認知機能低下
「最近、物忘れが増えた」「人の名前が思い出せない」。そんな経験に、ドキッとしたことはありませんか?多くの方が「年のせいだから」と片付けてしまいがちなそのサイン、実は見過ごしてはいけない脳からの重要なメッセージかもしれません。
最近の研究では、高血圧などが原因で起こるごく小さな脳の出血「脳微小出血」がある人は、将来的に認知症を発症するリスクが約2倍に高まることが報告されました。認知機能の低下は、もはや特別な病気ではなく、誰にでも起こりうる身近な問題なのです。
この記事では、認知機能低下のさまざまな原因や種類、そしてご自身でできるチェックポイントから最新の治療法までを詳しく解説します。手遅れになる前に、あなたとあなたの大切な人の未来を守るための知識を、ぜひここで手に入れてください。
認知機能低下の概要
「認知機能低下」とは、特定の病気の名前ではありません。 記憶したり、考えたり、判断したりする脳の働きが、何らかの原因で弱まってしまう状態の総称です。
私たちの脳が持つ大切な働きには、以下のようなものがあります。
- 記憶力 新しいことを覚えたり、過去の出来事を思い出したりする力
- 判断力 物事を正しく理解し、どう行動するかを決める力
- 実行力 計画を立てて、最後まで物事をやり遂げる力
体と同じように、脳も年齢を重ねることで働きが変化します。 そのため、認知機能の低下は誰にでも起こりうる自然な現象ともいえます。 しかし、病気やけがで脳の細胞が傷つくと、もの忘れなどが普段の生活に影響を及ぼすことがあります。
最近の研究では、脳の血管に起こるごく小さな出血(脳微小出血)があると、将来的に認知症を発症するリスクが約2倍に高まることが報告されました。 脳微小出血は、高血圧などが原因で脳の細い血管が傷ついて起こる、ごくわずかな出血のことです。 このような脳の小さな変化を早期に発見することは、将来のリスクを予測し、早めに対策を始めるために重要と考えられています。
認知機能低下の種類
「認知機能の低下」といっても、原因となる病気は100種類近くあるといわれます。 原因によって症状の現れ方や治療法、ご家族の対応も変わるため、どの種類かを知ることはとても大切です。
代表的なものには、次の4つの種類があります。
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種類 |
主な原因 |
特徴的な症状の例 |
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アルツハイマー型認知症 |
脳に異常なたんぱく質がたまり、神経細胞が壊れてしまう。 |
・体験したこと自体を忘れる ・日時や場所がわからなくなる ・ゆっくりと進行する |
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血管性認知症 |
脳梗塞や脳出血で脳の血管が詰まったり破れたりして、神経細胞が壊れてしまう。 |
・症状が段階的に悪くなる ・手足のまひなどを伴うことがある ・感情のコントロールが難しくなる |
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レビー小体型認知症 |
脳に「レビー小体」という特殊なたんぱく質がたまる。 |
・実際にはないものが見える(幻視) ・動きがぎこちなくなる ・日によって症状の変動が大きい |
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前頭側頭型認知症 |
感情や理性をコントロールする脳の前の方が縮んでしまう。 |
・性格が変わったように見える ・社会のルールを守れなくなる ・同じ行動を何度もくり返す |
特に血管性認知症のように、脳の血管の状態が深く関わるケースは少なくありません。 最近、複数の研究結果を分析した信頼性の高い報告がありました。 MRI検査で見つかる「脳微小出血」という脳の小さな出血がある人は、ない人と比べて認知症になる危険性が約2倍になることが示されています。
脳微小出血は、高血圧などが原因で脳の細い血管が傷ついて起こります。 このような脳の小さな変化を早期に発見することは、将来のリスクを予測するだけでなく、生活習慣の改善といった早めの対策を始めるための大切なサインになります。
認知機能低下の原因
認知機能が低下する原因は一つではありません。 年齢による自然な変化のほか、病気や生活習慣など、様々な要因が関係しています。
原因は、主に以下の4つに分けられます。
1. 加齢
年齢を重ねると、体の機能が衰えるのと同じです。 脳の細胞も少しずつ減り、脳が縮んでいきます。 記憶力や判断力がゆっくり低下するのは、自然な変化です。
2. 病気によるもの
特定の病気が、脳の働きに直接影響することがあります。 原因となる病気には、以下のようなものがあります。
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原因となる病気の種類 |
具体的な病名など |
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脳の病気 |
・アルツハイマー病などの神経の病気 ・脳梗塞や脳出血などの血管の病気 |
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体の病気 |
・甲状腺の働きの低下 ・ビタミン不足や脱水 |
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心の病気 |
・うつ病 ・統合失調症 |
特に、脳の血管の状態は認知機能と深く関わります。 最近の信頼できる研究報告で、この関係が示されました。 「脳微小出血」という脳の小さな出血がある人は、ない人と比べて認知症になる危険性が約2倍に高まることがわかっています。
脳微小出血の発見は、将来のリスクを知る大切なサインです。 早めに生活を見直すきっかけになります。
3. 薬によるもの(薬剤性)
病気の治療で飲んでいる薬が原因となることもあります。 特に複数の薬を飲んでいる方は注意が必要です。 認知機能に影響する可能性のある薬の例を挙げます。
- 睡眠薬、抗不安薬
- アレルギーの薬
- 一部の胃薬
- 頻尿の治療薬
4. 生活習慣病
高血圧や糖尿病などは、動脈硬化を進ませます。 動脈硬化とは、血管が硬く、狭くなる状態のことです。 脳の血流が悪くなり、脳の細胞に栄養が届きにくくなります。 この状態が、認知機能の低下につながると考えられます。
認知機能低下の症状
「最近、なんだか物忘れが増えたな」と感じることはありませんか。 認知機能が低下するサインは、単なる物忘れだけではありません。 症状を正しく知ることが、早めに気づいて対策を始めるための第一歩です。
主な症状には、脳の中心的な働きが低下する「中核症状」があります。 また、中核症状によってご本人が不安になることで起こる、行動や心理面の変化もあります。
脳の働きが直接低下する「中核症状」
- 記憶障害 食事をしたこと自体を忘れるなど、体験そのものを忘れてしまいます。 「忘れた」という自覚がないことが多いのが特徴です。
- 見当識(けんとうしき)障害 今日の日付や曜日、今いる場所などが分からなくなります。 慣れているはずの道で迷ってしまうこともあります。
- 理解・判断力の低下 計画を立てて物事を実行するのが難しくなります。 例えば、料理の手順や家電の使い方が分からなくなります。
- 失行・失認・失語 体の機能に問題はないのに、普段の動作ができなくなります。 服の着方が分からなくなったり(失行)、物の名前が出てこなかったりします(失語)。
不安や混乱からくる「行動・心理面の変化」
中核症状による混乱や不安から、次のような変化が現れることもあります。
- 趣味に関心を示さなくなる
- ささいなことで怒ったり、不安になったりする
- 夜眠れなくなる
- 目的もなく歩き回る
特に、日常生活に大きな支障はないものの物忘れが気になる状態は、「軽度認知障害(MCI)」と呼ばれます。 この段階で気づき、対策を始めることが進行を緩やかにするために大切です。 ご自身やご家族の「いつもと違うな」という気づきを、決して見過ごさないでください。
認知機能低下の検査・診断
「最近、もの忘れが気になる」と感じたとき、病院ではどのような検査をするのでしょうか。 認知機能の検査は、脳の状態を正しく知るための大切なステップです。 怖がらずに、まずは専門の医療機関へ相談してみましょう。
検査は、主に3つのステップで進められます。
1. お話を聞く(問診)
まず、ご本人やご家族からお話を聞くことから始まります。 いつから、どのような症状で困っているのかを詳しくうかがいます。 日常生活での小さな変化も、診断のための大切なヒントになります。
2. 脳の力を測るテスト(神経心理検査)
次に、記憶力や判断力がどのくらいあるかを客観的に調べます。 「長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)」や、「ミニメンタルステート検査(MMSE)」といった、簡単な質問や作業に答える形式のテストです。
- MMSEの質問例
- 今日の日付や今いる場所を答える
- 簡単な計算をする
- 言われたいくつかの言葉を覚えて、後で思い出す
MMSEは30点満点で、一般的に23点以下だと認知機能の低下が疑われます。
3. 脳の写真を撮る(画像検査)
脳の形や血管の状態を詳しく見るために、CTやMRIで脳の写真を撮ります。 この検査で、脳が年齢相応以上に縮んでいないか(萎縮)を確認します。 また、認知機能低下の原因となる脳梗塞などが隠れていないかも調べます。
これらの検査結果を総合的に見て、診断が行われます。 特に、日常生活に支障はないものの検査で軽度の低下が見られる状態は、「軽度認知障害(MCI)」と呼ばれます。 MCIは認知症のいわば”黄色信号”の段階です。 最近の研究では、このMCIの段階でコンピューターを使った認知トレーニングを行うと、記憶力や注意力の維持に役立つことが報告されています。
アルツハイマー病が強く疑われる場合は、さらに詳しい検査を行うこともあります。 PET検査という方法で、脳の中に「アミロイド」という異常なたんぱく質がたまっていないかを調べます。 近年、このアミロイドを標的として、早期のアルツハイマー病の進行を遅らせる効果が期待される新しいお薬も登場しています。 気になる症状があれば、早期に発見し対策を始めるためにも、ぜひ一度ご相談ください。
認知機能低下の治療
認知機能低下の治療法は、原因によって大きく異なります。 原因を治せば脳の働きが元に戻る可能性があるものと、病気の進行を遅らせることを目指すものがあります。
1. 原因を取り除き、改善を目指す治療
まず、認知機能低下を引き起こしている原因への対処が基本です。 原因によっては、治療で脳の働きが改善することもあります。
- 手術で治せる病気 脳の中に血のかたまりができる「慢性硬膜下血腫」などは、手術で取り除くことで症状が良くなることがあります。
- 体の病気の治療 甲状腺の働きの低下や、特定のビタミン不足が原因なら、お薬でその病気を治療します。
- お薬の見直し 普段飲んでいるお薬が影響している場合は、医師と相談して、お薬を止めたり種類を変えたりします。
2. 進行をゆるやかにする治療
アルツハイマー病のように、根本的に治すのが難しい病気もあります。 その場合は、症状の進むスピードを遅らせることが治療の目標になります。 お薬を使う方法と、使わない方法を組み合わせることが大切です。
お薬による治療(薬物療法)
症状の進行をゆるやかにするお薬を使います。 最近では、アルツハイマー病の原因と考えられている「アミロイドβ」という脳のゴミを取り除く新しいタイプのお薬も出てきました。
ある研究報告によると、このお薬は早期のアルツハイマー病の患者さんで、認知機能の低下を遅らせる効果が示されました。 しかし、脳がむくんだり、小さな出血が起きたりする副作用のリスクも指摘されています。 そのため、専門の医師による慎重な判断がとても重要になります。
お薬を使わない治療(非薬物療法)
お薬だけに頼らないアプローチも、とても大切です。
- 脳のトレーニング(認知リハビリテーション) コンピュータを使ったクイズやゲームで、脳を鍛える方法です。 ある研究では、認知症の一歩手前の「軽度認知障害(MCI)」の方に効果が高いことがわかっています。 記憶力や注意力を保つのに役立ちますが、認知症が進むと効果が出にくくなるため、早めに始めることがカギです。
- 運動 体を動かすと脳の血の巡りが良くなり、脳の元気につながります。
- 生活習慣病の管理 高血圧や糖尿病は、認知症のリスクを高めます。 これらの病気をしっかり治療することも、脳を守る大切な治療です。













