なんだか疲れやすい、原因不明のだるさが続く…。その不調、もしかしたら脳の中心にある「司令塔」の機能低下が原因かもしれません。全身のホルモンバランスを司る下垂体の働きが弱まる「下垂体前葉機能低下症」は、症状がゆっくり進むため、自分では気づきにくいのが特徴です。
原因は、下垂体にできる腫瘍やその治療だけでなく、出産時の大量出血や、最近では一部のがん治療薬が引き金になることも報告されています。不足するホルモンの種類によって、強い倦怠感や寒がり、不妊といった多様なサインが現れるため、見過ごされやすいのです。
この病気は生涯にわたる治療が必要なことが多いですが、不足したホルモンを適切に補うことで、健康な人と変わらない生活を送ることも可能です。この記事では、その詳しい原因からご自身で確認できる症状、最新の治療法までを専門的に解説します。
下垂体前葉機能低下症の概要
私たちの脳の中心には、全身のホルモンを調整する「司令塔」があります。 この小さな器官は「下垂体」と呼ばれ、体の調和を保つ重要な役目を担います。
この司令塔の前側(前葉)の働きが弱まり、ホルモンが十分に作れなくなる。 それが下垂体前葉機能低下症です。 不足するホルモンの種類や程度によって、様々な影響が現れます。
下垂体前葉からは、以下のような生命維持に不可欠なホルモンが分泌されます。
この病気は生涯にわたる治療が必要となることが多いです。 しかし、不足したホルモンを薬で適切に補充することで症状は管理できます。
実際に、早期に診断され治療を開始すれば、多くの方は健康な人と変わらない生活の質を保てることが研究で示されています。 適切な治療を続けることで、元気に過ごすことが期待できます。 特に妊娠を希望される場合など、より丁寧なホルモン管理が大切になります。
下垂体前葉機能低下症の種類
下垂体前葉機能低下症は、いつ発症したかによって、大きく2つのタイプに分けられます。 生まれつきの「先天性」と、成長してから起こる「後天性」です。
生まれつきの要因(先天性)
生まれつき、下垂体のホルモンを作り出す力が弱いタイプです。 遺伝子の設計図の問題や、胎児期の成長過程が影響します。
日本では、生後すぐに行われる新生児マススクリーニング検査で発見されることがほとんどです。 ある研究では、早期に診断され治療を始めれば、多くの方は健康な人と変わらない生活を送れると示されています。
生涯にわたるホルモン補充が必要ですが、きちんと治療を続ければ元気に成長できます。 特に女性が将来妊娠を考える際は、合併症を防ぐため、より丁寧なホルモン管理が大切になります。
生まれた後の要因(後天性)
生まれた後に、何らかの原因で発症するタイプで、多くはこちらに該当します。 原因はさまざまですが、主に以下のようなものが挙げられます。
- 下垂体やその近くにできた腫瘍に圧迫されることが原因です。
- また、脳腫瘍などに対する手術や放射線治療の影響も考えられます。
- 多くの研究を分析した結果、特に首周りへの放射線治療は、甲状腺の働きも低下させる危険因子だと報告されています。
- そのため、こうした治療を受けた方は、定期的なホルモン検査がとても重要です。
- 出産時の大量出血により、下垂体がダメージを受けることで起こります。
- 本来体を守るはずの免疫が、誤って下垂体を攻撃してしまう状態です。
- 事故による頭部外傷や、一部のがん治療薬なども原因となることがあります。
下垂体前葉機能低下症の原因
下垂体の働きが弱まる原因は、決して一つではありません。 生まれた後に何らかのきっかけで起こる「後天性」がほとんどです。
最も多いのは、下垂体やその周辺に腫瘍ができることです。 下垂体にできる「下垂体腺腫」という良性のこぶが代表的です。 腫瘍が大きくなると、正常な下垂体を圧迫してしまいます。 その結果、ホルモンを作り出す機能が妨げられるのです。
また、脳腫瘍などの手術や放射線治療が原因となることもあります。 特に頭や首周りへの放射線治療は注意が必要です。 複数の研究を分析した結果、甲状腺の機能が低下する危険性を高めることが報告されています。 このような治療を受けた方は、定期的なホルモン検査が大切です。
その他にも、以下のような後天的な原因が考えられます。
- 出産時の大量出血により、下垂体がダメージを受ける状態です。
- 本来体を守る免疫が、誤って下垂体を攻撃してしまう病気です。
- 事故による頭部外傷や、一部のがん治療薬なども原因になります。
一方、生まれつきホルモンを作る力が弱い「先天性」の場合もあります。 これは、ホルモンを作るための遺伝子の設計図に問題があることが一因です。 遺伝子の設計図に問題があると、ホルモンを作る過程でトラブルが起こります。 そして、生まれつきホルモンが不足することがあるのです。
下垂体前葉機能低下症の症状
不足するホルモンの種類や量によって、現れる症状は人それぞれです。 症状はゆっくりと進むため、ご自身では気づきにくいことも少なくありません。
不足するホルモンごとに、どのようなサインが見られるか確認してみましょう。
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不足するホルモン
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主な症状
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副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)
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・疲れやすい、だるい<br>・食欲がない、体重が減る<br>・血圧が低い、めまいやふらつき
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甲状腺刺激ホルモン(TSH)
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・寒がり、むくみ<br>・皮膚がカサカサになる、髪が抜ける<br>・便秘、脈が遅い、気力がわかない
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成長ホルモン(GH)
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【お子さま】<br>・身長の伸びが悪い<br>【おとな】<br>・体脂肪が増え、筋肉が減る<br>・コレステロール値の上昇、骨がもろくなる
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性腺刺激ホルモン(LH、FSH)
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【女性】<br>・生理が止まる、不順になる<br>【男性】<br>・性欲がなくなる、ED(勃起障害)<br>【男女共通】<br>・不妊の原因になる
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プロラクチン(PRL)
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・出産後に母乳が出にくい
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これらの症状は、一つだけではなく複数同時に現れることもあります。
特に、ACTHが不足すると「副腎不全」という危険な状態に陥ることがあります。 最近では、がん治療で使われる免疫の薬が原因で下垂体に炎症が起き、副腎不全を伴うケースも報告されています。
また、甲状腺機能の低下は、疲れやすさなど多様な症状で生活の質を大きく下げてしまいます。 喉のがん手術や放射線治療がきっかけで起こる可能性も研究で示されています。 もし気になることがあれば、専門の医療機関へご相談ください。
下垂体前葉機能低下症の検査・診断
下垂体前葉機能低下症の診断は、まるでパズルのピースを一つずつ集めるように、丁寧に進められます。 問診で詳しくお話を伺った後、主に「血液検査」と「画像検査」を行います。 これらの検査で、体のどこに、どのような問題が起きているのかを突き止めます。
血液検査でホルモンの状態を知る
血液検査では、体の中を流れるホルモンの量を測定します。 どのホルモンがどのくらい足りないのかを調べる、とても大切な検査です。 この検査には、いくつかの種類があります。
- ホルモンの基礎値測定 血液中の各ホルモンの基本的な量を測ります。 司令塔である下垂体のホルモンと、指令を受ける各臓器のホルモンの両方を見ます。
- ホルモン負荷試験 下垂体に「もっとホルモンを出して」と命令する薬を使います。 この命令に下垂体がきちんと反応できるか、その元気度を試す検査です。
- 遺伝子検査 生まれつきの病気が疑われる場合、原因を特定するために行います。 例えば、赤ちゃんの先天性甲状腺機能低下症では、原因遺伝子を調べることで、より正確な診断や早期治療に繋がります。 ただし、この検査だけで診断が決まるわけではなく、他の結果と総合的に判断します。
なお、不妊のお悩みで受診された場合、以前は甲状腺機能の検査が広く行われていました。 しかし最近の研究では、症状のない方に画一的な検査や治療を行っても、必ずしも妊娠率が改善するわけではないと分かっています。 そのため、一人ひとりの状況に応じて、本当に必要な検査を慎重に選ぶことが重要です。
画像検査で脳の状態を見る
画像検査では、脳の司令塔である下垂体そのものや、その周りに原因がないかを調べます。 まるで脳の中をのぞき見るように、詳しく観察します。
これらの検査で、下垂体に腫瘍などの異常がないか、形や大きさは正常かを確認します。 これらの検査結果をすべて組み合わせ、最終的な診断を確定します。
下垂体前葉機能低下症の治療
下垂体前葉機能低下症の治療には、大きく2つの柱があります。 1つは原因となっている病気へのアプローチです。 もう1つは、不足したホルモンを薬で補う「ホルモン補充療法」です。
下垂体にできた腫瘍が原因の場合は、手術で取り除くことが検討されます。 また近年、がん治療薬が原因で下垂体に炎症が起きるケースも報告されています。 この場合、以前はステロイドという薬を多く使う治療が行われていました。
しかし最近の研究では、この治療法は副腎機能の回復にはつながらないと分かってきました。 むしろ血糖値が高くなるなどの副作用のリスクも指摘されています。 そのため、強い症状がなければ、この治療は行われにくくなっています。
多くの場合、治療の中心となるのはホルモン補充療法です。 体内で作れなくなったホルモンを、飲み薬や注射で補う治療法です。 どのホルモンを補うかは、血液検査の結果をもとに慎重に決定します。
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不足しているホルモン
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補充するお薬(ホルモンの種類)
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副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)
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副腎皮質ホルモン(ステロイド)
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甲状腺刺激ホルモン(TSH)
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甲状腺ホルモン
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性腺刺激ホルモン(LH、FSH)
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男性ホルモンや女性ホルモン
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成長ホルモン(GH)
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成長ホルモン(注射のお薬)
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中でも、生命の維持に欠かせない副腎皮質ホルモンと甲状腺ホルモンの補充は特に重要です。
また、性腺刺激ホルモンの低下は、不妊の原因となることがあります。 ただし、甲状腺の機能が少しだけ低い不妊症の方もいます。 そのような方全員に甲状腺ホルモンを補充しても、必ずしも妊娠や出産の確率を高めるわけではない、という考え方が主流になりつつあります。 これは、画一的な治療の効果を支持する証拠が不十分だと、複数の研究で示されたためです。 そのため、一人ひとりの状態に合わせた治療の選択がより重視されます。
治療は生涯にわたって続けることがほとんどです。 自己判断でお薬をやめてしまわず、定期的に通院しながら医師と一緒に治療を進めていきましょう。