急性硬膜下血腫

頭を強くぶつけた後、「少し休めば大丈夫だろう」と軽く考えていませんか。その判断が、命を脅かす事態を招くかもしれません。急性硬膜下血腫は、頭への衝撃で脳とそれを覆う膜の間が急激に出血し、できた血のかたまりが脳を圧迫する、きわめて危険な病気です。

この病気の恐ろしい点は、症状の進行が非常に速いことです。頭を打ってから数時間のうちに意識を失い、治療が遅れれば重い後遺症が残るか、最悪の場合は命を落とすこともあります。この記事では、急性硬膜下血腫の具体的な原因や見逃してはならない危険なサイン、そして一刻を争う治療法について詳しく解説します。いざという時に適切な行動がとれるよう、ぜひご一読ください。

急性硬膜下血腫の概要

頭を強くぶつけた後、急に脳とそれを覆う膜の間に出血が起こります。 この出血でできた血のかたまり(血腫)が脳を圧迫する病気です。 脳を覆う膜は「硬膜(こうまく)」と呼ばれ、ヘルメットのように脳を守っています。 この硬膜のすぐ下に血腫ができるため、急性硬膜下血腫と呼ばれます。

血腫によって脳が強く圧迫されるため、病状の変化は非常に速いです。 命の危険が非常に高く、一刻も早い治療が求められます。 治療が遅れると、体に重い後遺症が残ることも少なくありません。

特に、脳そのものが傷つく「脳挫傷」を同時に起こすと、 手足が不自然な形で硬直する「除脳硬直」が見られることがあります。 これは、脳に深刻なダメージが加わっている危険なサインです。 ある研究報告でも、急性硬膜下血腫と脳挫傷が合併した場合に、 除脳硬直が起こりやすいことが示されています。

患者さんの年齢や血腫の大きさ、けがの状態が、その後の経過に大きく影響します。

【急性硬膜下血腫のポイント】

  • 原因
  • 頭をぶつけた後、急に脳と硬膜の間に血がたまります
  • 状態
  • できた血のかたまりが、やわらかい脳を強く圧迫します
  • 危険性
  • 命にかかわることがある、きわめて危険な状態です
  • 緊急性
  • 症状の進行が速く、すぐに治療が必要となります

急性硬膜下血腫の種類

硬膜下血腫は、けがをしてから症状が出るまでの時間で大きく3つに分けられます。 出血した血液は時間とともに状態が変化するため、症状や検査での見え方が異なります。

それぞれの種類と特徴は、以下の表のとおりです。

種類

症状があらわれるまでの期間(目安)

血液の状態とCT検査での見え方

急性硬膜下血腫

けがをしてから3日以内

固まったばかりの新しい出血です。CT検査では白く明るく写ります。

亜急性硬膜下血腫

けがをしてから3日~3週間後

血液が少しずつ液体に変わり始めます。CT検査では脳と同じ灰色に写ります。

慢性硬膜下血腫

けがをしてから3週間以上あと

血液はサラサラの液体になっています。CT検査では黒っぽく写ります。

特に急性硬膜下血腫は、脳そのものが傷つく「脳挫傷」を同時に起こすことが多いです。 ある研究報告でも、手術が必要なほど脳を圧迫する状態では、 急性硬膜下血腫と脳挫傷の合併が非常に多いことが示されています。

血腫による脳の圧迫に加えて、脳自体も直接ダメージを受けている状態です。 そのため、より深刻な状態に陥りやすく、命の危険も高まります。 どの種類の血腫か、脳挫傷を伴うかどうかが、その後の経過を左右するのです。

急性硬膜下血腫の原因

急性硬膜下血腫のほとんどは、頭を強くぶつけることが原因です。 これを医学的に「頭部外傷(とうぶがいしょう)」と呼びます。

交通事故や高い場所からの転落、スポーツ中の激しい接触など、 頭に強い衝撃が加わることで、脳とその周りの血管が傷つきます。 この衝撃で、脳の表面を走る血管や、脳と硬膜をつなぐ 「橋静脈(きょうじょうみゃく)」という血管が切れて出血します。

また、急性硬膜下血腫は、脳そのものが傷つく「脳挫傷」と 同時に発生することも非常に多いのが特徴です。 ある研究報告でも、手術が必要になるほど重い脳の損傷では、 急性硬膜下血腫と脳挫傷が一緒に見られることが示されています。

特に、以下のような方は発症のリスクが高まるため注意が必要です。

  • ご高齢の方 年齢とともに脳が少しずつ小さくなる(脳萎縮)傾向があります。 すると橋静脈が引き伸ばされ、軽い転倒でも切れやすくなります。
  • 小さなお子さん(乳幼児) 頭の骨がまだ柔らかく完全に固まっていないため、 大人に比べて弱い力でも脳が傷つきやすい状態です。
  • 血を固まりにくくする薬を飲んでいる方 血液をサラサラにする薬を服用していると、一度出血すると 血が止まりにくく、血腫が大きくなりやすい傾向にあります。
  • お酒を多く飲む習慣のある方 アルコールの影響で足元がふらつき、転倒しやすくなります。 その結果、頭を打つリスクそのものが高まります。

急性硬膜下血腫の症状

頭を強くぶつけた後、数時間から3日以内に現れる症状に注意が必要です。 血のかたまり(血腫)が脳を圧迫することで、様々なサインが出てきます。 時間が経つにつれて急に悪化することがあるため、見逃せません。

頭の中の圧力が高まるサイン まず、頭蓋骨の中の圧力が高まることで起こる症状があります。

  • 激しい頭痛
  • 今までに経験したことのないような、突然の激しい頭痛です。
  • 吐き気や嘔吐
  • 血腫が脳を圧迫することで、吐き気をコントロールする部分が刺激されます。

意識の変化 症状が進むと、意識の状態にも変化が見られます。 最初は意識がはっきりしていても、だんだんぼんやりしてきたり、 呼びかけへの反応が鈍くなったりします。これを「意識障害」と呼びます。

一度意識が戻ったように見えても、再び悪化することがあります。 この「中間覚醒期(ちゅうかんかくせいき)」は油断しやすい危険な状態です。

体の一部に現れるサイン 血腫が脳の特定の場所を圧迫すると、神経に異常が起こります。

  • 片麻痺(かたまひ)
  • 体の右半分、あるいは左半分の手足が動きにくくなります。
  • 失語症(しつごしょう)
  • 言葉がうまく話せなくなったり、相手の言うことが理解できなくなります。

命の危険が迫るサイン 特に重い状態では、手足が不自然な形で硬く突っ張ることがあります。 これは「除脳姿勢(じょのうしせい)」などと呼ばれる異常な姿勢です。 脳に深刻なダメージが加わっていることを示す、きわめて危険なサインです。

ある研究報告でも、急性硬膜下血腫と脳挫傷(脳そのものの傷)が 同時に起こった場合に、この異常な姿勢が見られやすいとされています。

これらの症状に一つでも気づいたら、ためらわずに救急車を呼んでください。 すぐに医療機関を受診することが、命を救うことにつながります。

急性硬膜下血腫の検査・診断

急性硬膜下血腫が疑われる場合、すぐに検査が必要です。 脳の中で何が起きているかを、詳しく調べるためです。 診断は主に、頭の中を写真のように写す「画像検査」で行います。

救急の現場では、まず頭のCTスキャンという検査を行います。 これは短い時間で、頭の中を輪切りにした写真を撮れる検査です。 出血があるか、どこにあるか、血のかたまりの大きさはどのくらいか、 といった情報を素早く確認できる、とても優れた検査です。

【CT検査でわかること】

  • 出血の場所と大きさ
  • 脳のどの部分で、どのくらいの量の血が出ているかがわかります。
  • 脳への影響
  • できた血のかたまりが、脳をどのくらい圧迫しているかを確認します。
  • 出血してからの時間
  • 血のかたまりは、時間とともに見え方が変わります。
  • 出血したばかりの新しい血液は、CTの写真では白く明るく写ります。

場合によっては、MRIスキャンという、より詳しく脳の状態を見る検査も行います。 これらの検査結果を総合的に見て、医師は診断を確定します。

正確な診断は、その後の治療方針を決める上で非常に重要です。 特に手術が必要な場合、どのような方法で行うかを決めるための、 とても大切な情報となります。

実際に、手術の方法によってその後の生活の質や医療費が変わる可能性が、 イギリスで行われた研究で示されています。 この研究では2つの手術方法を比べた結果、片方の手術が費用を抑えつつ、 患者さんの回復も良い結果につながったと報告されました。

だからこそ、詳しい検査で脳の状態を正確に把握することが大切です。 一人ひとりに合った最善の治療を選ぶための、重要な第一歩となるのです。

急性硬膜下血腫の治療

急性硬膜下血腫の治療は、まさに時間との勝負です。 血のかたまり(血腫)の大きさや症状の重さによって、 治療法は大きく2つの方法に分けられます。

手術をしない治療(保存的治療)

血腫の量が少なく、脳への圧迫が軽い場合に選ばれる方法です。 意識がはっきりしているなど、症状が落ち着いている時に行います。 ただし、単に様子を見るのではなく、厳重な管理のもとで行われます。

【保存的治療の主な内容】

  • 安静
  • まずは体を安静に保ち、脳への負担をできるだけ減らします。
  • 薬物療法
  • 脳のむくみ(脳浮腫)を軽くするための点滴や、
  • けいれんを防ぐためのお薬を使い、状態を安定させます。
  • 経過観察
  • CT検査などを定期的に行い、血腫が大きくならないか、
  • 症状に変化がないかを注意深く見守ります。

手術をする治療(外科的治療)

血腫が大きく脳を強く圧迫している場合は、すぐに手術が必要です。 意識の状態が悪化している時も、一刻も早く手術に踏み切ります。 手術の目的は、血腫を取り除いて脳への圧迫をなくすことです。 これにより、脳へのダメージを最小限に食い止めます。

手術の方法にはいくつか種類があり、患者さんの状態に合わせて選びます。

【主な手術方法】

  • 開頭血腫除去術
  • 頭の骨を一時的に開けて、血のかたまりを直接取り除きます。
  • 手術の最後には、取り外した骨を元の位置に戻して固定します。
  • 減圧開頭術
  • 脳の腫れが非常に強い時に行われることがある手術です。
  • 脳の圧力を下げるため、取り外した骨をすぐには戻しません。
  • 脳の腫れが引いてから、後日あらためて骨を戻す手術をします。

どちらの手術を選ぶかは、慎重に判断されます。 イギリスで行われたある研究では、2つの手術方法が比べられました。 その結果、骨を元に戻す「開頭術」の方が、骨を外したままにする 「減圧開頭術」よりも、治療後の生活の質が高くなる傾向がありました。 さらに、治療にかかる全体の費用も抑えられる可能性が示されています。

どの治療法を選ぶかは、専門の医師が患者さん一人ひとりの状態を 総合的に判断して決定します。