上強膜炎
目の充血や痛み、異物感が続いているものの、「大したことないだろう」と様子を見たり、自己判断で済ませていませんか?目に炎症が起こる「上強膜炎」は、多くの場合、比較的軽度で自然に症状が落ち着くこともあります。しかし、時に全身の病気のサインとして現れることもあり、その場合は早期の対応が鍵となります。
この記事では、上強膜炎の症状や原因、診断方法、そして適切な治療法までを詳しく解説します。特に、関節リウマチに代表される全身性自己免疫疾患との関連性にも焦点を当てます。
読み進めることで、ご自身の目の症状の背景にある可能性を理解し、適切な受診や治療へ繋がるヒントが見つかるでしょう。
上強膜炎の概要
上強膜炎は、眼の白い部分の表面にある薄い膜、上強膜に炎症が起きる状態です。眼球の一番外側にある白く丈夫な膜が「強膜」ですが、そのさらに表面を覆う薄い膜が「上強膜」にあたります。この上強膜に炎症が起こると、目が赤くなるほか、軽い痛みや異物感などを感じることがあります。
この病気は比較的軽度な炎症で、多くの場合、自然に症状がおさまることも珍しくありません。しかし、中には症状が再発を繰り返すケースや、全身の病気と関連している場合があるため、注意が必要です。
全身の免疫システムに異常が生じる病気、特に自己免疫疾患(自身の体を攻撃してしまう病気)は、目に炎症を引き起こすことが少なくありません。たとえば、関節リウマチは、強膜炎だけでなく、ドライアイや角膜の病気など、さまざまな眼の合併症を引き起こすことが知られています※。このように、眼の病気が全身疾患のサインである可能性も指摘されており、上強膜炎もときには全身疾患の一症状として現れることがあります。
症状が軽いからと自己判断せず、長く続く場合や悪化する場合には、早めに眼科を受診し、適切な診断と治療を受けることが大切です。
上強膜炎の種類
上強膜炎は、炎症の広がり方や見た目によって主に2つのタイプに分類されます。それぞれのタイプの特徴を以下に示します。
・単純型(散在型)上強膜炎
・上強膜全体に炎症が広がります。
・赤みが比較的分散して現れるのが特徴です。
・痛みは比較的軽い場合が多いとされています。
・結節型上強膜炎
・上強膜の一部に、しこりのような盛り上がり(結節)が見られます。
・この盛り上がった部分が赤くなり、押すと痛みを感じることがあります。
・単純型よりも症状が強く出る傾向があります。
また、上強膜炎はその原因によっても大きく2つの種類に分けられます。一つは「特発性(とくはつせい)」、もう一つは「続発性(ぞくはつせい)」です。
・特発性上強膜炎
・原因が特定できないタイプです。軽症で、自然に症状が落ち着くことも少なくありません。
・続発性上強膜炎
・体の他の病気が原因で起こるタイプです。全身の病気と関連している上強膜炎は、特に注意が必要とされています。
全身の免疫システムに異常が生じる自己免疫疾患が原因となるケースがあります。例えば、関節リウマチは、強膜炎(Scleritis)だけでなく、ドライアイや角膜の病気など、さまざまな眼の合併症を引き起こすことが知られています※。強膜炎は、上強膜炎よりもさらに眼球の深い層にある強膜に炎症が及ぶ重い状態を指し、この場合、視機能に重大な影響を与えることがあるため、全身的な免疫抑制療法が必須となることもあります※。
このように、上強膜炎が全身の病気の一症状として現れている場合は、目の治療だけでなく、その根本となる全身の病気の治療も同時に進めることが大切だといえるでしょう。
上強膜炎の原因
上強膜炎の発生には、原因が特定できない「特発性」のものと、体の他の病気が深く関わる「続発性」のものがあります。単に目が赤いという症状の裏には、さまざまな背景が隠れている可能性があります。
上強膜炎が起こる背景は、主に次の3つが考えられます。
特発性(原因不明)
上強膜炎の多くは、特別な原因が見つからない「特発性(とくはつせい)」と診断されます。なぜ目の表面に炎症が起こるのか、その明確な理由はまだわかっていません。しかし、ストレスや疲労、睡眠不足など、体の調子が一時的に乱れた際に発生しやすい傾向があると考えられています。軽度で自然に症状が落ち着くケースも多いですが、再発を繰り返す場合は生活習慣を見直すきっかけとなることもあります。
全身の病気との関連
上強膜炎は、体全体の病気、特に免疫システムの異常と密接に関連して現れることがあります。自己免疫疾患(自身の免疫が誤って体を攻撃してしまう病気)は、その代表例です。
例えば、関節リウマチ(RA)は、全身の関節に炎症を起こす病気ですが、目の表面の乾燥(ドライアイ)だけでなく、より重篤な眼の炎症、具体的には「強膜炎(きょうまくえん)」や「周辺部潰瘍性角膜炎(へんえんぶかいようせいかくまくえん)」といった合併症を引き起こすことが知られています※。強膜炎は、上強膜よりもさらに深い層にある「強膜」に炎症が及んだ状態で、視機能に深刻な影響を与える可能性があります。
上強膜炎自体は軽症で済むことが多いものの、背景にこのような全身の病気が潜んでいる場合、より深い層の強膜に炎症が波及するリスクが考えられます。強膜炎に進行すると、目の治療だけでなく、根本にある全身疾患に対する「全身性免疫抑制療法」という専門的な治療が不可欠になります※。
関節リウマチ以外にも、上強膜炎と関連が指摘される全身疾患は複数あります。
病気の分類 | 具体的な病名(一例)
膠原病(こうげんびょう) | 全身性エリテマトーデス、血管炎など (全身の結合組織に炎症が起こる病気の総称。免疫の異常が関係していると考えられています。)
炎症性腸疾患 | クローン病、潰瘍性大腸炎など (消化管に慢性的な炎症が起こる病気。自己免疫が関与しているとされています。)
その他 | 甲状腺機能異常、痛風など (ホルモンバランスの乱れや、体内に蓄積した尿酸が原因で炎症を引き起こすことがあります。)
このような全身疾患が背景にある上強膜炎の場合、目の症状だけを診るのではなく、全身の状態を総合的に評価し、根本的な病気の治療を並行して進めることが大切です。早期に根本原因を見つけ、適切な治療につなげることが、再発の予防やより重篤な眼病変への進行を防ぐ鍵となります。
感染症や薬剤
まれなケースですが、特定のウイルスや細菌による感染症、あるいは特定の薬剤の副作用として上強膜炎が引き起こされることもあります。例えば、単純ヘルペスウイルスや帯状疱疹ウイルスなどが目の炎症に関与することがあります。薬剤による場合は、特定の点眼薬や内服薬が原因となる可能性も考えられます。
上強膜炎はさまざまな原因で起こるため、炎症が頻繁に再発したり、症状が強かったりする場合には、目の専門医による詳しい検査に加え、全身の病気が隠れていないか、内科的な検査も検討することが重要ですし、根本的な治療を見つけることに繋がります。
上強膜炎の症状
上強膜炎の症状は、主に目の充血、痛み、異物感として現れます。これらの症状は片方の目に生じることが多いものの、両目に現れる場合もあります。
上強膜炎でよく見られる症状は、次のとおりです。
・目の充血
・白目の表面が赤くなる症状です。上強膜の毛細血管が拡張することで、炎症のある部分が特に鮮やかな赤色になる傾向があります。
・目の痛み
・軽度から中程度の鈍い痛みが特徴です。眼球の表面を押したときに痛みを感じることもあります。結節型の上強膜炎では、より強く痛みを感じる場合もあります。
・異物感や違和感
・目に何か入っているようなゴロゴロとした不快感や、目の表面がざらつく感覚を覚えることがあります。
・涙目
・炎症が起こると、涙の分泌が増えるため、涙っぽくなることがあります。
・まぶしさ(羞明)
・光をまぶしく感じやすくなる症状です。薄暗い場所でも光が気になることがあります。
・視力低下
・上強膜炎自体で視力が低下することは、通常では稀です。しかし、炎症が眼球のより深い部分である「強膜」にまで及んだ場合(強膜炎)は、視機能に重大な影響を及ぼす可能性があります※。
・特に、関節リウマチなどの全身の病気が背景にある強膜炎は、単なる目の炎症にとどまらず、全身的な免疫抑制療法が必要となる重い状態です※。このような全身疾患に伴う眼の合併症としては、強膜炎のほか、ドライアイや周辺部潰瘍性角膜炎なども知られています※。
これらの症状は、数日から数週間で自然に改善に向かうことも多いでしょう。しかし、中には症状が再発を繰り返すケースもあります。症状が長引いたり、悪化したりする場合には、早期に眼科を受診し、適切な診断と治療を受けることが大切です。特に全身疾患が疑われる場合は、目の症状だけでなく、その根本原因を特定することも重要となります。
上強膜炎の検査・診断
上強膜炎の検査・診断では、目の状態を詳しく調べるだけでなく、全身の病気が隠れていないかを見極めることが大切です。
診察では、まず患者さんから症状について詳しくお聞きする問診を行います。具体的には、いつから、どのような目の痛みや充血があるのか、過去に目の病気をしたことがあるか、そして最も重要な点として、持病や服用中の薬など、全身の健康状態について詳しくお伺いします。上強膜炎の中には、関節リウマチのように全身の病気が背景にあるケースがあるため、全身の病歴は診断に欠かせない情報といえるでしょう。
続いて、スリットランプという眼科用の顕微鏡を使い、目の表面を細かく観察します。このとき、単に目が赤いだけでなく、充血の範囲や色、結節(しこり)の有無、そして炎症が目のどの深さまで及んでいるかを確認します。特に、白目の深い部分にある「強膜」にまで炎症が及んだ「強膜炎」ではないか、慎重に見極めることが重要です。
なぜなら、上強膜炎と強膜炎は症状が似ていても、その重症度や治療法が大きく異なるからです。上強膜炎は比較的軽度で自然に治ることもありますが、強膜炎は視力に影響を及ぼすほど重く、場合によっては視機能に重大な影響を及ぼす可能性があります※。
強膜炎が診断された場合、目の治療だけでなく、その原因となっている全身の病気に対して、ステロイドやメトトレキサートなどの免疫を抑える薬(免疫抑制薬)を使った全身的な治療(全身性免疫抑制療法)が不可欠です※。これは、関節リウマチのような自己免疫疾患が原因で強膜炎が起きているケースでは特に重要です。目の症状を繰り返さないためにも、根本的な病気の治療を並行して進める必要があるため、医師は目の奥の状態を注意深く観察し、強膜炎への進行の有無を判断します。
そのため、問診や視診で全身の病気が疑われた場合には、血液検査や関節の診察といった追加の検査を行います。これらの検査は、目の炎症の真の原因を探り、上強膜炎なのか、それとも強膜炎で全身の治療が必要なのかを正確に判断し、患者さん一人ひとりに合った最適な治療方針を決めるために欠かせません。目の症状だけで自己判断せず、気になる症状があれば眼科を受診し、適切な診断を受けるようにしましょう。
上強膜炎の治療
上強膜炎の治療は、炎症の原因や症状の程度に応じて大きく方針が分かれます。軽症の場合は自然に治まることも期待できますが、症状が強い場合や、体全体の病気が背景にある場合には、積極的に治療に取り組むことが重要です。
上強膜炎の治療は、主に次の3つのステップで検討されます。
1. 経過観察や対症療法
2. 点眼薬・内服薬による炎症のコントロール
3. 全身疾患に伴う場合の専門治療
1. 経過観察や対症療法
炎症が軽度で症状もそれほど強くない場合は、自然に治まるのを待つ「経過観察」が選択されることがあります。上強膜は、目の表面にある比較的浅い層に位置するため、炎症が軽度であれば、体の自然な回復力によって症状が落ち着くことも珍しくありません。
もし症状が気になる場合は、市販の非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs:痛みや炎症を抑える飲み薬や点眼薬)が用いられることもあります。これらは、不快な症状を和らげる目的で使われます。
2. 点眼薬・内服薬による炎症のコントロール
症状が強い場合や、炎症がなかなか治まらないときには、より積極的な治療が行われます。
・ステロイド点眼薬:医師の診察により、炎症を強力に抑える作用を持つステロイド点眼薬が処方されることがあります。目の炎症を効率よく抑え、症状の改善を早める効果が期待できます。
・ステロイド内服薬:点眼薬だけでは効果が不十分な場合や、炎症が広範囲に及ぶ場合は、ステロイドの内服薬が処方されることもあります。体の中から炎症反応を抑えることで、症状のコントロールを目指します。
3. 全身疾患に伴う場合の専門治療
上強膜炎の背後に、関節リウマチのような全身の自己免疫疾患が隠れている場合は、目の治療だけでなく、その全身疾患に対する治療が不可欠です。特に、炎症が上強膜よりも深い層の「強膜」にまで及んで「強膜炎」と診断された場合は、視機能に深刻な影響を与える可能性があるため、慎重な対応が求められます※。
このような場合、目の炎症を抑えるだけでなく、根本原因となっている全身の病気自体を治療するための「全身性免疫抑制療法」が必須です※。この治療には、主に次のような種類の薬が使われます。
治療薬の種類 | 作用
ステロイド | 炎症を強力に抑える薬です。緊急時や症状が強い場合に、速やかに炎症を鎮めるために用いられます。
免疫抑制薬 | メトトレキサートなど、体の免疫の過剰な働きを抑える薬です。自己免疫疾患が原因の場合に、体の免疫システムを調整することで、炎症の再発を防ぐことを目指します。
生物学的製剤 | 特定の免疫物質(炎症を引き起こす物質)の働きをピンポイントで抑える新しいタイプの薬です。TNF-α阻害薬やリツキシマブなどが含まれます。従来の治療で効果が見られにくい「難治性の炎症」に対して有効な選択肢です。特に、TNF-α阻害薬の中では、エタネルセプトという薬よりも、モノクローナル抗体と呼ばれる種類の薬の方が、眼の炎症に対してより有効である可能性が指摘されています※。
JAK阻害薬 | 生物学的製剤とは異なるメカニズムで免疫の働きを調整する薬で、こちらも難治性の炎症に対する新たな治療選択肢として注目されています※。
これらの薬は、炎症を引き起こす免疫の働きを体の内側から調整することで、目の炎症の根本的な解決を目指すものです。
治療の期間や使用する薬の種類、量は、患者さん一人ひとりの状態や炎症の程度、全身疾患の有無によって細かく調整されます。不明な点や不安な症状がある場合は、自己判断で服薬を中断したりせず、必ず主治医に相談し、指示に従うようにしてください。上強膜炎の治療は、医師と患者さんが協力して進めることが、症状の改善と回復への近道となります。













