難治頻回部分発作重積型急性脳炎

「NORSE(ノース)」という聞き慣れない病名に、不安を感じる方もいらっしゃるかもしれません。これは、これまで元気に過ごしていたお子さんの脳に突然炎症が起こり、けいれんが止まらなくなってしまう、非常に難しい病気です。脳の中で電気的なショートが繰り返し起こるような状態を想像してみてください。

大規模な国際調査では、患者さんの脳と脊髄の周りの水分(髄液)に炎症を引き起こす「サイトカイン」という物質が非常に増えていることが報告されています。この病気は治療が難しいとされてきましたが、近年は免疫の異常に注目した「アナキンラ」や「トシリズマブ」といった新しい治療法が積極的に研究され、希望が見え始めています。

この記事では、NORSEがどのような病気で、なぜ難病とされるのか、そして最新の治療選択肢までを詳しく解説します。大切な方の未来を守るため、ぜひご一読ください。

難治頻回部分発作重積型急性脳炎の概要

この病気の名前は少し難しいですが、「NORSE(ノース)」という愛称で呼ばれています。これは、脳が突然、大きなトラブルを起こしてしまう、とても大変な病気のことです。これまで元気に過ごしていた子どもたちが、ある日急に脳に炎症が起こり、体が勝手にピクピク、ガタガタとけいれんしてしまう状態が、なかなか止まらなくなってしまうことが特徴です。

脳の中で電気的なショートが繰り返し起こり、それが止まらなくなっているような状態だと考えてみてください。このNORSEでは、体を守る「警備隊」のような役割を持つ「免疫」の働きに異常が生じていることがわかってきています。特に、生まれたときから体に備わっている「自然免疫」という守りの仕組みが、うまく機能しないことで脳の炎症が悪化すると考えられています。

多くの研究から、NORSEの患者さんでは、脳と背骨の中にある水分(髄液)に普段よりもたくさんの細胞が見つかることがあります。また、炎症を起こす「サイトカイン」という物質が非常に増えていることも報告されています。大規模な国際的な調査でも、他の重いけいれんの病気と比べて、NORSEの患者さんでサイトカインのレベルが高いことが示されました。

しかし、一人ひとりの患者さんで、脳の炎症のパターンが少しずつ異なっていることも、最近の研究で明らかになっています。このような病状のため、NORSEは治療が難しいとされています。ですが、近年は免疫の異常に注目した新しい治療法が積極的に研究されています。

具体的には、炎症を引き起こす特定の物質を抑える「アナキンラ」や「トシリズマブ」といったお薬が使われることがあります。また、脳の中の炎症を直接鎮める「髄腔内デキサメタゾン」というお薬も有望であると注目されています。さらに、「カナキヌマブ」など、新しいタイプのお薬の研究も進められています。私たち医師も、患者さんの状態を詳しく見極め、それぞれの炎症のタイプに合わせた「オーダーメイド」の治療法を一緒に考えていくことが大切だと考えています。

難治頻回部分発作重積型急性脳炎の種類

このNORSEという病気は、さまざまな原因が考えられるため、いくつかの「種類」に分けられます。 どのタイプかを知ることは、治療を考える上でとても大切です。

特に多く見られるのは、私たちの体を守る「免疫」(体の警備隊)が、 なぜか間違って自分の脳を攻撃してしまうことで起こるタイプです。 これを「自己免疫性てんかん」と呼んでいます。

この自己免疫性てんかんには、具体的な名前のついた種類があります。 例えば、「ラスムッセン症候群」という病気や、 まれに腫瘍が関係する「傍腫瘍性辺縁系脳炎」といったタイプです。 また、脳の神経細胞にある「LGI1」というタンパク質や、 「GAD65」という酵素に対して体が反応してしまう「自己抗体」が見つかるケースもあります。

この「自己免疫性てんかん」は、てんかん発作が起こりやすい 「自己免疫性脳炎」という別の病気と症状が似ているため、区別が難しいことがあります。 私たち医師は、患者さんの症状をしっかり見て、どちらのタイプかを慎重に判断するようにしています。

実は、てんかんという病気全体では、およそ3分の1はまだ原因がはっきりわかっていません。 しかし、国際的な研究によると、原因不明のてんかんの中にも、 約5%は免疫の異常が関係している可能性があると報告されています。 世界のてんかんの専門家グループも、免疫の異常がてんかんの原因の一つであることを認めています。

特に、通常のお薬だけではなかなか発作が止まらない「薬剤抵抗性てんかん」の患者さんでは、 複数の「自己抗体」が見つかることがあります。 これは病気の診断を複雑にし、治療も難しくなるため、できるだけ早くこれらの抗体を見つけることが非常に重要です。 一般的な抗てんかん薬だけでは、免疫に関わる発作を抑えきれないことも多いため、 最近では免疫の働きを整える新しいお薬(免疫調節療法)の研究も進められています。

私たちは、一人ひとりの患者さんの体の状態を細かく調べて、 その方に合った最適な治療法を見つけることが大切だと考えています。

難治頻回部分発作重積型急性脳炎の原因

このNORSEという病気の原因は、まだすべてがはっきりわかっていません。 しかし、最近の研究から、脳の中で炎症が起こってしまうことや、 私たちの体を守る「免疫」という仕組みの異常が深く関係していることが分かってきました。 私たち医師も、この「免疫」の働きに注目しています。

特に、原因がはっきりしないNORSE(「c-NORSE」と呼ばれます)では、 私たちが生まれつき持っている「自然免疫」という守りの仕組みがうまく働かないと、 脳の炎症が悪くなってしまうと考えられています。 病気の患者さんの脳の周りの水分を調べると、炎症に関わる細胞がたくさん増えたり、 炎症を起こす「サイトカイン」という物質がたくさん見つかったりすることがあります。 これは、国際的な大規模な調査でも報告されています。 つまり、この自然免疫の働きが、NORSEが始まるのにとても大切だということです。

また、自分の体を守るはずの免疫が、なぜか間違って自分の脳を攻撃してしまうことがあります。 これを「自己免疫」といいます。 全てのてんかんの約3分の1は、まだ原因が分からないと言われています。 しかし、そのうちの約5%は、この「免疫」の異常が関係している可能性があると推測されています。 世界のてんかんの専門家グループも、免疫の異常がてんかんの原因の一つであることを認めています。 例えば、脳の神経細胞にある「LGI1」や「GAD65」といった特定のタンパク質が、 間違って攻撃されてしまうケースも報告されています。

特に、なかなか発作が止まらない「薬剤抵抗性てんかん」の患者さんでは、 自分の体を攻撃してしまう特別な「自己抗体」が複数見つかることもあります。 このような状況は、病気の診断を難しくし、治療も複雑になるため、 できるだけ早くこれらの抗体を見つけることがとても重要だと考えています。 NORSEの患者さん一人ひとりで、脳の炎症のパターンが少しずつ異なることも分かってきています。 そのため、患者さんに合った「オーダーメイド」の治療法を見つけるためにも、 原因を詳しく調べていくことが大切だと考えています。

難治頻回部分発作重積型急性脳炎の症状

この「NORSE(ノース)」という病気にかかると、脳に炎症が起こり、 普段の元気な状態とは異なる、さまざまな体のサイン(症状)が現れます。 中でも一番の特徴は、くり返し起こる「てんかん発作」です。

発作が何度も続いてしまったり、なかなか止まらなかったりすることが多くあります。 これは「てんかん重積状態」と呼ばれる、とても心配な状態です。 特に小さなお子さんの場合、この発作が止まりにくく、 意識がもうろうとする「脳症」という状態になりやすいことが分かっています(Rubin M et al., 2025)。 また、一度てんかん発作が起こると、それが長引き、 「慢性てんかん」に移行してしまうリスクも、小さなお子さんでより多く見られます(Rubin M et al., 2025)。

てんかん発作だけでなく、脳の炎症は心や体の動きにも影響を与えます。 たとえば、以下のような症状が現れることがあります。

  • 精神症状
  • 気分が不安定になる、幻覚を見る、イライラしやすくなる、
  • いつもと違う言動をとるなど、心に変化が現れます。
  • これらの症状は、患者さんの45.5~71.4%で認められると報告されています(Saeed S et al., 2025)。
  • 認知機能の障害
  • ものごとを覚えにくくなる、集中力が続かない、
  • 考えがまとまらないなど、考える力に影響が出ます。
  • およそ30.6%の患者さんに見られる症状です(Saeed S et al., 2025)。
  • 運動の障害
  • 体の一部が動きにくくなる、うまく歩けない、
  • 体が震えるなど、体の動きに問題が生じます。
  • こちらも約30.6%の患者さんで報告されています(Saeed S et al., 2025)。

これらの症状は、一人ひとりの患者さんで異なり、 時期によって変化することもあります。 NORSEは、他の脳炎(例えば「抗NMDA受容体脳炎」と呼ばれる病気)と 重なって発症することがあり、症状がさらに複雑になる場合もあります(Saeed S et al., 2025)。

小さなお子さんで、上記のような症状に気づいたら、 早く専門の医療機関に相談することが大切です。 私たちは、患者さんの症状を詳しく見て、適切な対応を一緒に考えていきます。

難治頻回部分発作重積型急性脳炎の検査・診断

NORSEという病気は、脳に大きなトラブルが起きるため、できるだけ早く病気を見つけ、適切な治療を始めることが大切です。診断が遅れると、脳への負担が大きくなるだけでなく、体の他の部分にも悪い影響が出てしまう可能性があるからです。私たち医師も、早く診断をして、お子さんが少しでも楽になるようサポートしたいと考えています。

病気を診断するためには、いくつかの検査を組み合わせて、脳と体の状態を詳しく調べていきます。

  • 脳波検査
  • 脳がどんな電気的な活動をしているかを見る検査です。
  • 見た目にはけいれんしていなくても、脳の中では発作が続いていることがあります。
  • 「非けいれん性てんかん重積状態」と呼ばれる状態は、発見が難しいものです。
  • 時間をかけて脳波を記録し続けることで、隠れた発作も早く見つけられます。
  • 早期に発見することは、お子さんの未来を守るためにとても重要です。(Iglesias AH et al., 2025)
  • MRI検査
  • 脳の形や様子を写真のように詳しく見る検査です。
  • NORSEの患者さんの約75%で、脳に何らかの異常な変化が見つかることがわかっています。(Saeed S et al., 2025)
  • 血液・髄液(ずいえき)検査
  • 脳と背骨の中にある水分(髄液)や血液を調べることで、体の「免疫」という守りの仕組みに異常がないかを探ります。
  • 検査では、「抗NMDA受容体抗体」という、脳を攻撃してしまう目印が見つかることがあります。
  • また、「MOG抗体」や「AQP4抗体」といった別の種類の目印も、同時に見つかる場合があります。(Saeed S et al., 2025)
  • 複数の異常が重なると、診断が複雑になることもあります。(Saeed S et al., 2025)
  • 間違った結果が出ないよう、専門の施設で信頼できる方法を使って、慎重に検査を進めます。
  • 標準化された方法で調べることで、より正確な診断につながります。(Saeed S et al., 2025)

すべての検査結果を総合して、私たち医師がNORSEであるかを診断していきます。お子さんの状態を細かく見極めることが、適切な治療への第一歩となるのです。

難治頻回部分発作重積型急性脳炎の治療

「NORSE(ノース)」という病気の治療は、お子さんの命と未来を守るために、早く対応することが何よりも大切です。私たち医師は、主に次の3つのステップで治療を進めていきます。

  1. くり返す発作を早く止めること
  2. 病気の根本原因を見つけて治すこと
  3. 全身の状態をしっかり守ること

発作が続く時間は、お子さんの脳だけでなく、体全体に大きな影響を与えてしまいます。てんかんの発作が長く続けば続くほど、治療が難しくなるだけでなく、命に関わる危険性も高まることがわかっています。もし、発作が止まらない状態が続くと、「超難治性てんかん重積状態」というさらに重い状態に進んでしまい、命を落とす危険性が大きく上がることが報告されています。だからこそ、できるだけ早く、確実な方法で発作を止めることが非常に重要です。

1. 発作を早く、確実に止める薬

発作を止めるためには、点滴などで強い薬を使って、脳の興奮を鎮めます。一般的に使われる抗てんかん薬だけでなく、この病気では、脳の炎症を抑える「免疫療法」という特別な治療がとても大切になってきます。

2. 体の警備隊(免疫)を整える「免疫療法」

NORSEの原因が、体の警備隊(免疫)が間違って自分の脳を攻撃してしまう「自己免疫」の病気であったり、脳に強い炎症が起きていることが原因だと考えられる場合には、免疫の働きを調整する治療を行います。脳の中で炎症を起こす「サイトカイン」という悪い物質がたくさん出ていることが分かっており、この物質の働きを抑える薬を使うことがあります。

具体的には、以下のようなお薬が使われます。

  • アナキンラ:炎症を起こす物質の一つである「IL1(アイエルワン)」の働きをブロックします。
  • トシリズマブ:もう一つの炎症物質「IL6(アイエルシックス)」の働きをブロックします。

これらの薬は、発作を抑えることに期待が持てることが多くの報告で示されています。

また、最近では脳の炎症を直接鎮める新しい治療法も注目されています。

  • 髄腔内デキサメタゾン:脳と脊髄の周りの水分の中に直接入れるお薬で、有望な効果と少ない副作用が報告されています。
  • カナキヌマブ:炎症を起こす「IL1」という物質を抑える新しいタイプのお薬です。
  • ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬、腫瘍壊死因子アルファ(TNFα)阻害薬:これらも、炎症を抑えるための新しい治療として研究が進められています。

この病気は、一人ひとり炎症のパターンが少しずつ違うため、お子さんの状態に合わせて最適な「オーダーメイド」の治療法を私たち医師が一緒に考えていきます。

3. 全身の状態をしっかり守る治療

発作が長く続くと、脳だけでなく、体の他の大事な部分(臓器)にも大きな影響が出てしまうことがあります。例えば、心臓のリズムが乱れたり(不整脈)、呼吸が難しくなったり(呼吸不全)、腎臓や胃腸の働きが悪くなったりと、さまざまなトラブルが起こる可能性があります。

そのため、集中治療室などで、お子さんの全身の状態を細かく観察しながら、それぞれの臓器の働きを支える治療も同時に行っていきます。早期に体の合併症を見つけて対処することは、お子さんの回復にとってとても大切です。

私たち医師は、お子さんが一日も早く元気な生活に戻れるよう、全力を尽くします。心配なことや気になることがあれば、いつでもご相談ください。