未破裂脳動脈瘤

健康診断や脳ドックで「未破裂脳動脈瘤」を指摘され、不安を感じている方もいるかもしれません。自覚症状がないまま発見されるケースが多く、突然の告知に戸惑い、今後の治療で悩んでいませんか。

この記事では、未破裂脳動脈瘤の基礎知識や症状、原因について解説します。主な検査方法と治療選択肢もご紹介します。血流方向転換デバイスをはじめ、最新の治療法についても詳しく触れています。

本記事を通じて病気への理解を深め、医師とご自身の状況に合った治療方針を検討する一歩を踏み出せるでしょう。漠然とした不安を解消し、前向きに病気と向き合うための一助となるはずです。

未破裂脳動脈瘤の概要

未破裂脳動脈瘤は、脳の血管にできた「こぶ」が、まだ破裂していない状態を指します。このこぶが破れると、命に関わる「くも膜下出血」を引き起こすため、破裂前に発見し、適切な対応を検討することが極めて重要です。

脳動脈瘤は、脳の血管壁が部分的に弱くなり、血液の圧力によって風船のように膨らんでできるものです。厄介なことに、ほとんどの場合、自覚症状がありません。そのため、脳ドックや、他の病気の検査で偶然見つかるケースがほとんどです。しかし、動脈瘤が大きくなると、近くにある脳の神経を圧迫し、以下のような症状を引き起こす可能性があります。

・頭痛

・眼の奥の痛み

・物が二重に見える(複視)

治療の選択肢と最新情報

未破裂脳動脈瘤の治療法は、動脈瘤の大きさや形、できた場所、患者さんの年齢や全身の状態など、さまざまな要素を総合的に考慮して決定します。近年では、外科手術や血管内治療に加え、血流方向転換デバイスを用いた新しい治療法も登場しています。

血流方向転換デバイスとは、動脈瘤の出入り口に特殊な網目状のステントを留置することで、動脈瘤内部への血流を弱め、動脈瘤を自然に固まらせて閉塞(ふさぐ)ことを促す治療法です。代表的なデバイスとして、パイプラインエンボリゼーションデバイス(PED)やチューブリッジエンボリゼーションデバイス(TED)があります。

これらのデバイスについて、多施設共同の研究では、PEDとTEDは短期的な安全性と有効性において大きな差がないことが報告されています。しかし、平均8カ月の経過観察では、PEDの方が動脈瘤の完全閉塞率が高い傾向が示されました。この結果は、さらなる長期的な観察が必要であると考えられています※。

この治療は、動脈瘤が破裂するリスクを減らすことを目指すものです。どのような治療法が自分にとって最適なのかは、医師と十分に話し合い、納得した上で決めることが大切です。

未破裂脳動脈瘤の種類

未破裂脳動脈瘤は、その発生する形態によっていくつかの種類に分類されます。ご自身の動脈瘤がどのタイプに該当するかを知ることは、病状を理解し、今後の治療方針を医師とともに検討する上で重要な情報源といえます。

主な動脈瘤の種類は次のとおりです。

・嚢状動脈瘤(のうじょうどうみゃくりゅう)

脳にできる動脈瘤のなかで最も多く見られるタイプです。血管の分岐している部分など、血流の圧力がかかりやすい箇所に発生しやすい傾向があります。血管の一部が風船のように袋状に膨らんだ形が特徴です。この膨らんだ部分を「ドーム」、血管との接続部を「ネック」と呼びます。多くの場合、破裂すると脳の表面を覆うくも膜の下に出血する、くも膜下出血を引き起こす危険性があります。

・紡錘状動脈瘤(ぼうすいじょうどうみゃくりゅう)

血管が全体的に膨らんで太くなるタイプです。嚢状動脈瘤のように血管の一部だけが突出するのではなく、血管そのものがだんだんと広がって拡張した状態を指します。動脈硬化が進行した結果として、血管壁全体が弱くなることで発生することが多いと考えられています。

・解離性動脈瘤(かいりせいどうみゃくりゅう)

血管の壁が内側から裂け、その裂け目に血液が流れ込むことで、血管が膨らんだり、あるいは狭くなったりするタイプの動脈瘤です。血管の壁が損傷することで起こります。急激に発症した場合は、これまでに経験したことのない強い頭痛を伴うことも珍しくありません。首の血管である椎骨動脈や内頚動脈などに発生するケースが多いとされています。

・その他の動脈瘤

上記以外にも、比較的まれな動脈瘤が存在します。例えば、細菌などの感染が原因で発生する「感染性動脈瘤」や、頭部の怪我などの外傷がきっかけでできる「外傷性動脈瘤」などがこれにあたります。これらのタイプは、特定の原因や状況が引き金となり発生するという特徴を持っています。

動脈瘤の種類によって、発生しやすい場所、破裂するリスクの評価、そして適切な治療方法の選択肢が変わってきます。ご自身の動脈瘤がどのタイプであるかは、精密な検査と医師の診断によって明らかになります。その情報を踏まえ、医師とよく話し合い、最適な治療方針を見つけることが大切です。

未破裂脳動脈瘤の原因

未破裂脳動脈瘤は、複数のリスク因子が絡み合って血管に負担をかけることで発症します。脳の血管が何らかの理由で弱くなった箇所に、血液が流れる圧力が繰り返し加わることで、風船のように膨らんで「こぶ」が形成されると考えられます。

具体的には、血管に以下のような要因が影響し、動脈瘤が発生しやすくなるとされています。

・高血圧: 血管にかかる圧力が常に高いと、血管の内壁が繰り返し損傷を受けます。この損傷が血管壁を弱くし、動脈瘤の形成や、すでに存在する動脈瘤の拡大を促す原因となります。

・喫煙: タバコに含まれるニコチンやタールなどの有害物質は、血管の内側を覆う内皮細胞を直接傷つけます。これにより血管に炎症が起きやすくなり、血管のしなやかさや弾力性が失われて動脈硬化が進行します。結果として血管壁が脆弱になり、動脈瘤が発生しやすくなると考えられます。

・加齢: 私たちの血管は、年齢を重ねるごとに徐々に硬く、脆くなっていきます。これは自然な生理現象ですが、血管の弾力性が低下すると、血流による衝撃を受け止めきれなくなり、動脈瘤ができやすい状態になるといえます。

・遺伝的要因・家族歴: 血縁者に脳動脈瘤を発症した方がいる場合、そうでない方に比べてご自身も動脈瘤を発症するリスクが高まる傾向があります。これは、特定の遺伝的素因や、家族間で共有される生活習慣などが影響している可能性が考えられます。

・脂質異常症: 血液中の悪玉コレステロール(LDLコレステロール)や中性脂肪の値が高い状態が続くと、血管壁に脂肪などが蓄積し、血管が厚く硬くなる動脈硬化を進行させます。動脈硬化によって弱くなった血管は、動脈瘤ができやすい環境になると考えられます。

これらのリスク因子は単独で動脈瘤を引き起こすというよりは、複数が組み合わさることで、発症リスクをさらに高める可能性が高いといえます。ご自身の生活習慣を見直し、定期的な健康診断を受けることは、未破裂脳動脈瘤のリスクを低減するために重要です。

未破裂脳動脈瘤の症状

未破裂脳動脈瘤は、ほとんどの場合、自覚症状が現れません。これは、まだ破裂していない脳動脈瘤が、周囲の脳組織を直接刺激したり、出血を起こしたりすることがないためです。そのため、脳ドックや他の病気で受けた検査の際に、偶然見つかるケースがほとんどです。

しかし、動脈瘤が大きくなったり、あるいは特定の脳神経のそばに形成されたりすると、その神経を圧迫し、特有の症状を引き起こすことがあります。具体的な症状は次のとおりです。

・頭痛: 片方の目の奥やこめかみ周辺に、これまで経験したことのないような局所的な痛みを感じることがあります。これは、動脈瘤が三叉神経などの知覚神経を刺激することで生じると考えられています。

・眼瞼下垂(がんけんかすい): 片方のまぶたが下がり、目が開きにくくなる状態です。動脈瘤が眼球を動かす神経(動眼神経)を圧迫することで、まぶたを上げる筋肉が麻痺するために起こります。

・複視(ふくし): 物体が二重に見える症状です。これも眼球運動に関わる神経(動眼神経、滑車神経、外転神経など)が圧迫されることで、左右の目の動きがずれるために生じます。

・瞳孔不同(どうこうふどう): 左右の瞳孔(ひとみ)の大きさに違いが生じる状態です。動眼神経の圧迫によって、瞳孔を調節する機能に異常が生じると現れることがあります。

・顔面痛: 片側の顔に痛みやしびれが生じる症状です。動脈瘤が顔面の知覚を司る三叉神経を圧迫することで、神経痛のような症状が引き起こされると考えられます。

これらの症状は、動脈瘤の大きさや、脳内のどの部位にできたかによって異なります。ただし、ここで挙げた症状は未破裂脳動脈瘤に特有のものではなく、他のさまざまな病気でも現れることがあります。そのため、これらの症状があるからといって、必ずしも脳動脈瘤があるとは限りません。しかし、気になる症状が現れた場合は、自己判断で様子を見ずに、速やかに医療機関を受診し、専門医に相談することが非常に重要です。

未破裂脳動脈瘤の検査・診断

未破裂脳動脈瘤の発見には、画像診断による検査が欠かせません。この動脈瘤は破裂するまで自覚症状がほとんどないため、患者さん自身が気づくことはまれです。多くの場合、定期的な脳ドックや、他の病気の検査中に偶然見つかることがほとんどです。動脈瘤が発見された際には、その正確な状態を把握するために、いくつかの画像検査を行います。

主な検査方法は次のとおりです。

・MRA(磁気共鳴血管造影)

・磁気を使って脳血管の状態を詳しく調べる検査です。

・造影剤(血管をはっきり写すために使う薬剤)を使わずに血管を見ることができるため、体への負担が少ないという特徴があります。

・脳ドックなどで広く行われるスクリーニング検査として、最初のステップで非常に有効な手段といえます。

・CTA(CT血管造影)

・X線と造影剤を使い、短時間で脳の血管を立体的に撮影する検査です。

・動脈瘤の大きさや形、骨との位置関係などを詳細に確認できるのが利点です。

・救急医療の現場でも、迅速な診断のために役立てられています。

・脳血管造影(DSA)

・足の付け根などから細いカテーテル(医療用の細い管)を挿入し、直接造影剤を注入して血管の状態をリアルタイムで観察する検査です。

・これらの画像検査の中で最も精密な情報が得られるため、動脈瘤の正確な診断や、治療方針を決定する上で重要な役割を担います。

・場合によっては、診断と同時に治療を行うこともあります。

これらの検査によって未破裂脳動脈瘤が発見された場合、動脈瘤の大きさ、形、場所、血管からの発生部位などを詳細に評価し、将来の破裂リスクを慎重に判断します。

診断の結果、治療が必要と判断された際には、患者さん一人ひとりに最適な治療法が検討されます。例えば、近年注目されている血流方向転換デバイス(動脈瘤への血流をコントロールする特殊な医療機器)を用いた治療では、Pipeline embolization device (PED)とTubridge embolization device (TED)という2種類のデバイスの有効性と安全性を比較した多施設共同研究が報告されています※。

この研究では、術後合併症(手術後に発生する問題)やステント内狭窄(血管内に留置したステントが狭くなること)、治療後の良好な経過においてPEDとTEDで大きな差は認められませんでした。しかし、平均8カ月の経過観察では、PEDの方が動脈瘤の完全閉塞率(動脈瘤が完全に塞がれる割合)が高い傾向にあることが示されており、さらに長期的な検証が必要と結論づけられています※。

このように、診断の精度向上とともに、治療法の選択においても最新の研究に基づいた知見が常にアップデートされています。ご自身の状態について不安なことや疑問がある場合は、遠慮なく医師に相談し、十分な説明を受けることが大切です。

未破裂脳動脈瘤の治療

未破裂脳動脈瘤の治療方針は、患者さん一人ひとりの状態に合わせて検討されます。動脈瘤の大きさや形、場所といった病変の特徴に加え、年齢や持病の有無など全身の状態も総合的に考慮し、最適な方法が選ばれます。主な治療の選択肢は「経過観察」「外科的治療」「血管内治療」の3つです。

治療の選択肢

未破裂脳動脈瘤に対する治療は、大きく分けて次の3つの方法があります。

・経過観察

・動脈瘤が小さく、将来的に破裂するリスクが低いと判断された場合や、手術による体への負担が大きいと判断された場合に選択される方法です。

・動脈瘤が大きくなっていないか、形に変化がないかを確認するため、定期的にMRAやCTAなどの画像検査を行います。

・動脈瘤の成長や破裂のリスクを高める高血圧などの持病がある場合は、その治療も同時に進めることが重要です。血管にかかる圧力が高止まりすると、動脈瘤がさらに膨らむ原因となるためです。

・外科的治療(開頭クリッピング術)

・頭の骨を一時的に開けて脳に到達し、動脈瘤の根元をチタン製のクリップで挟み、血液が動脈瘤の中へ流れ込まないようにする方法です。

・動脈瘤を直接目で見て確認しながら治療できるため、根元から確実に遮断できる点で再発率が低いと考えられています。

・主に動脈瘤のサイズが大きい場合や、血管の構造上、血管内治療が難しい場合に検討される方法です。

・血管内治療

・足の付け根にある太い血管から、カテーテルと呼ばれる細い管を挿入し、レントゲン画像を見ながら脳の動脈瘤まで誘導して治療する方法です。

・頭部を切開する外科手術と比べて体への負担が少ない「低侵襲」な治療法の一つといえます。

・主な血管内治療の方法は、以下の2つです。

・コイル塞栓術:動脈瘤の内部に、プラチナ製の柔らかいコイルを隙間なく詰めて血栓(血の塊)を作り、血液が動脈瘤に入らないようにして破裂を防ぐ方法です。動脈瘤内の血流を遮断することで、破裂のリスクを低減します。

・血流方向転換デバイス留置術(フローダイバーター):動脈瘤がある血管の中に、特殊な網目状のステント(筒状の医療機器)を留置します。このステントが動脈瘤への血流をゆっくりと減らすことで、動脈瘤内部に血栓が形成され、自然に塞がせる治療法です。

血流方向転換デバイスについて

血管内治療で用いられる血流方向転換デバイス(フローダイバーター)には、いくつかの種類があります。近年では、Pipeline embolization device (PED)とTubridge embolization device (TED)という2種類のデバイスの有効性と安全性を比較する研究が進められています。

ある多施設共同研究では、未破裂脳動脈瘤に対してこれら2つのデバイスを用いた治療成績が比較検討されました。この研究は、多くの医療機関からのデータを集めて分析しており、信頼性の高い結果が得られる傾向にあります。研究の結果、術後の合併症やステント内の血管が狭くなる状態(ステント内狭窄)、そして治療後の良好な経過については、PEDとTEDで大きな差は認められないと報告されました※。

しかし、平均8カ月の経過観察では、動脈瘤が完全に塞がる割合(完全閉塞率)は、PEDを用いた場合の方が高い傾向にあることが示されました。このことから、それぞれのデバイスの特性を理解し、より長期的な視点での検証が今後必要であると考えられています※。

治療法の選択と相談

未破裂脳動脈瘤の治療法は、患者さんご自身の状態、動脈瘤の具体的な特徴、そして期待される治療効果とリスクを総合的に判断して決定されます。治療にはメリットとデメリット、そして合併症のリスクが伴います。これらの情報を十分に理解するためには、担当の医師と納得いくまで話し合うことが不可欠です。ご家族ともよく相談し、不明な点や不安なことがあれば、遠慮なく医師に質問して説明を求めましょう。自分にとって最適な選択をするためにも、積極的な情報収集と対話が重要といえます。