良性成人型家族性ミオクローヌスてんかん(BAFME)

成人になってから原因不明のふるえが続いたり、ご家族に同じ症状の方がいたりして、不安を感じていませんか。良性成人型家族性ミオクローヌスてんかん(BAFME)は、国内に約3,000人の患者がいると推定される、成人期に発症する遺伝性の病気です。

この記事では、BAFMEの主な症状や原因、診断に用いられる検査から治療法までを詳しく解説します。特に、遺伝子の異常がどのようにしてふるえなどの症状を引き起こすのか、そのメカニズムについても掘り下げて説明します。

ご自身の症状と照らし合わせることで、病気への正しい理解が深まります。今後の見通しを立て、適切な治療へ踏み出すための知識を得ることで、漠然とした不安の解消につながるでしょう。

良性成人型家族性ミオクローヌスてんかん(BAFME)の概要

良性成人型家族性ミオクローヌスてんかん(BAFME)は、成人期に発症し、ゆっくりと症状が進行する遺伝性のてんかんです。

「進行性ミオクローヌスてんかん(PME)」という疾患グループのなかでも中核をなす病気の一つで、特に日本での報告が多く、国内の患者数は約3,000人と推定されています。

主な症状として、手指などの細かいふるえ(皮質性ミオクローヌス振戦)や、まれに起こる全身のけいれん発作(強直間代発作)がみられます。※ 症状の進行は比較的緩やかですが、神経が少しずつ変化していく神経変性疾患の一種と考えられています。※

遺伝形式は「常染色体優性遺伝」というタイプで、親から子へ病気が伝わる可能性があります。

発症当初は症状が軽く、ふるえが目立つため他の病気と区別がつきにくいこともあります。しかし、年齢を重ねるにつれて、特に60歳前後から症状が悪化し、日常生活に影響をおよぼす場合があります。

良性成人型家族性ミオクローヌスてんかん(BAFME)の種類

良性成人型家族性ミオクローヌスてんかん(BAFME)は、原因となっている遺伝子の場所によって、いくつかの種類(病型)に分けられます。

しかし、どの病型であっても、遺伝子の設計図の中でタンパク質を作らない部分(イントロン)において、「TTTCA」や「TTTTA」といった特定の塩基の並びが異常に長く繰り返される、という点が共通しています。

日本で主に報告されている病型には、以下のようなものがあります。

・SAMD12遺伝子の変異(最も多い)

・TNRC6A遺伝子の変異

・RAPGEF2遺伝子の変異

これらはすべて、親から子へ50%の確率で受け継がれる「常染色体優性遺伝」という形式をとります。※

現状、これらの原因遺伝子の違いによって、症状の現れ方や治療方針に大きな差はないと考えられています。そのため、どの病型であっても、ふるえや発作といった症状を和らげるための対症療法が治療の中心となります。※

良性成人型家族性ミオクローヌスてんかん(BAFME)の原因

良性成人型家族性ミオクローヌスてんかん(BAFME)の原因は、遺伝子の設計図の一部が異常に長くなる遺伝子変異です。

具体的には、遺伝子の中でもタンパク質の設計情報を持たない「イントロン」と呼ばれる領域に存在する、TTTCAやTTTTAといった5つの塩基からなるDNA配列が、通常よりも長く繰り返されること(リピート伸長)が直接の原因と特定されています。※

この病気は、親から子へ50%の確率で受け継がれる「常染色体優性遺伝」という形式をとります。

興味深いことに、このリピート伸長はSAMD12遺伝子だけでなく、TNRC6AやRAPGEF2といった複数の異なる遺伝子でも見つかっています。しかし、原因となる遺伝子の場所が違っても、「特定の塩基の並び(反復モチーフ)が異常に長くなる」という共通点が、BAFME特有の症状を引き起こすと考えられています。※

では、なぜこの遺伝子の異常が「ふるえ」や「けいれん」につながるのでしょうか。現在の研究では、以下のようなメカニズムが有力視されています。

1. 毒性を持つ「RNA」が作られる

異常に長くなった遺伝子配列から、神経細胞にとって毒として働く特殊な「RNA」が作られます(RNA介在性毒性)。※

2. 小脳の機能にダメージが加わる

この毒性を持つRNAが、体のバランスや動きの調整を担う「小脳」の機能にダメージを与えます。

3. 神経回路の働きが乱れる

小脳のダメージが引き金となり、脳内の「小脳-視床-大脳皮質」という、動きをコントロールする重要な神経回路の連携がうまくいかなくなります。

4. 症状として現れる

神経回路の乱れによって、運動を指令する大脳皮質が過剰に興奮しやすくなり、その結果として手指の細かいふるえ(皮質性振戦)などの症状が現れるのです。※

また、この異常な塩基配列の繰り返しは、世代を重ねるごとにさらに長くなる傾向があります。そのため、子や孫の世代ではより若い年齢で発症する「表現促進現象」がみられることも報告されています。

良性成人型家族性ミオクローヌスてんかん(BAFME)の症状

良性成人型家族性ミオクローヌスてんかん(BAFME)で現れる主な症状は、特徴的な「ふるえ」と「てんかん発作」の2つです。

成人期になってから症状がゆっくりと現れるのが特徴で、はじめは生活に大きな支障がないことも少なくありません。しかし、神経が少しずつ変化していく神経変性疾患の一種と考えられており、年齢を重ねるにつれて、特に60歳前後から症状が目立つようになることがあります。※

BAFMEの2つの主な症状について、詳しく見ていきましょう。

1. 皮質振戦(ふるえ)

最も中心となる症状が、手や指に現れる細かく速いふるえ(皮質振戦)です。

このふるえは、安静にしている時よりも、コップを持つ、腕を前に伸ばすなど、ある特定の姿勢を保とうとするときに目立ちやすいという特徴があります。そのため、はじめは一般的な「本態性振戦」と見分けがつきにくいこともあります。

この症状の背景には、脳の司令塔である「大脳皮質」の過剰な興奮が存在します。

本来、体の動きを滑らかに調整しているのは「小脳」です。BAFMEでは、この小脳の機能が少しずつ低下し、動きをコントロールする「小脳-視床-大脳皮質」という神経回路の連携がうまくいかなくなると考えられています。その結果、大脳皮質が過剰に興奮しやすくなり、意図しないふるえとして症状が現れるのです。※

2. てんかん発作

てんかん発作もBAFMEの主要な症状の一つですが、その現れ方には個人差がみられます。主に以下の2種類の発作が報告されています。

・ミオクロニー発作

自分の意志とは関係なく、腕や肩、脚などが「ビクッ」と一瞬だけ収縮する発作です。電気ショックを受けたような動きと表現されることもあります。

・強直間代発作

いわゆる「大発作」と呼ばれるもので、突然意識を失い、全身が硬直した後にガクガクとけいれんします。BAFMEの患者さんにおいて、この発作が起こる頻度は比較的まれであると報告されています。※

一方で、他の神経疾患でみられるような、物忘れがひどくなるなどの認知機能の低下や、歩行時の著しいふらつき(小脳失調)といった症状は、基本的には伴わないとされています。

良性成人型家族性ミオクローヌスてんかん(BAFME)の検査・診断

良性成人型家族性ミオクローヌスてんかん(BAFME)の診断は、症状の丁寧な聞き取りと、複数の専門的な検査の結果をパズルのように組み合わせて、総合的に判断します。

特に、症状が似ている本態性振戦や他のタイプのてんかん(若年性ミオクローヌスてんかんなど)と正確に見分けることが、適切な治療への第一歩です。そのため、慎重な評価が欠かせません。※

診断のために行われる主な検査は、以下のとおりです。

・電気生理学的検査

・画像検査

・遺伝子検査

電気生理学的検査

脳の電気的な活動を調べることで、BAFMEに特徴的な「脳の過剰な興奮状態(皮質興奮性)」を探る検査です。

・脳波検査(EEG)

頭皮に電極を取り付け、脳が発する微弱な電気信号(脳波)を記録します。てんかん発作に特徴的な異常な波形がないかを確認します。

また、BAFMEの診断で近年その重要性が再評価されているのが、光の点滅刺激によって脳波に異常が現れる「光過敏性」という反応です。※

・体性感覚誘発電位(SEP)検査

手足の神経を軽く電気で刺激し、その信号が脳に伝わる様子を記録します。BAFMEの患者さんでは、刺激に対する脳の反応が過剰に大きくなる「巨大SEP」という特徴的な波形が見られることがあります。これは、脳の表面(大脳皮質)が興奮しやすい状態にあることを示す重要なサインです。

画像検査

MRIなどを用いて、脳の形そのものに異常がないかを調べます。

若い患者さんでは明らかな変化が見られないことがほとんどです。しかし、年齢を重ねると、体のバランスを司る「小脳」に軽い萎縮が認められる場合があります。※

ただし、BAFMEの診断で重要なのは、目に見える形の変化だけではありません。この小脳の機能的な変化が、脳全体の動きをコントロールする神経回路(小脳-視床-大脳皮質回路)の働きを乱し、結果としてBAFME特有のふるえを引き起こす一因になっている可能性が指摘されています。※

遺伝子検査

最終的な確定診断のために、血液を用いた遺伝子検査を行います。

この検査では、BAFMEの原因となる特定の遺伝子(SAMD12、TNRC6Aなど)において、「TTTCA」や「TTTTA」といった塩基配列が異常に長く繰り返されていないかを直接調べます。

近年、この長い繰り返し配列を正確に読み解くことができる「ロングリード全ゲノムシーケンス」という解析技術が登場しました。この技術は、BAFMEの確定診断における最も信頼性の高い方法(ゴールドスタンダード)と位置づけられています。※

このように、BAFMEの診断は一つの検査だけで決まるものではありません。問診で得られる症状の経過やご家族の状況、そして上記のような複数の検査から得られる情報を総合的に評価し、専門医が慎重に結論を導き出します。

良性成人型家族性ミオクローヌスてんかん(BAFME)の治療

良性成人型家族性ミオクローヌスてんかん(BAFME)の治療は、ふるえやてんかん発作といった症状を和らげるための薬物療法が中心です。

残念ながら、現時点では病気の進行そのものを止めたり、根本的に治したりする治療法は確立されていません。そのため、日常生活への影響を最小限に抑えることを目標に、症状と向き合っていくことになります。

治療の軸となるのは、脳の過剰な興奮を抑える「抗てんかん薬」です。

BAFMEの症状は、脳の司令塔である大脳皮質が過剰に興奮しやすくなることで引き起こされるため、薬でその働きを調整し、ミオクローヌス(ピクつき)やてんかん発作の軽減を目指します。

治療で用いられる主な薬剤は、下表のとおりです。

薬剤の分類 | 主な薬剤名 | 特徴と役割

第一選択薬 | バルプロ酸 レベチラセタム クロナゼパム(ベンゾジアゼピン系)など | ・ミオクローヌスやてんかん発作を抑える効果が期待できます。 ・多くの場合、これらの薬を単独、あるいは組み合わせて治療が行われます。※

注意が必要な薬 | ガバペンチン カルバマゼピン | ・ガバペンチンは、症状を悪化させるという報告があります。 ・カルバマゼピンは、ミオクロニー発作を誘発または悪化させる可能性があるため、使用には慎重な判断が求められます。

これらの薬によっててんかん発作はある程度コントロールできるものの、BAFMEの最も中心的な症状である「ふるえ(皮質性振戦)」は、薬だけでは十分に改善しないケースも少なくありません。

一方で、病気の根本原因にアプローチする新しい治療法の研究も世界中で進んでいます。

BAFMEは、遺伝子の異常によって神経細胞に有害な「RNA」が作られ(RNA毒性)、それが小脳の機能にダメージを与えることが原因と考えられています。この有害なRNAの働きを直接抑え込む「RNA治療(核酸医薬)」などの開発が期待されており、将来的な治療の選択肢が広がる可能性があります。※

治療は、患者さん一人ひとりの症状の強さや生活状況に合わせて、薬の種類や量を細かく調整していくことが重要です。効果の現れ方や副作用には個人差があるため、気になることがあれば自己判断で服薬を中断せず、必ず主治医に相談してください。