コフィン・シリス症候群

日本国内で国の医療費助成を受けている患者さんが、令和5年度末時点でわずか5人という病気があることをご存知でしょうか。それは「コフィン・シリス症候群」と呼ばれる、非常に稀な先天異常症候群です。

濃い眉毛と対照的に薄い髪、そして手足の小指の爪が生まれつき小さいといった、体にいくつかの特徴があらわれることがあります。しかし、症状の現れ方には大きな個人差があるため診断は難しく、まだ知られていない患者さんもいると考えられています。

この記事では、まだ謎の多いコフィン・シリス症候群について、その原因から特徴的な症状、診断方法までを詳しく解説します。ご自身やお子さんのことで気になる点がある方は、ぜひこの記事で病気への理解を深めてみてください。

コフィン・シリス症候群の概要

コフィン・シリス症候群は、1970年に初めて報告された病気です。 生まれつき、体のさまざまな部分に特徴があらわれる「先天異常症候群」の一つです。

日本での患者さんの数は非常に少なく、「希少疾患」に分類されます。 そのため、国が定める「指定難病」の一つにもなっています。 令和5年度末のデータでは、国の医療費助成を受けている方は5人です。 しかし、まだ診断に至っていない方もいるため、実際の人数はもう少し多いと考えられます。

この病気で見られる主な特徴は、以下のとおりです。

  • 発達の遅れ 言葉を話したり歩いたりする運動機能や、知的な発達がゆっくり進むことがあります。
  • 体の見た目の特徴 頭の髪の毛がまばらで薄い一方で、眉毛やまつ毛は濃くはっきりしている傾向があります。また、唇が厚めであることも特徴です。
  • 手足の指の特徴 手や足の小指の爪や、指の先端にある骨(末節骨)が小さい、あるいは無いことがあります。

これらの特徴は、すべての患者さんにあらわれるわけではありません。 症状の組み合わせやその程度には大きな個人差があるのが、この病気の難しい点です。 診断は、遺伝子検査の結果とあわせて、これらの特徴を総合的に評価して行われます。

コフィン・シリス症候群の種類

コフィン・シリス症候群は、原因となる遺伝子の違いによって、いくつかの種類に分けられています。 どの遺伝子に変化が起きているかによって、症状の現れ方が少しずつ異なることがあります。

私たちの体を作る設計図である遺伝子の情報を、正しく読み取るために働くチームがいます。 この病気に関わる遺伝子たちは、そのチームの大切なメンバーです。 このチームのいずれかのメンバーに変化が起こると、体の発達に影響が出ると考えられています。

遺伝の形式は、主に「常染色体優性(顕性)遺伝」という形式です。 しかし、ご両親から遺伝するケースはまれです。 ほとんどは、お子さんに新しい遺伝子の変化(突然変異)が起こることで発症します。

現在、原因として報告されている主な遺伝子は以下のとおりです。

原因遺伝子(報告例の割合が高い順)

ARID1B

SMARCA4

SMARCC2

ARID1A

SOX11

DPF2

SMARCB1

SMARCE1

ARID2

この中でも、特にARID1Bという遺伝子の変化が原因である場合が多いと報告されています。 ただし、遺伝子検査をしても、すべての患者さんで原因が見つかるわけではありません。 まだ知られていない原因がある可能性も考えられており、現在も研究が進められています。

コフィン・シリス症候群の原因

コフィン・シリス症候群は、体の設計図である「遺伝子」に起こる変化が原因です。 遺伝子は、体を作るための細かな指示が書かれた、いわば「説明書」のようなものです。

この病気に関わる遺伝子には、ある特別な役割があります。 それは、他の遺伝子たちが正しく働けるように、まとめ役となる「チームリーダー」のような働きです。 このチームは、体の発達に必要な遺伝子のスイッチを、適切なタイミングでオン・オフしています。

しかし、チームリーダーの遺伝子に変化が起きると、その働きがうまくいかなくなります。 すると、他の遺伝子への指示が正しく伝わらず、体の様々な部分が作られる過程に影響が出ます。 これが、発達の遅れや体の特徴といった、多様な症状を引き起こすと考えられています。

遺伝子の変化が原因ですが、ほとんどはご両親から受け継がれたものではありません。 お子さんの体が作られる過程で、偶然に遺伝子の変化が起こる「突然変異」によるものが大半です。 そのため、ご家族に同じ病気の方がいなくても発症することは珍しくありません。

コフィン・シリス症候群の症状

コフィン・シリス症候群では、体のさまざまな部分に症状があらわれます。 しかし、すべての症状が全員にあらわれるわけではありません。 症状の組み合わせやその重さには、大きな個人差があるのが特徴です。

この病気で見られる症状は、大きく2つに分けられます。 ほとんどの患者さんに見られる症状と、人によって見られることがある症状です。

▼ほとんどの方に見られる症状 多くの患者さん(8割以上)で報告されている主な症状です。

  • 発達の遅れ 言葉を話したり、座ったり歩いたりする運動機能の発達が、ゆっくり進む傾向があります。 知的な発達にも遅れが見られることがあります。
  • 特徴的な顔つき 眉毛が濃く、まつ毛が長い一方で、頭の髪の毛は薄かったり、生えるのが遅かったりします。 また、鼻の付け根が広く、唇が厚めであることも特徴の一つです。
  • 手足の指の特徴 手や足の小指にある爪や、指の先端の骨(末節骨)が、生まれつき小さいか、無い場合があります。

▼人によっては見られる症状 上記の症状に加えて、以下のような症状を伴うこともあります。

  • 感染症を繰り返す 風邪をひきやすかったり、肺炎など呼吸器の感染症を繰り返したりすることがあります。
  • 食事の問題 赤ちゃんの頃にミルクをうまく飲めなかったり、食べるのが苦手だったりすることがあります。 この影響で、身長や体重がなかなか増えないこともあります。
  • そのほかの合併症 心臓の形に生まれつき異常があったり、てんかん発作を起こしたりする場合があります。 また、耳が聞こえにくくなる(難聴)ことも報告されています。

これらの症状は、あくまで一例です。 気になることがあれば、自己判断せずに専門の医師へご相談ください。

コフィン・シリス症候群の検査・診断

コフィン・シリス症候群の診断は、パズルのピースを組み合わせるように、いくつかの情報を集めて総合的に判断します。 主に「症状の確認」と「遺伝子の検査」という、2つのステップで進められます。

まず、専門の医師が診察で、体に現れている特徴を詳しく確認します。 このとき、「診断基準」という、病気を診断するためのものさしを使います。 診断基準は「とても大切な特徴(大基準)」と「参考になる特徴(小基準)」に分かれています。

▼コフィン・シリス症候群の診断基準

基準の種類

主な内容

とても大切な特徴

(大基準)

以下の3つの特徴が、診断の大きな手がかりになります。

1. 手や足の小指にある爪や、指先の骨が小さい、または無い

2. 言葉を話したり、運動したりする発達に遅れがある

3. 濃い眉毛や厚い唇など、顔つきに特徴がある

参考になる特徴

(小基準)

診断の参考にする、人によって見られることがある特徴です。

・頭の髪の毛が薄い

・身長が低いなど、成長に問題がある

・心臓や脳、目、耳などに生まれつきの異常がある

次に、診断をより確かなものにするため、血液などを使った「遺伝学的検査」を行います。 この検査では、体の設計図である遺伝子に、この病気の原因となる変化がないかを調べます。 もし原因遺伝子(ARID1B遺伝子など)に変化が見つかれば、診断が確定します。

しかし、この検査をしても、原因となる遺伝子の変化が見つからないこともあります。 その場合は、診察で確認した「とても大切な特徴(大基準)」が3つとも当てはまれば、コフィン・シリス症候群と診断されます。

このように、症状と遺伝子の両方から丁寧に調べることで、正確な診断につなげていきます。 お子さんのことで気になる点があれば、まずは専門の医療機関へご相談ください。

コフィン・シリス症候群の治療

現在のところ、この病気そのものを根本的に治す治療法は、まだ見つかっていません。 そのため治療の目標は、今ある症状を和らげることになります。 また、将来起こりうる合併症を早く見つけ、対応していくことも大切です。

この病気は、体のさまざまな部分に症状があらわれる可能性があります。 そのため、各分野の専門家がチームとなって協力し、総合的なサポートを行います。

症状に合わせた具体的な治療や支援

患者さん一人ひとりの症状に合わせて、以下のような治療や支援を組み合わせて行います。

  • 発達の遅れに対して 発達をサポートするための「療育(りょういく)」という支援を続けていくことが大切です。
  • 理学療法 座る、立つ、歩くなどの基本的な運動能力を高めるための訓練です。
  • 作業療法 日常生活の動作や、手先の細かな動きが上手にできるように支援します。
  • 言語聴覚療法 言葉の理解や発音、コミュニケーション能力を育むための訓練です。
  • 体に現れる合併症に対して 定期的な診察で体の状態を確認し、必要な治療を行います。
  • てんかん けいれん発作を抑えるために、お薬(抗てんかん薬)を使います。
  • 心臓の病気 病気の種類や状態に合わせて、お薬による治療や手術を検討します。
  • 食事の問題 うまく栄養がとれない場合は、食事の工夫をします。 チューブなどを使った栄養補給を行うこともあります。
  • 難聴 補聴器を使うなど、聞こえを助けるための対応をします。
  • 目の異常 眼鏡による視力の矯正や、必要に応じて手術を行うことがあります。

このように、定期的な診察で体の状態をしっかりと確認することが重要です。 その時々に必要な治療や支援を、丁寧に行っていきます。