神経核内封入体病(NIID)
めまいや物忘れ、手足の脱力など原因不明の症状に悩んでいませんか。神経核内封入体病(NIID)は症状が多彩なため脳卒中など他の病気と間違われやすく、診断が難しい神経難病です。かつては極めてまれな病気とされていましたが、2011年以降の診断技術の進歩で、決して珍しくないことがわかってきました。
この記事では、NIIDの多様な症状や2019年に判明した原因、皮膚生検といった検査・診断方法、そして現在の治療について詳しく解説します。
病気の全体像を正しく理解することで、ご自身の状況と照らし合わせ、今後の治療方針を考えるための知識を得られます。
神経核内封入体病(NIID)の概要
神経核内封入体病(NIID)は、細胞の核の中に「封入体(ふうにゅうたい)」という異常なたんぱく質の塊が蓄積することで、全身に多彩な症状を引き起こす進行性の神経難病です。
脳や脊髄、手足の末梢神経だけでなく、皮膚や内臓など、全身のさまざまな細胞でこの異常が起こるのが特徴といえます。
かつては、亡くなった後の剖検(ぼうけん)でしか診断できなかったため、きわめてまれな病気だと考えられていました。
しかし2011年以降、皮膚の一部を採取して調べる「皮膚生検」で生前に診断できるようになり、決してまれな病気ではないことがわかってきています。
この病気の診断が難しい理由の一つに、症状の多様性が挙げられます。
発症年齢は幼少期から高齢者までと幅広く、人によって現れる症状もさまざまです。
特に注意が必要なのは、他の病気と間違われやすい点です。
例えば、急なめまいやろれつが回らないといった症状から、脳卒中を疑われて救急搬送されるケースは少なくありません。※
実際、脳卒中と似た症状で発症するNIID患者さんの平均年齢は59歳であり、MRI画像でも急性期脳梗塞と似た所見を示すことがあるため、診断が遅れる一因となっています。※
このように、NIIDは専門医による慎重な鑑別診断が不可欠な病気といえるでしょう。
神経核内封入体病(NIID)の種類
神経核内封入体病(NIID)は、主に「発症した年齢」と「最初に現れる症状」という2つの軸で分類されます。
ただし、これはあくまで典型的なパターン分けであり、実際にはさまざまな症状の現れ方があります。
NIIDの分類について、下表に整理します。
分類軸 | 種類 | 主な特徴
発症年齢 | 未成年型 | ・乳児期から青少年期にかけて発症
成人型 | ・成人になってから発症 ・遺伝と関連する「家族型」と、関連しない「散発型」にさらに分けられる
初発症状 (臨床像) | 認知機能障害が主 | ・物忘れなどが目立つ ・頭部MRIで白質脳症(脳の深い部分が白く見える変化)を認めることが多い
四肢の筋力低下が主 | ・手足に力が入らない症状から始まる
しかし、NIIDの症状はきわめて多様なため、これらの分類に当てはまらないケースも少なくありません。
特に注意が必要なのが、突然のめまいやろれつが回らないといった、脳卒中を思わせる症状で発症するタイプです。
実際に、脳卒中様の症状で発症したNIID患者さんの平均年齢は59歳で、主な症状として構音障害(ろれつが回らない)、四肢の脱力、認知機能の低下などが報告されています。※
このような場合、MRIの画像所見も急性期脳梗塞と似ていることがあるため、NIIDの診断が遅れる一因となっています。※
このように、NIIDは人によって病気の現れ方が大きく異なるため、症状だけで病気を特定するのは困難です。だからこそ、専門医による慎重な鑑別診断が不可欠といえます。
神経核内封入体病(NIID)の原因
神経核内封入体病(NIID)の原因は、2019年の研究によって、特定の遺伝子に起きた異常であることが突き止められました。
原因となるのは、NOTCH2NLCという遺伝子です。
この遺伝子の中には「GGC」という3つの塩基の組み合わせが繰り返される部分があります。NIIDの患者さんの多くでは、このGGCの繰り返し(リピート)回数が、健常な人と比べて異常に多くなっていること(リピート伸長)がわかっています。
この遺伝子の変化が引き金となり、神経細胞などの核の中に「封入体」という異常なたんぱく質の塊が作られてしまうと考えられています。
実際に、めまいやろれつが回らないといった脳卒中を疑われる症状で受診した患者さんが、遺伝子検査でGGCリピート数が104回と著しく多かったため、NIIDと診断されたケースも報告されています。※
しかし、すべてのNIID患者さんにこの遺伝子の異常が見られるわけではありません。
特に欧米からの報告では、このGGCリピート伸長が確認できないNIIDの患者さんもいるため、まだ解明されていない他の原因や、病気を引き起こす別の仕組みが存在する可能性も指摘されています。
神経核内封入体病(NIID)の症状
神経核内封入体病(NIID)の症状は、異常なたんぱく質の蓄積が全身の細胞で起こるため、きわめて多彩です。
物忘れのような認知機能の症状から、手足のしびれや脱力まで、現れ方には大きな個人差があるのが特徴といえます。
NIIDでみられる代表的な症状は、以下のとおりです。
・認知機能の障害:物忘れがひどくなる、段取りが悪くなる など
・運動機能の障害:手足に力が入らない、ふらついてうまく歩けない、ろれつが回らない など
・感覚の障害:手足がしびれる、感覚が鈍くなる など
・自律神経の障害:頻尿、尿漏れ、立ちくらみ など
・パーキンソン症状:手のふるえ、筋肉のこわばり、動きが遅くなる など
なかでも特に注意したいのが、ある日突然、脳卒中を思わせる症状で発症するケースです。
実際に、めまいや構音障害(ろれつが回らない)、手足の脱力といった症状から脳卒中を疑われ、救急搬送される患者さんは少なくありません。※
脳卒中様の症状で発症したNIID患者さんの平均年齢は59歳と報告されており、働き盛りの世代にも起こりうる病気といえます。※
このように脳卒中と似た症状で発症する場合、MRIの画像所見も急性期の脳梗塞と似ていることがあるため、NIIDの診断が遅れる一因となっています。※
このほかにも、頭痛や発熱、意識がもうろうとするといった急性脳炎のような症状で緊急入院となったり、精神的な不安定さや、てんかん発作がみられたりすることもあります。
このように、NIIDは「これ」という決まった症状がなく、他のさまざまな病気と間違われやすいのが最大の特徴です。だからこそ、原因不明の体調不良が続く場合は、NIIDの可能性も視野に入れた慎重な診断が求められます。
神経核内封入体病(NIID)の検査・診断
神経核内封入体病(NIID)の診断は、症状や診察所見に加え、主に以下の3つの検査結果を総合的に評価して進められます。
かつては亡くなった後の解剖でしか診断できませんでしたが、検査技術の進歩により、生前に診断を確定できるようになりました。
・頭部MRI検査
拡散強調画像(DWI)という特殊な撮影方法で、脳の状態を詳しく調べます。NIIDに特徴的な所見は、大脳の表面に近い「皮髄境界(ひずいきょうかい)」に沿って現れる、線状の白い影です。
しかし、この所見は非常に繊細なため、特にめまいやろれつが回らないといった症状で救急受診した場合、急性期脳梗塞との区別がつきにくいことも少なくありません。実際、脳卒中様の症状で発症したNIID患者さんの平均年齢は59歳と報告されており、診断までに時間を要するケースもあります。※
そのため、MRI画像上のわずかな異常も見逃さないことが、早期診断の重要な鍵といえます。※
・皮膚生検
診断を確定させるために行われる、からだへの負担が比較的少ない検査です。
局所麻酔をした上で、腕などからごく少量の皮膚(米粒数個ほど)を採取します。
採取した皮膚に含まれる汗腺(かんせん)などの細胞の核を顕微鏡で観察し、「封入体」という異常なたんぱく質の塊があるかどうかを確認します。この封入体が確認できれば、NIIDの診断はきわめて確かなものになります。
・遺伝子検査
血液を採取し、NIIDの原因となる遺伝子の異常を調べる検査です。
多くのNIID患者さんでは、NOTCH2NLC遺伝子の中にある「GGC」という塩基配列の繰り返し(リピート)回数が、基準よりも異常に多くなっています。
実際に、脳卒中を疑われた66歳の女性が、この遺伝子検査でGGCリピート数が104回と著しく多かったためにNIIDと確定診断された事例も報告されています。※
これらの検査結果を、患者さん一人ひとりの症状やこれまでの経過と丁寧に照らし合わせることで、NIIDの確定診断に至ります。
神経核内封入体病(NIID)の治療
現在の医療では、神経核内封入体病(NIID)の進行を止め、完治させる根本的な治療法はまだありません。
この病気は、異常なたんぱ-く質が全身の細胞に蓄積することでさまざまな症状を引き起こしますが、このプロセスそのものを止める薬はまだ開発されていないのが現状です。
そのため、治療の主軸は、患者さん一人ひとりに現れている症状を和らげ、生活の質(QOL)をできる限り高く保つための「対症療法」になります。
ただし、「根本治療がない」と聞いて、過度に悲観する必要はありません。
実際に、脳卒中のような急な症状で発症したNIIDの患者さんを対象とした研究では、症状に合わせた適切な治療と経過観察を行うことで、約6割の方が発症前の状態まで回復したと報告されています※。
これは、たとえ根本的な解決が難しくても、症状をコントロールすることで、その人らしい生活を取り戻せる可能性を示唆しています。
具体的に行われる対症療法には、以下のようなものがあります。
・運動機能の障害(ふらつき、歩きにくさなど)
理学療法士や作業療法士といった専門家のもとで、残された身体機能を最大限に活かし、転倒などを防ぎながら安全に日常生活を送るためのリハビリテーションを行います。
・感覚の障害(痛み、しびれなど)
神経の痛みや不快な感覚を和らげるための薬物療法が中心です。症状を我慢せず、薬でコントロールすることで、日々の苦痛を軽減します。
・自律神経の障害(頻尿、立ちくらみなど)
排尿トラブルを改善する薬を使ったり、急に立ち上がらないようにするといった生活習慣の工夫を指導したりします。
・認知機能の障害(物忘れなど)
症状の進行を緩やかにする薬を試みたり、記憶を補うための工夫(メモの活用など)を取り入れたりするリハビリテーションが行われます。
これらの治療は、あくまで一例です。
NIIDは人によって症状の現れ方が大きく異なるため、どのような治療法が最適かは、患者さんの状態や生活環境によって変わります。
ご自身の症状で困っていること、これからどうなるのかという不安など、どんなことでも主治医に相談し、一緒に納得のいく治療計画を立てていくことが何よりも大切です。













