咬耗症
「冷たいものが歯にしみる」「昔より歯が短くなった気がする」。そのお悩み、実は気づかぬうちに歯が過剰にすり減ってしまう「咬耗症」が原因かもしれません。私たちの歯は体で最も硬い組織ですが、日々の食事や無意識の癖によって、少しずつ削られているのです。
特に大きな原因となるのが、歯ぎしりや食いしばりです。ある研究では、日中に無意識で歯を食いしばる癖は、なんと一般の方の約4人に1人に見られると報告されています。あなたも仕事や家事に集中するあまり、知らず知らずのうちに歯へ大きな負担をかけている可能性があります。
この記事では、自分では気づきにくい咬耗症のサインや原因、そして大切な歯を守るための治療法までを詳しく解説します。手遅れになる前に、ご自身の歯の状態をチェックしてみませんか。
咬耗症の概要
食事をしたり会話をしたり、私たちの歯は毎日働いています。 そのたびに歯と歯は触れ合い、少しずつ自然にすり減っていきます。
歯の表面は「エナメル質」という、体で一番硬い組織でできています。 その硬さは水晶と同じくらいですが、それでも毎日の積み重ねで摩耗します。
通常、歯がすり減っても、その分だけ歯が少しずつ伸びたり移動したりします。 これにより、かみ合わせの絶妙なバランスが自然に保たれるのです。
しかし、歯ぎしりや食いしばりの癖が強いと、このバランスが崩れます。 歯がすり減るスピードが、体の調整能力を上回ってしまうのです。 この、すり減りが正常な範囲を超えた状態を「咬耗症」と呼びます。
歯ぎしりは、決して特別なことではありません。 ある研究では、日中に無意識に歯を食いしばる「覚醒時歯ぎしり」は、 一般の方の約4人に1人(25.9%)が経験していると報告されています。 さらに、顎関節症など他の病気がある方では、その割合が高くなることもわかっています。
歯のすり減りには、原因によって似た言葉が使い分けられています。
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種類 |
原因 |
具体例 |
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咬耗(こうもう) |
歯と歯が直接こすれ合うこと |
食事(噛むこと)、歯ぎしり、食いしばり |
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摩耗(まもう) |
歯と歯以外のものがこすれ合うこと |
硬い歯ブラシでの強すぎる歯磨きなど |
このように咬耗症は、日々の生活習慣と深く関わっています。 その進み具合は、食生活やかみ合わせなどで人それぞれ異なります。
咬耗症の種類
咬耗症の主な原因である歯ぎしりは、専門的には「ブラキシズム」と呼ばれます。 この歯ぎしりが起こる時間帯によって、大きく2つのタイプに分けられます。 ご自身の癖がどちらに近いかを知ることが、適切な対策への第一歩となります。
睡眠中に起こるタイプ(睡眠時ブラキシズム)
夜、眠っている間に無意識のうちに起こる歯ぎしりです。 自分ではコントロールできないため、非常に強い力が歯や顎にかかります。 代表的なものに、以下の2つの動きがあります。
- グラインディング 上下の歯を「ギリギリ」と強くこすり合わせる動きです。 音が出ることが多く、ご家族に指摘されて初めて気づく方も少なくありません。
- クレンチング 音を立てずに、グーッと強く歯を噛みしめる動きです。 音がしないため自覚しにくく、朝起きた時の顎のだるさで気づくことがあります。
日中に起こるタイプ(覚醒時ブラキシズム)
起きている間に、無意識に歯を接触させてしまう癖のことです。 本来、リラックスしている時、上下の歯は触れ合わず少し隙間があるのが正常です。 しかし、集中している時などに、つい歯を接触させてしまうのです。
この癖は「TCH(Tooth Contacting Habit:歯の接触癖)」とも呼ばれます。 ある研究では、一般の方の約4人に1人(25.9%)が自覚していると報告されています。 さらに、顎関節症など他の病気を持つ方では、約2人に1人(50.0%)と高くなります。
この日中のタイプは、睡眠中の歯ぎしりと比べて、ストレスなど心理的な要因と、 より深く関わっていると考えられています。 パソコン作業やスマホ操作に夢中になるあまり、歯を痛めつけているかもしれません。
咬耗症の原因
歯がすり減る咬耗症は、決して一つの原因だけで起こるわけではありません。 毎日の生活習慣や口の中の状態など、さまざまな要因が合わさって発症します。 ご自身では気づきにくい癖が、歯に大きな負担をかけていることも多いのです。
主な原因は、大きく分けて2つに分類できます。
- 噛む力や無意識の習慣
- 食事のときの癖 硬い食べ物を好んで食べる、食事の際に片側ばかりで噛む、 だらだらと時間をかけて食事をするといった習慣は、 歯への負担を大きくし、すり減りを早める原因となります。
- 食事以外のときの癖 睡眠中の歯ぎしりや、日中の食いしばりは歯を削る大きな要因です。 特に、起きている間に起こる歯の接触は、ストレスなど心理的な要因と 深く関わっていると考えられています。 ある研究では、一般の方の約4人に1人(25.9%)がこの癖を自覚し、 顎関節症の方では約2人に1人(50.0%)と、さらに高くなることが報告されています。 パソコン作業などに集中するあまり、無意識に歯を痛めつけているのです。
- お口の中の状態
- 歯自体の強さ 生まれつき歯の表面(エナメル質)が弱く作られている場合、 (エナメル質形成不全)、健康な歯に比べてすり減りやすくなります。
- 噛み合わせのバランス 一部の歯だけが強く当たるような噛み合わせの異常があると、 特定の歯に力が集中し、その部分だけが早くすり減ってしまいます。
- 歯の本数の減少 抜歯などで歯の本数が減ると、残された歯一本一本にかかる力が大きくなります。 その結果、それぞれの歯がすり減りやすくなるのです。
咬耗症の症状
咬耗症はゆっくりと進むため、初めのうちは自覚症状がほとんどありません。 しかし、気づかないうちに歯や顎に様々な変化が起きていることがあります。
ご自身の状態に当てはまるものがないか、一緒に確認してみましょう。
- 歯がしみる(知覚過敏) 歯の表面を覆う硬いエナメル質がすり減ってしまいます。 その内側にある象牙質がむき出しになると、刺激を感じやすくなります。 冷たい水や風がしみる「知覚過敏」の症状が出ることがあります。
- 歯の見た目が変わる 前歯の先がまっすぐに削れたり、奥歯のかみ合わせにへこみができます。 また、象牙質は食べ物の色がつきやすく、茶色っぽく見えることもあります。
- 歯がもろくなる すり減って薄くなった歯は、構造的に弱くなります。 そのため、硬いものを食べた時などに、歯が欠けたり折れたりしやすくなります。
- 顎の痛みや顔つきの変化 かみ合わせが低くなると、顎の関節や筋肉に大きな負担がかかります。 朝起きた時の顎のだるさや、口の開きにくさを感じることもあります。 ある研究では、日中の食いしばり癖が顎の不調と深く関わるとされます。 実際に顎関節症の患者さんの約半数(50.0%)に、この癖が見られたとの報告もあります。 この癖は、治療した詰め物やかぶせ物が壊れる原因にもなります。
これらの症状は、一つだけでなく複数が同時に現れることも少なくありません。 もし気になる症状があれば、自己判断せず早めに歯科医師へ相談しましょう。
咬耗症の検査・診断
咬耗症の診断は、お口の中を見るだけでは終わりません。 なぜ歯がすり減ってしまったのか、原因を正確に探ります。 そして、一人ひとりに合った治療計画を立てることがゴールです。
そのために、いくつかの検査を組み合わせて診断を進めます。 まるでパズルのピースを一つひとつ集めるような作業です。
- 視診と触診 歯のすり減り具合や、歯の内部の象牙質が見えていないか、 目で見て確認します。 さらに、頬やこめかみの筋肉を優しく触って、 硬さや張りを確かめます。 これは、無意識の食いしばりのサインを見つけるためです。
- X線(レントゲン)検査 見た目ではわからない歯の内部や、歯を支える骨の状態を調べます。 特に、すり減った部分が虫歯になっていないかを見分ける、 大切な検査です。
- 問診 食事や仕事中の癖など、生活習慣について詳しくお聞きします。 日中の食いしばりは、ご自身では気づきにくいことが多いからです。 ある研究では、顎の不調を訴える方の約半数(50.0%)に、 日中の食いしばり癖が見られたと報告されています。
- 診断用模型の作製 歯型を採って、お口の状態を石膏の模型で再現します。 この模型で、かみ合わせのバランスを客観的に分析します。 治療の前後で比較することで、変化を正確に追跡できます。
これらの検査結果を総合的に判断し、治療方針を決定します。
咬耗症の治療
咬耗症の治療は、ただ削れた部分を埋めるだけではありません。 なぜ歯がすり減ったのか、原因を突き止めて対処することが重要です。 治療のゴールは、これ以上の悪化を防ぎ、失われた機能を取り戻すことです。
主な治療法は、患者さん一人ひとりの状態に合わせて選びます。
- 症状を和らげる治療 まずは、今あるつらい症状を軽くすることが最優先です。 歯がしみる知覚過敏には、薬を塗って刺激から保護します。 すり減った部分が虫歯になっていれば、その治療を行います。
- 原因に働きかける治療 症状が落ち着いたら、根本的な原因に目を向けます。 特に、歯ぎしりや食いしばりは歯を削る大きな要因です。 ある研究では、顎に不調がある方の約半数(50.0%)に、 日中の食いしばり癖が見られたという報告もあります。 この強力な力から歯を守るため、マウスピースを装着します。 この方法は、国のガイドラインでも推奨される治療法です。
- 歯の形を回復させる治療 すり減りが大きく、かみ合わせの高さが変わってしまった場合、 詰め物やかぶせ物で、歯の形や高さを回復させます。 これは「補綴(ほてつ)治療」と呼ばれ、お口全体のバランスを 考えながら進める、とても精密な作業になります。
どの治療法を選ぶかは、歯科医師との相談が不可欠です。 自己判断せず、まずは専門家にお口の状態を詳しく見てもらい、 ご自身に合った治療計画を一緒に立てていきましょう。













