早産児の貧血
小さく生まれてきた赤ちゃんが、元気に育ってくれることはすべての親の願いです。しかし、予定日よりも早く生まれてきた赤ちゃんは、体の中で血液が足りなくなる「貧血」になりやすいことをご存じでしょうか?これは、私たち医師がとくに注意して見守っていることの一つです。
赤ちゃんが十分な鉄分を貯める時間が足りなかったり、自分で血液を作る力がまだ未熟だったりすることが主な原因です。世界中で約3割のお母さんが貧血状態にあると報告されており、生まれてすぐの赤ちゃんの神経発達への影響は限定的とされますが、長期的な影響はまだ不明な点も多いのが現状です。
顔色が青白い、ミルクの飲みが悪いなど、赤ちゃんからのサインを見逃さず、適切なケアを始めることが何よりも大切です。この記事では、早産児の貧血について、その原因から検査、治療まで詳しく解説します。
早産児の貧血の概要
予定日よりも早く生まれてきた赤ちゃんは、体の中で血液が足りなくなる「貧血」という状態になることがよくあります。これは、私たち医師がとくに注意して見守っていることの一つです。
なぜ、早く生まれた赤ちゃんは貧血になりやすいのでしょうか?主な理由は2つあります。
- 鉄分を貯める時間が足りなかったから
- 赤ちゃんは、お母さんのお腹の中で過ごす最後の数ヶ月間に、血液のもとになる「鉄分」をたくさん蓄えます。この鉄分は、赤ちゃんの体や脳が元気に育つためにとても大切です。
- しかし、早く生まれてくると、この大切な鉄分を十分に貯める時間がなくなってしまい、貧血になりやすくなります。
- 自分で血液を作る力がまだ未熟だから
- 生まれて間もない赤ちゃんの体は、自分で新しい血液をたくさん作る力が、まだ十分に育っていません。そのため、少しでも鉄分が不足すると、すぐに貧血になってしまうことがあります。
世界のお母さんと赤ちゃんの現状
世界中の約3割のお母さんが、貧血、特に鉄分が不足した状態にあると報告されています。鉄分は、お母さんのお腹の中で育つ赤ちゃんの脳の発達に欠かせない栄養素です。
このようなお母さんの貧血が、生まれてくる赤ちゃんの健康にどう影響するかは、世界中で多くの研究が行われています。ある研究では、お母さんの貧血が、生まれたばかりの赤ちゃんの「学習の得意さ」や「運動能力」といった神経の発達に、すぐに分かるような大きな影響を与えるわけではないことが示されました。
しかし、これはあくまで「生まれてすぐ」という短い期間での観察の結果です。赤ちゃんがこれから大きく成長していく中で、将来的にどのような影響があるのかは、まだ十分に分かっていません。だからこそ、私たち医療者は、早産で生まれた赤ちゃんの鉄分の状態を、引き続き注意深く見守っていく必要があると考えています。
貧血のサインに気づくために
早産児の貧血は、次のようなサインとして現れることがあります。
- 顔色が青白い
- あまり元気がないように見える
- ミルクを飲む量が少ない、飲みたがらない
もし、お子さんにこのような様子が少しでも見られたら、「いつものことかな?」と自己判断せずに、かかりつけの小児科医や担当の医師に遠慮なくご相談ください。早期に発見し、適切なケアを始めることが、赤ちゃんの健やかな成長を支えるために最も大切なことだからです。私たちと一緒に、小さく生まれた命を大切に育んでいきましょう。
早産児の貧血の種類
私たち医師が日々多くの赤ちゃんを診る中で、予定日よりも早く生まれてきた赤ちゃんに特に注意して見守っていることの一つに「貧血」があります。早産で生まれた赤ちゃんに見られる貧血は、大きく分けて二つの種類があります。
一つ目は、**「生理的貧血」**と呼ばれるものです。これは、赤ちゃんがお母さんのお腹の中にいた頃と、生まれた後で、体の中での酸素の使い方が変わることによって起こる、多くの赤ちゃんに見られる自然な変化です。
- お腹の中では酸素が少ない
- 赤ちゃんはお母さんのお腹の中で、少ない酸素でも元気に過ごせるように、たくさんの赤い血(赤血球)を持っていました。
- 生まれた後は酸素がたくさん
- 生まれて自分の力で息を吸い始めると、空気中の酸素をたくさん取り込めるようになります。すると、お腹の中にいた頃にたくさん持っていた赤血球が、一時的に減っていくのです。
しかし、早く生まれてきた赤ちゃんは、この新しい血液をどんどん作る力が、まだ十分に育っていません。さらに、体が急激に大きくなろうとすることで、体が必要とする赤血球の数に追いつけず、この生理的な貧血がより強く、早く現れる傾向があります。
もう一つは、**「鉄分が足りなくなってしまう貧血」**です。これを、特に「鉄欠乏性貧血」と呼ぶこともあります。
- 鉄分を貯める時間が足りない
- 早く生まれてきた赤ちゃんは、お母さんのお腹の中で、血液のもとになる大切な「鉄分」を十分に貯める時間が足りなかったりします。
- 成長に必要な鉄分が足りない
- 生まれた後も体がぐんぐん成長するので、たくさんの鉄分が必要になります。そのため、鉄分が不足しやすく、新しい血液を十分に作ることができず、貧血になってしまうことがあります。
お母さんの貧血と赤ちゃんへの影響について
お母さんが妊娠中に貧血の治療を受けた場合、点滴で鉄剤を使うか、飲み薬で鉄剤を使うかに関わらず、赤ちゃんの早産や出生後の体重、死亡率といった、生まれてすぐの状態に大きな違いを与えないことが報告されています。
また、お母さんの貧血が、生まれたばかりの赤ちゃんの「学習能力」や「運動能力」といった神経の発達に、すぐに分かるような大きな影響を与えるわけではない、という報告もあります。これらの情報は、ご家族の皆様が赤ちゃんの健康について心配される際に、少しでも安心につながるかもしれません。
しかし、これはあくまで「生まれてすぐ」という短い期間での観察結果です。赤ちゃんがこれから大きく成長していく中で、将来的にどのような影響があるのかは、まだ十分に分かっていません。だからこそ、私たち医師は、引き続き赤ちゃんの成長を見守っていくことが大切だと考えています。
どちらの貧血も、赤ちゃんの元気な成長と発達に影響を与える可能性があるため、私たち医師は、適切な時期に診断し、必要に応じてサポートしていくことがとても大切だと考えています。
早産児の貧血の原因
予定日よりも早く生まれてきた赤ちゃんは、いくつかの理由から体が血液不足になる「貧血」になりやすい傾向があります。私たち医師は、その原因を詳しく知り、赤ちゃんが元気に育つための手助けをしたいと考えています。
赤ちゃんが貧血になる主な原因は、次の通りです。
- 体の中に鉄分が足りないから
- 赤ちゃんは、お母さんのお腹の中で過ごす最後の数ヶ月間に、たくさんの鉄分を蓄えます。
- この鉄分は、血液の赤い色のもと(赤血球)を作るためにとても大切です。
- しかし、早く生まれてくると、この大切な鉄分を十分に体に貯める時間が足りなくなってしまいます。
- いわば、貯金が少ない状態で生まれてくるようなものです。
- 自分で血液を作る力が未熟だから
- 生まれてすぐの赤ちゃんは、大人に比べて新しい赤血球を作る力が、まだ十分ではありません。
- 赤血球を作るための「ホルモン(体を動かす指令を出す物質)」の働きも、まだ育ちきっていないことがあります。
- さらに、早産で生まれた赤ちゃんの赤血球は、健康な赤ちゃんの赤血球と比べて、早く寿命が来てしまう傾向があります。
- そのため、どんどん新しい赤血球を作らないと、すぐに貧血になってしまいます。
また、赤ちゃんを取り巻く環境も貧血の原因になることがあります。
- 治療のための採血が多いから
- 早く生まれた赤ちゃんは、健康状態をこまかく確認するために、少量の血液検査を何度も行うことがあります。
- この採血が、わずかずつですが赤ちゃんの貧血につながることがあります。
- お母さんの貧血も影響するから
- お母さんが妊娠中に貧血だった場合、赤ちゃんに十分な鉄分が送られないことがあります。
- お母さんが貧血の治療を受けたときに、鉄剤を点滴で使う場合と、飲み薬で使う場合があります。
- どちらの方法で鉄剤を使っても、生まれてくる赤ちゃんの早産や出生後の体重、亡くなる割合には、大きな違いがないことが研究で分かっています。
- ただし、赤ちゃんへ送られる鉄分の貯蔵量を示す「フェリチン」という数値は、点滴で鉄剤を使ったお母さんの赤ちゃんの方が、わずかに高くなるという報告もあります。
- このわずかな違いが赤ちゃんにどれくらい影響するかは、まだはっきりと分かっていません。
- 双子や三つ子など多胎妊娠の場合も貧血になりやすいから
- お腹の中に複数の赤ちゃんがいる「多胎妊娠」の場合、早産になるリスクが高まります。
- 特に、一つの胎盤を共有する双子(一絨毛膜性双胎)では、片方の赤ちゃんに血液が多く流れて、もう片方の赤ちゃんが貧血になるリスクもあると言われています。
- このような双子の貧血に対して、お母さんのお腹の中で赤ちゃんに輸血をする治療法があります。
- 私たち医師は、この治療が、赤ちゃんが生まれた後の状態や脳の発達に良い影響を与えるのかどうかを、さらに詳しく調べているところです。
- 現時点では、この治療が確実に良い結果をもたらすという十分な証拠はまだ少ないため、引き続き多くの研究が必要だと考えられています。
これらの原因が重なり合うことで、早く生まれた赤ちゃんは貧血になりやすくなります。私たち医師は、それぞれの赤ちゃんの状況を注意深く見守りながら、最適なケアを提供できるよう努めています。
早産児の貧血の症状
早産で生まれてきた赤ちゃんは、まだ体が未熟なため、貧血になるといくつかの大切なサインを見せることがあります。私たち医師は、これらのサインを見つけることで、赤ちゃんにどのようなお手伝いが必要かを知る手がかりにしています。ご家族の方も、赤ちゃんの小さな変化に気づいてあげることが、とても大切です。
貧血の赤ちゃんに見られる主なサインは、次のようなものです。
- 顔色が青白い
- いつも元気な赤ちゃんのピンク色の肌と比べて、唇や爪、手のひらが白っぽく見えることがあります。
- 特に、口の中の粘膜の色が薄い場合も、貧血のサインの一つです。
- 元気がない、ぐったりしている
- 普段よりも手足を活発に動かさず、ぐったりしているように見えることがあります。
- 泣き声が小さくなったり、抱っこしてもあまり反応がなかったり、あやすとすぐに眠ってしまう様子もサインかもしれません。
- 赤ちゃんが遊びたがらない、またはいつもより起きている時間が短いといった変化にも注目しましょう。
- ミルクの飲みが悪い
- いつもの量よりもミルクや母乳を飲む量が減ったり、途中で疲れてしまい、飲みきれなくなったりすることがあります。
- 哺乳力が弱くなったと感じる場合も、貧血の可能性を考える必要があります。
- 呼吸が速い、苦しそう
- 体に必要な酸素が十分に運べないため、呼吸の回数が普段よりも増えることがあります。
- 息を吸うときに鼻の穴が広がる「鼻翼呼吸」や、胸がへこむ「陥没呼吸」が見られる場合もあります。
- 赤ちゃんの呼吸の様子がいつもと違うと感じたら、一分間に何回呼吸しているか数えてみるのも良いでしょう。
- 睡眠時間が長い
- 一日中ずっと眠っている時間が長く、起こしてもなかなか目覚めない、すぐに寝てしまうことも貧血のサインの一つです。
- 赤ちゃんがだるそうに見える場合は、注意が必要です。
これらのサインは、赤ちゃんの体の状態を知る上で非常に重要な手がかりとなります。
また、ある研究では、お母さんが妊娠中に貧血だったとしても、生まれてすぐの赤ちゃんの「学習の得意さ(学習習熟)」や「特定の物事へ関心を示すこと(指向性)」、そして「全身を使った大きな動きをする能力(粗大運動機能)」などに、すぐにわかるような大きな影響はなかったと報告されています。
しかし、これはあくまで「生まれてすぐ」という短い期間での観察結果です。赤ちゃんがこれから大きく成長していく中で、将来的にどのような影響があるのかは、まだ十分にわかっていません。だからこそ、私たち医師は、引き続き赤ちゃんの成長を注意深く見守っていくことが大切だと考えています。
赤ちゃんの様子に少しでも気になる変化があれば、「気のせいかな」と自己判断せずに、遠慮なく担当の小児科医や看護師に相談してください。早期に貧血のサインを見つけて、適切なケアを始めることが、赤ちゃんの健やかな成長を支えるために最も大切なことだからです。
早産児の貧血の検査・診断
予定日よりも早く生まれてきた赤ちゃんは、体の中で血液を作る材料が十分に貯まっていないことがあります。私たち医師は、赤ちゃんの元気な成長を支えるために、貧血を早く見つけることがとても大切だと考えています。
そのため、赤ちゃんに貧血のサインが見られたら、血液検査を行い、体の状態を詳しく調べます。血液検査では、主に次の項目に注目します。
- ヘモグロビン濃度(Hb)
- 血液の中にある「ヘモグロビン」という赤い色素の量を測ります。
- ヘモグロビンは、体の隅々まで酸素を運ぶ、とても大切な役割をしています。
- この数値が低いと、酸素が十分に運べず貧血と診断されます。
- ヘマトクリット値(Ht)
- 血液全体の量に対して、赤い血の粒(赤血球)がどれくらい含まれているかを見る数値です。
- この割合が低いと、血液が薄い状態だと考えられます。
- 赤血球数(RBC)
- 血液の中に、どれくらいの赤血球があるかを数えます。
- 赤血球の数が少ないと、貧血の可能性があります。
- フェリチン値
- 赤ちゃんの体に、鉄分がどれくらい貯金されているかを示す大切な数値です。
- 早産で生まれた赤ちゃんは、お母さんのお腹の中で鉄分を貯める時間が短いことがあります。
- このフェリチン値が低いと、鉄分不足による貧血を疑います。
- 私たち医師は、この数値から、赤ちゃんが将来的に鉄分不足になりやすいかを予測します。
- お母さんが妊娠中に貧血の治療を受けていた場合、点滴で鉄剤を使った赤ちゃんのほうが、臍帯血のフェリチン値がわずかに高いという報告があります。
- しかし、このわずかな違いが、赤ちゃんの健康にどれほどの影響を与えるかは、まだ十分に分かっていません。
- 網状赤血球数(Ret)
- 新しく作られたばかりの若い赤血球の割合を調べます。
- この数値を見ると、赤ちゃんの体が、どれくらい一生懸命新しい血液を作ろうとしているかがわかります。
これらの検査結果と、赤ちゃんの生まれた時の週齢、体重、現在の元気な様子などを総合的に見て、私たち医師は貧血かどうかを判断します。一時的な貧血なのか、それとも鉄分が足りない貧血なのかによって、今後のサポートの仕方も変わってきます。
検査の結果や赤ちゃんの状態について、心配なことや気になることがありましたら、遠慮なく担当の医師や看護師にご相談ください。
早産児の貧血の治療
予定日よりも早く生まれてきた赤ちゃんは、まだ体が未熟なため、血液を作る力が弱かったり、お母さんのお腹の中で十分な鉄分を貯められなかったりすることが原因で、貧血になりやすいことがあります。私たち医師は、このような貧血が赤ちゃんの成長や健康に影響を与えないよう、必要に応じて適切な治療を行っています。
早産児の貧血の治療には、大きく分けて二つの大切な柱があります。
1. 鉄剤の投与
貧血の赤ちゃんにとって、血液の赤い色のもととなる「鉄分」を補うことはとても大切です。鉄剤は、赤ちゃんの口から飲ませる「飲み薬」と、点滴で体に入れる「点滴薬」の二つの方法があります。
私たち医師は、お母さんが妊娠中に貧血だったとしても、赤ちゃんの治療法を慎重に選びます。研究によると、お母さんへの鉄剤の補給方法(点滴か飲み薬か)によって、生まれてくる赤ちゃんの貧血の程度や、早産になる危険性、さらに赤ちゃんが亡くなる割合に大きな差はないことが分かっています。特に、赤ちゃんのへその緒の血液中にある鉄分の貯蓄量を示す「フェリチン」という値は、点滴で鉄剤を補給したお母さんの赤ちゃんの方が、わずかに高くなるという報告もあります。しかし、このわずかな違いが、赤ちゃんの健康にどれくらいの影響を与えるかは、まだはっきりとは分かっていません。そのため、私たち医師は、お母さんの状況や赤ちゃんの状態を総合的に判断し、最も安全で効果的な治療法を選んでいます。多くの場合、口から飲む鉄剤でも十分な効果が期待できると考えています。
2. 輸血
貧血が非常に重く、赤ちゃんがぐったりしている、呼吸が苦しそうなど、すぐにたくさんの血液が必要な場合には、輸血を行います。輸血は、赤ちゃんの体に足りない血液を直接補充することで、早く元気になってもらうための大切な治療です。
特に、お腹の中に双子がいる場合で、片方の赤ちゃんが残念ながら亡くなってしまった後、残された赤ちゃんに貧血が見られることがあります。このようなときに、お母さんのお腹の中で輸血(子宮内輸血)をすることが考えられます。しかし、最近の研究では、この子宮内輸血が、生まれてきた赤ちゃんのその後の元気な状態や、脳の発達にどれくらい良い影響を与えるのかについては、まだ十分な証拠がないことが分かっています。私たち医師は、この治療の効果について、これからももっと詳しく調べていく必要があると考えています。
早産児の貧血の治療は、一人ひとりの赤ちゃんの状況をよく見て、最も良い方法を選ぶことがとても大切です。私たち医療者は、小さく生まれた命が健やかに育つよう、全力でサポートしてまいります。





