自分が自分でないような、まるで外から自分を眺めている感覚。あるいは、特定の期間の記憶がすっぽりと抜け落ちてしまう。もし、このような不思議な感覚に心当たりがあるなら、それはあなたの心が、つらい体験から自分自身を守るために起こしている「防衛反応」なのかもしれません。
この状態は「解離性障害」と呼ばれ、意識や記憶を一時的に切り離してしまう心の仕組みです。実は、強迫性障害を持つ人の約8%が併発するという研究報告もあり、他の心の不調と深く関わっていることも少なくありません。
この記事では、解離性障害の多様な症状やその原因、そして回復への道を詳しく解説します。ご自身の状態を正しく理解し、適切な一歩を踏み出すために、ぜひ読み進めてみてください。
解離性障害の概要
解離性障害は、つらい出来事や強いストレスから 自分を守るための、こころの防衛反応の一種です。 こころが自分を守ろうとして、記憶や意識、 自分であるという感覚を一時的に切り離してしまうのです。
症状のあらわれ方は人によって本当にさまざまです。 主に、以下のような状態がみられます。
- 健忘 特定の期間の記憶がすっぽりと抜け落ちてしまいます。
- 離人感 自分が自分でないような、まるで外から自分を眺めている感覚です。
- 現実感の喪失 周りの世界が現実ではないように、ぼんやりと感じられます。
- 同一性の混乱 自分が誰なのかわからなくなったり、 自分の中に別の誰かがいるように感じたりします。
また、解離性障害は他のこころの不調を伴うことも少なくありません。 特に感情のコントロールが難しくなるパーソナリティ障害と 深く関連することが研究で報告されています。 これは、感情のブレーキが効きにくくなる状態と考えると わかりやすいかもしれません。 そのため、ご自身の状態を正確に理解し、 適切な治療につなげることがとても大切です。 これらの症状は日常生活に支障をきたすことがありますが、 専門家による適切な治療やサポートによって、 症状を和らげていくことが可能です。
解離性障害の種類
解離性障害と一言でいっても、症状のあらわれ方はさまざまです。 国際的な診断基準をもとに、いくつかの種類に分けられています。 ご自身の状態を正しく知るため、代表的な種類を見ていきましょう。
|
種類
|
主な特徴
|
|
解離性健忘(かいりせいけんぼう)
|
特定のつらい出来事に関する記憶など、自分自身の重要な記憶を思い出せなくなります。日常生活に必要な知識や技能は保たれていることが多いです。
|
|
解離性同一性障害(かいりせいどういつせいしょうがい)
|
自分の中に複数の人格がいるように感じられ、記憶が途切れたり、言動や態度が別人のように変わったりします。
|
|
離人感・現実感消失障害(りじんかん・げんじつかんしょうしつしょうがい)
|
自分の心や体から離れて、自分を外から眺めているように感じたり(離人感)、周りの世界が非現実的に感じられたりします(現実感消失感)。この症状に対する治療法は、まだ研究が進められている段階です。
|
|
その他の特定される解離性障害
|
上記のどれにもはっきりと当てはまらないものの、解離の症状によって日常生活に支障が出ている状態です。
|
これらの症状は、他のこころの不調と一緒にあらわれることもあります。 例えば、強迫性障害(OCD)を持つ人にも、 解離症状が見られることが研究で報告されています。
また、強いストレス体験の後に起こるPTSDを抱えている場合、 解離の症状に合わせた治療が大切になることがあります。 さらに、てんかん発作ではないのに体がけいれんする「機能性発作」も、 解離の一種として理解されることがあります。
このように症状は非常に多様で、他の病気と重なることもあります。 そのため、専門家による適切な診断が回復への第一歩となります。
解離性障害の原因
解離性障害がなぜ起こるのか、その原因は一つではありません。 いくつかの要因が複雑に絡み合って発症すると考えられています。 こころが自分を守るための、いわば緊急避難のような状態です。
主な原因として、以下の3つが挙げられます。
- こころの大きな傷 (心的外傷)
- 他のこころの不調との関連
- その人がもつ性質 (素質)
最も大きな要因は、こころに深い傷を残すようなつらい体験です。 具体的には、次のような体験が挙げられます。
- 子どもの頃の虐待や育児放棄(ネグレクト)
- 学校などでのいじめ
- 災害、事故、事件の体験や目撃
これらの体験は、心的外傷後ストレス障害(PTSD)を 引き起こすこともあります。特に解離の症状を伴うPTSDでは、 その症状自体を和らげる介入が大切になるとされています。
また、他のこころの不調との関連も指摘されています。 特に「強迫性障害(OCD)」を持つ人は、そうでない人と比べて 解離症状を経験しやすいことが研究でわかっています。 ある研究では、強迫性障害の人の約8%が 解離性障害を併発していたと報告されています。
これらに加え、その人がもともと持っている性質も影響します。 例えば、感受性が豊かであったり、幼い頃に安心できるはずの 親との関係が不安定だったりすることも、 つらい現実からこころを切り離しやすくする一因となります。 これらの要因が重なったとき、自分を守るために 「解離」という反応が起こるのです。
解離性障害の症状
解離性障害の症状は、単なる「物忘れ」とは異なります。 つらい体験から自分を守るための、こころの反応なのです。 自分と周りの世界とのつながりが薄れてしまうような、 さまざまなつらい感覚として現れます。
具体的には、以下のような症状が中心となります。 ご自身の状態を振り返る際の参考にしてください。
- 記憶がなくなる(健忘) つらい出来事や、ある一定の期間の記憶が すっぽりと抜け落ちてしまいます。
- 自分が自分ではない感じがする(離人感) 自分の感情や感覚がどこか他人事のように感じられ、 まるで自分を外から操作しているような感覚です。
- 周りの世界が現実ではない感じがする(現実感喪失感) 自分の周りの世界に一枚ベールがかかったように、 ぼんやりと感じられ、現実味がなくなります。
- 自分が誰だかわからなくなる(同一性の混乱・変容) 自分がどんな人間で、何をしたいのかがわからなくなり、 自分の中に別の誰かがいるように感じることもあります。
また、解離の症状は他のこころの不調と関連することがあります。 例えば「強迫症状」をあわせ持つことも少なくありません。 これは、特定の考えが頭から離れなかったり、 同じ行動を何度も繰り返したりする状態です。
ある研究では、強迫性障害を持つ方の約8%に 解離性障害が見られたという報告もあります。 これらの症状は生活に大きな支障をきたす可能性があります。 一人で抱え込まず、専門家に相談することが大切です。
解離性障害の検査・診断
解離性障害の診断は、血液検査や脳の画像検査のように、 機械ではっきりとわかるものではありません。 そのため、ご本人のつらさや、困っていることを 専門家である医師が丁寧にお伺いすることが出発点です。
診断は主に、以下の3つの段階を踏んで慎重に進められます。
- 詳しいお話合い(問診) 医師がご本人の症状や生活の様子を詳しくお聞きします。 このお話合いは、診断において最も大切な部分です。 国際的な診断基準(DSM-5など)を参考にしながら、 次のようなことを具体的にお伺いしていきます。
- いつから症状が始まりましたか
- 特定の期間の記憶が抜けてしまうことはありますか
- 自分が自分でないような、夢の中にいるような感覚はありますか
- 症状のきっかけになった、つらい出来事はありますか
- こころの状態を知る検査(心理検査) 診断の助けとするために、質問に答えていただく 心理検査(スクリーニングテスト)を行うことがあります。 この検査により、解離の症状がどの程度あるのかを 客観的な視点から評価しやすくなります。
- 他の病気との見分け(鑑別診断) 解離の症状は、他のさまざまな心の不調でも見られます。 ある研究では、多くの精神疾患で解離症状が認められ、 生活に大きな支障をきたす可能性が指摘されています。 そのため、他の病気ではないか丁寧に見分けることが重要です。
特に、強迫性障害(OCD)との関連が注目されています。 海外の研究では、強迫性障害の患者さんの約8%に 解離性障害が見られたという報告もあります。
その他、PTSDやうつ病、てんかん、脳の病気など、 身体的な原因がないかも慎重に調べていきます。 これらの情報を総合的に判断し、診断に至ります。
解離性障害の治療
解離性障害の治療は、まず安心できる環境を整えることから始まります。 専門家との信頼関係を土台に、治療を進めていくことが大切です。 つらい体験から自分を守るために切り離されてしまったこころを、 もう一度丁寧につなぎ合わせる、根気のいる作業になります。
治療の中心となるのは、カウンセリングなどの心理療法です。 つらい体験によってバラバラになった心や記憶、感覚を、 時間をかけてゆっくりとつなぎ合わせていくことを目指します。
- 認知行動療法(CBT) 物事の受け取り方や考え方のクセを見直し、 より楽な心の状態を目指します。
- 弁証法的行動療法(DBT) 感情のコントロールが難しい場合に、 そのスキルを身につける手助けをします。 ある研究では、この治療法が特に有効な可能性も示されています。
- トラウマ焦点化療法 安全が確保された環境で、原因となったつらい体験を 専門家と一緒に扱っていきます。
様々な心理療法が解離症状を和らげることが報告されています。 しかし、どの治療法が特に優れているかについての結論は出ていません。 そのため、解離の症状そのものに焦点を当てて 治療を進めることが大切だと考えられています。
心理療法を支えるために、薬物療法が行われることもあります。 解離性障害そのものを直接治す薬はありませんが、 併発しやすい症状を和らげるために使われます。
- 強い不安や気分の落ち込み
- 不眠
- 感情のコントロールが難しい状態
これらの症状を和らげることで、安心して心理療法に取り組めます。 特に離人感・現実感消失症などに対する治療法の研究は、 まだ十分とは言えないのが現状です。 治療には時間がかかりますが、専門家とよく相談しながら、 焦らずに取り組むことが回復への大切な一歩となります。