大腿骨頭壊死
歩き始めや立ち上がる時、足の付け根に急な痛みを感じていませんか?その症状、単なる関節痛や疲れだと見過ごしていると、実は太ももの骨が静かに“死んでしまう”病気のサインかもしれません。大腿骨頭壊死とは、骨への血流が途絶えることで骨の組織が壊死してしまう病気です。
この病気の最も恐ろしい点は、初期にはほとんど自覚症状がなく、気づいた時には骨が体重を支えきれずに潰れ始めているケースが多いことです。日本では原因が特定できない場合がほとんどですが、放置すれば歩行が困難になる可能性も。この記事では、大腿骨頭壊死の症状や原因、ロボット支援手術などの最新治療法について詳しく解説します。
大腿骨頭壊死の概要
大腿骨頭壊死症とは、太ももの付け根にある骨の頭(大腿骨頭)への血の巡りが悪くなり、骨の組織が死んでしまう病気です。骨がもろくなる骨粗しょう症とは違い、血流が途絶えることで骨が壊死するのが大きな特徴です。
壊死した骨は体重を支えきれなくなり、もろくなって潰れてしまうことがあります。一度発症すると自然に元通りになることは難しく、壊死が起きてもすぐには症状が出ず、数ヶ月から数年かけてゆっくり進行します。
病気の進み具合は、壊死の範囲や場所によって大きく変わります。
|
進行ステージ |
主な状態 |
自覚症状の目安 |
|
ステージ1 |
壊死が始まったばかり。骨の形は正常。 |
ほとんど症状がない。 |
|
ステージ2 |
壊死部分を体が治そうと反応する。骨の形は正常。 |
痛みが出始めることがある。 |
|
ステージ3 |
体重に耐えきれず、骨の一部が潰れ始める。 |
痛みが強くなり、動きにくくなる。 |
|
ステージ4 |
骨の潰れが進み、関節が変形する。 |
常に痛み、歩くのが難しくなる。 |
この病気は、ステロイド薬の副作用やアルコールの飲み過ぎが危険因子として知られています。また、転倒などによる大腿骨頸部骨折がきっかけで起こる場合もあります。
近年の研究では、骨折の治療法によって、その後の大腿骨頭壊死の発生率が変わる可能性が示されています。さらに、ロボット支援手術のような精密な治療が、合併症を減らし回復を助けるという報告もあり、治療法は進歩しています。
すべての方が骨の圧潰に至るわけではありません。早期に発見し、股関節への負担を減らす生活を送ることが進行を遅らせるうえでとても重要です。
大腿骨頭壊死の種類
大腿骨頭壊死は、原因によって大きく2つの種類に分けられます。原因がはっきりしているものと、まだはっきりしていないものです。
特発性(とくはつせい)大腿骨頭壊死症
原因がはっきりと特定できないタイプのことを「特発性」と呼びます。
実は、日本で大腿骨頭壊死と診断される方のほとんどがこの特発性です。ステロイドというお薬の大量使用や、アルコールの飲み過ぎが関係していると考えられています。
しかし、なぜ骨への血の巡りが悪くなってしまうのか、詳しい仕組みはまだ完全にはわかっていません。
症候性(しょうこうせい)大腿骨頭壊死症
一方で、太ももの付け根の骨折(大腿骨頸部骨折など)や、なにかの病気が原因で起こるものを「症候性」と呼びます。
特に骨折が原因の場合、その治療法がその後の経過に影響することがあります。
最近の研究では、骨折を固定する器具の種類によって、後に大腿骨頭壊死が起こる確率が変わることが報告されています。例えば、FNSという固定器具は、従来の方法に比べて大腿骨頭壊死のリスクを低減させる可能性が示されています。
さらに、ロボット技術を活用した手術も進歩しています。ロボット支援手術は、人の手による手術よりも精密な治療を可能にし、治癒率の向上や股関節機能のより良い回復につながると期待されています。
|
種類 |
原因 |
特徴 |
|
特発性大腿骨頭壊死症 |
はっきりしない |
日本で最も多いタイプ。ステロイドやアルコールとの関連が考えられています。 |
|
症候性大腿骨頭壊死症 |
ケガ(骨折など)や病気 |
原因となる骨折の治療法が重要です。治療法によって合併症のリスクが変わることがあります。 |
大腿骨頭壊死の原因
大腿骨頭壊死は、太ももの骨の先端(大腿骨頭)への血の巡りが悪くなり、骨の組織が死んでしまう病気です。
血流が悪くなる原因は一つではなく、いくつかの要因が複雑に関わっていると考えられています。
原因がはっきりと特定できないものを「特発性」と呼び、日本ではこのタイプがほとんどを占めます。
しかし、特発性であっても、病気のリスクを高める危険因子はいくつか知られています。
|
危険因子 |
関連性の強さ |
考えられる理由 |
|
ステロイド薬の大量使用 |
非常に強い |
血液が固まりやすくなる、脂質代謝の異常など |
|
アルコールの過剰摂取 |
非常に強い |
脂質代謝の異常、血管の壁が傷つくなど |
|
喫煙 |
関連あり |
ニコチンによる血管の収縮、血流の低下など |
一方で、太ももの付け根の骨折(大腿骨頸部骨折)のような、ケガが原因で起こることもあります。
この場合、どのような手術方法を選ぶかによって、その後の大腿骨頭壊死の起こりやすさが変わる可能性があります。
最近の研究では、骨折を固定する器具の種類によって、大腿骨頭壊死の発生率に違いが出ることが報告されました。
例えば、FNS(大腿骨頸部システム)という固定器具は、従来の方法よりも大腿骨頭壊死のリスクを低減させる可能性が示されています。
このように、原因は生活習慣だけでなく、過去のケガやその治療法も関係しているのです。
大腿骨頭壊死の症状
大腿骨頭壊死は、発症してすぐには症状が現れないことが多い病気です。痛みがない「サイレント期間」があるため、気づかないうちに進行していることもあります。
最初のサインとして最も多いのは、歩き始めや立ち上がる時などに感じる急な痛みです。特に、足の付け根(そけい部)に痛みを感じることが多い傾向にあります。
しかし、人によってはお尻や太もも、膝のあたりが痛むこともあります。そのため、坐骨神経痛など他の病気と間違われるケースも少なくありません。この痛みは、体重がかかる時に現れ、安静にすると和らぐのが特徴です。
病気が進み、骨が体重に耐えきれず潰れ始めると、症状は次のように変わります。
- 痛みの変化 痛みが常に続くようになり、じっとしていても痛むことがあります。夜中に痛みで目が覚めてしまうこともあります。
- 動きの制限 股関節が動かしにくくなり、あぐらをかく、靴下をはく、足の爪を切るなどの日常的な動作が難しくなります。
- 歩き方の変化 左右の足の長さに違いが出て、歩く時に体を引きずるような歩き方(跛行:はこう)が見られるようになります。
|
段階 |
痛みの特徴 |
日常生活への影響 |
|
初期 (骨が潰れる前) |
動作を始めた時の急な痛み。 安静にすると和らぐ。 |
長い時間歩いたり、特定の動きをしたりすると違和感を覚える。 |
|
進行期 (骨が潰れた後) |
痛みが続く。 じっとしていても、夜でも痛むことがある。 |
歩くのが難しくなり、杖が必要になることがある。 |
|
末期 (関節症) |
常に強い痛みがあり、 動かすのがつらい。 |
日常生活の多くの場面で支えが必要になる。 |
また、転倒などによる骨折の治療後に、大腿骨頭壊死が起こることもあります。どのような手術を選ぶかによって、手術後の痛みの感じ方が変わる可能性も報告されています。
最近の研究では、新しい固定器具(FNS)を用いた手術は、従来の方法に比べて手術後の痛みが少ないという結果が示されました。さらに、ロボット支援手術のような精密な治療は、股関節の機能回復をより良くする可能性も期待されています。
気になる症状があれば自己判断せず、まずは専門の医療機関にご相談ください。
大腿骨頭壊死の検査・診断
股関節の痛みの原因を正確に突き止め、この病気を早期に発見するためには、専門的な検査が欠かせません。診断は、まずお話を聞く「問診」から始まり、次に診察、そして画像検査へと進みます。
問診では、いつから、どこが、どのように痛むのかを詳しくお聞きします。さらに、ステロイドというお薬の使用歴や、お酒を飲む習慣なども確認します。これらは病気のリスクを探るための大切な質問です。
診察では医師が実際に股関節を動かし、痛みの出る角度や動きにくさなどを直接確かめます。その後、骨の状態を詳しく見るために画像検査を行います。
|
検査方法 |
分かること |
早期発見の有用性 |
|
レントゲン検査 |
骨の潰れや変形、関節の隙間の状態 |
骨の形が変わらない初期段階での発見は難しい |
|
MRI検査 |
骨が壊死しているか、その範囲や場所 |
非常に有用。血流が悪くなった初期段階から発見可能 |
|
骨シンチグラフィ |
骨の血流や代謝の状態 |
診断の助けになるが、MRIほど詳細ではない |
特に、大腿骨頭壊死の早期発見ではMRI検査がとても重要です。レントゲンでは骨が潰れないと異常が分かりませんが、MRIなら骨の中の変化を初期から捉えることができます。
これらの検査で診断がついた後は、治療方針を決めるために股関節の状態を客観的に評価します。例えば「ハリス・ヒップ・スコア」は、痛みや歩き方、関節の動きを点数で評価する方法です。最近ではロボット支援手術の治療効果を測るためにも使われています。
痛みの強さを数字で評価する「VASスコア」も用いられます。これらの客観的な指標と検査結果を総合的に見て、一人ひとりに合った治療計画を立てていきます。
大腿骨頭壊死の治療
大腿骨頭壊死の治療法は、病気の進み具合や壊死の範囲、年齢、普段の活動量などを総合的に見て決まります。治療は、手術をしない「保存的治療」と、手術を行う「手術的治療」の2つに大きく分けられます。
保存的治療
骨の潰れがまだ起きていない、あるいはごく軽い場合に行われる治療法です。目的は、痛みを和らげ、病気の進行をできるだけゆるやかにすることにあります。
- 免荷(めんか) 杖や松葉杖を使い、股関節にかかる体重の負担を減らします。進行を防ぐ上でとても大切な基本の治療です。
- 薬物療法 痛みが強い場合には、炎症を抑える飲み薬(非ステロイド性抗炎症薬)などを用いて、つらい症状を和らげます。
- 運動療法 理学療法士の指導のもと、股関節が硬くならないように動かし、周りの筋肉を鍛えるリハビリテーションを行います。
手術的治療
骨の潰れが進み、痛みが強くて日常生活に大きな支障が出ている場合には、手術が検討されます。近年では手術技術も進歩し、体への負担が少なく、より良い回復が期待できる方法も報告されています。
例えば、ロボット技術を活用した手術は、人の手より精密な治療を可能にします。その結果、治癒率の向上や股関節機能のより良い回復につながることが期待されています。
主な手術方法は以下のとおりです。
|
手術方法 |
主な対象となる方 |
特徴 |
|
骨切り術 |
比較的若く、骨の潰れが軽い方 |
自分の関節を残せます。骨の向きを変え、体重がかかる部分を健康な骨へ移動させます。 |
|
人工股関節置換術 |
高齢の方や、骨の潰れが進行した方 |
傷んだ関節を人工のものに置き換えます。痛みの改善効果が高く、早期の社会復帰が期待できます。 |
また、骨折が原因でこの病気が起こることもあります。最近の研究では、骨折の治療で使う固定器具(FNS)が、手術後の大腿骨頭壊死のリスクを減らす可能性が示されました。どの治療法が最適か、医師とよく相談して決めていきましょう。





