急性乳腺炎
授乳中の乳房の痛みやしこり、熱っぽさに悩んでいませんか。特に初めての出産後は、慣れない授乳でトラブルが起きやすく、不安を感じるお母さんも少なくありません。
この記事では、急性乳腺炎の主な原因や症状、進行度に応じた治療法を詳しく解説します。ある研究でしこりの評価方法が5種類も報告されているなど、診断の複雑さについても紹介します。
正しい知識を得ることで、ご自身の症状を客観的に把握し、重症化を防ぐための適切な初動が見えてくるはずです。お母さんと赤ちゃんの健やかな毎日を守るためにも、ぜひご一読ください。
急性乳腺炎の概要
急性乳腺炎は、主に授乳中の女性の乳腺に起こる急性の炎症で、特に初めて出産された方の産後3〜4週ごろに多く見られます。
この病気の引き金となるのは、「乳汁うっ滞(にゅうじゅううったい)」と「細菌感染」という2つの要因です。授乳に慣れないうちは、赤ちゃんの吸う力が弱かったり、授乳の間隔が空きすぎたりして、母乳が乳腺の中にたまってしまうことがあります。これが乳汁うっ滞です。
栄養豊富な母乳は細菌にとって格好の繁殖場所となり、そこに乳頭にできた小さな傷から黄色ブドウ球菌などが侵入すると、炎症が一気に広がります。
放置すると、乳房の中にうみがたまる「乳腺膿瘍(にゅうせんのうよう)」に進行したり、まれに細菌が血流に乗って全身に広がる「敗血症」という重い状態に至ったりする可能性も考えられます。
主な症状は乳房のしこりや痛みですが、実はこれらの症状をどう評価するかは、いまだ世界的に確立された基準がありません。ある研究では、乳腺炎の「しこりの大きさ」を評価する方法が5種類、「乳房の痛み」を評価する方法が4種類も報告されており、診断基準がさまざまである現状が示されています。※
お母さんと赤ちゃんの健やかな毎日を守るためにも、乳房の痛みやしこり、熱っぽさなど、いつもと違う変化に気づいた際は、ためらわずに医療機関へ相談してください。
急性乳腺炎の種類
急性乳腺炎は、その進行度によって大きく2つの段階に分けられます。母乳がたまることから始まる「うっ滞性乳腺炎」と、そこに細菌感染が加わった「化膿性乳腺炎」です。
それぞれの特徴を下表に整理します。
種類 | 段階 | 主な原因 | 症状の特徴
うっ滞性乳腺炎 | 初期段階 | 乳汁のうっ滞(たまり) | ・乳房のしこり、痛み、赤み、熱っぽさ ・全身症状は伴わないことが多い
化膿性乳腺炎 | 進行段階 | 細菌感染の合併 | ・うっ滞性の症状が悪化 ・38℃以上の高熱、悪寒、関節痛などの全身症状 ・進行すると膿がたまる「乳腺膿瘍」を形成
このように、乳腺炎は乳汁のうっ滞から始まり、細菌感染を合併することで重症化していきます。
どの段階にあるかを判断するには、しこりの大きさや乳房の痛み、母乳の状態などを総合的に評価する必要があります。しかし、これらの評価方法は世界的に確立されておらず、ある研究では、しこりの大きさを評価する方法が5種類、痛みを評価する方法が4種類も報告されているほど、診断が複雑であることがわかっています。※
そのため、ご自身で判断せず、乳房の異変に気づいた際は、速やかに専門医の診察を受けることが重症化を防ぐために何より大切です。
急性乳腺炎の原因
急性乳腺炎は、主に「乳汁うっ滞(にゅうじゅううったい)」と「細菌感染」という2つの要素が引き金となって発症します。
まず、作られた母乳がうまく排出されずに乳腺内にたまってしまう「乳汁うっ滞」が起こります。栄養豊富な母乳は細菌にとって絶好の繁殖環境となるため、そこに細菌が侵入すると炎症が一気に悪化するのです。
1. 乳汁うっ滞(母乳のたまり)
乳汁うっ滞が起こる背景には、授乳に慣れない時期特有のさまざまなきっかけが潜んでいます。
・授乳の間隔が長く空いてしまう
・赤ちゃんの吸う力が弱い、または飲み残しが多い
・不適切な哺乳姿勢(赤ちゃんが乳首を深くくわえられていない)
・きつい下着や抱っこ紐による乳房の圧迫
・生まれつきの乳頭の形(陥没乳頭など)
・突然の断乳
たまった母乳によって乳腺の内圧が高まると、しこりや痛み、熱っぽさといった症状が現れます。
実際に、乳腺炎の重症度を判断するうえで、この「しこりの大きさ」や「乳房の痛み」は重要な指標です。しかし、これらの評価方法は世界的に確立されておらず、ある研究では、しこりの大きさを評価する方法が5種類、痛みを評価する方法が4種類も報告されているほど、診断が複雑であることがわかっています。※
2. 細菌感染
乳汁うっ滞によってせき止められた母乳に細菌が感染すると、炎症はさらに悪化し、「化膿性乳腺炎」へと進行する可能性があります。
主な原因菌は、私たちの皮膚にもともと存在する黄色ブドウ球菌です。この菌が、乳頭にできた目に見えないほどの小さな傷から乳腺内へ侵入します。
細菌が侵入する主な原因は以下のとおりです。
・乳頭の傷(乳頭亀裂)
赤ちゃんが乳首を浅く吸ったり、乳首の先端だけを吸ったりする「浅吸い」が続くと、乳頭に傷がつきやすくなります。また、授乳後の過度な洗浄や消毒も、皮膚のバリア機能を低下させ、細菌が侵入する隙を与えてしまいます。
・不適切な搾乳
無理な力で乳房をマッサージしたり、搾乳したりすると、乳頭や乳輪部を傷つけ、感染のリスクを高めることがあります。
3. その他の要因(免疫力の低下)
上記の2つの直接的な原因に加えて、お母さん自身の心身の状態も、乳腺炎の発症や悪化に大きく影響します。
・産後の疲労や育児による精神的なストレス
・慢性的な睡眠不足
・栄養バランスの偏った食事
これらの要因が重なると、身体の免疫力が低下します。その結果、普段なら問題にならないようなわずかな細菌にも感染しやすくなったり、炎症が長引いてしまったりすることがあるのです。
急性乳腺炎の症状
急性乳腺炎の症状は、乳房にあらわれる「局所症状」と、熱などの「全身症状」の2つに大別されます。
多くの場合、乳汁うっ滞(母乳のたまり)と炎症によって、授乳中の片側の乳房に以下のような局所症状がみられます。
・ズキズキとした痛みや圧痛(押すと痛む)
・皮膚が広範囲に赤くなる
・炎症部分が明らかに熱を持つ(熱感)
・境界のはっきりした硬いしこり
これらの症状、特に「しこりの大きさ」や「乳房の痛み」は、乳腺炎の重症度を判断するうえで重要な指標となります。しかし、その評価方法は世界的に確立されておらず、ある研究ではしこりの大きさを評価する方法が5種類、痛みを評価する方法が4種類も報告されているほど、診断が複雑であることがわかっています。※
細菌感染が進行し、炎症が全身に及ぶと、インフルエンザに似た以下のような症状が突然あらわれます。
・39℃を超えることも珍しくない高熱と、ガタガタ震える悪寒(おかん)
・体のだるさや関節の痛み
・症状がある側のわきの下のリンパ節の腫れや痛み
もし、それまでカチカチに硬かったしこりの一部が、ブヨブヨと軟らかく感じられるようになった場合、内部に膿がたまっている「乳腺膿瘍(にゅうせんのうよう)」のサインかもしれません。
この状態になると抗菌薬だけでは改善が難しく、針を刺したり切開したりして膿を出す処置が必要になる可能性があります。乳房の症状に変化を感じたら、決して様子を見ずに医療機関へ相談してください。
急性乳腺炎の検査・診断
急性乳腺炎の診断は、主に問診と視診・触診によって行い、必要に応じて超音波(エコー)検査や血液検査の結果を組み合わせて総合的に判断します。
まず、医師が患者さんのお話を丁寧に伺い、乳房の状態を直接確認する診察から始めます。
・問診: いつからどのような症状があるか、授乳の頻度や姿勢、赤ちゃんの飲み方、産後の疲労やストレスの有無など、症状だけでなく生活背景についても詳しくお聞きします。
・視診: 乳房の皮膚に赤みや腫れがないか、その範囲はどのくらいかなどを目で見て確認します。
・触診: しこりの有無や大きさ、硬さ、熱っぽさ、押したときの痛みの強さなどを、手で直接触れて確かめます。特に、しこりの一部がブヨブヨと軟らかくなっていないかは、膿がたまる「乳腺膿瘍」を見きわめるための重要なサインです。
実は、この触診で確かめる「しこりの大きさ」や「乳房の痛み」の評価方法は、いまだ世界的に確立された基準がありません。ある研究では、しこりの大きさを評価する方法が5種類、痛みを評価する方法が4種類も報告されており、診断の複雑さがうかがえます。※
だからこそ、画一的な基準に頼るのではなく、医師が患者さん一人ひとりの状態を丁寧に診察し、総合的に判断することが何より大切になるといえます。
さらに、以下のような場合には、より詳しい検査を行います。
・超音波(エコー)検査
しこりがなかなか改善しない、あるいは乳腺膿瘍が強く疑われる場合に行います。乳房の内部を画像で観察し、しこりの正体が単なる母乳のたまり(うっ滞)なのか、膿の袋(膿瘍)なのかを正確に判断できます。
・血液検査
体内でどの程度の炎症が起きているかを、白血球数やCRP(炎症反応の指標)といった客観的な数値で把握するために行います。高熱が出ている場合など、全身への影響を評価するのに役立ちます。
これらの問診や検査の結果を総合的に評価し、炎症の段階や重症度を診断したうえで、一人ひとりに合った治療方針を決定します。
急性乳腺炎の治療
急性乳腺炎の治療は、まず乳房のつらい痛みを和らげ、原因となっている「乳汁のうっ滞(母乳のたまり)」と「細菌による炎症」を解消することが基本です。症状の段階に合わせて、ご自宅でのセルフケアから薬物療法、必要に応じて膿(うみ)を取り除く処置まで、適切な治療法を選択します。
1. 基本的な対処(セルフケア)
炎症がまだ軽度な「うっ滞性乳腺炎」の段階では、ご自身で行うケアが治療の中心になります。
・たまった母乳を排出する
赤ちゃんにしっかり飲んでもらうことが、何よりの治療です。授乳間隔を短くしたり、痛みがある側から飲ませたりするなど、工夫して母乳を外に出しましょう。授乳が難しい場合は、手や搾乳器で優しく搾乳します。
・乳房を冷やす・温める
授乳の後や痛みが強いときは、冷たいタオルなどで冷やすと楽になります。逆に、授乳前に蒸しタオルなどで乳房を温めると母乳の出が良くなることがありますが、赤みや腫れがひどい場合は症状を悪化させる可能性があるので避けてください。
・安静にする
産後の疲れや寝不足は免疫力を低下させ、炎症を長引かせる原因です。できる限り体を休め、体力の回復に努めることが回復への近道といえます。
しこりをほぐそうと、自己流で乳房を強くマッサージするのは危険です。かえって乳腺組織を傷つけ、症状を悪化させてしまう可能性があります。実際に、乳房マッサージの効果をどう評価するかは専門家の間でも基準が確立されておらず、しこりの大きさや痛みなど、さまざまな指標を用いて慎重に判断されています※。マッサージを試したい場合は、必ず母乳外来や助産師など専門家の指導のもとで行ってください。
2. 薬物療法
セルフケアだけでは改善しない場合や、38℃以上の高熱など細菌感染を伴う「化膿性乳腺炎」が疑われる場合は、薬による治療を行います。
・抗菌薬(抗生物質)
細菌の増殖を抑えるための薬です。授乳中でも赤ちゃんへの影響が少ないとされるセファロスポリン系の薬などが選択されます。
・解熱鎮痛薬
高熱やズキズキする強い痛みを和らげるために使います。アセトアミノフェンやイブプロフェンなど、授乳中に使用できる薬が処方されることが多くあります。
3. 膿瘍(うみがたまった状態)の処置
抗菌薬を飲んでも症状が改善せず、乳房の中に膿がたまる「乳腺膿瘍(にゅうせんのうよう)」に進行してしまった場合、たまった膿を体の外へ排出する処置が必要になります。
・穿刺吸引(せんしきゅういん)
超音波(エコー)で膿がたまっている場所を確認しながら、細い針を刺して注射器で膿を吸い出します。傷跡が小さく、体への負担が少ない方法です。
・切開排膿(せっかいはいのう)
膿の量が多い場合や、穿刺吸引を繰り返しても膿がたまる場合に行われる処置です。皮膚を小さく切開し、膿を外に出します。
治療中であっても、基本的には授乳を続けることが推奨されます。ただし、お母さんの熱が38℃を超える場合や、乳腺膿瘍の処置後などは、医師の判断で一時的に授乳を中断することもあります。その場合でも、乳汁のうっ滞を防ぐために3〜4時間ごとの搾乳は続ける必要があります。乳房の症状や体調に不安を感じたら、自己判断で授乳を止めたりせず、速やかに医療機関へ相談してください。









