自閉スペクトラム症

「子どものおよそ36人に1人」が当てはまるとされる、自閉スペクトラム症(ASD)。これほど身近なものであるにもかかわらず、「育て方が悪かったのでは?」とご自身を責めたり、「病気だから治さなければ」と焦ったりしている方も少なくないかもしれません。

自閉スペクトラム症は、病気ではなく生まれつきの脳の働きの違いによる「個性」です。人との関わり方が少し独特だったり、特定のことへの強いこだわりがあったりするのも、その特性の現れ。大切なのは、その子自身の個性を正しく理解し、力を最大限に引き出すことです。

この記事では、自閉スペクトラム症の正しい知識から、日常生活の「困りごと」を減らすための支援方法までを詳しく解説します。ロボットやVRといった最新の研究にも触れながら、一人ひとりに合ったサポートのヒントを探っていきましょう。

自閉スペクトラム症の概要

自閉スペクトラム症(ASD)は、生まれつきの脳の働きの違いから生じます。 これは「病気」というよりも、その人がもつ「個性」や「特性」と捉えると良いでしょう。 親の育て方が原因ではないため、ご家族が自分を責める必要はまったくありません。

「スペクトラム」ということばの意味 「スペクトラム」とは「連続している」という意味のことばです。 虹の色が赤から紫へなだらかに変化するように、特性の現れ方は人それぞれで全く違います。

  • コミュニケーション とてもおしゃべりな人もいれば、言葉をほとんど話さない人もいます。
  • 興味や関心 特定のことに強いこだわりをもち、驚くほど詳しい人もいます。
  • 感覚 特定の音や光、服の肌触りなどに、とても敏感な人もいます。

このように一人ひとりの特性が違うため、その人に合った理解とサポートが大切です。 最近の調査では、子どものおよそ36人に1人が自閉スペクトラム症とされており、決してめずらしいものではありません。

この特性そのものをなくすことはできません。 しかし、「療育(りょういく)」という支援を通じて、日常生活での困りごとを減らすことは可能です。 近年、お子さんの社会性を育むために、ロボットを活用する研究も進んでいます。 ロボットによる支援は、人が行うのと同じくらいの効果が期待できる可能性が示唆されています。 お子さんによっては、ロボットと一緒の方が、より楽しく支援を受けられるかもしれません。

自閉スペクトラム症の種類

以前は「自閉症」や「アスペルガー症候群」など、いくつかの名前で呼ばれていました。 しかし、これらの特性ははっきりと分けられるものではないことがわかってきました。

虹の色が赤から紫へとはっきりした境目なく変わっていくように、特性もつながっています。 この考え方から、現在は「自閉スペクトラム症(ASD)」という一つの名前にまとめられています。 そのため、病気のようにカゼやインフルエンザといった「種類」があるわけではありません。

一人ひとり特性の現れ方やその強さが違うのが、自閉スペクトラム症の特徴です。 例えば、以下のように、お子さんによって得意なことや苦手なことは全く違います。

  • 言葉の発達 とても流暢にお話する子もいれば、言葉を話すのがゆっくりな子もいます。
  • 知的な発達 勉強がとても得意な子もいれば、少しお手伝いが必要な子もいます。
  • 感覚の敏感さ 特定の音や光をとても嫌がる子もいれば、逆にあまり気にしない子もいます。

以前の呼び方の例

今の考え方

自閉症、アスペルガー症候群など

**自閉スペクトラム症(ASD)**として一つのグループに

このように特性は多様なため、その子に合ったサポートを考えることが何より大切です。 例えば、動物とのふれあいが、お子さんの成長を助けることがあるという研究報告もあります。

いくつかの研究を分析した結果、動物とふれあう活動は次のような点で良い影響が期待できます。

  • コミュニケーションのスキル向上
  • 落ち着きのなさ(多動性)の軽減

大切なのは「種類」で分けることではなく、その子自身の個性をよく理解することです。 一人ひとりに合ったサポートを見つけていくことが、困りごとを減らす鍵となります。

自閉スペクトラム症の原因

「育て方が悪かったのかな」とご自分を責めてしまうご家族がいますが、それは違います。 多くの研究で、親の育て方や愛情不足が原因ではないことが、はっきりとわかっています。

自閉スペクトラム症は、生まれつきの脳の働きの違いによって起こると考えられています。 最近の研究では、MRIという機械で脳の中を詳しく見ることができるようになりました。 その結果、自閉スペクトラム症の人の脳は、一部が厚くなっていたり、薄くなっていたりすることが報告されています。 これは、脳が育っていくペースや順番が、多くの人と少し違う可能性を示しています。

現在、原因として考えられていること、そして原因ではないと否定されていることは以下のとおりです。

【原因かもしれないと考えられていること】

  • 遺伝的な要因
  • 最も関係が深いと考えられていますが、風邪のようにうつるものではありません。
  • その他の要因
  • お母さんのお腹の中にいる間のことや、予定より早く生まれることなども、関係する可能性が指摘されています。

【原因ではないとはっきりわかっていること】

  • 親の育て方やしつけ
  • 愛情が足りなかったこと
  • 赤ちゃんのときの予防接種

様々な要因が複雑にからみあって、脳の働きの違いとして現れると考えられています。 まだ一つの明確な原因は見つかっていませんが、ご本人やご家族のせいではないことを知っておくことが大切です。

自閉スペクトラム症の症状

自閉スペクトラム症の症状は、大きく2つの特徴に分けられます。 これらは生まれつきの脳の働きの違いによるもので、決してわがままではありません。

1. 人との関わり方の特徴

周りの人と気持ちを合わせたり、コミュニケーションをとったりすることに特徴がみられます。 これは、相手の気持ちを読み取るアンテナが、多くの人と少し違うためです。

  • 視線を合わせるのが苦手 人と話すときに、なかなか目が合わないことがあります。
  • 相手の気持ちを想像しにくい 表情や声の調子から、相手が喜んでいるか、悲しんでいるかを読み取るのが苦手です。
  • 会話が一方的になりやすい 自分の好きなことばかり話してしまい、会話のキャッチボールが難しいことがあります。
  • お友達づくりが難しい みんなの輪の中に、どうやって入っていけば良いのかわからず、一人でいることを好む場合があります。

2. こだわりの強さと繰り返す行動

興味を持つものが限られていたり、いつもと同じやり方に安心したりする特徴があります。 自分だけのルールをとても大切にするため、急な変化に対応するのが苦手です。

  • とても強い興味やこだわり 電車や数字など、特定のものに夢中になり、大人も驚くほど詳しくなることがあります。
  • 決まった手順を好む 毎日同じ道を通ったり、同じ順番で物事を行ったりすることに安心感を覚えます。
  • 感覚がとても敏感、または鈍感 特定の音や光、服の肌触りなどをひどく嫌がったり、逆に痛みや熱さに気づきにくかったりします。

これらの症状の現れ方は、お子さん一人ひとりによって全く違います。 最近の研究では、困りごとを減らすための新しい方法も報告されています。

例えば、VR(仮想現実)を使ったトレーニングがあります。 これは、社会のルールや気持ちのコントロールを、安全な環境で練習できるものです。 いくつかの研究を分析した結果、特に社会でうまくやっていくスキルや、感情をコントロールするスキルを伸ばす効果が期待できるとされています。

また、動物とふれあう活動も、良い影響を与える可能性が示されています。 落ち着きのなさが減ったり、人と話すスキルが向上したりする効果が報告されています。

自閉スペクトラム症の検査・診断

自閉スペクトラム症の診断は、一つの検査で結果がわかるものではありません。 お医者さんや専門家が、パズルのピースを集めるように情報を丁寧に集めて判断します。 その子のことを深く理解するための、大切なステップになります。

診断は、主に以下の3つの情報をもとに行われます。

  • お話を聞くこと(問診・面接) 生まれたときから今までの成長の様子を、ご本人やご家族から詳しくお聞きします。 どんなことが得意で、どんなことに困っているかを知るためです。 母子手帳が、成長の記録を知るための大切なヒントになることもあります。
  • 様子を見ること(行動観察) 専門家が、お子さんとお話をしたり、一緒に遊んだりする様子を観察します。 コミュニケーションのとり方や、興味の対象などを確認するためです。
  • 得意なこと・苦手なことを知る検査 知能検査や発達検査などを行い、得意なことや苦手なことの特性を客観的に調べます。 これはクイズやパズルのようなもので、その子の個性を数字で理解するのに役立ちます。

これらに加えて、研究の分野ではMRIという特別な機械で脳の様子を調べることもあります。 最近の研究では、自閉スペクトラム症の人の脳は、社会性などに関わる部分の厚さに特徴が見られることが報告されています。 脳の育ち方が多くの人と少し違う可能性を示しており、特性を理解する手がかりとして注目されています。

これらの情報をすべて集めて、国際的な診断のルールに照らし合わせ、専門家が慎重に診断を行います。

自閉スペクトラム症の治療

自閉スペクトラム症は病気というより、その人が生まれ持った「個性」や「特性」です。 そのため、お薬で特性そのものをなくすことはできません。

治療の目的は、ご本人が生活のなかで感じる「困りごと」や「生きづらさ」を軽くすることです。 そして、その子が持っている力を最大限に発揮できるよう、お手伝いをすることにあります。

治療の基本は、一人ひとりの特性に合わせた「療育(りょういく)」という支援です。 療育とは、日常生活や学校生活での困りごとを減らすための、特別なトレーニングです。 最近では、新しい技術を使った療育も注目されています。

  • ロボットによる支援 望ましい行動をほめて増やしていく療育では、人の代わりにロボットが先生役になることがあります。 いくつかの研究をまとめた分析によると、ロボットによる支援は、人が行うのと同じくらいの効果が期待できる可能性が示されています。 お子さんによっては、人よりもロボットと一緒のほうが、より楽しくトレーニングに取り組めるかもしれません。
  • VR(仮想現実)による支援 ゴーグルをつけて、ゲームのような世界の中で、人とのお話の練習や気持ちのコントロールを学びます。 たくさんの研究を分析した結果、特に「人の気持ちを理解する力」や「社会でうまくやっていく力」を高めるのに役立つことがわかってきています。 安全な環境で、安心して何度でも練習できるのが大きなメリットです。

また、ご家族が特性を正しく理解し、お子さんへの関わり方を学ぶことも、とても大切です。 例えば、夜なかなか眠れないといった困りごとに対し、ご家族が専門家からオンラインでアドバイスを受ける「ペアレントトレーニング」という方法があります。 この方法は、お子さんの睡眠の問題を長い期間にわたって改善する効果が報告されています。

これらの療育と並行して、生活に大きな支障が出るような強い不安やかんしゃく、不眠などの症状がある場合には、それらを和らげるお薬を使うこともあります。