リンパ形質細胞性リンパ腫
リンパ節の腫れや貧血、あるいは原因不明の発熱や体重減少に不安を抱えていませんか。リンパ形質細胞性リンパ腫は、白血球の異常増殖により骨髄やリンパ節などに影響を及ぼします。これは血液のがんの一種です。聞き慣れないと感じるこの病名ですが、適切な診断と治療選択が重要となります。
本記事では、リンパ形質細胞性リンパ腫の概要と現れる症状、正確な診断のための検査を体系的に解説します。多岐にわたるLPLのタイプ、一人ひとりに合わせた治療選択肢、似た症状との鑑別の重要性についても紹介します。
この記事を読むことで、ご自身の病状への理解が深まるでしょう。医療者との対話や治療選択に向けた一歩を踏み出すきっかけとなることが期待できます。不安を解消し、ご自身にとって最善の道を見つける助けとなることを願います。
リンパ形質細胞性リンパ腫の概要
リンパ形質細胞性リンパ腫(LPL)は、白血球の一種であるリンパ球と形質細胞の両方の性質を併せ持つ細胞が、体のなかで異常に増えてしまう「非ホジキンリンパ腫」という血液のがんの一種です。この病気では、異常な細胞が主に骨髄やリンパ節、脾臓(ひぞう)などに蓄積することで、さまざまな症状を引き起こすことがあります。
LPLの多くは、血清中に単クローン性免疫グロブリンM(IgM)という異常なタンパク質が検出される「原発性マクログロブリン血症」として知られています。しかし、LPLの中にはIgM以外の免疫グロブリンA(IgA)や免疫グロブリンG(IgG)を分泌するタイプ、あるいは異常なタンパク質を全く分泌しない非分泌性のタイプも存在することがわかっています※。
例えば、ある報告では、IgMが検出されないIgGを分泌するLPL患者さんが、貧血や脾臓が腫れる「脾腫」という症状を呈し、ボルテゾミブ、デキサメタゾン、リツキシマブといった薬剤による治療が必要になったことが示されています※。
このように、血清中にIgMが検出されないからといって、LPLの可能性がないとは言い切れません。そのため、貧血や脾腫、体重減少など、LPLを疑わせる症状がある場合には、たとえIgMが検出されなくても、骨髄検査や画像検査、遺伝子検査など専門的な検査を通じて、病気の有無や性質、広がりを詳しく評価することが非常に大切です。適切な診断は、一人ひとりの患者さんに合った治療方針を立てるための第一歩となるでしょう。
リンパ形質細胞性リンパ腫の種類
リンパ形質細胞性リンパ腫(LPL)は、細胞の性質や病気の進行度合いに応じて、大きく分けて3つのタイプに分類されます。LPLは、一般的にはゆっくりと進行する「インドレント型」(低悪性度)のリンパ腫ですが、ごくまれに急速に悪化する「アグレッシブ型」(高悪性度)のリンパ腫へと変化することがあります※。
LPLの主なタイプは、次のとおりです。
・ウォルデンシュトロームマクログロブリン血症 (WM)
LPLと診断された患者さんの多くがこのタイプに当てはまります。この病型では、血液中に「モノクローナルIgM」という、特定の種類の免疫グロブリンM(IgM)が異常に多く作られ、これが病気の特徴です。
・非ウォルデンシュトロームマクログロブリン血症 (非WM-LPL)
このタイプは、血液検査でモノクローナルIgMが検出されず、代わりに免疫グロブリンA(IgA)や免疫グロブリンG(IgG)などの別の免疫グロブリンが作られるLPLを指します。または、免疫グロブリンがほとんど作られないケースも含まれます。前述の「リンパ形質細胞性リンパ腫の概要」でも触れたように、IgM以外の免疫グロブリンが検出される症例もあるため、血液検査の結果だけでLPLの可能性を完全に排除することはできません。
・形質転換したリンパ形質細胞性リンパ腫 (T-LPL)
元々ゆっくりと進行していたインドレント型のLPLが、時間の経過とともに、より進行が速く、悪性度の高い「アグレッシブ型」のリンパ腫へと変化することがあります。これを「形質転換」といいます。この「組織学的形質転換(HT)」は、病気の経過において重要な転換点となり、治療方針を大きく見直す必要が生じる可能性があります※。現在、この形質転換がどのような分子メカニズムで起こるのか、研究が進められている段階です※。
LPLのタイプを正確に診断することは、患者さん一人ひとりに最適な治療計画を立て、病気の進行や再発を予測する上で非常に重要です。もし病状について疑問や不安があれば、主治医に相談し、ご自身の病気への理解を深めることをおすすめします。
リンパ形質細胞性リンパ腫の原因
リンパ形質細胞性リンパ腫(LPL)の特定の原因は、現時点では明確になっていません。しかし、この病気は、骨髄や脾臓(ひぞう)、リンパ節といった体の各部位で、リンパ球の一種であるB細胞が異常に増殖することで発症すると考えられています。LPLは、細胞が形質細胞へと分化(成熟)する特徴を持つB細胞性リンパ腫の一つです。このため、多発性骨髄腫(たはつせいこつずいしゅ)と鑑別(区別)が難しい場合があることが指摘されています※。
リンパ形質細胞性リンパ腫の症状
リンパ形質細胞性リンパ腫(LPL)の症状は、異常な細胞がどこで増えるか、病気がどのくらい進んでいるかによってさまざまです。体の複数の場所に病変が広がるため、LPLとはわかりにくい症状から、血液の異常による特有の症状まで、その現れ方は多岐にわたります。
まず、LPLをはじめとするリンパ腫によく見られる全身症状として「B症状」があります。これは、病気が体のサインとして発する以下のような症状の総称です。
・発熱:発熱の原因が他に見つからない微熱が続くことがあります。
・体重減少:意図せず、半年で体重が1割以上減ってしまうことがあります。
・寝汗:夜中に下着がびしょ濡れになるほどの大量の汗をかくことがあります。
これらの症状は、体の免疫システムが異常な細胞と戦っていることや、病気の進行に伴う体力の消耗から起こると考えられています。
LPLの病変が広がった場所に応じて、具体的な症状が現れることがあります。
・骨髄(こつずい):異常な細胞が骨髄で増えると、正常な血液を作る機能が妨げられます。
・貧血: 赤血球が減り、顔色が悪くなったり、動いたときに息切れや動悸を感じたりする可能性があります。
・出血傾向: 血小板が減り、鼻血が出やすくなったり、青あざができやすくなったりする場合があります。
・感染症: 白血球の一種である好中球が減ると、免疫力が低下して感染症にかかりやすくなります。
・リンパ節、脾臓(ひぞう)、肝臓:これらの臓器に病変が広がると、以下のような症状が見られます。
・リンパ節の腫れ: 首や脇の下、足の付け根にあるリンパ節が腫れて、触るとしこりのように感じる場合があります。通常は痛みがないことが多いです。
・脾臓の腫れ(脾腫): お腹の左上が張った感じがしたり、食欲がなくなったりすることがあります。
・肝臓の腫れ: お腹の右上が張る感じや、倦怠感が出ることがあります。
特に、LPLの多くを占める「ウォルデンシュトロームマクログロブリン血症(WM)」というタイプでは、モノクローナルIgMという特殊な免疫グロブリン(抗体の一種)が大量に作られます。この異常なタンパク質が増えすぎると血液がドロドロになり、血流が悪くなることがあります。これを「過粘稠度症候群(かねんちゅうどしょうこうぐん)」と呼び、以下のような症状を引き起こします。
・頭痛、めまい
・視力の低下
・耳鳴り
・鼻血などの出血傾向
また、異常な免疫グロブリンが末梢神経に影響を与えることで、手足のしびれや感覚の異常、脱力感といった「末梢神経障害」が現れるケースもあります。
LPLの症状は、他の病気と区別しにくい場合も少なくありません。例えば、消化管にLPLの病変がある場合、良性の「ラッセル小体十二指腸炎」という病気と症状が似ていることがあります※。
・ラッセル小体十二指腸炎とは?
この病気は、慢性的な炎症が続くことで、腸の粘膜にある形質細胞(リンパ球から分化し、抗体を作る細胞)に、免疫グロブリンというタンパク質が過剰に溜まってしまう状態を指します※。「ラッセル小体」とは、この異常に溜まった免疫グロブリンの塊を指す言葉です。
ラッセル小体十二指腸炎は良性の病気ではありますが、LPLをはじめとするリンパ腫や多発性骨髄腫など、別の深刻な病気と区別(鑑別)することが難しい場合があります※。特に十二指腸に発生する例は非常に珍しく、報告されているのは10例未満とされています※。
そのため、適切な診断には、内視鏡を使った生検(組織の一部を採取して調べる検査)を行い、さらに免疫組織化学という専門的な病理検査で詳しく細胞を分析することが欠かせません※。気になる症状がある場合は、自己判断せずに必ず医療機関を受診し、医師に相談してください。早期に正確な診断を受けることが、適切な治療へつながる第一歩となるでしょう。
リンパ形質細胞性リンパ腫の検査・診断
リンパ形質細胞性リンパ腫(LPL)の検査・診断は、症状や全身の状態、そして病気の広がりを詳しく評価し、複数の専門的な検査を組み合わせて総合的に行われます。特に、類似した他の病気との区別(鑑別)が非常に重要です。
LPLの確定診断には、主に次のような検査が欠かせません。
・血液検査
リンパ形質細胞性リンパ腫(LPL)の血液検査では、まず白血球、赤血球、血小板の数を調べ、貧血や免疫力の低下、出血傾向など、病気が体に及ぼしている影響を把握します。加えて、異常な免疫グロブリン(抗体の一種)が血液中に増えていないかを確認します。特にモノクローナルIgM(M蛋白)がLPLの特徴的な所見の一つですが、IgAやIgGを分泌するタイプ、あるいは異常な免疫グロブリンを分泌しない「非分泌性」のLPLも存在するため、M蛋白が検出されないからといってLPLの可能性が否定されるわけではありません。血液検査は、病気の活動性や合併症の有無を探る重要な手がかりとなります。
・骨髄検査(骨髄穿刺・生検)
LPLの確定診断において、骨髄検査は中心的な役割を担います。骨髄液の一部を採取する骨髄穿刺(こつずいせんし)と、骨髄組織を採取する骨髄生検(こつずいせいけん)を行い、顕微鏡で異常な細胞の形、数、分布などを詳しく調べます。LPLは、多発性骨髄腫や他のB細胞リンパ腫と形態学的、免疫表現型学的、臨床的に似た特徴を持つことがあり、これらを明確に区別することが難しいケースも少なくありません※。そのため、正確な診断には、病理医による詳細な検査に加え、後述する分子遺伝学的補助検査や慎重な臨床的検討が不可欠です※。これにより、病気の性質を深く理解し、適切な治療へとつなげます。
・画像検査(CT、PET-CTなど)
画像検査は、病変の広がりやリンパ節の腫れの有無、他の臓器への影響を確認するために行われます。具体的には、CT検査(コンピュータ断層撮影)やPET-CT検査(陽電子放出断層撮影)が用いられます。これらの検査によって病気の進行度を正確に評価し、最適な治療方針を立てる上で重要な情報が得られます。
・病理組織学的分析・免疫組織化学検査
生検で採取された組織は、病理医が顕微鏡を用いて細胞一つひとつの形態や増殖パターンを詳細に観察します。さらに、細胞が持つ特定のタンパク質を染め分けて識別する免疫組織化学検査を行います。LPLは、時に良性の「ラッセル小体十二指腸炎」や、MALTリンパ腫、多発性骨髄腫、さらには「印環細胞(印鑑の形に似た細胞)」を特徴とする癌など、見た目が似た他の病気と区別(鑑別)が難しい場合があります※。そのため、これらの検査を組み合わせることで、異常な細胞の性質を正確に特定し、LPLの確定診断へと導きます※。十二指腸におけるラッセル小体は非常に稀な病態で、報告されている症例は10例未満とされています※。
・分子遺伝学的検査
分子遺伝学的検査は、LPLの診断精度を高め、治療選択に役立つ重要な情報を提供します。細胞の遺伝子異常を詳細に調べることで、他のリンパ腫との鑑別をより確実に行えるようになるだけでなく、疾患のタイプや進行リスクを評価する上で貴重な手がかりとなります。LPLのように多発性骨髄腫や他のB細胞リンパ腫と似た特徴を持つ病気では、分子遺伝学的補助検査と合わせて、患者さんの全身状態やこれまでの経過を慎重に検討することが、正確な診断に不可欠です※。
これらの検査結果は、それぞれの情報を総合的に判断し、リンパ形質細胞性リンパ腫の最終的な診断へとつなげます。患者さんの病状や進行度によっては、さらに詳しい検査が追加されることもあります。診断の過程で疑問や不安があれば、遠慮なく主治医に相談し、納得のいく説明を受けるようにしましょう。
リンパ形質細胞性リンパ腫の治療
リンパ形質細胞性リンパ腫(LPL)の治療は、患者さんの病状や年齢、全身の状態に応じて、最も適した方法が選択されます。この病気の治療は、主に化学療法と分子標的薬を組み合わせることが中心となりますが、状況によっては造血幹細胞移植も検討されることがあります。治療の主な目的は、病気の進行を抑え、つらい症状を和らげ、できる限り質の高い生活を送れるようにすることです。
具体的な治療法は次のとおりです。
・経過観察
病気の進行が非常にゆっくりで、ご自身で感じる症状がほとんどない場合には、すぐに治療を始めず、定期的な検査で病状の変化を注意深く見ていくことがあります。この場合、治療をしないままでも、長期間にわたって安定した状態を保つ方もいらっしゃいます。治療を急がないのは、不必要な治療による副作用を避けるためです。
・化学療法
抗がん剤を点滴で血管に入れたり、飲み薬として服用したりして、がん細胞を攻撃する治療です。多くの場合、複数の薬剤を組み合わせて行われます。この治療によって、病気の進行を抑えたり、がん細胞の数を減らしたりすることが期待できます。
・免疫療法
免疫療法は、体にもともと備わっている免疫の力を利用して、がん細胞と戦う治療法です。具体的には、免疫細胞の働きを助ける薬や、がん細胞を免疫細胞が認識しやすくする薬を使います。LPLの治療でよく用いられる薬剤の一つにリツキシマブがあります。これは、がん細胞の表面にある特定の目印(CD20抗原)にくっつき、免疫細胞ががん細胞を攻撃しやすくする分子標的薬の一種でもあります。
・分子標的薬
分子標的薬は、がん細胞だけが持っている特有の性質や、がんの増殖に関わる特定の分子だけを狙って作用する薬剤です。そのため、正常な細胞への影響を比較的少なく抑えつつ、効率的にがん細胞を攻撃することが期待できます。
近年、これまでの治療で効果が見られなかったり、再発してしまったりしたリンパ形質細胞性リンパ腫(LPL)や、その多くを占めるウォルデンシュトロームマクログロブリン血症(WM)に対して、ベネトクラクスという分子標的薬が有効であることがわかっています。
ある多施設共同研究では、再発または治療が難しいLPL/WMの患者さん76人がベネトクラクスの単剤療法を受けたところ、約70%の患者さんで病状の改善(奏効)が見られました※。特に、複数の先行治療を受けてきた重い状態の患者さんでも、高い割合で病状の改善が認められ、病気の進行を抑える期間(無増悪生存期間)も長くなることが報告されています※。
この研究によると、病気の進行を抑えられた期間(無増悪生存期間の中央値)は28.5カ月で、2年後も約57%の患者さんが病気の進行なく過ごせていました※。また、2年後の生存率は約82%でした※。
ベネトクラクス治療中には、約7%の患者さんで腫瘍崩壊症候群(TLS)という合併症が報告されていますが、そのうち臨床的な症状を伴うTLSは4%でした※。このTLSは、がん細胞が大量に壊れることで起こるもので、電解質のバランスが崩れるなど注意が必要な状態です。
・造血幹細胞移植
これは、特定の状況下で検討される、より強力な治療法の一つです。大量の化学療法を行うことで、体のがん細胞だけでなく、正常な造血細胞もダメージを受けてしまいます。そのため、事前に採取しておいた患者さんご自身の造血幹細胞(自家移植)や、健康なドナー(提供者)からの造血幹細胞(同種移植)を体に戻し、血液を作る機能を回復させます。
治療方針は、主治医が病気の種類や進行度、患者さんの全身の状態、合併症の有無などを総合的に判断して決定します。副作用への対処法を含め、治療に関して不安な点や疑問があれば、遠慮なく主治医や医療スタッフに相談することが大切です。治療は長期にわたることもあるため、医療チームと協力しながら、ご自身の状態に合った治療法を選択し、進めていくことが重要です。





