健康診断などで「腎臓から膀胱(ぼうこう)につながる尿管が2本ありますね」と、思いがけず告げられた経験はありませんか?これは「重複腎盂尿管」という、生まれつき尿の通り道が2本に分かれている状態で、尿路の形の異常のなかでは比較的よくみられる「体の個性」です。
ほとんどの場合、症状はなく治療も不要なため、生涯気づかずに過ごす方も少なくありません。しかし、なかには尿路感染症をくり返したり、腎臓の働きに影響が出たりと、思わぬ不調の原因となることもあります。「自分は大丈夫だろうか」と、少しでも不安を感じた方もいるのではないでしょうか。
この記事では、重複腎盂尿管の詳しい種類や原因、注意すべき症状、そして負担の少ない腹腔鏡手術などの最新の治療法までを分かりやすく解説します。ご自身の体の状態を正しく理解し、もしもの時に備えるための一助となれば幸いです。
重複腎盂尿管の概要
重複腎盂尿管(ちょうふくじんうにょうかん)とは、腎臓と膀胱(ぼうこう)をつなぐ尿の通り道「尿管」が、生まれつき2本に分かれている状態のことです。
私たちの体では通常、おしっこは左右1つずつの腎臓で作られ、それぞれ1本ずつの尿管を通って膀胱へと運ばれます。重複腎盂尿管は、この尿管が片側、あるいは両側で2本ある状態を指します。
これは、生まれつきの尿路の形の異常のなかでは、比較的よくみられるものです。ほとんどの場合、とくに症状はなく、生涯治療の必要がないことも少なくありません。
この状態は、2本の尿管が膀胱にどうつながるかによって、2つのタイプに分けられます。
|
タイプ
|
特徴
|
|
完全型
|
2本の尿管が、それぞれ別々のまま膀胱につながっている状態
|
|
不完全型
|
2本の尿管が、膀胱にたどり着く前に合流して1本になる状態
|
多くは無症状ですが、尿の流れに問題が生じて尿路感染症をくり返したり、腎臓の働きに影響が出たりした場合は治療が必要です。その際には、2本の尿管を1本につなぐ手術(尿管尿管吻合術)など、患者さんの状態に合わせた様々な手術の方法が検討されます。
重複腎盂尿管の種類
重複腎盂尿管は、尿管のつながり方によって、大きく2つのタイプに分けられます。
それは「完全重複腎盂尿管(完全型)」と「不完全重複腎盂尿管(不完全型)」です。それぞれの特徴を詳しくみていきましょう。
完全重複腎盂尿管(完全型)
腎臓から伸びる2本の尿管が、途中で合流することなく、それぞれ別々に膀胱までつながっている状態です。
完全型の場合、腎臓の上側から出る尿管と下側から出る尿管が途中で交差することがあります。そして、本来とは少しずれた場所に膀胱の出口が開くという特徴があります。
不完全重複腎盂尿管(不完全型)
腎臓から出た2本の尿管が、膀胱にたどり着く前のどこかで合流し、1本になって膀胱へつながる状態です。尿管がアルファベットの「Y」の字のように見えることから、「Y字管」とも呼ばれます。
|
種類
|
尿管のつながり方
|
|
完全型
|
腎臓から出た2本の尿管が、それぞれ別々に膀胱までつながる
|
|
不完全型
|
2本の尿管が、途中で合流して1本になり膀胱へつながる
|
ほとんどの場合、どちらのタイプでも症状はなく、治療の必要もありません。しかし、尿の流れに問題が生じて治療が必要になった場合、この違いがとても重要になります。
例えば、尿の流れを良くするために、2本の尿管を1本につなぎ合わせる手術(尿管尿管吻合術:にょうかんにょうかんふんごうじゅつ)などがあります。この手術には様々な方法があり、どちらのタイプかによって最適な手術の方法も変わってきます。ご自身の状態を正確に把握することが、適切な治療への第一歩となるのです。
重複腎盂尿管の原因
重複腎盂尿管は、生まれつきの状態です。 お母さんのお腹の中で、赤ちゃんの体が作られる過程で起こる、体の個性と考えるとよいでしょう。
では、なぜ腎臓から膀胱へのおしっこの通り道が、2本できるのでしょうか。 それは、体が作られる最初の段階に理由があります。
おしっこの通り道である「尿管」は、「尿管芽(にょうかんが)」という芽のようなものから作られます。 通常、この芽は左右に1つずつできますが、この尿管芽のでき方の違いが、重複腎盂尿管の原因となります。
|
タイプの違い
|
尿管芽(にょうかんが)のでき方
|
|
完全型になる場合
|
最初から尿管の芽が、片側に2つできてしまうことで起こります
|
|
不完全型になる場合
|
1つの尿管の芽が、伸びる途中で枝分かれすることで起こります
|
このように、尿管の「もと」がどう作られるかで、重複腎盂尿管のタイプが決まるのです。 なぜこのような違いが起こるのか、はっきりとした原因はまだわかっていません。 体の設計図である遺伝子の情報などが、関係していると考えられています。
ほとんどの場合は治療の必要がありません。 しかし、尿の流れに問題が起きた際には、手術が検討されることもあります。 その際、2本の尿管を1本につなぐ手術(尿管尿管吻合術)など、様々な方法の中から、専門の医師がその方に合った最適な治療法を慎重に選びます。
重複腎盂尿管の症状
重複腎盂尿管は、尿の通り道が生まれつき2本あるという体の個性です。 この形自体が、何か症状を引き起こすことはほとんどありません。 そのため、多くの方は症状がなく、健康診断などで偶然見つかります。
しかし、尿の流れに影響をおよぼす合併症が起こると、体からのサインとして次のような症状が現れることがあります。
くり返す尿路感染症
発熱や排尿時の痛みをともなう尿路感染症をくり返すことがあります。 これは、膀胱にたまった尿が腎臓へ逆流する「膀胱尿管逆流症」が原因で起こりやすい症状です。 尿が逆流すると、細菌が腎臓に届きやすくなり、感染をくり返してしまいます。
尿路感染症を放置すると、長期的に腎臓の機能に影響を与える可能性があるため、注意が必要です。
尿もれ
女の子の場合、重複した尿管の出口が膀胱ではなく、膣(ちつ)などにつながってしまうことがあります。 これを「異所性尿管(いしょせいにょうかん)」と呼びます。 この場合、トイレでおしっこをするのとは関係なく、常に下着が濡れているといった尿もれの症状がみられます。
おなかの痛みや張り
尿管の出口が狭くなり、風船のようにふくらむ「尿管瘤(にょうかんりゅう)」という合併症が起こることがあります。 尿管瘤ができると尿の流れが妨げられ、腎臓に尿がたまって腫れてしまう「水腎症(すいじんしょう)」を引き起こします。 これにより、おなかの痛みや張りを感じることがあります。
このような合併症を診断する際には、超音波検査がとても役立ちます。 超音波検査では、尿管瘤と似た状態を正確に見分けるために、膀胱の筋肉の層の位置などを詳しく観察することが重要です。
重複腎盂尿管の検査・診断
重複腎盂尿管は、多くの場合、体に症状が出ない体の個性です。 そのため、他の病気の検査や健康診断で偶然見つかることがほとんどです。
しかし、熱をともなう尿路の感染症をくり返したり、お腹が痛かったりする場合は、その原因を詳しく調べるために検査を行います。 検査では、尿の通り道である腎臓や尿管、膀胱の状態を画像で確認します。 主に、次のような検査を組み合わせて診断を進めていきます。
超音波(エコー)検査
体への負担がとても少ないため、まず初めに行われることが多い検査です。 腎臓の形や大きさ、尿の流れが滞って腎臓が腫れる「水腎症」がないかを確認します。
特にお子さんの場合、尿管が膀胱につながる部分が風船のようにふくらむことがあります。 このふくらみが「尿管瘤(にょうかんりゅう)」なのか、それとよく似た別のものなのかを正確に見分けることが大切です。 最近の研究では、超音波でふくらみを覆う筋肉の層や、ふくらみの中にある「切れ込み(ノッチ)」という印の有無を詳しく観察することが、正確な診断に役立つとわかっています。
造影剤を使ったレントゲン検査
「造影剤」というお薬を使い、尿の流れをよりはっきりと画像に映し出します。 これには2つの方法があります。
- 経静脈性腎盂造影(けいじょうみゃくせいじんうぞうえい) 腕の血管から造影剤を注射し、それが尿として排出される様子を撮影します。
- 排尿時膀胱尿道造影(はいにょうじぼうこうにょうどうぞうえい) 尿道から細い管を入れ、膀胱に造影剤を注入します。 おしっこをする時の様子を撮影し、膀胱から尿管へ尿が逆流していないかを調べます。
CT検査・MRI検査
体の断面を撮影し、腎臓や尿管の立体的な構造を詳しく確認する検査です。 周りの臓器との位置関係もわかるため、手術が必要になった場合などに重要な情報となります。 これらの検査結果を総合的に判断し、一人ひとりの状態に合わせた治療方針を決定します。
重複腎盂尿管の治療
重複腎盂尿管は体の個性なので、症状がなければ治療の必要はありません。 しかし、合併症が起きた場合は、大切な腎臓を守るために治療が必要です。
治療が必要になるのは、主に次のような場合です。
- 尿路感染症をくり返す 高熱が出たり、おしっこの時に痛んだりします。
- 水腎症(すいじんしょう) 尿の流れが悪くなり、腎臓に尿がたまって腫れてしまいます。
- 膀胱尿管逆流症(ぼうこうにょうかんぎゃくりゅうしょう) 膀胱にたまったおしっこが、腎臓へ逆流してしまいます。
これらの状態を放置すると、腎臓の働きが弱まることがあるため、手術による治療を検討します。 手術の目的は、尿の流れをスムーズにして、腎臓の機能を守ることです。
手術には、お腹を直接切って行う「開腹手術」と、体に負担の少ない「腹腔鏡下手術」があります。 近年では、腹腔鏡下手術が選ばれることが増えています。
|
手術方法
|
特徴
|
|
開腹手術
|
従来から行われている、お腹を直接切開する方法です。
|
|
腹腔鏡下手術
|
・お腹に数カ所の小さな穴を開け、カメラを使いながら行う方法です。
・傷が小さく、術後の痛みが少ない傾向にあります。
|
最近の複数の研究をまとめた分析では、腹腔鏡下手術は開腹手術に比べて、手術後の合併症が少なく、入院期間も短い傾向があると報告されています。
さらに、手術後の回復をより早めるための「早期回復プログラム(ERAS)」という取り組みもあります。 これは、手術後の食事の開始時期や痛みの管理などを工夫する方法です。 ある研究では、このプログラムを行うことで入院期間が短くなり、合併症の発生率も低くなったと報告されています。
どの治療法が最適かは、一人ひとりの状態によって異なります。 まずは専門の医師に相談し、自分に合った治療法を見つけることが大切です。