転びやすいスポーツも原因になります。 強い衝撃や、腕をひねるような力が加わると骨折しやすくなります。
  • 交通事故 自転車や自動車の事故による強い衝撃も原因です。 事故の衝撃は非常に大きいため、骨が複数に折れてしまうこともあります。 このような複雑な骨折は治療が難しくなる場合があります。

これらの原因は、誰の身にも起こりうるものです。 特に、ただ転ぶだけでなく、強くひねる力が加わると、骨折と同時に関節が外れてしまう「脱臼骨折」という重傷につながる危険性もあります。

前腕骨骨折の症状

腕の骨を折ると、体は様々なサインを出して異常を知らせてくれます。 もしケガをしてしまった後に、次のような症状が一つでも見られたら、骨折の可能性があります。

骨折のサインをチェックしよう

  • 激しい痛み 折れた部分は非常に強く痛みます。特に手首を動かしたり、何かを握ろうとしたりすると痛みが走ります。
  • ひどい腫れ 骨折した部分の周りが、内出血によってパンパンに腫れて熱を持つことがあります。
  • 見た目の変化 腕が普段とは違う、不自然な方向に曲がって見えることがあります。これは骨がずれてしまったサインです。
  • あざができる 皮膚の下で出血が起こり、赤紫色や青色のあざが広がっていきます。
  • 動かせなくなる 痛みや腫れのため、指がこわばって動かしにくくなったり、手首を全く動かせなくなったりします。
  • しびれを感じる 折れた骨が近くの神経を圧迫し、指先などがジンジンとしびれたり、感覚が鈍くなったりすることがあります。

これらの症状の中でも、骨折の痛みは非常に強いのが特徴です。 治療では、ずれた骨を元の位置に戻す「整復(せいふく)」という処置を行いますが、その痛みをいかに和らげるかが重要な課題となります。

実際に、治療中の痛みを軽くするため、ビデオゴーグルなどで気をそらす方法の効果を調べた研究もあります。 この研究では痛みの感じ方に大きな差は出ませんでしたが、多くの患者さんや医師が「今後も使ってみたい」と答えています。 それだけ骨折の治療は痛みを伴い、医療現場では痛みを減らすための様々な工夫が考えられているのです。

もし一つでも当てはまる症状があれば、自己判断せずにすぐに病院を受診してください。

前腕骨骨折の検査・診断

骨が折れているかもしれないと思ったら、病院では正しい治療のために詳しい検査を行います。 まず、いつ、どこで、どのようにケガをしたのかを詳しくお伺いします。 そして腕の腫れや変形の具合、痛む場所などを丁寧に診察します。

その後、骨の状態を正確に知るために、機械を使った検査に進みます。 主に、次のような検査が行われます。

検査の種類

どんなことを調べるの?

X線(レントゲン)検査

骨折があるか、どのくらいずれているかを調べる基本の検査です。

CT検査

骨折が複雑なときに、骨を輪切りにしてより詳しく調べます。

血液検査

ばい菌による感染が心配なときに、体の炎症を調べます。

X線(レントゲン)検査

骨折の診断で、最も基本となるのがレントゲン検査です。 一方向から見ただけではわからない骨のずれを正確に把握するため、腕を正面、真横、ななめなど複数の方向から撮影します。

特に前腕の骨折では、けがをした場所だけでなく、ひじと手首の関節まで含めた広い範囲を撮影することが非常に重要です。 これは、骨折と同時に関節が外れてしまう特殊な骨折を見逃さないためです。

CT検査

レントゲンだけでは分かりにくい複雑な骨折の診断に役立ちます。 体を輪切りにしたような画像で、骨のかけらの位置などを詳細に確認できます。 手術が必要な場合には、3D画像で立体的に骨の状態を再現し、より安全で正確な手術計画を立てるために利用します。

血液検査

もし折れた骨が皮膚を突き破って外に出ているようなケガ(開放骨折)の場合、細菌による感染が心配されます。 そのようなときには、体の中で炎症が起きていないかを調べるために血液検査を行うことがあります。 これらの検査結果を総合的に判断し、一人ひとりに合った治療方針を決定します。

前腕骨骨折の治療

前腕骨骨折の治療目標は、折れた骨を正しい位置に戻すことです。 そして、骨がしっかりくっつくまで動かないように固定します。 治療法は、骨のずれ具合や年齢によって変わります。 主に、手術をしない方法と、手術をする方法の2つがあります。

治療法の選び方

どちらの治療法になるかは、骨折の状態によって決まります。

治療法

こんな骨折のときに選ばれる

どんなことをするの?

ギプスで治す方法

(保存的治療)

・骨のずれが小さい

・折れた部分が安定している

① 整復:ずれた骨を元の位置に戻します。

② 固定:ギプスなどで腕を固めます。

手術で治す方法

(観血的治療)

・骨のずれが大きい

・骨がグラグラしている

・骨が皮膚を突き破っている

金属の板や釘で骨を直接つなぎます。

治療中の痛みを和らげる工夫

ずれた骨を元の位置に戻す処置は、強い痛みを伴うことがあります。 そのため病院では、痛みをできるだけ減らすための工夫をします。 主な方法は、うとうと眠る薬を使う方法と、神経ブロックです。

  • うとうと眠る薬を使う方法(鎮静) 点滴から薬を入れ、眠っているようなリラックスした状態で処置をします。
  • 腕の神経をマヒさせる方法(神経ブロック) 腕の感覚を伝える神経の近くに麻酔薬を注射し、痛みをなくします。

ある研究では、この2つの方法を比べたところ、痛みを抑える効果はどちらも同じくらいだったと報告されています。 しかし、眠る薬を使った方が、吐き気などの副作用が少し多く見られました。 患者さんの状態に合わせて、より安全な方法が選ばれます。

お子さんの手術で使われる「溶ける釘」

手術では、骨を固定するために金属の釘などが使われます。 特に成長期のお子さんの場合、骨がくっついた後に金属を抜くための再手術が必要になることもありました。 しかし最近では、体の中でゆっくり溶けてなくなる素材でできた釘(生体吸収性インプラント)も使われるようになっています。

この「溶ける釘」を使うことで、次のようなメリットが期待できると報告されています。

  • 金属を抜く手術が不要になる
  • 腕をひねる動きなどが、よりスムーズに回復する可能性がある
  • 手術後の痛みが少ない可能性がある

このように、お子様の体の負担を減らす新しい治療の選択肢も増えています。 どの治療法が最適か、医師とよく相談して決めていきましょう。