骨髄腫

なかなか取れない疲労感や、原因のわからない背中や腰の痛み。「年のせいだろう」と、つい見過ごしてはいませんか。そのサイン、実は血液のがんの一種である「骨髄腫」が原因かもしれません。骨髄腫は、体を守る細胞が骨髄でがん化し、骨をもろくしたり、正常な血液づくりを妨げたりする病気です。

ご高齢の方に多い病気ですが、不安に思う必要はありません。治療法は日々進歩しており、既存の薬を応用する「ドラッグリパーパシング」のような新しい研究も進んでいます。この記事では、骨髄腫の症状から最新の治療法までを詳しく解説します。病気を正しく理解し、希望をもって向き合うための第一歩にしてください。

骨髄腫の概要

骨髄腫(こつずいしゅ)は、血液をつくる工場である骨髄で発生する、血液のがんの一種です。 私たちの骨の中心には「骨髄」という大切な場所があります。 ここでは、赤血球や白血球といった血液の成分が毎日つくられています。

骨髄には、体をウイルスなどから守る「形質細胞」がいます。 骨髄腫は、この形質細胞ががん化して「骨髄腫細胞」となり、骨髄の中で異常に増えてしまう病気です。 がん化した骨髄腫細胞は、体にさまざまな悪影響を及ぼします。

  • 正常な血液がつくれない 骨髄が骨髄腫細胞で埋め尽くされると、正常な血液をつくる場所がなくなります。 その結果、貧血による息切れや疲れやすさ、感染症にかかりやすくなるなどの症状が出ます。
  • 役に立たない抗体(M蛋白)が増える 骨髄腫細胞は、体を守る力のない異常な抗体(M蛋白)を大量につくります。 これにより血液がドロドロになったり、腎臓に大きな負担がかかったりします。
  • 骨がもろくなる 骨髄腫細胞は、骨を溶かす物質を出して骨を弱くします。 そのため、骨に痛みを感じたり、軽い衝撃で骨折しやすくなったりします。

骨髄腫はご高齢の方に多い病気ですが、若い方が発症することもあります。 しかし、治療法の研究は日々進歩しています。 近年では「ドラッグリパーパシング」という研究が注目されています。 これは、もともと別の病気の治療薬として使われていた薬を、がん治療に応用する考え方です。 例えば、血圧の薬であるプロプラノロールが、骨髄腫に効果がないか研究されています。 この方法は、新しい薬をゼロから開発するよりも時間や費用を抑えられる可能性があります。 まだ研究段階の試みも多いですが、治療の選択肢を増やすための努力が続けられています。

骨髄腫の種類

骨髄腫は、症状が出ているかどうかで大きく2つの種類に分けられます。 この分類は、今後の治療方針を決めるうえで非常に重要です。 ご自身の体の状態を正しく理解し、適切な対応をとる第一歩になります。

1. 無症候性(むしょうこうせい)多発性骨髄腫

「くすぶり型骨髄腫」とも呼ばれる、症状のないタイプです。 検査をすると骨髄腫細胞や異常なM蛋白が見つかります。 しかし、体に直接的な害はまだ出ていないおとなしい状態です。 骨の痛みや貧血、腎臓の働きの低下といった症状はありません。 この段階では、すぐに治療を始めず定期的に検査を行い、慎重に経過を観察します。

2. 症候性(しょうこうせい)多発性骨髄腫

骨髄腫が原因となり、体に明らかな症状が1つ以上現れた状態です。 このタイプと診断されると、病気の進行を抑えるための治療が必要です。 治療が必要となる主な症状は以下の通りです。

  • 高カルシウム血症 骨が壊されて血液中のカルシウムが増える状態です。
  • 腎機能障害 異常なM蛋白により腎臓の働きが悪くなります。
  • 貧血 正常な血液が作れず、息切れやだるさを感じます。
  • 骨病変 骨がもろくなり、痛みや骨折が起こりやすくなります。

種類の名前

症状の有無

主な対応

無症候性多発性骨髄腫

なし

定期的な検査で経過観察

症候性多発性骨髄腫

あり

薬などによる治療を開始

このように症状の有無で対応は異なります。 一方で、より良い治療法を見つけるための研究は常に進められています。 例えば、別の病気の薬を骨髄腫に応用する研究もその一つです。 また、病気のリスクに関わる物質の研究も行われています。 ある研究では、特定のタンパク質と骨髄腫のリスクに明確な関係は見つかりませんでした。 このように、解明にはまだ時間が必要なことも正直にお伝えすべきでしょう。 科学的な探求は、一歩ずつ着実に進められています。

骨髄腫の原因

骨髄腫がなぜ起こるのか、その明確な原因は残念ながらまだ解明されていません。そのため「これをすれば防げる」という確実な予防法がないのが現状です。

一般的に、体をウイルスなどから守る「形質細胞」の設計図である遺伝子に、何らかの理由で傷がつくことが病気の発端と考えられています。しかし、なぜ遺伝子に傷がついてしまうのか、その根本的な理由はまだわかっていません。

世界中で原因を突き止めるための研究が続けられています。体内の特定の物質とがんの関係を調べる研究もその一つです。

  • 研究の一例 ある複数の研究を統合した分析では、「IGFBP1」という物質に着目しました。 これは細胞が増えるスピードを調整するタンパク質の一種です。 その結果、この物質が多いと前立腺がんなどのリスクが下がる可能性が示されました。

しかし、同じ研究で骨髄腫については、この物質の量と病気になるリスクとの間に、はっきりとした関係は見つかりませんでした。このように、がんの種類によって原因となりうる要素は異なると考えられており、骨髄腫の原因特定にはさらなる研究が必要です。

現時点で、発症リスクを少し高める可能性があると考えられている要因には、以下のようなものがあります。

  • 年齢 高齢になるほど発症しやすくなる傾向があります。
  • 特定の物質への長期間の接触 放射線や一部の化学物質などが挙げられます。
  • 免疫機能の異常 体を守る免疫システムに何らかの問題がある場合です。

ただし、これらに当てはまる方が必ず病気になるわけではありません。多くの要因が複雑に関係し合って発症すると考えられています。

骨髄腫の症状

骨髄腫は、自覚症状がないまま健康診断で偶然見つかることもあります。 しかし多くの場合、骨髄腫細胞が増えることで体に様々なサインが現れます。 これらの症状は、病気が体の中で静かに進行している証拠かもしれません。

代表的な症状を、原因別に見ていきましょう。

骨や血液にあらわれる症状

骨髄腫細胞は骨を弱くし、正常な血液が作られるのを邪魔してしまいます。 そのため、以下のような症状が起こりやすくなります。

  • 骨の痛みや骨折 背中や腰、あばら骨などが痛むことがあります。 特に安静にしていても痛みが続く場合は注意が必要です。 骨がもろくなるため、軽い衝撃でも骨折しやすくなります。
  • 貧血による症状 正常な赤血球が減ることで、全身が酸素不足になります。 階段を上るだけで息切れしたり、だるさやめまいを感じたりします。
  • 出血しやすくなる 血を止める血小板が不足するため、鼻血や歯ぐきからの出血、 身に覚えのない青あざができやすくなります。
  • 感染症にかかりやすくなる 体を守る白血球が減ってしまうため、免疫力が低下します。 その結果、風邪や肺炎などの感染症に繰り返し罹ることがあります。

その他の全身にあらわれる症状

骨髄腫細胞が作る異常なM蛋白も、体にさまざまな影響を及ぼします。

  • 腎臓の働きの低下 M蛋白が腎臓に負担をかけ、機能が低下します。 そのサインとして、尿の量が減ったり、体がむくんだりします。
  • 高カルシウム血症 骨が壊れることで血液中のカルシウム濃度が高くなる状態です。 のどの渇き、食欲不振、意識がぼんやりするなどの症状が出ます。

これらの症状の詳しい仕組みは、まだ研究の途中です。 例えば、他のがんとの関連が調べられている特定のタンパク質(IGFBP1)も、 骨髄腫の発症との明確な関係はまだ見つかっていません。

また、骨髄腫は治療で症状が改善しても、再発することが課題です。 ある研究では、新しい治療法であるCAR-T細胞療法を受けた後でも、 1年以内に約6割の患者さんで再発が見られたと報告されています。 気になる症状があれば、自己判断せず早めに医療機関へご相談ください。

骨髄腫の検査・診断

骨髄腫が疑われる場合、病気を正しく理解するための検査が必要です。 パズルのピースを集めるように、複数の検査を組み合わせて診断します。 一つの検査だけでは、病気の全体像を正確に掴むことは難しいためです。

まず、体への負担が少ない血液検査と尿検査で、全体の状態を把握します。 これで、体の中で何らかの異常が起きていないか、大まかなヒントを得ます。

検査の種類

主に調べること

血液検査

・骨髄腫細胞がつくる異常なタンパク質(M蛋白)

・赤血球や白血球、血小板の数(貧血などがないか)

・腎臓の機能や血液中のカルシウムの値

尿検査

・尿の中に異常なM蛋白が出ていないか

これらの検査で異常が見つかると、診断を確定させるため骨髄検査を行います。 腰の骨に細い針を刺し、骨髄液を採取してがん細胞の有無を直接調べます。 これは診断を確定するための、非常に重要な検査です。

さらに、CTやMRIなどの画像検査で、病気の広がりや骨の状態を確認します。 特にPET-CT検査は、がん細胞の活動性を全身で調べるのに役立ちます。 この検査ではFDGという薬がよく使われますが、研究は日々進んでいます。

ある複数の研究をまとめた分析では、「MET」という別の薬の方が、 骨髄腫の病変をより詳しく捉えられる可能性が報告されています。 より正確な診断を目指し、新しい検査薬の研究が続けられているのです。

また、患者さんの負担が少ない新しい診断法の開発も進んでいます。 例えば、血液中の「循環エキソソームcircRNA」という物質を調べる研究です。 この方法は、体を傷つけることなく、高い精度で病気を見つけられる可能性があります。 将来、診断の大きな助けになることが期待されています。

骨髄腫の治療

骨髄腫の治療は、病気の進行を抑え症状を和らげることが中心です。 一人ひとりの症状や年齢、体の状態に合わせて治療法を考えます。 症状のない「無症候性」の場合は、すぐには治療を開始しません。 副作用のリスクを考え、定期的な検査で慎重に様子を見守ります。

治療が必要な場合の中心は、お薬を使った「薬物療法」です。 骨髄腫細胞を狙う薬や、体の免疫の力を利用する薬を組み合わせます。 より正確に治療方針を決めるため、PET-CTなどの画像検査も重要です。 ある研究では、新しい検査薬の方が病変を詳しく捉えられると報告されています。 このように、より良い診断を目指すための研究が続けられています。

また、新しいお薬の開発だけでなく、他の病気の薬を応用する研究も活発です。 これを「ドラッグリパーパシング」と呼び、開発時間を短縮できる利点があります。 例えば、血圧の薬であるプロプラノロールが骨髄腫に効かないか研究されています。

その他にも、患者さんの状態に応じて以下のような治療法があります。

  • 自家造血幹細胞移植 主に65歳くらいまでの体力がある方に行われる強力な治療です。 大量の薬でがん細胞を減らした後、事前に採取した自分の血液の素を戻します。
  • CAR-T細胞療法 自分の免疫細胞にがんを攻撃する力を与え、体に戻す新しい治療法です。 高い効果が期待される一方、治療後の再発が課題となっています。 ある研究では、治療後1年以内に約6割の患者さんで再発が見られました。 より良い効果を目指すための研究が今も続けられています。
  • 放射線治療 骨の痛みを和らげたり、がん細胞の塊を小さくしたりする目的で行います。
  • 支持療法 貧血や腎臓の障害など、病気に伴う様々なつらい症状を和らげる大切な治療です。