ドラベ症候群
お子さんの突然のけいれん発作は、親御さんにとって計り知れない不安をもたらすことでしょう。特に、生後1歳未満の赤ちゃんに繰り返し発作が見られる場合、「ドラベ症候群」という国の指定難病である可能性を考える必要があります。
この病気は、単なる熱性けいれんとは異なり、熱がない時にも発作が起きたり、多様な種類の発作が長く続くことが特徴です。多くの場合、脳の機能に必要な「SCN1A」遺伝子の変化が原因で発症し、言葉や運動、認知機能の発達にも影響を及ぼすことがあります。
この記事では、ドラベ症候群の具体的な症状や原因、診断、そして早期からの適切な治療法について詳しく解説します。お子さんの健やかな成長のために、この病気への理解を深め、最適なサポートを見つける手助けとなれば幸いです。
ドラベ症候群の概要
ドラベ症候群は、赤ちゃんの頃から繰り返し発作を起こしてしまう、てんかんという病気の一つです。多くのお子さんが、生後1歳になる前、特に熱を出した時にけいれんのような発作を起こすことで気づかれることが多いでしょう。
しかし、この病気の特徴は、単なる熱性けいれんとは少し違う点にあります。熱がない時にも発作が起きたり、発作の種類がとても多く、一度の発作が長く続いたり、時にはなかなか止まらなかったりすることもあるのです。
このような特別な発作が何度も繰り返されると、お子さんの成長に影響を与えることがあります。例えば、言葉を覚えるのがゆっくりになったり、体を動かす発達に遅れが見られたり、物事を考えたり覚えたりする力(認知機能)にも影響が出ることが考えられます。
ドラベ症候群は、日本では「国の指定難病」の一つとされています。これは、患者さんの数が少なく、病気の症状が重く、長い期間にわたって治療が必要になる可能性があるためです。この病気のほとんどは、遺伝子(体の設計図のようなもの)の変化が原因で起こることがわかっています。特に「SCN1A」という遺伝子に異常が見つかることが多いのです。
もし、お子さんにこのような発作や成長の遅れが見られた場合には、私たち医師としては、できるだけ早く専門の医療機関を受診していただくことが何よりも大切だと考えています。正確な診断を受けることで、お子さんに合った治療や支援を早く始めることができ、ご家族の不安を少しでも和らげることができるはずです。病気のことを正しく理解し、適切なサポートを受けることが、お子さんが安心して過ごし、より良い生活を送るための第一歩となるでしょう。
ドラベ症候群の種類
ドラベ症候群は、お子さんの体が「設計図」として持っている遺伝子に、生まれつき違いがあることで起こる病気です。この遺伝子の違いは、脳の神経細胞が正常に働くことを難しくしてしまいます。
私たち医師は、どのお子さんのドラベ症候群も同じではなく、その「設計図」のどこに違いがあるかによって、病気の様子が少しずつ異なることを知っています。
主な原因となる遺伝子:SCN1A
ドラベ症候群と診断されるお子さんの約8割から9割は、「SCN1A(エスシーエヌワンエー)」という名前の遺伝子に変化が見つかります。このSCN1A遺伝子は、脳の神経細胞が情報をやり取りするために必要な「ナトリウムチャネル」という、小さなドアのような部品を作る大切な役割を担っています。
もし、このSCN1A遺伝子に変化があると、ナトリウムチャネルというドアがうまく開いたり閉じたりできなくなります。その結果、脳の神経活動に乱れが生じ、てんかんの発作が起きやすくなってしまうのです。
その他の原因となる遺伝子
一方で、ドラベ症候群のお子さんのなかには、ごくまれにSCN1A遺伝子以外にも、いくつかの別の遺伝子に変化が見つかることもあります。
- SCN1A以外の遺伝子も原因に
- PCDH19、GABRG2、SCN2A、SCN8Aなどが挙げられます。
- これらの遺伝子も脳の神経細胞の働きに関わっています。
このように、どのお子さんの体にどの遺伝子の変化があるかによって、発作の現れ方や、治療に使うお薬がどれくらい効くかなど、病気の様子が一人ひとり少しずつ違ってきます。
私たち医療者は、お子さんの遺伝子の変化を詳しく調べることで、その子に合った治療法や、今後の見通しをより正確に判断することができると考えています。遺伝子検査は、お子さんにとって最適な治療計画を立てるための大切な手がかりとなりますので、専門の医師とよく相談することをおすすめします。
ドラベ症候群の原因
お子さんがなぜドラベ症候群という病気になるのか、多くのご家族がその理由を知りたいと願うことでしょう。私たち医師は、この病気の原因が、お子さんの体の「設計図」にごく小さな「違い」が生まれつきあることで起こると考えています。この設計図は「遺伝子」と呼ばれ、体のあらゆる機能を作るための情報を持っています。
特に重要な役割を果たすのが、「SCN1A(エスシーエヌワンエー)遺伝子」です。この遺伝子は、脳の神経細胞が情報をやり取りする際に使う「電気信号」の流れを調整する大切な部品を作る指示を出しています。この部品は、「ナトリウムチャネル」という小さなドアのようなものだとイメージしてください。
正常な状態では、このナトリウムチャネルというドアは、必要な時にだけ開いたり閉じたりして、脳の電気信号がスムーズに流れるように働きます。しかし、SCN1A遺伝子に変化があると、このドアがうまく機能しなくなってしまうのです。ドアが開きっぱなしになったり、逆に閉じっぱなしになったりすることで、脳の電気信号が過剰になったり、乱れてしまったりします。その結果、脳の神経細胞が異常に興奮しやすくなり、発作が起きてしまうと考えられています。
「遺伝子の病気」と聞くと、ご両親から遺伝したのではないかと心配される方もいらっしゃるでしょう。しかし、ドラベ症候群の場合、多くのお子さんで、ご両親には同じ遺伝子の変化が見られない「新規変異」によるものとされています。これは、お子さんが生まれてくるごく初期の段階で、たまたまその遺伝子に変化が起こってしまったということを意味します。このため、私たちはご両親の責任ではないことを明確にお伝えしたいと考えています。
ごくまれに、ご両親のどちらかから遺伝子の変化を受け継ぐケースもあります。また、SCN1A遺伝子以外の特定の遺伝子に変化が見つかることもありますが、これは非常に少ないケースです。原因となる遺伝子を正確に特定することは、お子さんの病気を深く理解し、一人ひとりに合った治療法や今後の見通しを立てる上で非常に大切な情報となります。
ドラベ症候群の症状
ドラベ症候群は、赤ちゃんの頃から様々な「てんかん発作」を繰り返す病気です。私たち医師が診る中で、多くのお子さんが生後1年未満、特に生後6ヶ月頃に初めての発作で気づかれることが多くあります。
最初は熱が出た時にけいれんを起こす、いわゆる「熱性けいれん」のように見えるかもしれません。しかし、ドラベ症候群の発作は、一般的な熱性けいれんとは少し違います。
- 熱がなくても発作が起きる
- お風呂で体温が上がった時も発作が起きる
- 予防接種後や、光がチカチカする刺激で発作が誘発されることもある
このような特徴が見られます。発作の種類も時間とともに変わることがあり、年齢が上がるにつれてより多様な症状として現れてくることがあります。
ドラベ症候群で特に注意が必要な発作は次の通りです。
- 全身性けいれん発作
- 体全体が硬くなり、ガクガクと震えるような発作です。
- 一度始まると長く続き、なかなか止まらないこともあります。
- 部分発作
- 体の一部だけがピクピクとけいれんしたりします。
- 一瞬ぼーっとする、一点を見つめるなど、意識がはっきりしないこともあります。
- ミオクロニー発作
- 一瞬だけ、腕や足がピクッと素早く動く発作です。
- お子さんの動きが止まることもあります。
このような発作が何度も繰り返されると、お子さんの成長に様々な影響が出ることがあります。例えば、言葉を覚えたり話したりするのがゆっくりになったり、手足の動きがぎこちなくなったりすることがあります。
さらに、発作以外の症状として、落ち着きがない、集中力が続かないといった行動の問題が見られることも少なくありません。夜によく眠れない、不眠の症状を抱えるお子さんもいらっしゃいます。これらの症状は、一人ひとりのお子さんによって現れ方が異なりますので、気になる症状があれば専門医にご相談ください。
ドラベ症候群の検査・診断
お子さんの発作は、親御さんにとって非常に心配なことです。私たち医師は、その不安を少しでも早く解消し、お子さんに合った道を一緒に見つけたいと心から願っています。ドラベ症候群であるかどうかを診断するためには、まず親御さんからの詳しいお話を聞くことから始まります。
私たち医師が知りたいのは、お子さんの発作がどのような状況で、どんな様子で起きたかという情報です。
- 発作が起きたきっかけ
- 熱がある時でしたか、それとも熱がない時でしたか。
- お風呂で体温が上がった時に起こりましたか。
- 予防接種の後や、光の刺激など、何か特別なことがありましたか。
- 発作の具体的な様子
- 体全体が硬くなり、ガクガクと震えましたか。
- 体の一部だけがピクピクと動きましたか。
- 一瞬ぼーっとするような発作でしたか。
- 発作の時間や頻度
- 発作はどのくらいの時間続きましたか。
- 短い時間で終わりましたか、それとも長く続きましたか。
- これまでに何度も発作を繰り返していますか。
もし、ご家庭で発作の様子を動画に記録されている場合は、診断の手がかりになる大切な情報です。普段とは違うと感じたお子さんの様子を、私たちに詳しく教えてください。
詳しくお話を聞いた後、さらに確かな診断のために、いくつかの専門的な検査を行います。これらの検査は、お子さんの脳の中の状態を、それぞれの方法で詳しく見ていくイメージです。
- 脳波検査(のうはけんさ)
- 頭に小さな電極をつけて、脳から出ているわずかな電気の波を記録する検査です。
- てんかんに特有の異常な電気の波形がないかを確認します。
- 目には見えない脳の活動を、グラフのように記録して確認するのです。
- 画像検査(がぞうけんさ)
- MRI(エムアールアイ)という特別な機械を使って、脳の形を写真のように詳しく見ていきます。
- 脳の形に生まれつきの違いがないか、あるいは他の病気が隠れていないかを調べます。
- ドラベ症候群とよく似た症状を起こす、別の病気ではないことを確認するためにも大切な検査です。
- 遺伝子検査(いでんしけんさ)
- お子さんの体の設計図である「遺伝子」を詳しく調べる検査です。
- ドラベ症候群のお子さんの多くに、「SCN1A(エスシーエヌワンエー)」という遺伝子の変化が見つかります。
- この遺伝子の変化が確認されると、ドラベ症候群であると確定診断するための、とても重要な情報になります。
これらの診察や検査の結果をすべて合わせて、私たち専門医が最終的な診断を下します。早期に正確な診断を受けることは、お子さんにぴったりの治療を始める上で、非常に大切な第一歩です。ご家族の不安を和らげ、お子さんがより良い毎日を送れるように、一緒に考えていきましょう。
ドラベ症候群の治療
ドラベ症候群のお子さんの治療には、大きく2つの大切な目標があります。一つは、繰り返し起こるてんかん発作をできる限り抑えることです。もう一つは、発作以外の様々な症状に対して、お子さんの成長をしっかりと支えることです。この病気は、とても小さい頃から発作が始まることが多いため、私たちは、できるだけ早く専門の先生と一緒に治療を始めることが最も重要だと考えています。適切な治療を続けることで、お子さんの発作が安定し、より良い毎日を送ることにつながります。
発作を抑えるためには、主に「抗てんかん薬」というお薬を使います。ドラベ症候群では、一般的に使われるてんかんのお薬の中には、残念ながら発作を悪化させてしまうものもあります。そのため、私たちは、経験豊富な専門医が、お子さん一人ひとりの状態に合わせて、慎重に薬を選びます。例えば、ストリペントール、フェンフルラミン、カンナビジオールといったお薬は、ドラベ症候群の発作を減らす効果が期待されています。多くの場合、一つの薬だけでなく、複数のお薬を組み合わせて使う「多剤併用療法」を行うことで、より効果的に発作を抑えることを目指します。お薬の量は、お子さんの年齢や体重、発作の様子を細かく見ながら、きめ細かく調整していきます。
ご家庭での生活の中でも、発作を起こしやすくする「きっかけ」(誘因)を知り、それらを避ける工夫がとても大切です。
- 発熱
- 体温が上がりすぎないように注意しましょう。
- 暑いお風呂
- 入浴時は湯の温度や時間に気を配ることが必要です。
- 強い光の刺激
- テレビやゲームの画面を見る際は、休憩を挟むなどの配慮が必要です。
- 興奮しすぎること
- 遊びや活動のペースにも注意し、落ち着いた環境を保ちましょう。
これらが発作につながることがあるため、私たちは、日頃からお子さんの様子をよく観察し、注意して生活を送っていただくようお願いしています。
さらに、ドラベ症候群は、てんかん発作だけでなく、言葉を覚えるのがゆっくりだったり、手足の動きがぎこちなかったり、集中しにくいなど、様々な症状を伴うことがあります。そのため、体や言葉の発達を助ける「リハビリテーション」や、学校生活を支える「教育面でのサポート」も非常に重要です。
- 理学療法
- 体を動かす練習を通して、運動機能の発達を促します。
- 作業療法
- 日常生活に必要な動作や、手先の器用さを高める練習をします。
- 言語療法
- 言葉の発達や、人とのコミュニケーション能力を高めるサポートを行います。
これらのサポートを、専門の先生や学校の先生と協力しながら継続して受けることで、お子さん一人ひとりが持っている可能性を引き出し、より豊かな生活を送れるように支えていきます。ご家族の皆様も、もし不安なことがあれば、地域の医療機関や支援団体に積極的に相談してください。私たちは、ご家族の皆様が安心して治療に臨み、お子さんの成長を見守ることができるよう、精一杯サポートさせていただきます。













