有馬症候群

お子さんの発達が少しゆっくりだと感じたり、目の揺れが気になったりすることはありませんか。また、検診で腎臓に異常を指摘されたご経験はないでしょうか。一見するとそれぞれ別の問題に思えるこれらのサインが、実は「有馬症候群」という一つの遺伝性疾患につながっている可能性があります。

有馬症候群は、1974年に日本の医師によって世界で初めて報告された、生まれつき脳や眼、腎臓に特徴があらわれるまれな病気です。国の指定難病にも定められており、正しい知識を持つことが適切なサポートへの第一歩となります。

この記事では、有馬症候群とはどのような病気なのか、その原因から具体的な症状、診断や治療法に至るまでを詳しく解説します。ご本人やご家族が抱える不安に寄り添い、病気と向き合うための情報をお届けします。

有馬症候群の概要

有馬症候群(ありましょうこうぐん)は、生まれつき体の複数の場所に特徴があらわれる、遺伝性のまれな病気です。1974年に日本の有馬正髙(ありま まさたか)医師らにより、世界で初めて報告されました。

この病気は、主に以下の3つの特徴を併せ持つことが知られています。

  • 小脳虫部(しょうのうちゅうぶ)の低形成(ていけいせい) 体のバランスを保つ司令塔である脳の一部「小脳」の中心部分が、生まれつき十分に発達していない状態を指します。
  • 特徴的な目の異常 眼球が不規則に揺れる「眼振(がんしん)」や、光を感じるフィルムの役割を持つ網膜(もうまく)の異常が見られます。
  • 腎臓の嚢胞(のうほう) 血液をろ過する腎臓に、「嚢胞」という水のたまった袋が多数できることで、腎臓の機能に影響が出ることがあります。

これらの特徴は、それぞれが独立しているのではなく、互いに関連しながら症状としてあらわれます。

有馬症候群は、似た特徴を持つ「Joubert(ジュベール)症候群および関連疾患」という病気の一群に含まれます。日本では国の指定難病に定められており、診断基準を満たせば医療費の助成といった公的支援の対象となります。

有馬症候群の種類

有馬症候群は、それ自体で一つの病気として知られています。 しかし医学的には、より大きな病気のグループの一員と考えます。

そのグループを「ジュベール症候群および関連疾患(JBTS)」と呼びます。 このグループは、脳の「小脳虫部(しょうのうちゅうぶ)」という部分の形に、 生まれつき何らかの違いが見られる遺伝性の病気の集まりです。

ジュベール症候群の仲間たちは、原因となる遺伝子の違いなどによって、 脳の異常に加えて、体のどこに症状が出やすいかで分けられます。

有馬症候群は、このグループの中でも、特に腎臓や肝臓の症状が はっきりと現れるタイプとして位置づけられています。 病気を正しく分類することは、将来の健康管理にとても重要です。

病気のグループ

主な特徴

ジュベール症候群および関連疾患<br>(JBTS)

脳のバランスを保つ「小脳虫部」の形が<br> 生まれつき違うという共通点を持つ病気の集まりです。

有馬症候群

このグループの中で、特に腎臓に水の袋ができたり、<br> 肝臓が硬くなったりする症状を伴うことが特徴です。

その他の関連疾患

目の網膜の異常が中心になるタイプや、<br> 脳の異常だけが目立つタイプなど、様々な種類があります。

有馬症候群の原因

有馬症候群は、体の設計図である「遺伝子」の変化で起こる病気です。 生活習慣や生まれた後の環境が、直接の原因になることはありません。

原因として「CEP290(シーイーピーにひゃくきゅうじゅう)」という、 遺伝子の変化が深く関わっていることが判明しています。 この遺伝子は、体の細胞が持つ「繊毛(せんもう)」の機能に必要です。

  • 繊毛(せんもう)とは 細胞の表面にある、アンテナのような働きを持つ部分です。 周囲からの情報をキャッチし、細胞が正しく働くために重要です。 この繊毛がうまく機能しないと、脳や腎臓、目に影響が出ます。

遺伝の形式は「常染色体劣性(せんしょくたいれっせい)遺伝」です。 これは、ご両親から受け継ぐ遺伝子の組み合わせによって決まります。 「劣性」とは、遺伝子の働きが弱いという意味で、優劣ではありません。

人は同じ遺伝子を父と母から1つずつ、ペアで受け継ぎます。 CEP290遺伝子の場合、片方が正常なら症状は現れません。 ご両親がそれぞれ変化した遺伝子を1つずつ持つ「保因者」の場合、 お子さんがその両方を受け継ぐと、有馬症候群を発症します。 ご両親に症状がない場合がほとんどで、偶然の組み合わせで起こります。

有馬症候群の症状

有馬症候群の症状は、主に「脳」「眼」「腎臓」にあらわれます。 これらの症状は、体の設計図である遺伝子の変化が原因です。 症状の出方や程度には、お子さん一人ひとりで差があります。

1. 脳にあらわれる症状

生まれつき脳の形に特徴があり、特に発達に影響をおよぼします。 体のバランスを保つ小脳の働きが、十分でないことが主な原因です。

  • 運動の発達がゆっくりになる 筋肉の力が弱い「筋緊張低下(きんきんちょうていか)」が見られます。 そのため、首のすわりやおすわり、歩き始めなどが遅れる傾向があります。
  • 知的な発達に影響が出る 言葉の理解や表現など、知的な発達もゆっくり進むことがあります。 発達のペースは様々で、一人ひとりに合わせた丁寧な支援が重要です。

2. 眼にあらわれる症状

生まれつき眼の構造に特徴があり、多くは視力に影響します。 生まれて間もない頃の診察で、異常が見つかることが多いです。

  • 網膜(もうまく)の異常 眼の奥で光を感じるフィルムの役割を持つ網膜の一部が欠けます。 この状態を「コロボーマ」と呼び、見え方に影響を及ぼします。
  • 視力障害と眼振(がんしん) 視力が低いことが多く、ピントを合わせようとして、 眼球が不規則に揺れる「眼振」という症状を伴うことがあります。

3. 腎臓にあらわれる症状

腎臓の症状は、成長とともに少しずつ機能に影響が出ることが特徴です。 そのため、すぐには症状として現れない場合もあります。

  • 嚢胞腎(のうほうじん) 腎臓に「嚢胞」という水のたまった袋が多数できます。 この袋が正常な組織を圧迫し、腎臓の働きを徐々に低下させます。 そのため、定期的な検査で腎臓の状態を確認していくことが大切です。

有馬症候群の検査・診断

有馬症候群の診断は、一つの症状だけで決めることはありません。 脳や眼、腎臓など、体の様々な場所を丁寧に調べる必要があります。 パズルのピースを一つずつ集めるように、検査結果を組み合わせ、 総合的に判断することが、とても大切になります。

診断のために、主に以下のような専門的な検査を行います。 お子さんの体を守り、適切なサポートにつなげるための重要な検査です。

  • 頭部MRI検査 脳の形を詳しく見るための、強力な磁石を使った写真撮影です。 特に体のバランスを保つ「小脳」という部分に、 「臼歯徴候(きゅうしちょうこう)」という特徴がないかを確認します。 これは奥歯のような形に見えることから名付けられた、診断の目印です。
  • 眼科のくわしい検査 眼の専門医が、視力や眼の揺れ(眼振)を調べます。 また、光を感じる「網膜」という部分に生まれつき欠けた場所 (コロボーマ)がないか、特別な機械を使って詳しく確認します。
  • 腎臓の検査 体のフィルターである腎臓の状態を、複数の方法で調べます。 超音波(エコー)検査では、腎臓の形や水の袋(嚢胞)の有無を見ます。 血液検査や尿検査では、腎臓がきちんと働いているかを評価します。

これらの検査で有馬症候群が強く疑われた場合に、 診断をより確実にするために「遺伝子検査」を行うことがあります。 少量の血液から、病気の原因となる遺伝子の変化を直接調べます。 この検査で確定診断に至ることが、近年では多くなっています。

有馬症候群の治療

現在の医学では、有馬症候群の原因である遺伝子の変化を、 根本から治すための治療法はまだ見つかっていません。

そのため治療の目標は、今ある症状を和らげることになります。 そして、病気の進行をできるだけゆるやかにすることを目指します。 これを「対症療法(たいしょうりょうほう)」と呼びます。

治療は、一人の医師だけでなく、多くの専門家がチームで支えます。 小児科、腎臓の専門医、眼科、リハビリの先生などが協力し、 お子さん一人ひとりの状態に合わせた治療計画を立てていきます。

対象となる症状

主な治療法やサポート

腎臓の機能低下

定期的な検査で、腎臓の働きを注意深く見守ります。<br>機能が大きく落ちた場合は、透析(とうせき)療法や<br>腎移植(じんいしょく)といった治療を検討します。

眼の症状

まぶしさを抑える特別な眼鏡(遮光眼鏡)を使うことや、<br>見えにくさを補う「ロービジョンケア」が大切です。<br>拡大鏡を使ったり、生活環境を整えたりします。

発達の遅れ

「療育(りょういく)」と呼ばれるリハビリを行います。<br>お子さんのペースに合わせて成長を後押しするもので、<br>理学療法(運動)、作業療法(日常動作)、<br>言語聴覚療法(言葉)などがあります。

有馬症候群の治療は、長い期間にわたって続けていく必要があります。 定期的な診察で体の状態を確認し、その都度最適な治療を考え、 ご本人とご家族の生活を、継続的に支えていくことが大切です。