流行性角結膜炎

目やにや充血、目のゴロゴロとした異物感に加えて、「もしかして、大切な人に感染させてしまうのでは」と不安を抱えていませんか?

流行性角結膜炎、通称「はやり目」は、アデノウイルスが原因で引き起こされる高い感染力を持つ目の病気です。世界中で多くの人々が罹患する眼疾患であり、適切な診断と治療、そして感染対策が重要とされます。

本記事では、流行性角結膜炎の具体的な症状、診断方法、現在の治療の選択肢、さらには周囲への感染拡大を防ぐための注意点までを詳しくご紹介します。この記事を読み進めることで、ご自身の状況を正しく理解し、不安を解消しながら適切な次の一歩を踏み出すきっかけを得られるでしょう。

流行性角結膜炎の概要

流行性角結膜炎は、アデノウイルスが原因で起こる、高い感染力を持つ目の病気です。一般的には「はやり目」とも呼ばれ、世界中で多くの人々が罹患する眼疾患として広く知られています※。特定の季節に限らず年間を通して発生しますが、特に春から夏にかけて多く見られる傾向があります。

多くの場合、まず片方の目に症状が現れますが、数日のうちに反対側の目にも感染が広がるケースが少なくありません。主な症状は次のとおりです。

・目の充血

・多量の目やに

・涙がたくさん出る

・ゴロゴロとした異物感

・まぶたの腫れ

アデノウイルスによる流行性角結膜炎は、その高い感染力から、特に感染を広げないための注意が必要です。例えば、感染した目を触った手で様々な場所に触れることや、タオル、洗面器を共有することなどにより、周囲の人へ簡単にウイルスがうつってしまう可能性があります。そのため、ご自身やご家族が流行性角結膜炎と診断された場合は、感染拡大を防ぐための徹底した対策が求められます。学校や職場においては、医師からの許可があるまで登校や出勤を控える必要があることがほとんどです。

流行性角結膜炎の治療は、主に症状を和らげる対症療法が中心となります。しかし、その中でもステロイド点眼薬(糖質コルチコステロイド眼科製剤、OPGs)の使用については、有効性と安全性に関して今も議論が続いています※。急性期の症状緩和にはステロイド点眼薬が有効であるとする報告もありますが、使用期間によっては角膜の合併症(黒目に点状の濁りが残る角膜下上皮浸潤と呼ばれる状態)への影響が異なり、長期的な使用では眼圧が上昇するリスクも指摘されているため、慎重な判断が重要です※。

流行性角結膜炎の種類

流行性角結膜炎は、目の状態や症状の変化に応じて、大きく2つの段階に分類されます。それが「急性期」と「慢性期」です。それぞれの病期によって、症状の現れ方や治療への考え方が異なります。

急性流行性角結膜炎(AEKC)

この時期は、ウイルスに感染してから間もない、最も症状が強く現れる期間を指します。目の充血や多量の目やに、涙が止まらない、ゴロゴロとした異物感、まぶたの腫れなど、前の見出しで説明した症状が顕著に現れるのが特徴です。

急性期における治療は、主に次の点が挙げられます。

・症状の緩和: 目の痛みや炎症といったつらい症状を和らげることを優先します。特に、糖質コルチコステロイド点眼薬(OPGs)は、涙を補う人工涙液に比べて、急性期の症状をより早く改善する効果が期待できるとされています※。

・角膜の濁り(SEIs)の予防: 流行性角結膜炎の厄介な合併症の一つに、目の黒目部分(角膜)に白い濁り(角膜上皮浸潤:SEIs)が残ることがあります。この濁りが起こると、視力に影響が出る可能性も考えられます。OPGsは、このSEIsの発生を抑える効果も期待されるものの、その効果は使用期間によって異なると報告されています※。具体的には、7日間程度の短期間の使用ではSEIsの発生率に大きな差は見られませんが、21日や28日といった一定期間使用することで、SEIsの発生を実質的に減らせる可能性があると考えられています※。

慢性流行性角結膜炎(CEKC)

この病期は、急性期の激しい炎症が落ち着いたにもかかわらず、角膜(黒目)に白い濁り(角膜上皮浸潤:SEIs)が残ったり、目の違和感やかすみといった症状が長く続いたりする状態をいいます。このSEIsが残ると、視界がぼやけたり、光をまぶしく感じたりと、日常生活に影響が出る可能性も出てきます。

慢性期の治療では、急性期とは異なる注意点があります。

・SEIsの改善効果: 慢性期のSEIsに対して、OPGsによる治療が角膜の濁りを完全に消し去る効果は、他の免疫抑制剤と比べて大きな差がないとされています※。

・眼圧上昇のリスク: OPGsを長期間使用すると、目の内部の圧力(眼圧)が上昇するリスクも指摘されています※。眼圧が高い状態が続くと、緑内障など他の目の病気につながる可能性も出てきます。

・治療の選択: このように、慢性期ではOPGsの使用によるメリットが限定的であることや、副作用のリスクがあることから、症状に応じて他の治療法を検討することもあります。

流行性角結膜炎の原因

流行性角結膜炎は、主にアデノウイルスと呼ばれるウイルスが原因で起こる、目の感染症です。このウイルスは、一般的な風邪の原因ウイルスと同じグループに属しますが、目の結膜(白目やまぶたの裏側を覆う粘膜)と角膜(黒目)に炎症を引き起こす点が特徴といえます。

アデノウイルスにはさまざまな種類(型)が存在します。中でも、流行性角結膜炎を引き起こす特定のアデノウイルス型は、目の症状が強く出やすく、非常に感染力が高いと考えられています。

流行性角結膜炎のウイルスは、主に以下のような経路で感染が広がります。

・直接接触感染

患者さんの目や涙には、ウイルスが大量に含まれています。

患者さんが目を触った手で、直接他の方の目に触れることで感染が起こる可能性があります。

・間接接触感染

患者さんがウイルスが付着した手で触れた、次のような物品を介しても感染が広がる場合があります。

・タオル

・ドアノブ

・手すり

・スイッチ

・洗面器

特に、目が充血して涙や目やにが多く出る時期は、ウイルスの排出量が非常に多くなり、感染力が最も高まる傾向にあります。この時期の目の分泌物には大量のウイルスが含まれるため、わずかな接触でもウイルスが広がりやすい状態といえます。

そのため、ご自身やご家族が流行性角結膜炎と診断された際は、感染拡大を防ぐための徹底した注意が必要です。こまめな手洗い、タオルや目薬の共有を避けるといった対策が、ウイルス感染を食い止めるために重要となります。

流行性角結膜炎の症状

流行性角結膜炎では、目に現れる症状のほか、全身に影響が及ぶこともあります。

目の主な症状

流行性角結膜炎に感染すると、主に目に次のような症状が現れます。これらの症状は片目から始まり、数日のうちに反対側の目にも広がる傾向があります。

・目の充血

ウイルスが目の表面(結膜)に炎症を起こすため、白目(結膜)の血管が拡張し、真っ赤に充血します。目の異物感や痛みも伴います。

・異物感・ゴロゴロ感

ウイルス感染による炎症で目の表面がざらつき、砂が入ったような不快感や、まつ毛が入ったような違和感があります。

・涙が止まらない

目に刺激や炎症があるため、体は異物を洗い流そうとして、涙腺から大量の涙が分泌されます。

・目やに

ウイルスと戦う免疫細胞や炎症反応によって、黄色く粘り気のある目やにが多量に出ます。特に朝起きたときには、目やにでまぶたがくっつき、目が開けにくくなることもあります。

・まぶたの腫れ

目の炎症がまぶたにまで及ぶと、まぶた全体が赤く腫れ上がったり、熱を持ったりすることがあります。

・光がまぶしい(羞明:しゅうめい)

目の表面の炎症や角膜に傷ができることで、光に対して過敏になり、まぶしく感じて目を開けていられないことがあります。

・かすみ目・視力低下

目の炎症が角膜(黒目)にまで及ぶと、一時的に目のかすみや視力低下を感じることがあります。特に、重症化すると角膜の表面に小さな白い濁り(角膜下上皮浸潤:SEIs)が残る可能性があり、これによって視力低下が数カ月にわたって長引くこともあります。このSEIsは、急性期の流行性角結膜炎の治療において、症状を緩和するための点眼薬(糖質コルチコステロイド眼科製剤、OPGs)の使用期間によってその発生率が異なると報告されています。※ 7日間程度の短期間の使用ではSEIsの発生率に大きな差はないものの、21日や28日といった一定期間使用することで、SEIsの発生を実質的に減らせる可能性があると考えられています。※

全身に現れる症状

流行性角結膜炎は、目に症状が現れるだけでなく、次のような全身症状を伴うことがあります。

・発熱

ウイルス感染に対する体の免疫反応として、微熱から高熱まで発熱する場合があります。特に、子どもでは比較的熱が出やすい傾向にあります。

・のどの痛み

アデノウイルスは、目の感染症だけでなく、のどにも炎症を引き起こすことがあります。そのため、風邪をひいたときのようなのどの違和感や痛みを感じる場合があります。

・リンパ節の腫れ

ウイルス感染と戦うリンパ節が活性化することで、耳の前後やあごの下にあるリンパ節が腫れて、触れると痛みを感じることがあります。これは、体がウイルスと戦っているサインです。

症状の経過

流行性角結膜炎の症状は、片目から始まり、その後数日でもう片方の目にも広がる傾向があります。症状が最も強く現れるのは発症から数日後で、その後は徐々に軽快していくことがほとんどです。

目の症状は、通常1〜3週間ほどで落ち着いてくることが一般的です。しかし、先に触れた角膜の白い濁り(角膜下上皮浸潤:SEIs)が残ってしまった場合は、目のかすみや視力低下が数カ月にわたって続くこともあります。症状が強く出ている、またはなかなか改善しないと感じる場合は、必ず眼科を受診し、適切な診断と治療を受けるようにしましょう。

流行性角結膜炎の検査・診断

流行性角結膜炎は、非常に感染力の高い目の病気です。そのため、迅速かつ正確な診断は、適切な治療を始めるだけでなく、ご家族や周囲への感染拡大を防ぐ上で極めて重要な役割を果たすと考えられます。※ 当院では、患者さんの症状や目の状態、さらにウイルス検査の結果を総合的に判断し、診断を確定しています。

流行性角結膜炎の診断は、主に次の3つのステップで進められます。

・問診

・目の診察

・ウイルス検査

問診

まず、患者さんご自身の状態について、詳しくお伺いします。

・いつから、どのような目の症状(充血、目やに、涙など)が現れているか

・症状の始まりは片目か両目か

・目の不快感や痛みがあるか

・ご家族や職場、学校など身近な人に、同じような目の症状がある人がいないか

これらの情報は、流行性角結膜炎が疑われる状況かどうかを判断する上で、大切な手がかりとなります。特に、身近な人との接触歴は感染経路を特定し、これ以上感染を広げないための対策を立てる上で欠かせません。

目の診察

問診で得られた情報をもとに、眼科医が実際に目の状態を詳しく調べます。ここでは、細隙灯顕微鏡(さいげきとうけんびきょう)と呼ばれる、目を拡大して観察できる顕微鏡のような専用の機器を使います。

この診察で、特に次の点を確認します。

・結膜(白目やまぶたの裏側)の充血や腫れ:

ウイルス感染に特徴的なブツブツ(濾胞:ろほう)が現れることもあります。

・角膜(黒目)の状態:

目の表面にある透明な膜である角膜に、傷や濁りがないかを確認します。進行すると、小さな白い濁り(角膜上皮浸潤:SEIs)が現れる可能性があります。

これらの目の変化は、流行性角結膜炎に特徴的な所見であり、診断の重要な根拠となります。

ウイルス検査

流行性角結膜炎はウイルスが原因となるため、目の分泌物から直接ウイルスを検出する検査を行います。

主に、次の2つの方法があります。

・迅速抗原検査:

・目の結膜を綿棒で軽く拭い、分泌物を採取します。

・その場でアデノウイルスの有無を調べる検査で、約5〜15分と短時間で結果が出ます。

・簡易的な検査ではありますが、陽性であれば、流行性角結膜炎である可能性が高いと判断できます。ただし、発症初期などウイルスの量が少ない場合は陰性となることもあります。

・ウイルス分離検査・PCR検査:

・より詳細な検査が必要な場合や、迅速検査で陰性でも症状から強く疑われる場合に、行われることがあります。

・採取した分泌物を専門の検査機関に送り、ウイルスの種類を特定したり、ウイルスの遺伝子を検出したりします。

・結果が出るまでに数日かかるものの、より正確な診断が可能です。

これらの検査結果と、問診、目の診察で得られた情報を総合的に判断し、最終的な診断を確定します。流行性角結膜炎と診断された場合は、感染拡大を防ぐための具体的な対策と、症状を和らげるための治療についてご説明いたします。

流行性角結膜炎の治療

流行性角結膜炎の治療は、現在のところウイルスそのものに直接作用する根本的な治療薬がまだ確立されていません。そのため、目のつらい症状を和らげながら、体自身の回復力で自然に治るのを待つ「対症療法」が中心となります。ウイルスの活動を抑えたり、別の細菌感染(二次感染)を防いだりするために、複数の点眼薬を使い分けます。

主な治療法は、以下の通りです。

1. 炎症を抑える点眼薬(ステロイド点眼薬)

炎症が強いときに、目の赤みや痛み、ゴロゴロとした異物感といった症状を和らげるために使用します。特に、糖質コルチコステロイド眼科製剤(OPGs)は、急性期の流行性角結膜炎において、症状を早く改善する効果が期待できるとされています※。

また、この病気でやっかいなのは、目の黒目に白い濁り(角膜下上皮浸潤、通称SEIs)が残ってしまうことがある点です。このSEIsは、視力低下の原因となる場合があります。OPGsは、このSEIsの発生を抑える効果も期待できますが、使用期間によってその効果が異なると報告されています※。具体的には、7日間程度の短期間の使用ではSEIsの発生率に大きな差は見られませんが、21日や28日といった一定期間使用することで、SEIsの発生を実質的に減らせる可能性が指摘されています※。

しかし、ステロイド点眼薬を長期間使用すると、目の内部の圧力(眼圧)が高まるリスクも伴います※。眼圧が高い状態が続くと、緑内障など他の目の病気につながる可能性もあるため、医師の指示に従って適切に使うことが重要です。自己判断で点眼を中止したり、逆に長く使い続けたりすることは避け、必ず医師の診察を受けてください。

急性期の激しい炎症が落ち着いた後も、黒目の濁り(SEIs)が残る「慢性期」では、ステロイド点眼薬は免疫抑制剤と比較して、濁りの完全な消失率や再発率に有意な差がないとされています※。加えて、眼圧上昇のリスクを考慮すると、慢性期ではステロイド点眼薬の使用は推奨されないことがあります※。

2. 細菌の二次感染を防ぐ点眼薬(抗菌点眼薬)

ウイルス感染によって目の抵抗力が一時的に落ちてしまうと、普段は悪さをしないような細菌に感染しやすくなります。これを「二次感染」と呼び、予防するために抗菌点眼薬を処方することがあります。

3. 目の乾燥を和らげる点眼薬(人工涙液)

炎症が起きている間は、目の表面が乾燥しやすく、不快感が増すことがあります。人工涙液で目を潤すことで、乾燥によるゴロゴロ感や異物感を和らげ、目の表面の状態を良くする効果が期待できます。

日常生活で気をつけること

流行性角結膜炎は非常に感染力が強いため、治療と並行して、周りの人への感染拡大を防ぐための対策は欠かせません。ご自身やご家族が感染した場合は、以下の点に注意しましょう。

・手洗いの徹底: 目を触った後はもちろん、外出先から帰宅した際など、こまめに石鹸で手を洗いましょう。

・目を触らない: 目が痒くても、できるだけ手で直接触らないようにしましょう。

・共有物の制限: タオル、寝具、目薬などを家族と共有するのは避けましょう。

・入浴の順番: 家族がいる場合は、最後に入浴するようにしましょう。

・登校・出勤の制限: 感染が広がる可能性があるため、医師から許可があるまで学校や職場への登校・出勤は控えてください。

症状は通常2〜3週間で落ち着くことが多いですが、黒目に濁りが残る場合は、さらに治療期間が長くなることもあります。医師の指示に従い、根気強く治療を続けることが大切です。