前眼部形成異常

前眼部形成異常

生まれたばかりの我が子の黒目が、すりガラスのように白く濁って見える。光をひどくまぶしがり、なかなか視線が合わない…。もし、そんなサインに気づいたら、それは「前眼部形成異常」という、生まれつきの病気の可能性を知らせる大切な合図かもしれません。

この病気は、お腹の中で目の前方部分がうまく形づくられないことで起こり、約4分の3は両目にみられます。角膜の濁りによって視力の発達が妨げられるだけでなく、2〜3割の方には目以外の症状が見られることもある、国の指定難病です。

しかし、近年の研究では20個以上もの原因遺伝子が報告され、診断や治療法も進化しています。この記事では、前眼部形成異常の最新の知見と、お子さんの大切な「見る力」を育むための治療法について、詳しく解説していきます。

前眼部形成異常の概要

前眼部形成異常は、目の前方部分のつくりが、お母さんのお腹の中でうまく形づくられないことで起こる、生まれつきの病気の総称です。

私たちの目の前側には、物を見るために大切な部分がたくさんあります。

  • 角膜(かくまく) 黒目の表面をおおう、光を通すための透明な膜です。
  • 虹彩(こうさい) 日本人の多くは茶色で、目に入る光の量を調節します。
  • 隅角(ぐうかく) 目の中を循環する房水(ぼうすい)という水の出口です。

この病気では、これらの部分に何らかの異常がみられます。特徴は角膜が白く濁ることで、視力の発達が妨げられることがあります。片目だけに起こることもありますが、約4分の3は両目にみられます。

原因の全てはまだわかっていませんが、遺伝子の変化が関係する場合があると考えられています。近年の研究では、この病気に関わる原因遺伝子が20個以上も報告されています。特にPAX6やPITX2といった遺伝子が有名です。

遺伝子検査が進歩したことで、原因と症状の関係がより詳しくわかるようになってきました。将来的には遺伝子に働きかける新しい治療法の開発も期待されています。この病気は国の医療費助成の対象となる「指定難病」です。

前眼部形成異常の種類

前眼部形成異常は、ひとつの病気を指す言葉ではありません。目の前の部分に生まれつき見られる、いくつかの状態をまとめた呼び名です。異常が起きる場所やその程度によって、いくつかの種類に分けられます。

代表的なものには、以下のような種類があります。

  • Rieger(リーガー)異常 本来は離れているはずの虹彩(茶目の部分)の一部が、角膜にくっついてしまう状態です。
  • Peters(ペータース)異常 角膜の後ろ側のつくりが不十分で、主に角膜の真ん中あたりが白く濁ってしまいます。
  • 強膜化角膜(きょうまくかかくまく) 透明なはずの角膜が、白目の組織(強膜)のような組織でおおわれ、白く見えます。
  • 前部ぶどう腫(ぜんぶぶどうしゅ) 角膜全体が薄くなり、目の中からの圧力に耐えきれず、前にとびだしてしまう状態です。

これらの状態には、遺伝子の変化が関係していることがあります。しかし、1つの病気が必ず1つの遺伝子だけで決まるわけではないことが、最近の研究でわかってきました。

例えば、虹彩がほとんどない「無虹彩症」は、PAX6という遺伝子が主な原因として有名です。しかし、FOXC1など、他の遺伝子の変化が原因で無虹彩症が起こることも報告されています。

赤ちゃんがお母さんのお腹の中にいるごく初期の段階で、たくさんの遺伝子が協力し合って目を作っています。この複雑な働きがうまくいかないと、目の構造がうまく作られず、様々なタイプの異常が起こると考えられています。

前眼部形成異常の原因

この病気がなぜ起こるのか、原因はまだ全てがわかっているわけではありません。しかし、主に次の3つの要因が関係していると考えられています。

  • 遺伝子の変化 お母さんのお腹の中で赤ちゃんの目が作られるとき、その設計図になるのが遺伝子です。この設計図の一部に変化が起こることが、原因の一つとして知られています。
    目の発達には、たくさんの遺伝子がオーケストラのように協力し合って働いています。最近の研究では、この病気に関わる原因遺伝子が20個以上も見つかっています。特にPAX6やPITX2といった遺伝子が有名です。
    大切なのは、1つの病気が必ずしも1つの遺伝子だけで決まるわけではないことです。例えば、虹彩がほとんどない「無虹彩症」は、PAX6遺伝子が主な原因とされますが、他の遺伝子の変化で起こることも報告されています。ご家族に同じ病気の方がいなくても起こることがほとんどです。
  • 目の発達中の偶然のトラブル 遺伝とは関係なく、偶然に起こることも多いと考えられています。お腹の中にいるごく初期(妊娠5~8週ごろ)は、目の大切な部分が作られるとても重要な時期です。
    この時期に何らかの理由で目の発達がうまくいかなかった場合に、異常が起こることがあります。原因がはっきりと特定できないケースの多くは、この要因によるものとされています。
  • 環境の影響 これは非常にまれなケースですが、お母さんの妊娠中の状態が影響することもあります。例えば、妊娠の早い時期にお母さんが風疹ウイルスにかかった場合などが知られています。

このように、原因は一つではありません。遺伝子の変化や発達中のトラブルなどが、複雑に関わり合って起こると考えられています。

前眼部形成異常の症状

前眼部形成異常の症状は、生まれつき目のつくりに問題があるため、さまざまな形で現れます。生まれたときからわかるサインもあれば、大きくなってから出てくるものもあります。

生まれつき見られる主な症状

生まれたばかりの赤ちゃんでも、ご家族が気づけるサインがあります。

  • 黒目の濁り 黒目の表面が、すりガラスのように白っぽく濁って見えます。濁りの程度は人によってさまざまです。写真のフラッシュをたいても、目が赤く光らないことで気づかれることもあります。
  • まぶしがる(羞明:しゅうめい) 目に入る光の量を調節する虹彩(茶目の部分)の働きが不十分なため、光をとてもまぶしく感じます。明るい場所で目を細めたり、涙が出たりする様子が見られます。
  • 目で物を追わない 赤ちゃんはおもちゃなどを目で追いますが、この反応が弱いことがあります。なかなか視線が合わない、というのもサインの一つです。

これらの症状があると、光がうまく目の中に入らず、視力が育ちにくい「弱視」という状態になることがあります。

成長とともに出てくる可能性のある症状

成長の過程で、新たに目の病気が見つかることがあります。代表的なものは、目のレンズが濁る「白内障」や、目の圧力が高くなる「緑内障」です。

また、まれに痛みを感じにくい病気を合併している場合は、特に注意が必要です。例えば「無痛無汗症」という病気では、目にゴミが入っても痛みを感じません。

そのため、自分で目を強くこすってしまい、角膜に傷がついたり(角膜潰瘍)、濁りがひどくなったり(角膜混濁)することがあります。これは、涙の量が少なかったり、ゴミを追い出すための反射が弱かったりすることも原因とされています。

全身にあらわれる症状

前眼部形成異常のある方の2〜3割に、目以外の症状が見られることがあります。

  • 歯の異常
  • 顔の骨の異常
  • 難聴
  • 発達の遅れ

気になる症状があれば、どんな小さなことでも、早めに眼科へ相談することが大切です。

前眼部形成異常の検査・診断

お子さんの黒目が白っぽく見えたり、光をひどくまぶしがったりするなら、この病気の可能性があります。眼科では、目の状態をくわしく調べるために、いくつかの検査をおこないます。

まずおこなわれるのは、細隙灯顕微鏡(さいげきとうけんびきょう)検査です。目に細い光をあてて、顕微鏡で角膜や虹彩の状態をくわしく観察する、眼科の基本的な検査です。この検査で、角膜の濁りの程度や虹彩の形に異常がないかを確認します。

角膜の濁りが強くて、目の中がよく見えない場合には、さらにくわしい検査が必要です。

  • OCT(光干渉断層計)検査 目に直接ふれることなく、光を使って目の断面図を撮影する検査です。特に「前眼部OCT」は、角膜が濁っていても、目の前のほうの構造をこまかく評価できます。このおかげで、より正確な診断や治療方針の決定に役立ちます。
  • 超音波検査(エコー検査) OCTでも見えにくい、水晶体や網膜といった目の奥の状態を調べるために使います。

これらの検査に加えて、緑内障を合併することがあるため、眼圧(目の硬さ)をはかる検査も重要です。

検査の種類

目的

細隙灯顕微鏡検査

角膜や虹彩の状態を直接観察する

OCT検査

目の断面を撮影し、内部の構造をくわしく調べる(角膜が濁っていても可能)

超音波検査

目の奥の状態(水晶体や網膜)を確認する

眼圧検査

緑内障の合併がないか調べる

遺伝性の病気がうたがわれる場合は遺伝子検査をおこなうこともあります。また、全身の合併症を調べるために小児科など他の科と協力することも大切です。これらの検査結果を総合的にみて、診断がくだされます。

前眼部形成異常の治療

この病気の治療は、生まれつきの目の形を完全に元に戻すことが目的ではありません。お子さんの視力の発達を最大限にうながし、生活の質をより良くすることを目指します。

治療は、お子さん一人ひとりの目の状態や、他に合併している病気があるかどうかで変わります。主に、以下の3つの方法を組み合わせて丁寧に進めていきます。

1. 合併症に対する治療

緑内障や白内障といった、他の目の病気が一緒におこることがあります。これらの病気に対しては、お薬や手術で治療をおこないます。

  • お薬による治療 緑内障がある場合は、目の圧力(眼圧)を下げる目薬を使います。また、角膜移植の手術後には、特別な目薬が欠かせません。これは、体を守る「免疫」という仕組みが、移植された角膜を異物と間違えて攻撃する「拒絶反応」を抑えるためです。免疫は本来、体を守る大切な働きですが、時には過剰に反応して組織を傷つけてしまうことがあるのです。
  • 手術による治療 白内障が進んで見えにくくなった場合は、濁ったレンズを取り除く手術をおこないます。目薬だけでは眼圧が下がらない緑内障に対しても、手術が考えられます。

2. 角膜の濁りに対する治療

角膜の濁りがとても強く、視力の発達に大きな影響がある場合には、角膜移植という手術が選択肢になります。しかし、小さなお子さんへの角膜移植は技術的に難しく、手術後に拒絶反応が起きる可能性もあるため、その必要性はとても慎重に判断されます。

3. 視る力を育てるサポート

見えにくさを補い、残っている視力を最大限に活かすためのサポート(ロービジョンケア)も、非常に大切な治療の一つです。

サポートの種類

具体的な内容

弱視の治療

片方の視力が特に弱い場合、よく見える方の目をアイパッチで隠し、弱い方の目で見る訓練をします。

まぶしさ対策

光を強く感じる場合は、帽子や光を和らげる特殊なメガネ(遮光眼鏡)、色付きコンタクトレンズを使います。

視覚補助具

文字や絵が見えにくいときに、拡大鏡や拡大読書器などを使って、見え方を助けます。

これらの治療方針は、OCT(光干渉断層計)などの精密な検査で、目の状態を正確に把握した上で決められます。OCTは角膜が濁っていても内部の構造を詳しく評価できるため、手術の計画を立てるのに大きく貢献します。治療は長く続くことが多いので、定期的に眼科を受診し、お子さんの成長に合わせて最適な方法を相談していくことが重要です。