眼瞼裂傷

転んだり、スポーツでぶつかったりして、まぶたを切ってしまった。「たいしたことはないだろう」と、ただの切り傷だと軽く考えていませんか?その自己判断が、視力やまぶたの機能に、取り返しのつかない影響を及ぼすかもしれません。

まぶたが切れる「眼瞼裂傷」は、誰にでも起こりうる非常に身近な怪我です。実際に、2023年のトルコ大地震の調査報告でも、目の怪我で最も多かったのは眼瞼裂傷でした。しかし、その傷の奥には、涙の通り道や目の周りの骨が損傷しているといった、深刻な状態が隠れていることも少なくないのです。

この記事では、眼瞼裂傷に潜む本当の危険性から、後遺症を残さないための正しい治療法までを詳しく解説します。大切な目を守るため、放置する前にぜひご一読ください。

眼瞼裂傷の概要

眼瞼裂傷(がんけんれっしょう)とは、まぶたが切れてしまうケガのことです。 まぶたには細かい血管がたくさん集まっているため、少し切れただけでも出血が多く見られます。

とっさに目を閉じることで、眼球よりも先にまぶたが傷つくことはよくあります。 そのため、眼瞼裂傷は誰にでも起こりうる、とても身近なケガの一つと言えるでしょう。

実際に、2023年にトルコで起きた大地震の後の調査でも、 目のケガで最も多かったのは眼瞼裂傷だったという報告があります。

まぶたは、外部からの衝撃やゴミなどから大切な眼球を守る役割を担っています。 そのため、軽いケガであれば、まぶたの傷だけで済むことも少なくありません。

しかし、ただの切り傷だと軽く考えず、注意が必要です。 ケガの程度によっては、次のようなより複雑な状態を伴うことがあります。

  • 涙小管断裂 涙の通り道である細い管が切れてしまう状態です。
  • 眼瞼内異物 傷口に砂やガラスの破片などが入り込んでしまう状態です。
  • 眼窩骨折 目の周りの骨が折れてしまう状態です。

地震の報告では、まぶたのケガと一緒に眼窩骨折も多く見られました。 これらの状態を放置すると、視力やまぶたの機能に影響が出る可能性があります。 深刻な後遺症のリスクを減らすためにも、早めに専門医の診察を受けることが大切です。

眼瞼裂傷の種類

ひとくちに眼瞼裂傷といっても、実はいくつかの種類に分けられます。 傷の深さや場所、他のケガを伴うかによって分類します。 どの種類かによって治療法が変わり、後遺症を防ぐためにも重要です。

眼瞼裂傷は、主に次の2つのポイントで分類されます。

  • 傷の深さ
  • 他のケガを伴っているか

傷の深さによる分類

傷がまぶたのどのくらい奥まで達しているかで分けられます。

  • 表層裂傷(ひょうそうれっしょう) まぶたの表面にある皮膚だけが切れている、比較的浅い傷です。 出血はしますが、まぶたの機能に大きな影響は出にくいです。
  • 深層裂傷(しんそうれっしょう) 傷が深く、まぶたを閉じる筋肉(眼輪筋)や、 まぶたの形を支える硬い組織(瞼板)まで達している傷です。 まぶたの動きに問題が残る可能性があるため、注意が必要です。

他のケガを伴う分類

まぶたの傷だけでなく、周りの組織にも損傷が及ぶことがあります。

  • 涙小管断裂(るいしょうかんだんれつ)を伴う裂傷 目頭側(鼻に近いほう)のケガで起こりやすいです。 涙の通り道である「涙小管」が切れると、涙があふれ続けることがあります。
  • 異物(いぶつ)を伴う裂傷 転んだときの砂やガラス片などが、傷口に入り込んだ状態です。 異物が残ると、そこから細菌が入り感染症を起こす危険があります。

特に注意したいのは、眼瞼裂傷がより大きなケガのサインである場合です。 実際に、2023年にトルコで起きた大地震の後の調査では、 目のケガで最も多かったのは眼瞼裂傷でした。 そして、眼瞼裂傷と一緒に目の周りの骨が折れる「眼窩骨折」を 起こしている人が多くいたことも報告されています。

このように、ただの切り傷に見えても、奥には深刻な状態が隠れているかもしれません。 自己判断せずに、必ず医療機関で診てもらうことが大切です。

眼瞼裂傷の原因

まぶたが切れてしまうケガは、日常生活の様々な場面で起こります。 その原因は、大きく次の2つのパターンに分けられます。

  • 強くぶつかったとき 何かに強くぶつかった衝撃で、皮膚が裂けてしまうケースです。
  • とがったものが刺さったとき 鋭いものが直接まぶたに当たり、切れてしまうケースです。

それぞれの具体的な場面を見ていきましょう。

強くぶつかったとき

  • 転んだとき 家の中や外で転んでしまい、家具や地面に顔を強くぶつけます。
  • スポーツをしているとき ボールが顔に当たったり、他の選手とぶつかったりします。 最近人気のピクルボールというスポーツでも、 味方のラケットが当たり、まぶたを切った例が報告されています。
  • ケンカなど こぶしで殴られてしまうことでも、まぶたは切れてしまいます。

とがったものが刺さったとき

  • 事故にあったとき 交通事故などで、割れたガラスの破片が顔に当たることで起こります。
  • 作業をしているとき カッターやハサミなどの刃物、木の枝などが刺さることがあります。

また、地震のような大きな災害時にも注意が必要です。 実際に2023年にトルコで起きた大地震の後の調査では、 目やその周りのケガの中で眼瞼裂傷が最も多かったと報告されています。

このように、眼瞼裂傷は予測できない様々な状況で起こりうるのです。

眼瞼裂傷の症状

まぶたを切ってしまうと、出血だけでなく様々な症状があらわれます。 まぶたは非常にデリケートな部分であり、たくさんの血管が集まっています。 そのため、少し切れただけでも出血が多くなり、見た目に驚くかもしれません。

具体的にどのような症状が出るのか、以下にまとめました。 ご自身の状態と照らし合わせてみてください。

  • 出血 ケガをした部分から血が出ます。
  • 腫れ・皮下出血 まぶたが赤く腫れ上がり、「あおあざ」ができることもあります。
  • 痛み ケガによる痛みを伴いますが、見た目の腫れほどは痛くないこともあります。
  • 目が開けにくい 腫れによってまぶたが重くなったり、筋肉が傷ついたりして目が開けづらくなります。

さらに、傷の場所や深さによっては、次のような特別な症状が出ることもあります。

  • まぶたが下がる(眼瞼下垂) 傷が深く、まぶたを動かす筋肉まで達している場合に起こります。
  • 涙が止まらない(流涙) 目頭にある涙の通り道(涙小管)が傷つくと、涙があふれ出てきます。

痛みがあまり強くないからといって、軽いケガだと判断するのは危険です。 2023年にトルコで起きた大地震の後の調査でも、 まぶたのケガ(眼瞼裂傷)と同時に、目の周りの骨が折れる「眼窩骨折」を 起こしている人が多くいたことがわかっています。

眼窩骨折のような重いケガを放置すると、視力に影響が出るなど、 深刻な後遺症が残る危険性があります。 すぐに専門医の診察を受けることが、とても大切です。

眼瞼裂傷の検査・診断

まぶたを切ってしまったとき、見た目の傷だけでなく、 隠れた部分に問題がないかを詳しく調べることがとても大切です。 適切な治療のため、眼科では次のような検査や診察を行います。

  • 問診と視診 いつ、どこで、何によってケガをしたのかを詳しくお伺いします。 その後、眼科用の顕微鏡(細隙灯顕微鏡)を使って、 傷の深さや異物の有無、眼球自体に傷がないかなどを丁寧に観察します。
  • 画像検査(CT検査) 強くぶつけた場合、まぶたの奥にある目の周りの骨(眼窩)が、 骨折している可能性も考えられます。 実際に、2023年のトルコ大地震の調査では、 目の周りをケガした人のうち、眼瞼裂傷と眼窩骨折を 同時に起こしている人が多く報告されました。 そのため、CTなどの画像検査で骨の状態を正確に確認します。
  • 涙の通り道の検査(通水検査) 目頭側のケガや、涙が止まらない症状がある場合、 涙の通り道である「涙小管」が切れているかもしれません。 その際は、涙の出口からお水を通して、 鼻の奥へ正しく流れるかを確認する検査などを行います。

これらの検査や処置では、痛みを和らげるために局所麻酔を行います。 特に上まぶたの裂傷には、「眼窩上神経ブロック」という麻酔が有効です。 この方法は、少ない麻酔薬で広い範囲の痛みを抑えることができます。 組織の形をゆがませずに処置できるため、より正確な治療につながります。

眼瞼裂傷の治療

まぶたが切れてしまった場合、傷の深さや場所によって治療法が変わります。 治療の目標は、傷口を清潔にし、まぶたの形と働きを元通りにすることです。

まず病院では、傷口をきれいな水(生理食塩水)で十分に洗います。 砂やガラスの破片などが入っていないかを確認し、丁寧に取り除きます。 汚れたものでケガをした際は、ばい菌による感染を防ぐため、 抗生物質の飲み薬や塗り薬が処方されることもあります。

具体的な治療法は、傷の状態によって次のように分かれます。

  • 浅くて小さな傷の場合 まぶたのシワに沿った浅い傷であれば、縫わずに済むこともあります。 消毒をした後、医療用のテープで傷口を固定して治るのを待ちます。
  • 深くて大きな傷の場合 傷が深い場合やまぶたの縁まで達している場合は、縫い合わせる手術が必要です。 まぶたは皮膚、筋肉、硬い組織(瞼板)が層になっているため、 それぞれの層を元の位置に正しく縫い合わせることがとても大切です。 これを怠ると、後でまぶたが変形したり、目が閉じにくくなったりします。

また、涙の通り道である「涙小管」が切れている場合は特別な手術を行います。 涙があふれ続けないよう、シリコン製の細いチューブを中に入れて、 涙の通り道を確保しながら縫い合わせます。

手術の際は、痛みを抑えるために麻酔を使いますのでご安心ください。 特に上まぶたの傷には、「眼窩上神経ブロック」という麻酔が有効です。 これは、少ない麻酔薬で広い範囲の痛みを抑えられる優れた方法です。 傷口に直接注射しないため組織の腫れも少なく、 まぶたの形をゆがませずに、より正確な縫合手術が可能になります。 ケガの後の見た目をきれいにするためにも、とても重要な処置です。