無虹彩症

「生まれつき目がまぶしい」「視力が低い」といった症状に、原因不明の不安を抱えていませんか。無虹彩症は、虹彩が欠けているだけでなく、まぶしさや視力低下など多様な症状を引き起こす、まれな遺伝性疾患です。日常的にまぶしさを感じる方は77.4%にものぼると報告されており、多くの方が生活上の不便を感じています。

この記事では、無虹彩症の概要、主な原因であるPAX6遺伝子の異常、眼や全身に現れる症状を詳しく解説します。また、検査・診断、治療法についてもご紹介します。

本記事を通じて、無虹彩症に関する理解を深め、ご自身やご家族が適切なケアを見つけるための一助となるでしょう。

無虹彩症の概要

無虹彩症は、生まれつき虹彩(茶目)が欠けているか、ほとんど形成されていない状態を特徴とする、まれな遺伝性の疾患です。虹彩は、カメラでいう絞りのような役割を果たし、目に入る光の量を調節しています。そのため、無虹彩症の方の多くは、強い光をまぶしく感じたり、視力が低下したりといった症状を抱えています。 ※

この疾患が抱える問題は、虹彩の形成不全だけにとどまりません。眼には、以下のような複数の症状が現れることがあります。

・角膜症: 目の表面を覆う角膜の病気

・緑内障: 眼圧が高まり、視神経が障害される病気

・白内障: 水晶体(レンズの役割を果たす部分)が濁る病気

・黄斑低形成: 網膜の中心部分である黄斑の発育が不十分な状態

・視神経異常: 視神経に構造的な異常がある状態

また、PAX6無虹彩症候群の眼症状としては、目の揺れ(眼振)や、程度の差はありますが視力の低下も典型的です。 ※

さらに、無虹彩症は眼だけではなく、全身に影響を及ぼすことがあります。脳や神経の発達の遅れ、自閉スペクトラム症(ASD)やADHD(注意欠如・多動症)、気分障害といった精神神経学的な症状を伴うケースもあると考えられています。 ※

無虹彩症の主な原因と遺伝形式

無虹彩症の主な原因は、PAX6(パックスシックス)という遺伝子の「機能喪失型変異」、または11番染色体の一部の「欠失(11p13領域の欠失)」であることがわかっています。PAX6遺伝子は、眼の発生をはじめ、さまざまな体の組織の形成に重要な役割を担う遺伝子です。この遺伝子の機能が失われることで、虹彩だけでなく全身に多様な症状が現れると考えられています。 ※

この疾患は「常染色体優性遺伝」という形式で遺伝するとされています。患者さんの約3分の2は親から遺伝しますが、残りの3分の1は、親には変異がなくても患者さん本人に新しく変異が生じる「新規変異」によるものと考えられています。 ※

治療と家族への配慮

無虹彩症の治療は、根本的な原因を取り除くものではなく、現れている症状に対して個別に対応する「対症療法」が中心となります。眼科医を中心に、さまざまな専門家が連携して、患者さん一人ひとりに合わせた治療計画を立てていくことが一般的です。具体的には、視力矯正や緑内障の進行を抑える治療、角膜の状態を管理する治療などが行われます。 [※](https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20301534]

特に8歳未満の小児期には、眼の発達が著しいため、病状の進行を注意深く見守る「密な経過観察」が重要です。また、手術が必要になる場合もありますが、その際には角膜症が悪化するリスクも考慮し、慎重な判断が求められます。 [※](https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20301534]

無虹彩症と診断された場合、患者さんご本人だけでなく、そのご家族や血縁者の方々にも、眼科検査や遺伝学的検査を受けていただくことで、早期発見と適切な管理につなげることが推奨されます。PAX6遺伝子の変異が特定された場合は、将来的なご家族計画において、出生前診断や着床前診断といった選択肢についても検討できるようになります。 [※](https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20301534]

無虹彩症の種類

無虹彩症は、その原因となる遺伝子や遺伝の仕方(遺伝形式)によっていくつかのタイプに分けられます。中でも、最も代表的な種類として知られているのが「PAX6無虹彩症候群」です。

PAX6無虹彩症候群は、単に虹彩が部分的に、あるいは完全に欠けている状態(虹彩低形成)にとどまらず、眼だけでなく全身にさまざまな影響を及ぼす疾患群(症候群)である点が特徴です ※。

この症候群の根底にあるのは、PAX6(パックスシックス)という遺伝子の「機能喪失型変異」や、11番染色体の一部である11p13領域の「欠失」です。PAX6遺伝子は、眼をはじめとする多くの体の組織が作られる過程で、非常に重要な役割を担っています。そのため、この遺伝子の機能が損なわれると、虹彩だけでなく、全身に多様な症状が現れると考えられています。

遺伝の仕方としては、「常染色体優性遺伝」という形式をとることがほとんどです。これは、変異した遺伝子が1つあれば症状が現れるというタイプを指します。患者さんのうち、約3分の2は親から遺伝した変異によって発症しますが、残りの約3分の1は、親には変異がないにもかかわらず、患者さん本人に新しく遺伝子変異が生じることで起こります ※。

PAX6無虹彩症候群では、眼の症状に加えて、以下のような精神神経学的な症状を伴う場合があります ※。

・中枢神経系の発達遅延: 脳や神経の発達が通常よりも遅れることがあります。

・自閉スペクトラム症(ASD): 他者とのコミュニケーションや社会的な相互作用に困難を抱えたり、特定の行動パターンを繰り返したりする特徴が見られます。

・ADHD(注意欠如・多動症): 不注意や多動性、衝動性といった特性が持続的に見られることがあります。

・気分障害: うつ病や双極性障害など、気分の波が大きくなる症状を伴う場合があります。

このように、無虹彩症は原因となる遺伝子や染色体の異常の種類によって分類され、その特性や現れる症状も一人ひとり異なる可能性があるのです。

無虹彩症の原因

無虹彩症の原因は、主に遺伝子の異常にあります。特に、眼の発生に重要な役割を果たすPAX6(パックスシックス)遺伝子の変異が、この疾患の主要な原因と考えられています。

PAX6遺伝子は、眼をはじめ、体のさまざまな組織が作られる過程で、その設計図の読み込みを指示する「転写因子」として機能します。この遺伝子に異常が生じると、眼の発達が正常に進まなくなり、虹彩(茶目)が十分に形成されない無虹彩症につながるのです。具体的な異常としては、次のものが挙げられます ※。

・PAX6遺伝子の機能喪失型変異: 遺伝子が正常に機能しなくなることで、虹彩をはじめとする眼の組織が正しく作られません。

・11番染色体短腕13領域(11p13)の欠失: PAX6遺伝子が存在するこの染色体の一部が失われることで、遺伝子の機能が完全に欠損します。

このPAX6遺伝子の異常は、虹彩が正常に作られないだけでなく、眼の他の部分(角膜、水晶体、網膜など)の発達にも影響を与え、複数の眼症状を引き起こす原因になると考えられています。

しかし、無虹彩症の原因となる遺伝子はPAX6遺伝子だけではありません。近年の遺伝子検査の進歩により、PAX6変異が主な原因である一方で、PAX6以外の遺伝子の異常も、無虹彩症やそれに伴う小児期の緑内障の患者さんから報告されるようになりました。たとえば、以下の遺伝子もその一つです ※。

・CYP1B1遺伝子

・FOXC1遺伝子

・PXDN遺伝子

・SOX11遺伝子

これらの遺伝子も、眼の前眼部(角膜、虹彩、毛様体、房水など)の正常な発達に深く関与していることがわかっています。そのため、これらの遺伝子に異常があると、虹彩の形成不全だけでなく、小児緑内障など他の眼疾患を引き起こす可能性があります。同じような症状を示す「表現型重複」として認識されることもあるでしょう ※。遺伝子診断の普及によって、このように多岐にわたる原因遺伝子が特定され、病態の理解が深まっています。

無虹彩症の遺伝形式は、多くの場合、「常染色体優性遺伝」という形で親から子へと受け継がれます ※。これは、両親のどちらか一方から、病気の原因となる遺伝子の変異を受け継ぐだけで発症するタイプを指します。

発症の背景は、次のとおりです。

・遺伝による発症: 無虹彩症と診断された方の約3分の2は、親から遺伝した遺伝子変異によって発症しています ※。

・新規変異による発症: 残りの約3分の1は、親には遺伝子変異が見られないにもかかわらず、患者さん本人に新しく遺伝子変異が生じる「新規変異」が原因であると考えられています ※。これは、受精時やごく初期の発生段階で、遺伝子のコピーミスなどが偶発的に発生することによって起こります。

このように、無虹彩症は単一の原因で起こるわけではなく、複数の遺伝子異常や遺伝のメカニズムが複雑に関与している疾患といえます。

無虹彩症の症状

無虹彩症の症状は、単に虹彩(茶目)が欠けているという見た目の問題だけにとどまりません。光の感じ方、視力、目の不快感、さらには全身の発達にまで影響が及ぶ、複雑な特徴を持つ疾患です。

無虹彩症に多く見られる具体的な症状は、以下のとおりです。

虹彩の欠如または形成不全

虹彩は、カメラの絞りのように、目に入る光の量を調節する大切な働きを担っています。無虹彩症では、この虹彩が部分的または完全に欠けていたり、十分に形成されていなかったりします。そのため、見た目にも瞳孔が大きく見えたり、形がいびつに見えたりすることがあります。

視力低下

無虹彩症の方に多く見られる症状が視力低下です。光を感じる網膜の中心部にある黄斑(おうはん)の発育が不十分な「黄斑中心窩低形成」は、虹彩の形成不全よりも頻度が高く、視力低下の主な原因として信頼できる臨床徴候の一つとされています。※黄斑は、ものを見る上で最も重要な部分であるため、その形成が不十分だと、視力に大きな影響が出ることが考えられます。

光線過敏とグレア

虹彩が光の量をうまく調節できないため、無虹彩症の患者さんの多くが強いまぶしさ(光線過敏)を感じたり、光が散乱してぎらつく(グレア)症状に悩まされています。※ある調査では、日常的に光過敏症を感じる方が77.4%にものぼると報告されています。※

眼振(がんしん)

眼振(がんしん)は、眼球が自分の意思とは関係なく細かく揺れ動く症状です。無虹彩症の患者さんには、この眼振がしばしば見られます。※これは、眼からの正確な視覚情報が脳に届きにくいため、眼の位置を安定させようとするメカニズムがうまく働かないことが一因と考えられています。

目の表面の不快感

目の表面の乾燥(ドライアイ)や炎症も、無虹彩症でよく報告される症状の一つです。※これにより、目の乾燥感、痛み、涙目といった不快な感覚が生じることがあります。実際、ある調査では、患者さんの47.8%がドライアイ、15.4%が眼痛、7.0%が涙目を日常的に経験していると報告されています。※特に高齢の患者さんでは、小児期に比べて目の症状を多く報告する傾向があることもわかっています。※

眼の合併症

無虹彩症は、虹彩以外の目の構造にも影響を及ぼし、さまざまな合併症を伴うことが少なくありません。※これらの合併症は、視力や生活の質(QOL)にも大きく影響するため、注意深い管理が必要です。

主な眼の合併症は、次のとおりです。

・白内障:目の中のレンズの役割を果たす水晶体が濁る病気です。早期に手術を受けるとQOLが低下する関連が示されています。※

・緑内障:眼圧が高くなり、視神経が傷つき、視力や視野に影響が出る病気です。※

・角膜症:目の表面を覆う透明な膜である角膜に異常が生じる病気で、進行するとQOLが著しく低下する傾向があります。※

・視神経低形成または異常:眼から脳へ視覚情報を伝える視神経の形成が不十分であったり、構造的な異常が見られたりします。

全身症状(PAX6無虹彩症候群の場合)

無虹彩症は、その原因となる遺伝子の異常によって、眼だけでなく全身に影響を及ぼすことがあります。特に「PAX6(パックスシックス)遺伝子」の変異が原因で起こるPAX6無虹彩症候群では、PAX6遺伝子が眼だけでなく脳や神経の発達にも重要な役割を担っているため、中枢神経系に関連する症状を伴うことがあります。※

具体的には、以下の症状が見られる場合があります。

・発達遅延:脳や神経の発達が通常よりもゆっくり進む状態です。

・自閉スペクトラム症(ASD):人とのコミュニケーションや社会的な関わり合いが苦手で、特定の行動を繰り返すなどの特性を持つ発達障害の一つです。

・ADHD(注意欠如・多動症):不注意、多動性、衝動性といった特性が持続的に見られる発達障害の一つです。

・気分障害:うつ病や双極性障害など、気分の波が大きくなる精神的な症状です。

無虹彩症の検査・診断

無虹彩症は、眼科的な診察と遺伝子検査を組み合わせて診断されます。この疾患は稀であり、眼だけでなく全身に影響を及ぼす可能性もあるため、早期かつ正確な診断は、複雑な症状を持つ患者さんの適切な管理計画の立案と、目の合併症の早期発見・治療に欠かせません※。診断は主に、以下の二つの方法で進められます。

1. 眼科的な診察と所見

眼科医は、まず詳細な目の診察を行い、無虹彩症に特徴的な所見を探します。

・虹彩の状態: 虹彩が部分的、あるいは完全に欠損しているかを確認します。虹彩は、カメラの絞りのように目に入る光の量を調節する役割を担う部分です。その欠損は、無虹彩症の主な症状の一つとされます。

・黄斑(おうはん)中心窩(ちゅうしんか)の低形成: 目の奥にある黄斑の中心部分(中心窩)が十分に発達していない状態を指します。無虹彩症の診断において、この黄斑中心窩の低形成は、虹彩の欠損よりも頻度が高く、信頼できる臨床的なサインであると考えられています※。

・その他の目の合併症: 無虹彩症は、虹彩以外の目の組織にも影響を及ぼすことがあります。そのため、白内障(目の中のレンズが濁る病気)や角膜(目の表面を覆う透明な膜)の病気、視神経(目から脳へ視覚情報を伝える神経)の低形成など、合併しやすい他の眼疾患がないかを詳しく調べます※。

これらの眼科的な所見は、無虹彩症の診断において重要な手がかりとなります。

2. 遺伝子検査

無虹彩症の多くは遺伝子の異常によって引き起こされるため、遺伝子検査は確定診断に不可欠です。

特に、眼の発生に重要な役割を果たす「PAX6遺伝子」の変異が、無虹彩症の最も一般的な原因として知られています※。この遺伝子検査では、採血した血液からDNAを調べ、PAX6遺伝子に異常がないかを確認します。この検査により、無虹彩症の確定診断につながることが多いでしょう。まれに、PAX6遺伝子以外の遺伝子の変異が原因となるケースもあります※。

無虹彩症は、眼症状と全身症状が複雑に絡み合い、効果的な治療法が確立されていない場合もあります※。だからこそ、早期に正確な診断を受けることで、患者さん一人ひとりに合った管理計画を立て、合併症の進行をできる限り遅らせ、生活の質を維持することを目指すことが重要です。ご自身の目の状態や遺伝的な背景に不安を感じている場合は、遠慮なく専門医に相談してください。

無虹彩症の治療

無虹彩症の治療は、根本的な原因を取り除くものではなく、現れている症状への対処と、残された視機能を最大限に活用するための包括的な管理が中心となります。現在のところ、この疾患の根本的な治療法は確立されていません。そのため、個々の患者さんの症状や合併症に応じた対症療法や、視機能の維持、そして生活の質の向上を目指した総合的な管理が重要です。

特に、無虹彩症では眼の症状が多岐にわたり、その進行や転帰(治療の経過と結果)も複雑なため、長期にわたる管理と経過観察が困難であるとされています※。治療は、個々の患者さんの状態に合わせて、眼科医をはじめとする多職種の専門家が連携して進めていくことが一般的です。

眼の合併症への対処

無虹彩症では、虹彩の欠損だけではなく、さまざまな目の合併症が起こりやすいとされています。これらの合併症は、視力の低下をさらに引き起こす可能性があるため、定期的に検査を行い、早期に発見して適切な治療をすることが大切です。

主な眼の合併症とその対処法は、以下のとおりです。

・白内障:目の中のレンズの役割を果たす水晶体が濁る病気です。視力低下が進んだ場合には、濁った水晶体を取り除き、人工レンズを挿入する手術が行われます。

・緑内障:眼圧が高くなることで、視神経が傷つき視野が狭くなる病気です。点眼薬で眼圧をコントロールすることが基本ですが、病状によっては手術が必要になることもあります。

・角膜症:目の表面を覆う透明な膜である角膜の細胞に異常が生じ、角膜が濁ったり傷つきやすくなったりします。点眼薬による治療や、重症の場合には角膜の移植を検討することもあります。

・視神経低形成:視神経(目から脳へ視覚情報を伝える神経)の発生が不十分な状態です。この合併症に対する直接的な治療法はありませんが、残された視機能を最大限に活用するためのサポートが重要となります。

視機能のサポートと生活の質の向上

無虹彩症の患者さんは、光を非常にまぶしく感じたり(光線過敏)、視力が低かったり、眼球が小刻みに揺れる眼振を伴ったりすることがよくあります※。これらの症状を軽減し、日々の生活をより快適に送るためには、以下のようなアプローチでサポートを行います。

・遮光眼鏡やコンタクトレンズ:まぶしさを軽減し、目に入る光の量を調整することで、見えやすさを改善できる可能性があります。

・ロービジョンケア:残された視力を最大限に活かすためのサポートです。拡大鏡や単眼鏡、拡大読書器などの補助具の活用、照明の工夫、文字のコントラスト調整など、視覚環境を整えることで、読書や日常生活の動作を助けます。このケアは、専門の施設や眼科医、視能訓練士などが連携して行います。

・定期的な眼科検診:合併症の早期発見と治療、視機能の変化に応じたサポートの見直しのため、定期的な検診は欠かせません。

無虹彩症の治療と管理は、患者さん一人ひとりの状態や生活環境に合わせたオーダーメイドのアプローチが求められます。眼科医や視能訓練士、場合によっては遺伝カウンセラーなど、多職種が協力し、患者さんとそのご家族を長期的に支えていくことが大切です。