CANVAS(小脳性運動失調・ニューロパチー・前庭反射消失症候群)

原因不明のふらつきや手足のしびれに、長年悩んでいませんか。これらの症状は「年のせい」と片付けられがちですが、CANVASという神経の病気が原因かもしれません。患者さんの43.2%にピリピリとした痛みが認められたという報告もあります。

この記事では、「ふらつき」「しびれ」「めまい」を3つの柱とするCANVASについて解説します。近年解明された原因遺伝子から詳しい症状、検査・診断の方法、そして現在行われている治療法までをわかりやすく紹介します。

ご自身の症状と照らし合わせながら読み進めることで、不安の正体を理解し、適切な対応を考えるきっかけになります。専門医へ相談するなど、次の一歩を踏み出すための知識を得られます。

CANVAS(小脳性運動失調・ニューロパチー・前庭反射消失症候群)の概要

CANVASとは、「ふらつき」「しびれ」「めまい」を3つの柱とする、ゆっくりと進行していく神経の病気です。

この病名は、体のバランスを保つうえで重要な役割を担う「小脳」「末梢神経」「前庭」という3つの部分に現れる代表的な症状の英語名から、その頭文字をとって名付けられました。

頭文字 | 英語名・日本語訳 | 主な症状

CA | Cerebellar Ataxia (小脳性運動失調) | ・小脳の機能が低下し、歩行がふらつく ・ろれつが回りにくくなる

N | Neuropathy (ニューロパチー) | ・手足の末梢神経が障害され、しびれや感覚の鈍さが生じる

VAS | Vestibular Areflexia Syndrome (前庭反射消失症候群) | ・耳の奥にある前庭の機能が落ち、めまいやバランス感覚の乱れが起こる

原因は「RFC1遺伝子」という特定の遺伝子に起こる異常であることがわかっています。この遺伝子の中にある特定の配列が異常に長くなる(リピート異常伸長)ことで発症すると考えられています。

そのため近年では、CANVASをこの遺伝子異常によって引き起こされるさまざまな症状群の一つとして、「RFC1遺伝子関連スペクトラム障害」という広い枠組みで捉えるようになっています。

また、これら3つの症状のほかに、見過ごされがちなのが「神経障害性疼痛」と呼ばれるピリピリ、ジンジンとした痛みです。

ある研究では、CANVASと診断された方のうち43.2%にこの痛みが認められたと報告されており、病気の初期から現れることもあります※。この痛みは、患者さんの生活の質に深刻な影響を与えかねません※。

ですから、もし原因のわからない感覚の異常やふらつきに悩んでいる場合、たとえ痛みがなくてもCANVASの可能性を視野に入れることが、早期発見には重要だといえます※。

CANVAS(小脳性運動失調・ニューロパチー・前庭反射消失症候群)の種類

CANVASは、原因である「RFC1遺伝子」の異常パターンによって、いくつかの種類に分類されます。

遺伝子の中には特定の文字列(塩基配列)が繰り返される部分があり、CANVASではこの繰り返しが異常に長くなることで発症すると考えられています。そして、繰り返される配列の組み合わせ(タイプ)によって、症状の現れ方や病気の進行具合に違いが見られることがあります。

人の遺伝子は両親から1つずつ受け継ぐため、2つで1セットです。この遺伝子の異常パターンによって、以下の種類に分けられます。

・ホモ接合性伸長:両親から受け継いだ遺伝子が、両方とも同じ異常パターン(例:AAGGG)を持つ場合

・複合ヘテロ接合性伸長:それぞれ異なる異常パターン(例:AAGGGとACAGG)を持つ場合

遺伝子の異常パターンによって現れる症状の傾向には、次のような特徴が報告されています。

遺伝子異常のパターン | 主な臨床的特徴

ACAGGリピートを 持つ場合 | ・運動神経の障害がより目立つ傾向がある

AAGGGとACAGGの 両方を持つ場合 | ・発症する年齢が比較的遅い ・病気の進行が緩やかである傾向が報告されている

このように、遺伝子の種類によって症状の出方に個人差が生じるため、CANVASは単一の病気というより、より幅広い症状を含む「RFC1遺伝子関連スペクトラム障害」という大きな枠組みで捉えられています。

例えば、原因がはっきりしない手足のしびれ(感覚ニューロパチー)のみを症状とする方から、この遺伝子異常が見つかるケースも少なくありません。

また、ピリピリとした神経の痛みが病気の初期から現れることもあり、ある研究ではCANVASと診断された方の43.2%にこの痛みが認められたと報告されています※。

しかし、逆に言えば半数以上の方には痛みが現れません。原因不明の感覚の異常やふらつきがある場合、痛みの有無にかかわらずCANVASを鑑別診断として考えることが、早期発見には重要だといえます※。

CANVAS(小脳性運動失調・ニューロパチー・前庭反射消失症候群)の原因

CANVASの原因は、「RFC1」という特定の遺伝子に起こる異常です。

私たちの体の設計図である遺伝子には、特定の塩基(文字)配列が繰り返し現れる部分があります。RFC1遺伝子の場合、健康な方では「AAAAG」という配列が、通常11回ほど繰り返されています。

ところがCANVASの患者さんでは、この部分の配列が「AAGGG」などに置き換わったうえで、その数が数百から数千回にもわたって異常に増える「リピート異常伸長」という現象が起きています。

このリピート異常伸長によって、RFC1遺伝子から作られるタンパク質が正常に機能しなくなったり、あるいは細胞にとって有害な物質が作られたりすることで、神経細胞がダメージを受けると考えられています。

特に、以下の部分の神経細胞が影響を受けやすいため、CANVAS特有の症状が現れるのです。

・体のバランスを保つ「小脳」

・感覚を伝える「末梢神経」

・平衡感覚に関わる「前庭」

また、この遺伝子異常は、ふらつきやしびれといった代表的な症状だけでなく、ピリピリ、ジンジンとした「神経障害性疼痛」も引き起こします。

ある研究報告によると、CANVASと診断された方のうち43.2%にこの痛みが認められ、生活の質(QOL)を大きく損なう要因となっていることがわかっています※。

痛みは病気の初期から出現することもありますが、逆に言えば半数以上の方には痛みが現れません。原因不明の感覚異常やふらつきがある場合、痛みの有無にかかわらずCANVASを鑑別診断として考慮することが重要です※。

CANVAS(小脳性運動失調・ニューロパチー・前庭反射消失症候群)の症状

CANVASの症状は、病名の由来となった「小脳」「末梢神経」「前庭」という3つの神経系の障害によって引き起こされます。

これらの障害は、それぞれ以下の特徴的な症状として現れます。

・小脳性運動失調(Cerebellar Ataxia)による「ふらつき」

体のバランスや動きの精密なコントロールを担う小脳の機能が低下することで生じます。

まっすぐ歩こうとしても足元がふらつく、ろれつが回りにくくなる、といった症状が代表的です。

・ニューロパチー(Neuropathy)による「しびれ」と「痛み」

手足の感覚を脳に伝える末梢神経(感覚神経)が障害されることで起こります。

ピリピリとしたしびれや、触った感覚が鈍くなるのが主な症状です。

しかし、見過ごされがちなのが「神経障害性疼痛」と呼ばれる、焼けるような、あるいは電気が走るような痛みです。

ある研究では、CANVASと診断された方の43.2%にこの痛みが認められ、病気の初期から生活の質を大きく損なう原因となりうることが報告されています※。

・前庭反射消失(Vestibular Areflexia)による「めまい」

耳の奥にあって平衡感覚を司る前庭の機能が損なわれる症状です。

頭を動かしたときに視界が揺れるようなめまいを感じたり、特に暗い場所や足元が不安定な場所で、体のバランスを保つことが難しくなったりします。

これら3つの主症状のほかに、CANVASでは「慢性的な咳」が長期間続くことも特徴の一つとして知られています。

ただし、これらの症状は必ずしもすべてが同時に現れるわけではありません。

最初はしびれだけ、あるいはふらつきだけといったように、一部の症状から始まることもあります。

症状の現れ方や進行のスピードは、原因となる遺伝子の異常パターンによって一人ひとり異なるため、原因不明の感覚異常やふらつき、長引く咳など、気になる症状があれば専門医に相談することが重要です。

CANVAS(小脳性運動失調・ニューロパチー・前庭反射消失症候群)の検査・診断

CANVASの確定診断は、原因である「RFC1遺伝子」の異常を直接見つけ出す「遺伝学的検査」によって下されます。

この病気は、遺伝子の中にある特定の配列が異常に長くなる「リピート伸長」によって引き起こされるため、診断にはこの異常を正確に捉える必要があります。

そのため、従来の方法では特定が困難だった遺伝子の全長を詳細に調べられる「ロングリードシーケンサー」といった高精度な解析技術を用いることで、診断を確定します。

では、どのような場合にこの病気を疑い、検査に進むべきなのでしょうか。

診断のポイントを下記に整理します。

・典型的な3症状が揃っていなくても疑う

「ふらつき」「しびれ」「めまい」がすべて揃っていなくても、CANVASの可能性はあります。原因不明の手足のしびれ(感覚ニューロパチー)だけ、といったように一部の症状から始まる方も少なくありません。

・見過ごされがちな「痛み」に注目する

ピリピリ、ジンジンとした「神経障害性疼痛」は、診断の重要な手がかりとなりえます。ある研究では、CANVASと診断された方のうち43.2%にこの痛みが認められ、病気の初期から生活の質を著しく低下させる要因となっていることが報告されています※。

・痛みがなくても可能性を考慮する

逆に言えば、半数以上の方には痛みが現れません。そのため、原因不明の感覚の異常やふらつきがある場合、痛みの有無だけで判断するのではなく、CANVASの可能性を鑑別診断として考えることが早期発見には不可欠だといえます※。

もし、あなたやご家族に思い当たる症状があれば、「年のせいだろう」と自己判断せずに、まずは神経内科の専門医に相談することが診断への大切な第一歩です。

CANVAS(小脳性運動失調・ニューロパチー・前庭反射消失症候群)の治療

現在のところ、CANVASの原因である遺伝子異常そのものを修復する根本的な治療法は確立されていません。そのため、治療の主軸は、現れている症状を一つひとつ和らげ、できる限り快適な日常生活を維持することを目標とした「対症療法」となります。

この病気はゆっくりと進行するため、ご自身の症状や生活スタイルに合わせて、以下のような治療法を組み合わせて行います。

・リハビリテーション:ふらつき・めまいへの対策

小脳や前庭の機能低下によって生じる「ふらつき」や「めまい」に対して、リハビリテーションは生活の質を保つ上で非常に重要です。

理学療法士や作業療法士の指導のもと、バランス能力や筋力を維持・向上させる訓練を行います。

また、頭を動かした際のめまいには、特定の目の運動などを行う「前庭リハビリテーション」が有効な場合があります。

・薬物療法:しびれ・痛みのコントロール

手足のしびれ、そして特に生活の質を大きく損なう「神経障害性疼痛」に対しては、薬物療法を行います。

この痛みは、ピリピリ、ジンジンとした不快な感覚が特徴で、ある研究ではCANVASと診断された方のうち43.2%に認められ、病気の初期から生活に影響を及ぼす可能性があると報告されています※。

痛みの種類や強さに応じて、鎮痛薬や神経の過剰な興奮を抑える薬などを調整しながら用いることで、症状の緩和を目指します。

・その他のケア:咳や心のサポート

CANVASの特徴的な症状の一つである「慢性的な咳」に対しても、症状を和らげる薬が処方されることがあります。

また、病気と長く付き合っていく上での不安やストレスは、決して一人で抱える必要はありません。専門家によるカウンセリングといった精神的なサポートを受けることも、治療の重要な一部といえます。

原因遺伝子が特定されたことで、病気のメカニズム解明は世界中で急速に進んでいます。将来的には、遺伝子に直接働きかけるような、より根本的な治療法の開発が期待されています。