交通性水頭症
ご家族の「歩き方がおかしい」「物忘れがひどい」といった変化を、単に「歳のせい」だと思っていませんか。実はその歩行障害や認知機能の低下、そして尿失禁といった症状は、「交通性水頭症」という病気が原因かもしれません。
この病気は、脳を守る「脳脊髄液」が脳内に溜まりすぎることで脳を圧迫し、様々な機能障害を引き起こします。くも膜下出血を経験した方の約3割が発症するとも言われ、適切な治療で改善が見込めるにもかかわらず、見過ごされがちなのが現状です。
この記事では、交通性水頭症の詳しい原因や症状、そしてシャント手術などの治療法について解説します。諦めていた症状が改善するかもしれません。ご自身や大切なご家族のために、まずは病気への理解を深めていきましょう。
交通性水頭症の概要
私たちの脳は、とてもデリケートな臓器です。 そのため「脳脊髄液」という液体の中に浮かび、守られています。
この脳脊髄液は、脳にとって重要な役割を担っています。
- 脳の保護 頭をぶつけた時などの衝撃を和らげるクッションになります。
- 栄養供給と老廃物の除去 脳に栄養を届け、不要になったものを運び出す働きをします。
健康な状態では、脳脊髄液は常に新しく作られています。 1日に約500mlも作られ、古いものは血液中に吸収されます。 このおかげで、全体の量(大人で約150ml)は一定です。
しかし、この吸収の仕組みに問題が起こることがあります。 すると、脳脊髄液が脳の中にたまりすぎてしまうのです。 これが「交通性水頭症」と呼ばれる病気です。
過剰にたまった液体は、脳の中にある「脳室」を広げます。 その結果、脳が内側から圧迫されてしまうのです。
この病気はご高齢の方に多いですが、お子さんにも起こります。 ある海外の調査では、お子さんの水頭症の原因として、生まれつきのもの(48.6%)や感染症にかかった後(41.0%)が多いと報告されています。 また、最も一般的な症状として、頭が大きくなることが挙げられています。
交通性水頭症の種類
水頭症は、脳脊髄液の問題がどこで起きているかによって、 大きく2つのタイプに分けられます。 原因を正確に探り、適切な治療法を選ぶための大切な分類です。
まずは、脳脊髄液の「通り道」がスムーズに流れているかで区別します。
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種類 |
脳脊髄液の流れ |
特徴 |
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交通性水頭症 |
通り道(交通)は保たれている |
作られた脳脊髄液がうまく吸収されない状態です。主に大人の方に見られます。 |
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非交通性水頭症 |
通り道がふさがっている |
脳腫瘍などで物理的に流れがせき止められている状態です。 |
お子さんの水頭症では、この「非交通性水頭症」が多くを占めます。 アフリカで12,355人ものお子さんを対象に行われた調査があります。 その報告では、水頭症の原因として生まれつきのもの(48.6%)や、 感染症にかかった後(41.0%)が大部分を占めていました。 このように、何かが通り道をふさいでしまうケースが多いのです。
一方、この記事で扱う「交通性水頭症」は、 原因がはっきりしているか否かで、さらに2種類に分けられます。
- 続発性(ぞくはつせい)正常圧水頭症 「続いて発症する」という意味を持つ、原因が明らかなタイプです。 くも膜下出血や頭のけが、髄膜炎といった病気の後に起こります。
- 特発性(とくはつせい)正常圧水頭症 「特に原因がない」という意味で、検査をしても原因が見つからないタイプです。 ご高齢の方に多く、年齢による体の変化などが関係すると考えられています。
この分類を理解することは、ご自身やご家族の状態を知る第一歩です。
交通性水頭症の原因
交通性水頭症は、脳脊髄液がうまく吸収されないことが原因です。 原因がはっきりしている場合と、そうでない場合があります。 それぞれについて、詳しく見ていきましょう。
原因がはっきりしているタイプ(続発性)
他の病気や頭のケガがきっかけで起こる水頭症です。 脳脊髄液を吸収する部分が、ダメージを受けてしまうのです。
- くも膜下出血 脳の血管が破れて出血する病気です。 出血が原因で、脳脊髄液の吸収口が詰まってしまいます。 くも膜下出血の後、1〜2ヶ月で約3割の方が発症します。
- 頭のケガ 事故などで頭を強く打った場合も、出血などを起こし、 脳脊髄液が吸収されにくくなることがあります。
- 髄膜炎(ずいまくえん) 脳を守る「髄膜」という膜が、ウイルスや細菌に感染する病気です。 炎症によって、脳脊髄液の吸収機能が低下します。
また、お子さんの水頭症の原因は、少し特徴が異なります。 アフリカで12,000人以上のお子さんを対象にした調査があります。 その報告によると、生まれつきの要因が約49%でした。 そして、感染症にかかった後が約41%を占めていました。
原因がはっきりしないタイプ(特発性)
特にご高齢の方に多く、検査をしても原因が見つかりません。 「特発性正常圧水頭症」とも呼ばれています。 年齢を重ねることで、脳脊髄液を吸収する力が、 自然と弱まることが関係していると考えられています。
交通性水頭症の症状
交通性水頭症の症状は、発症する年齢によって大きく異なります。 脳の成長が完了した大人と、まだ発達途中にあるお子さんとでは、 脳脊髄液が増えたときの影響の出方が違うためです。
大人にみられる3つの代表的な症状
大人、特にご高齢の方の場合は、症状がゆっくりと進行します。 そのため、ご本人やご家族も「歳のせいかもしれない」と考え、 病気のサインを見過ごしてしまうことが少なくありません。
特徴的なのは、次の3つの症状(三徴)です。 たまった脳脊髄液が、脳の正常な働きを邪魔することで起こります。
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症状の種類 |
具体的な内容 |
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歩行障害 |
・歩く幅が狭くなり、ちょこちょことした歩き方になる ・足が上がりにくく、地面をするように歩く ・向きを変えるときに、ふらつきやすい ・最初の一歩がなかなか踏み出せなくなる |
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認知機能障害 |
・最近の出来事を忘れやすくなる(物忘れ) ・ぼーっとしている時間が増え、反応が鈍くなる ・意欲や自発性が低下し、無関心に見える ・日付や曜日がわからなくなることがある |
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尿失禁 |
・トイレに行く回数がとても増える(頻尿) ・急な尿意を我慢できず、もらしてしまう |
これらの症状は、他のご高齢の方によく見られる病気でも起こります。 しかし、3つの症状が重なって現れた場合は、 この病気を疑い、専門医に相談することがとても大切です。
子どもにみられる症状
一方、お子さんの水頭症では、大人とは異なる症状が目立ちます。 特に赤ちゃんの頭の骨は、まだ柔らかく、完全には閉じていません。 そのため、脳脊髄液が増えると、頭が内側から圧迫されます。 その結果、頭全体が風船のように大きくなってしまうのです。
これは「大頭症(だいとうしょう)」と呼ばれるサインです。 アフリカで行われた12,000人以上のお子さんを対象にした調査があります。 その報告では、水頭症のお子さんの約8割にこの症状が見られました。 大頭症は、お子さんの水頭症に気づくための重要な手がかりです。
その他にも、頭の中の圧力が高まることで、 以下のような症状が現れることがあります。
- 頭痛や吐き気、嘔吐
- 理由もなく機嫌が悪くなる
- 元気がなく、ぐったりしている
ご家族から見て「いつもと様子が違うな」と感じる点があれば、 ためらわずに小児科や脳神経外科を受診してください。
交通性水頭症の検査・診断
交通性水頭症が疑われる場合、いくつかの検査を行います。 診断は主に、画像で脳の状態を確認することから始まります。 そして、症状が改善するかを試す検査を組み合わせます。
1. 画像検査(CT・MRI)
まずは、頭の中の状態を写真のように詳しく調べます。 脳を守る脳脊髄液が、たまりすぎていないかを確認するためです。
- 頭部CT検査 X線を使って、脳の断面を撮影する基本的な検査です。 脳脊髄液がたまる「脳室」という部屋が、 大きくなっていないかをチェックします。
- 頭部MRI検査 磁石の力を使って、脳をより詳しく見る検査です。 CT検査では分かりにくい、脳の細かい変化や、 他の病気が隠れていないかを調べることができます。
特にお子さんの場合、頭が大きくなることが発見のきっかけになります。 アフリカで12,000人以上のお子さんを対象にした調査があります。 その報告では、水頭症のお子さんの約8割(80.2%)に、 頭が大きくなる症状が見られたとされています。 ご家族の「あれ?」という気づきが、とても重要です。
2. 髄液排除試験(タップテスト)
画像検査で水頭症の可能性が高いと判断された後に行います。 診断を確定し、治療の方針を決めるための重要な検査です。 治療で症状が良くなるかを、事前に試すことができます。
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検査のステップ |
内容 |
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STEP1 |
横向きに寝て、腰に細い針を刺します。 脳脊髄液を30mlほど、ゆっくりと抜き取ります。 |
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STEP2 |
検査の後、数時間から数日にかけて様子をみます。 歩きにくさや物忘れなどの症状が一時的に改善するかを確認します。 |
このタップテストで症状が良くなった場合は、手術が有効です。 手術によって、症状が改善する可能性が高いと判断できます。 これらの検査結果を総合的に見て、最終的な診断を下します。
交通性水頭症の治療
交通性水頭症の治療は、残念ながらお薬で治すことは難しいです。 たまりすぎた脳脊髄液を、体の別の場所へ逃がしてあげる手術が中心です。 脳にかかる圧力を下げ、症状を和らげることを目指します。
主な手術方法は「シャント手術」と呼ばれています。 これは、脳脊髄液の新しい通り道を、体の中に作る手術です。 細くて柔らかいチューブ(シャント)を使って、 脳脊髄液をお腹の中など、吸収されやすい場所へ流します。
- 脳室―腹腔(ふくくう)シャント(V-Pシャント) 脳の中の部屋(脳室)とお腹の中をつなぐ、最も一般的な方法です。
- 腰椎―腹腔(ふくくう)シャント(L-Pシャント) 腰のあたりからお腹の中へ、脳脊髄液を流す方法です。
アフリカで行われたお子さんの水頭症に関する大規模な調査があります。 その報告によると、治療を受けたお子さんの約83%が、 このシャント手術を受けていたとされています。
また、最近では別の手術方法も行われています。 「内視鏡的第三脳室開窓術(ETV)」という方法です。 内視鏡という細いカメラを使い、脳の中にもともとある壁に、 小さな穴を開けて、脳脊髄液の流れを良くします。
ある研究では、この内視鏡手術の方が、シャント手術と比べて、 手術後の症状がより改善する可能性があると報告されています。
ただし、ご高齢で手術に耐える体力がない場合などには、 手術を行わずに様子を見ることもあります。 どの治療法が最適かは、患者さん一人ひとりの状態によって異なります。 専門の医師とよく相談して、治療方針を決めることが大切です。













