睡眠時棘徐波活性化を示す発達性てんかん性脳症(DEE-SWAS)

お子さんの発達に急な変化が見られ、原因がわからず不安を感じていませんか。睡眠時棘徐波活性化を示す発達性てんかん性脳症(DEE-SWAS)は、睡眠中に脳の異常な電気活動が活発化し、知的・認知機能の退行を引き起こすことがある小児期の希少な疾患です。

この記事では、国内の患者数が約500人と推定される指定難病DEE-SWASについて、その原因や症状、診断から治療の選択肢に至るまで、専門的な情報をわかりやすく解説します。

病態を正しく理解することは、今後の治療方針を主治医と相談する上で重要です。この記事が、ご自身やお子さんの状態を客観的に把握し、前向きに治療と向き合うための一助となれば幸いです。

睡眠時棘徐波活性化を示す発達性てんかん性脳症(DEE-SWAS)の概要

睡眠時棘徐波活性化を示す発達性てんかん性脳症(DEE-SWAS)は、主に幼少期に発症する特殊なてんかんで、特に深い眠り(ノンレム睡眠)の間に脳波の異常が活発になるという特徴があります。

この病気の最も大きな問題は、睡眠中の持続的なてんかん性放電です。この異常な電気活動が、脳の神経細胞同士のつながりが成長・変化すること(シナプス可塑性)や、睡眠中に行われる記憶の整理・定着といった重要なプロセスを妨げてしまいます。※

その結果、言葉の発達が遅れたり、今までできていたことができなくなったりする「知的・認知機能の退行」や、行動面の変化が引き起こされると考えられています。

以前は、この病気は脳波検査で見られる特徴的な波形から「徐波睡眠期持続性棘徐波(CSWS)を示すてんかん性脳症」と呼ばれていました。

しかし現在では、単なる脳波の異常現象としてではなく、睡眠中の異常放電が脳全体の機能に影響を及ぼす「脳のネットワーク機能障害」として再定義されています。※

日本国内における患者数は約500人と推定されており、国の指定難病(154)と小児慢性特定疾病(74)の両方に定められています。そのため、診断基準を満たした場合は、医療費助成などの公的な支援を受けることが可能です。

睡眠時棘徐波活性化を示す発達性てんかん性脳症(DEE-SWAS)の種類

睡眠時棘徐波活性化を示す発達性てんかん性脳症(DEE-SWAS)は、その背景にある原因によって、主に2つのタイプと1つの関連症候群に分類されます。

以前は「徐波睡眠期持続性棘徐波を示すてんかん性脳症(CSWS)」という一つのグループで考えられていましたが、研究が進んだ現在では、国際的な分類によって原因別に整理されています。

この分類は、なぜ認知機能の低下が起きるのかを理解し、治療方針を考える上で非常に重要です。

下表に、2つの主要なタイプの特徴を整理します。

タイプ | 主な原因 | 特徴

てんかん性脳症 (EE-SWAS) | てんかん活動そのもの | ・もともと発達に大きな問題はなかった ・てんかんによる脳の異常な電気活動が続くことで、後から発達や言語機能に影響が出る

発達性てんかん性脳症 (DEE-SWAS) | 脳の構造的な異常 遺伝的な要因 + てんかん活動 | ・もともと発達に関わる脳の障害や遺伝的な背景がある ・そこにてんかん性脳症が重なることで症状が現れる、あるいは悪化する ・遺伝的に非常に多様で、約半数の方で原因となりうる遺伝子変異が見つかります※ ・特にGRIN2A遺伝子の関与が最多と報告されています※

DEE-SWASの背景には、脳の構造的な異常が関係していることもあります。例えば、視床(脳の中心部にある情報の中継点)と大脳皮質を結ぶ神経回路に影響を及ぼす病変が、治療の重要なターゲットになることもわかっています。※

さらに、これらのタイプと関連する症候群として「ランドウ・クレフナー症候群(LKS)」も知られています。これは、それまで正常に発達していたお子さんの言葉の理解が、急にできなくなる「聴覚失認」を主な症状とする病態です。

このように、同じ「睡眠中の脳波異常」が見られても、その根本原因は一人ひとり異なります。

原因を特定することは、将来的に、遺伝子変異に応じた精密医療や、脳の構造異常に対する早期の外科治療など、より個人に合わせた治療法を選択していくための重要な第一歩となります。※

睡眠時棘徐波活性化を示す発達性てんかん性脳症(DEE-SWAS)の原因

睡眠時棘徐波活性化を示す発達性てんかん性脳症(DEE-SWAS)の原因は、単一ではなく、遺伝子の変異や脳の構造的な問題などが複雑に絡み合っていると考えられています。

現在も研究が進められている分野ですが、患者さんの約半数では、原因と考えられる遺伝子の変異が見つかっています。※

これらの遺伝子は、脳の神経細胞が正常に働くために欠かせない、イオンチャネルやシナプスタンパク質といった物質の設計図にあたります。※

DEE-SWASの原因として、特に報告が多い遺伝子を以下に紹介します。

・GRIN2A遺伝子

最も多く報告されている遺伝子です。※

・KCNA2遺伝子

この遺伝子の変異は、特徴的な脳波である睡眠時棘徐波活性化(SWAS)と強い関連があることがわかっています。ある研究では、KCNA2遺伝子に変異を持つ患者さんのうち、約18.2%にSWASが認められたと報告されています。※

一方で、遺伝子だけが原因のすべてではありません。

脳が作られる発達段階で生じた生まれつきの異常(皮質形成異常)や、周産期の脳血管障害などが発症の引き金になることもあります。

特に、脳の中心部でさまざまな情報の中継を担う「視床」と大脳皮質を結ぶ神経回路に影響を及ぼす病変は、治療方針を考える上で重要な手がかりになることがあります。※

このように、DEE-SWASの原因は一人ひとり異なります。

そのため、診断の過程では遺伝子検査も重要視されており、特徴的な脳波であるSWASが認められる場合には、KCNA2遺伝子の変異を調べることの重要性が指摘されています。※

原因を特定することは、将来のより個人に合わせた治療へと繋がる大切な第一歩です。

睡眠時棘徐波活性化を示す発達性てんかん性脳症(DEE-SWAS)の症状

睡眠時棘徐波活性化を示す発達性てんかん性脳症(DEE-SWAS)の症状は、目に見える「てんかん発作」と、より深刻な「認知・言語・行動面の退行」という2つの側面から現れます。

この病気の最も大きな問題は、てんかん発作そのものよりも、むしろ発達への影響です。

本来、脳は眠っている間、特に深いノンレム睡眠の間に、日中に学んだ情報を整理し、記憶として定着させるという重要な作業を行っています。

しかしDEE-SWASでは、この大切な睡眠時間中に脳が異常な電気活動を続けてしまうため、神経細胞同士のつながりがうまく成長・変化できません(シナプス可塑性の阻害)。※

その結果、これまでできていたことができなくなる「退行」や、発達の停滞といった深刻な症状が引き起こされるのです。

これらの症状は、一般的に4〜5歳頃に最も顕著になるとされていますが、発症年齢は生後2カ月から12歳頃までと幅広く、個人差が大きいのが特徴です。

てんかん発作

DEE-SWASでみられるてんかん発作は多彩で、複数のタイプの発作が混在することも少なくありません。

代表的な発作のタイプには以下のようなものがあります。

・焦点性運動発作

手足や顔の一部が本人の意思とは関係なくピクつく、ねじれるといった動きがみられます。

・非定型欠神発作

突然ぼーっとして意識がはっきりしなくなり、呼びかけへの反応が鈍くなります。数秒から数十秒続くことが多いです。

・脱力発作

前触れなく全身の力が抜け、崩れるように倒れてしまいます。転倒によるケガに注意が必要です。

・陰性ミオクローヌス

一瞬だけ筋肉の緊張が失われることで、持っているものを落としたり、一瞬カクンと姿勢が崩れたりします。

このほかにも、全身が硬直したり、ガクガクとけいれんしたりする発作が起こる場合もあります。

認知・言語・行動の問題

睡眠中の脳波異常が活発になる時期と並行して、お子さんの発達面にさまざまな変化が現れます。これは脳全体のネットワーク機能が障害されるために起こると考えられています。※

・認知・知的な問題

・急に物覚えが悪くなる

・新しいことを学ぶのが困難になる

・IQ(知能指数)が著しく低下する

・言語の問題

・言葉の発達が止まってしまう

・急に無口になる、言葉数が減る

・それまで話せていた言葉を忘れてしまう(言語退行)

・行動の問題

・落ち着きがなく、じっとしていられない(多動)

・ささいなことでかんしゃくを起こす(攻撃性)

・衝動的な行動が目立つようになる

・運動の問題

・歩行がふらつく(運動失調)

・ろれつが回りにくくなる(構音障害)

昨日まで普通にできていたことが、ある日突然できなくなってしまう。

DEE-SWASにおける「退行」は、ご家族にとって非常に大きな衝撃と不安をもたらす症状といえます。

睡眠時棘徐波活性化を示す発達性てんかん性脳症(DEE-SWAS)の検査・診断

睡眠時棘徐波活性化を示す発達性てんかん性脳症(DEE-SWAS)の診断は、症状や発達の経過を詳しく伺うことに加え、複数の専門的な検査結果を総合的に評価して慎重に行います。

診断の根幹をなすのが、睡眠中の脳波検査です。

この病気は、深い眠りであるノンレム睡眠中に脳の異常な電気活動が活発になることが最大の特徴です。具体的には、「棘徐波(きょくじょは)」と呼ばれる特徴的な脳波が、ノンレム睡眠時間の50%以上という高い頻度で出現することを確認します。

この所見は、睡眠中の異常放電が脳全体のネットワーク機能に影響を及ぼしていることの客観的な証拠となります。※

脳波検査と並行して、原因を特定し、治療方針を立てるために以下の検査が行われます。

・画像検査(MRIなど)

脳の「形」に生まれつきの異常がないかを調べる検査です。特に、脳の情報中継基地である「視床」と大脳皮質を結ぶ回路に病変が見つかる場合があり、これは外科治療などを検討する上で極めて重要な手がかりになります。※

・遺伝子検査

症状の背景にある遺伝的な要因を探るために行います。患者さんの約半数で原因と考えられる遺伝子変異が見つかり、中でもGRIN2A遺伝子の関与が最も多く報告されています。※

さらに最近の研究では、特徴的な脳波(SWAS)とKCNA2という遺伝子の変異に強い関連があることがわかっており、この脳波が見られるお子さんにはKCNA2遺伝子の検査が特に重要であると指摘されています。※

・発達・心理検査

言葉の発達、学習能力、行動面の変化などを、専門的な尺度を用いて客観的に評価します。治療前後の変化を正確に把握し、治療効果を判定するための大切な指標となります。

これらの検査結果と、てんかん発作の様子や発達の経過といった臨床症状を丁寧につきあわせ、専門医が総合的に診断を確定します。

原因を多角的に探ることは、将来的に、遺伝子変異に応じた精密医療や外科治療など、一人ひとりに合った治療法を選択していくための重要な第一歩といえます。※

睡眠時棘徐波活性化を示す発達性てんかん性脳症(DEE-SWAS)の治療

睡眠時棘徐波活性化を示す発達性てんかん性脳症(DEE-SWAS)の治療は、てんかん発作と睡眠中の脳波異常を抑え、認知機能の低下を食い止めることを最大の目標とします。

治療の柱は「薬物療法」ですが、原因によっては「外科的治療」も強力な選択肢になります。さらに近年では、遺伝子情報に基づいた「新しい治療」の開発も進められています。

薬物療法

てんかん発作と脳波異常を改善するため、さまざまな薬剤が用いられます。

・コルチコステロイド(ステロイド剤)

第一選択薬として有効性が高いとされていますが、薬の量を減らしていく過程で症状が再発する可能性も指摘されており、慎重な経過観察が必要です。※

・抗てんかん薬

バルプロ酸やベンゾジアゼピン系の薬剤などが使用されます。

ただし、原因となる遺伝子によっては、特定の薬剤が効きにくいこともわかってきました。例えばKCNA2という遺伝子に変異がある場合、治療への反応性が低い傾向があり、複数の薬剤を組み合わせる多剤併用療法で効果が見られることがあります。※

外科的治療

MRIなどの画像検査で、脳の構造的な異常(皮質形成異常や視床の病変など)が原因だと特定された場合、てんかん外科手術が有力な選択肢です。

脳の異常な電気活動を引き起こしている原因部位を早期に切除することで、症状の劇的な改善が期待されることもあります。※

新しい治療の可能性

DEE-SWASは、原因となる遺伝子が少しずつ解明されてきており、将来的には一人ひとりの遺伝子情報に合わせた「精密医療(プレシジョン・メディシン)」の応用が期待されています。

例えば、最も報告の多いGRIN2Aという遺伝子の変異に対しては、NMDA受容体という物質の働きを標的とした治療薬の開発が世界中で進められています。※

この病気の治療は、脳波異常が改善傾向を示す思春期頃まで、長期にわたることが少なくありません。治療によって脳波が改善しても、知的機能や運動機能に後遺症が残ることもあります。

そのため、薬物療法や外科治療と並行して、個々の状態に合わせたリハビリテーションなど、包括的なアプローチが重要になります。主治医と密に連携を取りながら、根気強く治療に取り組むことが求められます。