リウマチ性多発筋痛症
体の中心部の痛みやこわばりが続き、「単なる筋肉痛や歳のせいだろうか」と不安を感じていませんか。特に朝方に症状が強く、着替えや物を持つ動作に支障を感じる方もいます。
それは「リウマチ性多発筋痛症」の可能性があります。本記事では、主に60歳以上に多く、近年がん治療薬「免疫チェックポイント阻害薬」の影響で発症する「ICI関連リウマチ性多発筋痛症」も注目される病気について、概要から原因、症状、診断、治療法まで詳しく解説します。
2023年7月までにICI治療を受けた患者さんのうち71名に発症が確認されているこの病気の正しい知識を得ることで、自身の症状への理解を深め、早期の診断と適切な医療へ踏み出す一助となるでしょう。
リウマチ性多発筋痛症の概要
リウマチ性多発筋痛症は、主に60歳以上の高齢者に多く見られる、体の広い範囲に痛みやこわばりが現れる炎症性の病気です。
この病気は、特に首や肩、腕のつけ根、お尻、太ももといった体の中心に近い部分に、強い痛みやこわばりを引き起こします。特に朝方に症状が強く出る点が特徴的です。痛みは関節そのものではなく、関節を支える周囲の筋肉や腱に炎症が生じることで起こると考えられています。
リウマチ性多発筋痛症の詳しい原因は、まだ完全に解明されていません。しかし、自身の免疫システムが誤って体を攻撃してしまう「自己免疫の異常」が深く関与していると考えられています。
近年、注目されているのは、がん治療で使用される「免疫チェックポイント阻害薬(ICI)」が原因となって発症するケースです。これは「ICI関連リウマチ性多発筋痛症(ICI-PMR)」と呼ばれ、免疫システムが過剰に活性化することで起こる、免疫関連有害事象(irAEs)の一つとされています※。
実際の報告として、2023年7月までに調査された研究では、免疫チェックポイント阻害薬による治療を受けた患者さんのうち、71名がICI-PMRを発症していたことが明らかになっています※。ICI-PMRは、がん治療に伴う合併症として、時に見過ごされがちであるという指摘もあります※。
ICI-PMRの治療には、炎症を抑える「グルココルチコイド」(ステロイド)が非常に有効であるとされています。報告されたICI-PMR患者の95%がグルココルチコイドで治療を受け、その効果が示されています※。また、約17%の患者さんには、より根本的な免疫反応の調整を目指す「疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARD)」が併用されることもあります※。
がん治療の根幹であるICIの継続や再開については、まだ明確な基準が確立されていません。しかし、限られたデータからは、重症ではないICI-PMRの患者さんでは、医師と綿密に相談の上、ICIを再開できる可能性も示唆されています※。
早期に正確な診断を受け、一人ひとりの状態に合わせた適切な治療を始めることが、症状を和らげ、患者さんの生活の質(QOL)を維持するために大変重要です。
リウマチ性多発筋痛症の種類
リウマチ性多発筋痛症は、その発症の背景によっていくつかのタイプに分類されます。多くの場合、特定の原因が明らかではない「特発性リウマチ性多発筋痛症」を指しますが、他の病気と合併したり、特定の治療薬がきっかけで発症したりするケースも存在します。
代表的な種類は、以下の3つです。
・特発性リウマチ性多発筋痛症
最も一般的なタイプで、一般的にリウマチ性多発筋痛症と呼ばれているものです。肩や首、腰、お尻、太ももといった体の中心部に近い部分に、痛みやこわばりが広く現れます。このタイプの詳しい原因はまだわかっていませんが、遺伝的な要因やウイルス感染などが関わっている可能性が考えられています。
・巨細胞性動脈炎(GCA)に伴うもの
リウマチ性多発筋痛症の患者さんのうち、約15~20%の方に「巨細胞性動脈炎(GCA)」という別の炎症性疾患が合併するといわれています。GCAは、頭部の太い血管(動脈)に炎症が起きる病気です。この合併症がある場合、頭痛や視力障害、顎の痛みなどが現れることがあります。重い合併症である視力低下を防ぐためにも、早期に発見し、適切な治療を始めることが重要です。
・免疫チェックポイント阻害薬関連リウマチ性多発筋痛症(ICI-PMR)
がん治療で用いられる「免疫チェックポイント阻害薬(ICI)」が原因で発症するタイプです。これは、薬が免疫システムを活性化させすぎることで起こる「免疫関連有害事象(irAEs)」の一つと考えられています。ICI-PMRは、以前はあまり知られていませんでしたが、近年の研究では、ICI治療を受けた患者さんにおける過小評価されがちな合併症であることが指摘されています※。
2023年7月までに調査された症例では、ICI治療を受けた患者さんのうち71名がICI-PMRを発症していたことがわかっています※。このタイプの治療には、炎症を抑える「グルココルチコイド(ステロイド)」が非常に有効であると考えられます。実際に、報告されたICI-PMR患者の95%がグルココルチコイドによる治療を受け、その効果が示されています※。
がん治療の根幹であるICIの継続や再開については、まだ明確な基準が確立されていません。しかし、限られたデータからは、重症ではないICI-PMRの患者さんであれば、医師と綿密に相談の上、ICIを再開できる可能性も示唆されています※。
リウマチ性多発筋痛症の原因
リウマチ性多発筋痛症の原因は、単一ではなく、複数の要素が複雑に絡み合って発症すると考えられています。まだ全容解明には至っていませんが、現在の研究で有力とされているのは以下の点です。
・遺伝的素因:
特定の遺伝的素因を持つ人は、リウマチ性多発筋痛症を発症しやすい傾向にあることがわかっています。例えば、特定のHLA(ヒト白血球型抗原)遺伝子型を持つ人に発症が多く見られます。しかし、遺伝的な要因だけで病気が発症するわけではありません。
・環境要因(ウイルス感染など):
何らかのウイルス感染や細菌感染が引き金となり、体の免疫システムが過剰に反応することで、この病気が発症するという説も有力視されています。感染が直接の原因となるというよりは、感染をきっかけに免疫バランスが崩れ、自己の体を攻撃してしまうような状態が生まれると考えられます。
・加齢による免疫機能の変化:
リウマチ性多発筋痛症は、主に50歳以上、特に60歳以上の高齢者に多く見られる特徴があります。年齢を重ねるにつれて免疫機能が変化し、自己を攻撃するような異常な免疫反応が起こりやすくなることが、発症リスクを高める一因と考えられています。
・薬剤性(免疫チェックポイント阻害薬):
がん治療に用いられる「免疫チェックポイント阻害薬(ICI)」は、免疫力を高めてがん細胞を攻撃する画期的な薬です。しかし、この薬が免疫システムを過剰に活性化させることで、免疫関連有害事象(irAEs)と呼ばれる副作用が生じることがあります。その一つとして、リウマチ性多発筋痛症(ICI関連リウマチ性多発筋痛症、ICI-PMR)が発症するケースが近年注目されています。
これは、薬が免疫のブレーキを解除し、自己の組織をも攻撃してしまうことで、広範囲に炎症が引き起こされるためと考えられています。ある研究では、2023年7月までに調査されたICI治療を受けた患者さんのうち、71名がICI-PMRを発症していたことが報告されており、ICIの合併症として過小評価されている可能性も指摘されています※。
これらの要因は単独で発症を引き起こすのではなく、互いに影響し合い、複雑なメカニズムで病気を誘発すると考えられています。一人ひとりの患者さんで、どの要因が強く関わっているかは異なるため、包括的な視点での診断と治療が重要です。
リウマチ性多発筋痛症の症状
リウマチ性多発筋痛症では、体の広い範囲に痛みやこわばりが現れます。特に、首、肩、腕のつけ根(上腕)、そしてお尻や太ももといった体の中心に近い筋肉に、左右対称性の痛みが生じるのが特徴です。
朝、目が覚めたときに強いこわばり(朝のこわばり)を感じることも、この病気によく見られる症状です。一晩の安静によって炎症が強まるためと考えられており、動かし始めると次第に和らぐものの、30分以上続くことが多くあります。
痛みは安静時にも現れることがあり、体を動かしたり、患部を圧迫したりすることでさらに悪化する場合があります。そのため、次のような日常動作に支障が出ることが少なくありません。
・着替え
・物を持ち上げる動作
・立ち上がる動作
夜間の痛みによって睡眠が妨げられ、強い疲労感につながることもあります。
このような筋肉の痛みやこわばりに加えて、全身に次のような症状が伴う場合があります。
・原因不明の微熱
・全身の倦怠感
・食欲不振
・体重の減少
近年、がん治療で使われる「免疫チェックポイント阻害薬(ICI)」を投与されている方で、免疫システムが過剰に反応することで生じる「免疫関連有害事象(irAEs)」の一つとして、リウマチ性多発筋痛症が発症するケースが注目されています※。これは「ICI関連リウマチ性多発筋痛症(ICI-PMR)」と呼ばれており、2023年7月までに調査された症例では、ICI治療を受けた71名の患者に発症が確認されています※。専門家の間では、このICI-PMRが、ICI治療に伴う合併症として過小評価されている可能性も指摘されています※。がん治療中の方で上記のような症状が現れた場合は、主治医に相談し、特に注意深く経過を観察することが大切です。
これらの症状は、単なる筋肉痛や「加齢のせい」と見過ごされがちで、診断が遅れることもあります。もし、このような痛みやこわばりが数週間にわたって続き、日常生活に支障をきたしている場合は、専門の医療機関を受診し、適切な診断を受けることが重要です。
リウマチ性多発筋痛症の検査・診断
リウマチ性多発筋痛症の診断は、患者さんから症状を詳しくお伺いする問診と、実際に体を診察する身体診察、そして血液検査、場合によっては画像検査の結果を総合的に評価して行われます。この病気の診断で特に重要なのは、症状が似ている他の病気と正確に区別することです。早期に診断を確定し、適切な治療を開始することで、症状の改善と生活の質の維持につなげることができます。
特に近年では、がん治療で使用される「免疫チェックポイント阻害薬(ICI)」を服用している方の場合、その薬が原因でリウマチ性多発筋痛症と似た症状が出ることがわかっています。これは「ICI関連リウマチ性多発筋痛症(ICI-PMR)」と呼ばれ、免疫システムが過剰に活性化することで生じる副作用(免疫関連有害事象、irAEs)の一つです。2023年7月までに調査された研究では、ICI治療を受けている患者さんのうち71名がICI-PMRを発症していたという報告もあります※。専門家の間では、このICI-PMRが、ICI治療に伴う合併症として過小評価されがちであるという指摘もあります※。そのため、医師が診断する際には、患者さんの薬の服用歴も重要な手がかりの一つです。
診断のために行われる主な検査は、以下のとおりです。
・問診と身体診察
いつから、どのような症状(痛みやこわばり、だるさなど)があるのかを詳しくお伺いします。特に、リウマチ性多発筋痛症に特徴的な「朝のこわばり」の有無や、その持続時間も確認します。首、肩、腕のつけ根、お尻、太ももといった体の中心に近い部分を中心に、腕や足の動き具合(可動域)や痛みの程度を実際に動かして確認します。
・血液検査
血液検査では、主に体の中で炎症がどの程度起きているかを示す数値を確認します。
・CRP(C反応性タンパク)や赤沈(ESR:赤血球沈降速度):
これらの数値が高い場合、体内で何らかの炎症が起きていることを示しています。リウマチ性多発筋痛症では、このCRPや赤沈が異常に高くなることがほとんどです。
・リウマトイド因子や抗CCP抗体:
関節リウマチなど、症状が似ている他のリウマチ性疾患と区別するために、これらの抗体を調べることがあります。リウマチ性多発筋痛症では、これらの数値は通常陰性、または低い値を示すことが多いです。
・画像検査
骨や関節の状態を視覚的に確認するための検査です。
・レントゲン検査:
骨そのものに異常がないかを確認します。これにより、骨折や変形性関節症など、他の骨の病気を除外できます。
・超音波検査やMRI検査:
より詳しく関節周囲の筋肉や腱、滑膜(関節を包む膜)などの炎症の状態を確認できます。例えば、肩関節や股関節周囲に炎症を示す所見が見られることがあります。
これらの詳細な検査結果と、リウマチ専門医による診察を総合的に判断して、リウマチ性多発筋痛症であるかどうかを診断します。他の病気の可能性も常に考慮しながら、患者さん一人ひとりの状態に合わせた慎重な診断プロセスが進められます。
リウマチ性多発筋痛症の治療
リウマチ性多発筋痛症の治療は、炎症を抑えて痛みやこわばりといった症状を和らげ、患者さんの生活の質(QOL)を向上させることを目指します。再発を防ぎ、症状が安定した状態を維持するためには、薬物療法を中心にさまざまなアプローチを組み合わせることが重要です。
薬物療法
リウマチ性多発筋痛症の治療の核となるのは薬物療法です。主に、ステロイド薬が中心となり、必要に応じて他の薬剤が併用されます。
ステロイド(グルココルチコイド)による治療
リウマチ性多発筋痛症の治療で最も中心となるのは、副腎皮質ステロイド(グルココルチコイド)と呼ばれる薬です。ステロイドは、体内で作られるホルモンを元にした強力な抗炎症作用を持つ薬で、筋肉の痛みやこわばりを比較的早く軽減できる特徴があります。
しかし、ステロイドを長期にわたって使用すると、以下のような副作用が生じる可能性があります。
・骨粗しょう症
・糖尿病
・感染症のリスク増加
そのため、症状が改善したら、医師の指示のもと、副作用に注意しながら徐々に薬の量を減らしていくことが大切です。自己判断で急に服薬をやめると、症状が悪化したり再発したりする恐れがあるため、必ず医師と相談しながら治療を進めましょう。
ステロイド以外の薬剤(DMARDsなど)の併用
ステロイドだけで症状のコントロールが難しい場合や、ステロイドの減量がうまくいかない場合、あるいは副作用が強く出る場合には、他の薬剤が併用されることがあります。
具体的には、疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARDs)や免疫抑制剤などが検討されます。これらの薬は、免疫の過剰な働きを調整し、炎症を引き起こす根本的な原因にアプローチすることで、ステロイドの量を減らしながら症状を安定させる役割を担います。ある研究では、リウマチ性多発筋痛症の患者さんのうち、約17%がDMARDsによる治療を受けていることが報告されています※。
免疫チェックポイント阻害薬(ICI)関連リウマチ性多発筋痛症(ICI-PMR)の治療
がん治療で使われる免疫チェックポイント阻害薬(ICI)が原因でリウマチ性多発筋痛症と似た症状が出るケースがあり、これは「ICI関連リウマチ性多発筋痛症(ICI-PMR)」と呼ばれます。ICI-PMRは、以前はあまり知られていませんでしたが、近年ではICIの合併症として「過小評価されている」という指摘もあります※。
このタイプの治療においても、グルココルチコイドが有効であることがわかっています。実際に、報告されたICI-PMRの患者さんの95%がグルココルチコイドで治療を受け、症状の改善が確認されています※。
ICI治療を一時中断した場合、がん治療の継続や再開について不安を感じる方もいるでしょう。ICI-PMRの症状が寛解した後、ICIを安全に継続または再開できるかについてはまだ明確な基準が確立されていません。しかし、限られたデータからは、重症ではないICI-PMRの患者さんであれば、医師と綿密に相談の上、ICIを再開できる可能性も示唆されています※。
薬物療法以外の取り組み
薬物療法と並行して、日々の生活習慣を見直すことも、病状の安定と快適な日常生活のために欠かせません。
・適切な運動とリハビリテーション
痛みがあるからといって体を動かさないでいると、筋力は低下し、関節の動きも悪くなります。医師や理学療法士と相談しながら、症状に応じたストレッチや軽い運動を取り入れることで、筋肉の萎縮を防ぎ、関節の柔軟性を保つことができるでしょう。
・十分な休養とストレス管理
心身のストレスは、免疫システムに影響を与え、病状を悪化させる一因となる可能性があります。症状が強い時期には無理せず体を休ませ、ストレスを溜め込まない工夫も大切です。質の良い睡眠を確保することや、趣味の時間を持つことも有効といえます。
リウマチ性多発筋痛症の治療は、個人差はありますが、数カ月から数年にわたることが一般的です。症状が改善したからといって、自己判断で薬の服用を中止すると、再発のリスクが高まるだけでなく、治療がより複雑になる可能性もあります。そのため、定期的に医療機関を受診し、医師の指示に沿って根気強く治療を続けることが、良好な状態を維持するために重要です。治療中に気になる症状や副作用があれば、ためらわずに医師や薬剤師に相談しましょう。





