乱視

「物がぼやけて見える」「文字が二重に見える」といった見え方に悩んでいませんか?乱視は目の疲れや頭痛の原因にもなり、日常生活に影響を与えることがあります。これは、角膜や水晶体の形状が歪むことで、光が網膜の一点で焦点を結べない目の屈折異常です。

本記事では、乱視の種類や原因、具体的な症状を解説します。診断方法と治療選択肢も詳しく紹介し、眼鏡やコンタクトレンズといった矯正から、非球面ベースカーブ設計のオルソケラトロジーレンズに関する最新の研究、手術療法まで多様なアプローチを取り上げます。

この記事を通して、ご自身の乱視への理解を深め、目の状態に合った最適な対処法を見つけられるでしょう。快適な視生活を送るための一歩となるはずです。

乱視の概要

「乱視」とは、目に入った光が網膜の一点で焦点を結べず、物がぼやけて見えたり、二重に見えたりする目の屈折異常の一つです。

光が一点に結べないのは、眼球の最も表面にある角膜や、目の奥にある水晶体の形状が、きれいな球体ではなく、ラグビーボールのようにゆがんでいることが原因です。このゆがみによって、光の屈折する方向がバラバラになり、網膜上で複数の焦点ができてしまうため、物がはっきりと見えにくくなります。

乱視は、焦点を結ぶ位置がずれる近視や遠視とは異なる目の状態です。しかし、近視や遠視と同時に起こることも珍しくありません。

乱視の症状は、その程度によって個人差があります。軽い乱視であれば、自覚症状がほとんどない場合もありますが、ゆがみが大きいと日常生活に支障が出ることがあるため、適切な矯正が必要です。

このような場合、メガネやコンタクトレンズで矯正するのが一般的です。近年では、特定のオルソケラトロジーレンズも乱視の矯正方法の一つとして注目されています。特に、非球面ベースカーブ設計のオルソケラトロジーレンズ(BCAレンズ)は、従来の球面設計レンズと比較して、角膜の周辺部の形状や、周辺の視界における近視の度合いに大きな影響を与えることが研究で示されています。この研究では、8歳から12歳までの小児を対象に、BCAレンズが周辺部の角膜の曲がり具合を大きく変化させ、周辺屈折をより強く近視側に誘導すると報告されており、乱視の矯正効果に貢献する可能性が示唆されています※。

見え方に異変を感じた際は、自己判断せず、眼科で詳しい検査を受けることが、適切な対処への第一歩となるでしょう。

乱視の種類

乱視は、その性質や原因によって大きく2つのタイプに分けられます。一つは「正乱視」、もう一つは「不正乱視」です。どちらのタイプかによって、見え方の特徴や矯正方法が異なります。

・正乱視(せいらんし)

正乱視は、多くの方にみられるタイプの乱視です。角膜や水晶体のカーブが、ある一定の方向に規則正しく歪んでいる状態を指します。例えるなら、きれいな球体ではなく、ラグビーボールのように特定の方向に伸びた形です。そのため、光の屈折も一定の規則性を持つのが特徴です。

この規則性があるため、一般的な眼鏡やコンタクトレンズで比較的容易に矯正できる場合がほとんどです。正乱視は、さらに歪みの方向によって以下の3つに分類されます。

・直乱視: 縦方向のカーブが横方向よりも強いタイプです。縦線ははっきり見えても、横線がぼやけて見えることがあります。

・倒乱視: 横方向のカーブが縦方向よりも強いタイプです。直乱視とは反対に、横線ははっきり見えますが、縦線がぼやけやすい特徴があります。

・斜乱視: 縦でも横でもない、斜め方向のカーブが強いタイプです。

・不正乱視(ふせいらんし)

不正乱視は、角膜や水晶体の表面が不規則に歪んでいる状態です。規則的な歪みを持つ正乱視とは異なり、光の屈折も複雑かつ不均一になります。

主な原因として、角膜の病気(円錐角膜など)や外傷、過去の目の手術による影響などが挙げられます。不規則な歪みがあるため、一般的な眼鏡やソフトコンタクトレンズでは、十分な矯正効果が得られないことが多いと考えられます。

このような場合には、角膜の不規則な形状をカバーできるハードコンタクトレンズが検討されることが多く、状態によっては手術が必要となる可能性もあります。

白内障手術などで用いられる眼内レンズによる乱視矯正についても、さまざまな研究が進められています。例えば、焦点の広がりを拡張するタイプの眼内レンズ(EDOF IOL)と、遠方・中間・近方の3つの焦点を合わせるタイプの眼内レンズ(三焦点IOL)を比較した大規模な分析(メタアナリシス)が実施されました。この分析結果によると、乱視の度数を示す「円柱度数」や、乱視そのものの矯正効果については、両タイプの眼内レンズ間で統計的に有意な差は認められないことが報告されています※。このことから、乱視の矯正を目的とする場合は、眼内レンズの種類だけでなく、患者さんの個別の眼の状態や手術の精度が重要となる可能性も示唆されているといえるでしょう。

乱視の原因

乱視は、目に入った光が網膜の一点で焦点を結べず、物がぼやけたり二重に見えたりする状態です。この原因は、主に目の表面にある角膜や、その内側にある水晶体の形状がゆがむことによって引き起こされます。多くの場合、遺伝的な要因、目の病気、外傷などが関係していると考えられています。

角膜のゆがみが主な原因です

角膜のゆがみは、乱視が起きる主要な原因の一つです。私たちの目の角膜は、本来なめらかな球体に近い形をしています。しかし、この角膜が真円ではなく、ラグビーボールのように特定の方向に歪んだ形になっていると、目に入った光が網膜の一点で集まれません。結果として、網膜上で複数の点で像を結んでしまうため、物がぼやけて見えたり、二重に見えたりする症状につながります。

この角膜のゆがみには、先天的な要因と後天的な要因があります。

・先天的な要因: 生まれつき角膜の形がわずかに歪んでいるケースです。この場合、特に症状がなければ問題になることは少ないでしょう。

・後天的な要因: 病気や外傷によって角膜の形が変化するケースです。例えば、円錐角膜などの病気や、目の手術後に角膜の形状が不規則に変化することで乱視が生じることがあります。

水晶体のゆがみも原因の一つです

角膜と同様に、目の内側にある水晶体も光を屈折させる重要な役割を果たしています。この水晶体の形が不均一にゆがんでしまうことも、乱視の原因となることがあります。水晶体のゆがみによる乱視は、主に以下のようなケースで生じやすい傾向が見られます。

・加齢に伴う変化: 年齢を重ねるにつれて、水晶体の弾力性が失われ、形がわずかに変化することがあります。

・白内障などの目の病気: 白内障(水晶体が濁る病気)になると、水晶体そのものの形状が変化することで、乱視が引き起こされる場合もあります。

遺伝的な要因も関係します

乱視には、遺伝的な要因も関係していると考えられています。ご家族に乱視の方がいらっしゃる場合、お子さんも乱視になる傾向が高いことがあります。これは、角膜や水晶体の形状が遺伝的に受け継がれることがあり、生まれつきそれらの形状に個人差が生じやすいためと考えられています。

目の病気や外傷が原因になることもあります

特定の目の病気や、目を怪我したことが原因で乱視が発生することもあります。これらの場合、角膜の表面が不規則に変化することで、通常の乱視とは異なる「不正乱視」と呼ばれる状態になることがあります。

主な原因として、以下の例が挙げられます。

・円錐角膜(えんすいかくまく): 角膜が徐々に薄くなり、円錐状に突出していく進行性の病気です。この角膜の形状変化によって、強い乱視が生じます。

・目の外傷: 目を強くぶつけたり、傷つけたりした際に、角膜の形状が変化して乱視になることがあります。

・目の手術後: 白内障手術や角膜の手術後、一時的または永続的に角膜の形状が変化し、乱視が生じるケースもあります。

これらの不正乱視は、角膜の表面が不規則なため、通常のメガネやソフトコンタクトレンズでは十分な矯正が難しいケースも存在します。

乱視の症状

乱視の症状は、単に「見えにくい」といった曖昧な感覚に留まらず、日常生活に支障をきたし、体調にも影響を及ぼすことがあります。目に入った光が網膜の一点で焦点を結べないため、脳は常にピントを合わせようと過剰に働き、知らず知らずのうちに大きな負担がかかっている状態といえるでしょう。

乱視による見え方は、具体的に次のような症状として現れることが多くあります。

・物がぼやけて見える、二重に見える

乱視は、目に入った光が網膜上で複数の位置に焦点を結んでしまうため、全体的に像が霞んだり、文字や物の輪郭が二重に見えたりします。たとえば、時計の針が複数に見えたり、PC画面の文字がブレて判読しにくくなったりすることがあります。脳は常にこのブレた像を補正しようとするため、無意識のうちに大きな負荷がかかり続けることになります。

・目の疲れ、肩こり、頭痛

物がぼやけて見える状態が続くと、脳はピントを合わせようと目の筋肉を過剰に使ってしまいます。これにより、目の奥にズッシリとした疲れを感じたり、肩や首の凝り、さらには頭痛まで引き起こしたりする可能性があります。特に、細かい作業を長時間行う際や、スマートフォンやPCの画面を見続ける際に顕著に現れやすくなります。

・夜間の見えにくさ、まぶしさ

暗い場所では瞳孔が大きく開くため、乱視の影響をより強く受けやすい傾向にあります。夜間の運転中に対向車のヘッドライトが大きくにじんで見えたり、街灯が放射状に広がり眩しく感じたりすることがあります。これは、光が広範囲に散乱するため、夜間の視界が著しく悪化する原因の一つといえます。

・集中力の低下

常にぼやけた物を見ている状態は、脳が情報を正確に処理するために多くのエネルギーを消費することを意味します。この状態が続くと、作業効率の低下や、長時間の読書、勉強、仕事に対する集中力の低下につながることがあります。

乱視によるこれらの症状は、日常生活の質(QOL)を大きく低下させる可能性があります。見え方の問題は、単に不便なだけでなく、心身の健康にも影響を及ぼしかねません。

乱視の症状を和らげる矯正方法としては、メガネやコンタクトレンズが一般的ですが、近年では、角膜の形状を一時的に変化させるオルソケラトロジーレンズの研究も進んでいます。特に、非球面ベースカーブを持つオルソケラトロジーレンズ(BCAレンズ)が、角膜の屈折力や周辺の光の屈折にどのような影響を与えるか、という研究があります※。この研究によると、BCAレンズは、一般的な球面設計のレンズに比べて、角膜をより非対称な形に変化させ、角膜周辺部分でより強く近視側に光を屈折させることが示されています。これは、乱視によって複数の焦点ができてしまう状態を改善し、より鮮明な視界を得られる可能性を示唆しており、乱視の症状軽減に貢献するかもしれません。

これらの症状に心当たりがある場合は、自己判断で済ませず、眼科で詳しい検査を受けることが、適切な対処への第一歩となります。

乱視の検査・診断

あなたの乱視の「正体」を見極めるためには、目の状態を多角的に詳しく調べることが欠かせません。乱視の種類や度数、その原因を正確に把握することで、一人ひとりに最も適した矯正方法を見つけ出すことができます。

当クリニックでは、乱視の状態を詳細に把握するため、主に以下の検査を組み合わせて行います。

・視力検査

通常の視力表を用いて、どれくらい文字が見えるかを測定します。乱視があると、遠くも近くもぼやけたり、二重に見えたりするため、視力の低下が初期段階でわかることがあります。この検査は、自覚症状と実際の視力の関係を把握する第一歩です。

・他覚的屈折検査(オートレフラクトメーターなど)

患者さんが意識しなくても、検査機器が機械的に目の屈折状態(近視・遠視・乱視の度数や軸の方向)を測定します。この検査により、おおよその乱視の有無や度数を客観的に知ることができ、自覚的な見え方との比較も可能です。

・自覚的屈折検査(視力検査器(フォロプター)など)

様々な度数のレンズを入れ替えながら、患者さん自身に「どちらがよりはっきり見えるか」を尋ね、最適なレンズ度数を決定する検査です。乱視を矯正するために必要な度数や軸の方向を、あなたの見え方に合わせて精密に特定できます。

・角膜トポグラフィー検査

角膜トポグラフィー検査は、目の表面にある角膜(黒目の部分)の形状を、まるで「地形図」のように細かく分析する検査です。角膜のどこが、どれくらい歪んでいるのかを立体的に把握できます。特に、オルソケラトロジーレンズのような角膜の形状を変化させる矯正方法を検討する際には、この角膜の地形図が非常に重要になります。

例えば、非球面ベースカーブを持つオルソケラトロジーレンズ(BCAレンズ)が、角膜の屈折力(CRP)にどのような影響を与えるかを評価する際には、角膜の中心8mmにおける水平方向や垂直方向など、様々な断面にわたって屈折力の変化を詳細に測定します。この変化を「相対角膜屈折力変化(RCRPC)」と呼びますが、この検査によって、乱視が角膜の歪みによるものか、あるいは水晶体の影響によるものかを判断し、より適切な矯正方針を立てる手助けとなります※。

・周辺屈折の計測

視野の中心だけでなく、周辺部分の光の屈折状態も測定することがあります。これは、目の全体的な光学特性を把握し、特に近視の進行を抑制する治療法などを検討する際に重要な情報となります。

オルソケラトロジーレンズの一種である非球面ベースカーブ(BCA)レンズの矯正効果を評価する研究では、網膜の鼻側や側側など複数の位置で周辺屈折を計測し、光の屈折がどのように変化するか(相対周辺屈折変化、RPRC)を詳しく見ています※。BCAレンズは、角膜周辺部分の屈折をより強く近視側に誘導することが報告されており、この効果が乱視の矯正や近視進行抑制にどのように寄与するかを判断する上で、周辺屈折の計測は欠かせません。

・細隙灯顕微鏡検査(スリットランプ検査)

細い光を当てて、角膜や水晶体、眼底など目の各部位を拡大して観察する検査です。この検査により、乱視の原因となる病気(円錐角膜など)がないか、また目の他の異常がないかを確認でき、目の健康状態を総合的に把握することができます。

これらの検査結果を総合的に判断することで、乱視の種類や度数、原因を特定し、一人ひとりの患者さんに合った最適な治療や矯正方法が提案されます。正確な診断は、快適な視生活を送るための大切な第一歩となるでしょう。

乱視の治療

乱視の治療は、目の状態や日々の生活スタイルに応じて多岐にわたる選択肢があります。適切な治療法を選ぶことが、視界のぼやけや目の疲れといった不快な症状を改善し、快適な毎日を送るための重要なステップとなるでしょう。ご自身の目の状態や希望を眼科医とよく相談し、最適な方法を見つけ出すことが大切です。

主な乱視の治療法は、次のとおりです。

・眼鏡による矯正

眼鏡は、乱視を矯正する最も一般的で手軽な方法です。乱視用のレンズには「円柱レンズ」と呼ばれる特殊なタイプが用いられます。このレンズは、光が特定の方向に強く屈折してしまう乱視の特性を打ち消すように設計されており、目に入った光の方向を調整することで、網膜上に正確な像を結ばせるように導きます。日常生活で手軽に視力を補正したい方や、初めて乱視を指摘された方にとって、まず検討される選択肢です。

・コンタクトレンズによる矯正

眼鏡が不便だと感じる場合や、より広い視野を求める際には、コンタクトレンズでの矯正が選択されます。乱視用のコンタクトレンズは「トーリックレンズ」と呼ばれ、レンズに特定のゆがみを持たせることで、乱視による光の屈折異常を補正します。

コンタクトレンズには、大きく分けてソフトコンタクトレンズとハードコンタクトレンズがあります。ソフトコンタクトレンズは装用感が良く、ハードコンタクトレンズはより鮮明な視界が得られやすいなど、それぞれに特徴があります。ご自身の目の状態やライフスタイルに合わせて、どちらのタイプが適しているかを眼科医と相談することが重要です。

・オルソケラトロジーレンズ

就寝中に特殊な形状のハードコンタクトレンズを装用し、睡眠中に角膜の形を一時的に変化させることで、日中は裸眼で過ごせるようにする治療法です。近視や乱視の進行を抑える効果も期待できるとされています。

このオルソケラトロジーレンズの研究は進んでおり、近年では、非球面ベースカーブ設計(BCA)と呼ばれるオルソケラトロジーレンズが、乱視の矯正においてどのような影響を与えるかについての研究も行われています。この研究では、8歳から12歳までの近視と軽度な乱視を持つ小児を対象に、従来の球面ベースカーブ設計のレンズと比較しました※。

研究の結果、非球面ベースカーブ設計のオルソケラトロジーレンズは、従来の球面設計のレンズよりも、角膜の形をより非対称に変化させる効果があることがわかりました。特に、角膜の中心部からやや外れた「周辺部」の光の屈折を、より近視の方向に誘導する作用が強いと報告されています。これを専門的には「相対角膜屈折力変化(RCRPC)」や「相対周辺屈折変化(RPRC)」の観点から評価していますが、非球面ベースカーブレンズでは、球面設計のレンズよりもこれらの変化が有意に大きいと示されたのです※。

つまり、非球面ベースカーブのレンズは、角膜の遠心側(中心から遠い部分)の屈折を近視化させ、同時に中心側の屈折を遠視化させることで、目の全体的な光学特性を調整し、乱視による複数の焦点ができてしまう状態を改善に導く可能性があります。このメカニズムが、乱視の症状緩和や近視進行抑制に寄与すると考えられる理由の一つといえるでしょう。

・手術による治療

眼鏡やコンタクトレンズを使わずに視力を改善したい場合には、手術による治療が検討されます。主な手術方法は以下のとおりです。

・レーシック(LASIK):レーザーを用いて角膜の表面を精密に削り、角膜の形状を調整することで、光の屈折を改善し、乱視を矯正します。

・ICL(眼内コンタクトレンズ):眼の中に特殊なコンタクトレンズを挿入し、天然の水晶体を温存したまま視力を矯正する方法です。角膜を削る必要がないため、角膜の薄さや乾燥が気になる方にも選択できる可能性があります。

これらの治療法の中から、乱視の度合い、目の健康状態、年齢、日々の活動量や仕事内容といったライフスタイルなどを総合的に考慮し、眼科医と十分に話し合いながら最適な方法を見つけ出しましょう。