副腎腫瘍

副腎腫瘍と診断され、不安を感じていませんか。腎臓の近くにある小さな臓器に腫瘍が見つかると、どのような影響があるのか、良性なのか悪性なのか、といった疑問が頭をよぎるかもしれません。しかし、この病気は適切な診断と治療によって良好な経過が期待できるものです。

この記事では、副腎腫瘍の基本的な種類や症状、診断方法をわかりやすく解説します。また、5センチメートルを超える比較的大きな腫瘍でも、963人の患者さんを対象とした大規模な分析で安全性が示された腹腔鏡手術など、最新の治療法についても詳しくご紹介します。

本記事を通じて、副腎腫瘍への正しい知識を深め、ご自身の状況に合わせた最適な治療法を見つける一助となるでしょう。不安を和らげ、前向きな治療選択へとつながる第一歩を踏み出すことができます。

副腎腫瘍の概要

副腎腫瘍は、腎臓の上部にある副腎という小さな臓器にできる腫瘍の総称です。副腎は、生命維持に不可欠なホルモンを分泌しているため、ここに腫瘍が発生すると、ホルモンのバランスが乱れたり、悪性の場合には周囲の臓器へ影響を及ぼす懸念があります。

この腫瘍は、大きく二つのタイプに分けられます。一つは、ホルモンを過剰に分泌する「機能性腫瘍」で、もう一つは、ホルモン分泌に影響しない「非機能性腫瘍」です。さらに、それぞれが良性か悪性(副腎がん)であるかによっても区別されます。

特に、5センチメートルを超える比較的大きな副腎腫瘍であっても、体への負担が少ない腹腔鏡手術で安全に切除できることが、複数の研究をまとめた大規模な分析で示されています※。この分析は、963人の患者さんを対象とした25件の研究を網羅したものであり、手術の安全性と有効性が裏付けられているといえます。

この系統的レビューとメタ分析※によると、腹腔鏡手術を受けた患者さんの治療経過は次のとおりです。

項目 | 結果

平均手術時間 | 137.4分

平均出血量 | 110.6mL

入院期間(平均) | 3.72日

輸血の必要性 | 1.3%

開腹手術への転換 | 約5.1%(963人中49人)

さらに、肺水腫や創傷感染といった術後合併症の発生率も0.03〜0.4%と非常に低いことがわかっています※。

このように、適切な診断と治療、特に体への負担が少ない手術方法の進歩により、副腎腫瘍は患者さんにとって不安の少ない治療と良好な経過が期待できる疾患となっています。

副腎腫瘍の種類

副腎腫瘍は、大きく二つの視点から分類されます。この分類を知ることは、適切な診断と治療法を見つける上で重要です。

副腎腫瘍の分類は、以下の二つの観点から整理できます。

分類項目 | 種類 | 特徴

ホルモンの分泌 | 機能性副腎腫瘍 | 副腎から分泌されるホルモンが過剰になることで、さまざまな身体症状を引き起こす腫瘍です。

悪性の種類 | 悪性腫瘍(副腎がん) | 癌であり、進行すると周囲の臓器に広がったり、他の臓器へ転移したりする可能性があります。悪性の場合は、早期発見と適切な治療が特に重要です。

機能性

(特定のホルモンが) | コルチゾール | クッシング症候群

異常に増える | アルドステロン | 原発性アルドステロン症

カテコールアミン | 褐色細胞腫

非機能性 | ホルモンを過剰に分泌せず、自覚症状がないまま健康診断などで偶然見つかる腫瘍です。

機能性 | 機能性副腎腫瘍 | 副腎から分泌されるホルモンが過剰になることで、様々な症状を引き起こす。

(特定のホルモンが) | 例えば、以下のようなホルモンとそれによって起こる症状がある。

非機能性 | 非機能性副腎腫瘍 | ホルモンを過剰に分泌せず、自覚症状がないまま健康診断などで偶然見つかる。

副腎偶発腫瘍とも呼ばれる。多くは良性だが、悪性の可能性もゼロではない。

定期的な検査が大切です。

良性か悪性か | 良性腫瘍 | 生命を脅かすことはなく、他の臓器へ転移することもない。多くは非機能性。

悪性腫瘍(副腎がん) | 進行すると周囲の臓器に広がり、他の臓器へ転移する可能性もある癌です。

早期発見と適切な治療が特に重要です。

機能性副腎腫瘍:ホルモンが過剰に増えるタイプ

機能性副腎腫瘍は、副腎が本来分泌しているホルモンを過剰に作り出すことで、体にさまざまな症状を引き起こす腫瘍です。なぜなら、特定のホルモンが増えすぎると、全身のバランスが崩れてしまうからです。

代表的な機能性副腎腫瘍と、それによって引き起こされる状態は次のとおりです。

・コルチゾールを過剰に分泌する腫瘍:全身倦怠感、中心性肥満(お腹は太るのに手足は細い)、高血圧、糖尿病、満月様顔貌(顔が丸くなる)などを引き起こす「クッシング症候群」の原因となります。

・アルドステロンを過剰に分泌する腫瘍:コントロールが難しい高血圧を引き起こす「原発性アルドステロン症」の原因となります。高血圧以外にも、血液中のカリウム値が低くなることで、脱力感やけいれんなどの症状が出ることもあります。

・カテコールアミンを過剰に分泌する腫瘍:動悸、頭痛、高血圧、発汗過多などの発作的な症状を引き起こす「褐色細胞腫(かっしょくさいぼうしゅ)」の原因となります。

これらのホルモン過剰分泌は、放置すると心臓や血管、腎臓などの臓器に負担をかけ、重篤な合併症につながる可能性もあります。

非機能性副腎腫瘍:ホルモンに影響しないタイプ

非機能性副腎腫瘍は、ホルモンを過剰に分泌しないため、特徴的な自覚症状をほとんど引き起こしません。そのため、健康診断や他の病気の検査で偶然見つかることが多く、「副腎偶発腫瘍(ふくじんぐうはつしゅよう)」とも呼ばれます。

このタイプの腫瘍の多くは良性です。しかし、悪性の可能性がゼロというわけではありません。特に、5センチメートルを超える大きな非機能性腫瘍の場合、その性質を詳しく調べる必要性が高まります。これは、腫瘍が大きいほど悪性の可能性も考慮されるためで、詳細な検査や治療法の検討が行われることがあります※。

そのため、非機能性腫瘍と診断された場合でも、腫瘍のサイズや形、経過の変化などを慎重に見極めるため、定期的な画像検査や採血によるフォローアップが大切です。

良性腫瘍と悪性腫瘍(副腎がん)

副腎腫瘍は、良性か悪性かという視点でも分類されます。これは、その後の治療方針や予後に大きく関わる重要な分類です。

・良性腫瘍:生命を脅かすことはなく、他の臓器へ転移することもない腫瘍です。非機能性腫瘍の多くがこの良性腫瘍に該当します。

・悪性腫瘍(副腎がん):癌であり、進行すると周囲の臓器に広がる、あるいは他の臓器へ転移する可能性があります。悪性腫瘍の場合は、早期に発見し、適切な治療を行うことが特に重要です。

副腎腫瘍は、「ホルモンの分泌がある(機能性)か、ない(非機能性)か」と、「良性か悪性か」の両方の分類に当てはまることがあります。例えば、ホルモンを過剰に分泌する良性腫瘍もあれば、ホルモンを分泌しない悪性腫瘍(副腎がん)も存在します。これらの組み合わせによって、腫瘍の種類が細分化され、それに伴い治療方針も異なります。

副腎腫瘍の原因

副腎腫瘍の多くは、なぜできるのか、そのはっきりとした原因が特定できません。他の病気の検査で偶然見つかる「偶発腫瘍」が多数を占めますが、中にはホルモン異常や遺伝的要因、悪性化が関与するケースも存在します。

ほとんどが「原因不明」の偶発腫瘍

副腎腫瘍が見つかる最も多いきっかけは、他の病気で受けた画像検査で『たまたま』発見されるケースです。これを医学用語で「副腎偶発腫瘍(ふくじんぐうはつしゅよう)」と呼びます。自覚症状がほとんどないため、なぜ腫瘍ができたのか、その原因を特定できないことがほとんどです。

この偶発腫瘍の多くは良性であり、ホルモンを過剰に分泌しない「非機能性腫瘍」に該当します。しかし、悪性の可能性もゼロではありません。特に、5センチメートルを超える比較的大きな偶発腫瘍の場合、その性質をより慎重に評価する必要があるといえます※。これは、腫瘍が大きいほど悪性の可能性も考慮されるためです。そのため、偶発腫瘍であっても、発見された際には専門医による詳しい検査と適切なフォローアップが欠かせません。

ホルモン異常が引き起こす機能性腫瘍

副腎にできた腫瘍が、体にとって必要なホルモンを異常にたくさん作り出してしまうことがあります。このような腫瘍を「機能性腫瘍」と呼び、過剰に分泌されたホルモンが全身のバランスを崩し、さまざまな症状を引き起こす原因となります。なぜ腫瘍がホルモンを過剰に作り出すのかは、腫瘍細胞そのものが自律的にホルモン産生能を持つためと考えられます。

代表的なホルモンとその影響は次のとおりです。

・アルドステロン産生腺腫:

血圧を調整するホルモンであるアルドステロンが過剰に作られることで、高血圧や血液中のカリウム値が下がる(低カリウム血症)「原発性アルドステロン症」につながります。

・コルチゾール産生腺腫:

ストレスから体を守るホルモンであるコルチゾールが過剰に作られると、「クッシング症候群」という状態になります。顔が丸くなる(満月様顔貌)、お腹だけが太る(中心性肥満)、高血圧、糖尿病などの特徴的な症状が現れる可能性があります。

・褐色細胞腫:

血圧や心拍数を調節するアドレナリンやノルアドレナリン(カテコールアミン)が過剰に分泌されると、急激な血圧上昇、動悸、激しい頭痛、大量の発汗といった発作的な症状を引き起こすことがあります。

これらの機能性腫瘍は、過剰なホルモンによる症状がきっかけで発見されることがほとんどです。

遺伝的要因が背景にあるケース

非常に稀ではありますが、特定の遺伝子の異常が背景にあって副腎腫瘍ができやすくなるケースも存在します。例えば、「多発性内分泌腫瘍症(MEN)」や「フォン・ヒッペル・リンドウ病」といった遺伝性の疾患では、副腎を含む複数の内分泌臓器に腫瘍ができる可能性が高まります。このような場合は、ご家族の中に同じ病気の方がいることや、若年で腫瘍が見つかることがきっかけで遺伝的要因が疑われることがあります。

悪性腫瘍(副腎がん)ができる背景

副腎にできる悪性の腫瘍、つまり「副腎がん」は、副腎そのものから発生する「副腎皮質がん」と、肺や腎臓など他の臓器でできたがんが副腎に転移してきた「転移性副腎腫瘍」に分けられます。なぜ副腎にがんが発生するのか、その詳しい原因やメカニズムは、まだ完全には解明されていません。しかし、一部の副腎腫瘍が時間をかけて悪性に変化する可能性や、遺伝的要因、あるいは生活習慣など複数の要因が複雑に絡み合っている可能性が指摘されています。悪性腫瘍は進行が速いこともあるため、早期の診断と適切な治療が極めて重要です。

副腎腫瘍の症状

副腎腫瘍の症状は、その腫瘍がホルモンを過剰に分泌するかどうか、またどのホルモンを分泌するかによって大きく異なります。多くの場合、自覚症状はほとんどなく、健康診断や他の病気の検査で偶然見つかることがほとんどです。しかし、中には体からのSOSとして、特定の症状が現れることもあります。

ホルモンが過剰に分泌される場合(機能性副腎腫瘍)

機能性副腎腫瘍は、副腎が本来作り出すホルモンを異常な量で分泌してしまうため、全身のホルモンバランスが崩れてさまざまな症状を引き起こします。どのような症状が出るかは、過剰に分泌されるホルモンの種類によって変わります。

主な機能性副腎腫瘍と、それに伴う具体的な症状は次のとおりです。

・コルチゾール過剰分泌(クッシング症候群)

・特徴的な体型の変化: 顔が丸くパンパンになる「満月様顔貌(まんげつようがんぼう)」、お腹や背中に脂肪がつく一方、手足は細くなる「中心性肥満」が挙げられます。これは、過剰なコルチゾールが脂肪の分布を変えるためです。

・皮膚の変化: 皮膚が薄くなり、腕や足、お腹などに赤紫色の線「皮膚線条(ひふせんじょう)」が現れやすくなります。内出血しやすくなることもあります。

・代謝異常: 高血圧や糖尿病を発症・悪化させることがあります。また、骨がもろくなる「骨粗鬆症(こつそしょうしょう)」のリスクも高まります。

・精神的な影響: 気分が不安定になったり、うつ状態になったりすることもあります。

・免疫力の低下: 感染症にかかりやすくなることも指摘されています。

・アルドステロン過剰分泌(原発性アルドステロン症)

・高血圧: 治療を続けてもなかなか血圧が下がりにくい「治療抵抗性高血圧」が特徴的です。

・電解質異常: 血液中のカリウム値が異常に低くなる「低カリウム血症」を招くことがあります。これにより、次のような症状が現れる可能性があります。

・筋力の低下や脱力感

・手足のしびれ

・夜間の多尿や、それによる強い喉の渇き

・カテコラミン過剰分泌(褐色細胞腫)

・発作性の症状: ストレスや特定の行動(排尿、体位変換など)をきっかけに、アドレナリンやノルアドレナリンといったホルモンが急激に大量放出されることで、次のような症状が突然現れます。

・急激な血圧上昇

・激しい頭痛

・動悸や胸の痛み

・全身の大量の汗

・不安感やふるえ、パニック発作のような感覚

・性ホルモン過剰分泌

・副腎が性ホルモンを過剰に分泌すると、性別に応じた身体的特徴の変化が現れることがあります。

・女性の場合:体毛が濃くなる(多毛)、声が低くなる、生理不順や無月経になる。

・男性の場合:体毛が濃くなる、声が低くなる、筋肉量が増えるなどの変化がみられます。

ホルモンを分泌しない場合(非機能性副腎腫瘍)

非機能性副腎腫瘍は、ホルモン分泌に影響を及ぼさないため、多くは症状を伴いません。しかし、腫瘍が大きくなると、その物理的な存在が原因となって症状が現れることがあります。

具体的な症状としては、以下のとおりです。

・圧迫症状: 腫瘍が周囲の臓器(腎臓、腸、血管など)を圧迫することで、お腹の不快感や重苦しさ、脇腹や背中の痛みを感じることがあります。

・まれなケース: 腫瘍内部で出血したり、壊死を起こしたりした場合に、急な強い痛みを伴うことがあります。

特に、5センチメートルを超える比較的大きな副腎腫瘍の場合、良性であっても周囲の臓器への影響を考慮する必要があるといえます。また、腫瘍が大きいほど悪性の可能性も無視できないため、非機能性腫瘍であっても定期的な画像検査や専門医による経過観察が極めて重要です※。症状がないからと放置せず、適切な診断とフォローアップを続けることが大切です。

副腎腫瘍の検査・診断

副腎腫瘍の検査・診断は、単に腫瘍を見つけるだけでなく、その性質(ホルモンを過剰に分泌しているか、良性か悪性か)を正確に見極め、患者さん一人ひとりに最適な治療法を選ぶために不可欠です。

診断は、まず患者さんとの丁寧な対話、つまり問診(もんしん)から始まります。なぜなら、自覚症状やこれまでの病歴の中に、ホルモン異常のヒントが隠されていることがよくあるためです。例えば、コントロールが難しい高血圧、動悸、多汗といった症状は、ホルモンを過剰に分泌する機能性腫瘍のサインとなる場合があります。医師は、こうした情報と診察結果をもとに、さらに詳しい検査を進めます。

1.画像検査で腫瘍の位置や大きさを確認する

副腎腫瘍の診断で特に重要なのは、画像検査です。体の奥深くにある副腎にできた腫瘍の位置、大きさ、形、そして周囲の臓器との関係性を正確に把握できるためです。主な画像検査は次のとおりです。

・超音波検査(エコー検査):体の表面から超音波(ちょうおんぱ)を当て、副腎の様子をリアルタイムで確認できる検査です。初期スクリーニングや、定期的な経過観察に用いられることがあります。

・CT検査(コンピュータ断層撮影):X線とコンピュータを使い、体の断面を細かく撮影する検査です。腫瘍の大きさや内部構造、周囲への広がりなどを詳しく評価できます。造影剤(ぞうえいざい)を使用すると、血流の状態から腫瘍の良悪性を区別する手がかりが得られることもあります。

特に、5センチメートルを超える比較的大きな副腎腫瘍の場合、その性質をより慎重に評価する必要性が高まります。これは、腫瘍が大きいほど悪性の可能性も考慮されるため、詳細な検査や治療法の検討に役立つという大規模な分析結果も示されています※。

・MRI検査(磁気共鳴画像):強い磁場と電波を利用して、体内のさまざまな情報を画像化する検査です。CT検査では判別が難しい場合や、さらに詳しい情報が求められるときに、MRI検査が追加されることがあります。特に、腫瘍の質的な診断(例えば脂肪成分の有無など)に優れています。

・PET-CT検査:微量の放射性薬剤を注射し、がん細胞に集まる性質を利用して全身のがんの有無や転移を調べる検査です。悪性腫瘍(副腎がん)が強く疑われる場合や、他の臓器への転移を確認する目的で実施されることがあります。

2.ホルモン検査で機能性を評価する

副腎腫瘍の中には、体に必要なホルモンを異常な量で分泌してしまう「機能性腫瘍(きのうせいしゅよう)」があります。このホルモンの過剰分泌が、患者さんのさまざまな症状の原因となっていることが多いため、血液や尿を用いた検査でその異常を詳しく調べます。

調べる主なホルモンは、次のとおりです。

・血液検査:

・コルチゾール:クッシング症候群の診断に重要です。血液中のコルチゾール値が高くないか、またコルチゾール分泌を抑制するデキサメタゾンという薬を飲んだ後にコルチゾールが減るかどうか(デキサメタゾン抑制試験)などを調べます。

・アルドステロン:原発性アルドステロン症の診断に用いられます。血液中のアルドステロンとレニンというホルモンの比率(ARR)を測定することで、アルドステロンの過剰分泌が副腎からのものか、あるいは別の原因によるものかを判断する手助けになる可能性があります。

・カテコラミン:褐色細胞腫(かっしょくさいぼうしゅ)の診断に必要です。アドレナリンやノルアドレナリンといったホルモンが血液中で増えていないかを調べます。

・尿検査:

・24時間蓄尿検査(24じかんちくようけんさ)では、1日を通して尿中に排泄されるホルモンやその代謝物(たいしゃぶつ)の量を測定します。血液検査では変動しやすいホルモン値も、24時間の総量で評価することで、より正確なホルモンの分泌状態を把握できるとされています。特にカテコラミンの代謝物(メタネフリンなど)の測定は、褐色細胞腫の診断に重要な手がかりとなります。

これらの画像検査とホルモン検査の結果を総合的に評価することで、副腎腫瘍がどのような性質を持つのか(良性か悪性か、機能性か非機能性か)が診断されます。

まれに、画像検査やホルモン検査だけでは診断が難しい場合、腫瘍の一部を採取して顕微鏡で詳しく調べる「生検(せいけん)」が必要となることもあります。

担当の医師は、これらの検査結果に基づき、患者さん一人ひとりの状態に合わせた最適な治療計画を提案します。検査や診断について疑問や不安な点があれば、遠慮なく医師や医療スタッフに相談しましょう。

副腎腫瘍の治療

副腎腫瘍の治療は、その腫瘍の種類、大きさ、ホルモン分泌の有無、そして悪性の可能性に応じて最適な方法が選択されます。主に、経過観察、薬物療法、手術療法の3つのアプローチが挙げられます。

・経過観察:定期的な検査で腫瘍の変化を見守る

・薬物療法:ホルモンの働きを抑え、症状を管理する

・手術療法:腫瘍を摘出する

どの治療法が適切かは、担当医が検査結果と患者さんの状態を総合的に判断し、一人ひとりに合わせて決定されます。

経過観察:無症状の良性腫瘍を見守る選択肢

良性であり、ホルモンを過剰に分泌せず(非機能性)、比較的小さい(例えば4cm未満)副腎腫瘍で、かつ増大傾向が見られない場合には、「経過観察」が選択肢となります。これは、治療による体への負担を避け、腫瘍が問題を引き起こさない限り、その変化を定期的に確認していくアプローチです。なぜなら、多くの非機能性副腎腫瘍は良性であり、生涯にわたって治療が必要とならないケースも少なくないためです。

経過観察では、通常、半年から1年に1回程度の頻度でCTやMRIなどの画像検査を行い、腫瘍の大きさや形、性状に変化がないかを慎重に見守ります。また、ホルモン分泌に変化がないかを確認するために、血液検査や尿検査が追加されることもあります。

もし経過観察中に腫瘍が大きくなったり、ホルモンの分泌異常が見つかったり、悪性の可能性が高まったりした場合には、薬物療法や手術療法への移行が検討されます。

薬物療法:ホルモン過剰分泌の症状を和らげる

ホルモンを過剰に分泌する「機能性副腎腫瘍」の場合、そのホルモンによって引き起こされる症状(例えば高血圧や糖尿病、動悸など)を管理するために「薬物療法」が行われることがあります。この治療の目的は、ホルモンの過剰な働きを抑えることで全身状態を安定させ、合併症のリスクを減らすことです。なぜなら、過剰なホルモン分泌は放置すると、心臓や血管、腎臓などに長期的な負担をかける可能性があるからです。

薬物療法は、主に次のような場合に選択されます。

・手術が困難な場合:患者さんの全身状態が思わしくないなど、手術による体への負担が大きいと判断されたケースです。

・手術までの期間の管理:手術が必要な場合でも、手術までの期間にホルモン過剰による症状を安定させるために、一時的に薬が用いられます。特に、カテコールアミンを過剰に分泌する褐色細胞腫では、手術時のリスクを下げるために、手術前に血圧を安定させる薬物治療が必須とされています。

薬の種類は、過剰に分泌されているホルモンの種類によって異なります。例えば、高血圧には降圧剤が、コルチゾール過剰分泌にはホルモン合成を阻害する薬が、褐色細胞腫にはα遮断薬などが使用されます。これらの薬は、腫瘍そのものをなくすものではなく、あくまで症状を抑える対症療法であることを理解しておくことが大切です。

手術療法:腫瘍を根本的に取り除く

「手術療法」は、副腎腫瘍の根本的な治療法であり、主に次のような場合に検討されます。

・ホルモンを過剰に分泌する機能性腫瘍:コルチゾールやアルドステロン、カテコールアミンなどを過剰に分泌し、患者さんに症状を引き起こしている腫瘍。薬物療法では根本的な解決にならないため、手術による摘出が推奨されることが一般的です。

・悪性の疑いがある、または悪性腫瘍(副腎がん):画像検査などで悪性の可能性が高いと判断された場合や、すでに副腎がんと診断された場合。悪性腫瘍は進行が速いため、早期の手術が重要です。

・急速に大きくなっている腫瘍:経過観察中に腫瘍が短期間で著しく増大した場合、悪性化のリスクを考慮して手術が検討されます。

・大きさによる判断基準:一般的に、腫瘍が4cmを超える場合、非機能性腫瘍であっても悪性の可能性を考慮し、手術が選択肢となることがあります。特に、5センチメートルを超える比較的大きな副腎腫瘍であっても、腹腔鏡下手術は安全に実行可能であると複数の研究をまとめた大規模な分析で示されています※。

手術は、腫瘍のある副腎を摘出する「副腎摘除術(ふくじんてきじょじゅつ)」が一般的です。現在では、体への負担が少ない「腹腔鏡下手術(ふくくうきょうかしゅじゅつ)」が主流となっています。

腹腔鏡下手術のメリットと具体的な実績

腹腔鏡下手術は、お腹に数カ所小さな穴を開け、そこからカメラや専用の器具を挿入して行う手術です。開腹手術に比べて傷が小さく、術後の痛みが少ない、回復が早いなどのメリットがあります。これにより、患者さんの社会生活への早期復帰が期待できます。

5センチメートルを超える比較的大きな副腎腫瘍に対しても、腹腔鏡下手術は安全性が高いことが大規模な分析で報告されています※。この分析は、963人の患者さんを対象とした25件の研究を網羅したもので、その結果は次のとおりです。

項目 | 実績

平均手術時間 | 137.4分

平均出血量 | 110.6mL

平均入院期間 | 3.72日

輸血の必要性 | 1.3%

開腹手術への転換 | 約5.1%(963人中49人)

術後合併症 | 0.03〜0.4%と非常に低い(肺水腫、創傷感染など)

これらのデータから、5cmを超える副腎腫瘍であっても、腹腔鏡下手術は体への負担を抑えつつ、安全かつ効果的に治療を進められる選択肢であるといえます。

ただし、ごくまれに手術中に、予期せぬ出血や周囲臓器との癒着などの理由で、開腹手術に移行するケースもあります(約5.1%)。また、腫瘍の位置や周囲の臓器との関係、悪性度などによっては、最初から開腹手術が選択されることもあります。

治療方針は、患者さん一人ひとりの副腎腫瘍の特性や全身の状態、ライフスタイルなどを考慮し、担当医と十分に話し合った上で決定されます。不安や疑問があれば、遠慮なく医師に相談し、納得のいく治療法を選びましょう。