骨髄炎(化膿性骨髄炎)

ズキズキと脈打つような痛みや原因不明の熱。その症状、もしかしたら骨の中で細菌が繁殖し、骨そのものを破壊する「骨髄炎」かもしれません。この病気は一度かかると非常に治りにくく、再発を繰り返す厄介な性質を持っていることをご存知でしょうか。

骨髄炎が治りにくい最大の理由は、原因菌の代表である「黄色ブドウ球菌」の驚くべき生態にあります。この菌は骨を作る細胞の中に巧みに隠れ、薬や免疫の攻撃から逃れて生き延びるのです。その結果、骨は内側から静かに蝕まれていきます。

この記事では、骨髄炎がなぜ起こるのか、その種類や症状、そして専門的な治療法について詳しく解説します。ご自身の状態を正しく理解し、適切な一歩を踏み出すために、ぜひ最後までお読みください。

骨髄炎(化膿性骨髄炎)の概要

骨髄炎(こつずいえん)は、骨の中に細菌が侵入し、 炎症や膿(うみ)がたまる病気のことです。 普段、私たちの骨は皮膚や筋肉によって守られています。 そのため、骨の中は細菌のいない清潔な状態です。

しかし、深いケガなどから細菌が骨に侵入します。 この病気が厄介なのは、一度かかると治りにくい点です。 原因菌で最も多い黄色ブドウ球菌の性質が関係します。 この菌は、骨を作る細胞の中に隠れて生き残ります。

細胞の中に隠れると、お薬(抗菌薬)が届きません。 体を守る免疫の力も、菌を見つけにくくなります。 さらに、感染した細胞は骨を壊す物質を出し、 骨の正常なバランスを崩してしまうのです。

骨髄炎の主な特徴は以下の3つです。

  • 骨の感染症 骨の中で細菌が増え、強い炎症が起こります。
  • 治りにくい性質 原因菌が細胞内に隠れるため、薬が効きにくく、 再発を繰り返すことがあります。
  • 骨へのダメージ 感染によって骨が壊され、もろくなったり、 変形したりする可能性があります。

このように骨髄炎は、骨自体を破壊する病気です。 病気について正しく理解し、適切に対応しましょう。

骨髄炎(化膿性骨髄炎)の種類

骨髄炎は、病気の進み方や細菌が骨にたどり着く 経路によって、いくつかの種類に分けられます。 ご自身の状態を理解するためにも、 どのような種類があるのかを知っておきましょう。

進み方の速さでは、主に「急性」と「慢性」に分けられます。

  • 急性骨髄炎(きゅうせいこつずいえん) 急に症状があらわれるタイプです。 突然の高熱や、骨の部分にズキズキとした 強い痛みを感じることが特徴です。 子どもでは腕や足の骨に起こることが多く、 大人は背骨に発症しやすい傾向があります。
  • 慢性骨髄炎(まんせいこつずいえん) 急性骨髄炎が治りきらずに長引いた状態です。 急性のときほどの激しい症状はおさまります。 しかし、鈍い痛みが続いたり、膿(うみ)が 皮膚にできた穴から出てきたりします。 この膿の通り道を瘻孔(ろうこう)と呼びます。

また、細菌が感染する場所によって特別な名前で 呼ばれることがあります。代表的なものが顎の骨に起こる 「顎骨骨髄炎(がっこつこつずいえん)」です。

顎骨骨髄炎は、虫歯や歯の治療がきっかけとなり、 口の中にいる細菌が原因となって発生します。 特に下のあごの骨に起こることが多いとされます。 口の中はもともと多くの細菌がいる場所です。 そのため、顎骨骨髄炎の診断や治療は 難しい場合があることが知られています。

分類

主な特徴

急性骨髄炎

・急に発症する

・高熱やズキズキする強い痛みをともなう

慢性骨髄炎

・症状が長く続く、またはくり返す

・膿の出口(瘻孔)ができることがある

顎骨骨髄炎

・顎の骨に起こる

・虫歯や歯の治療がきっかけになりやすい

骨髄炎(化膿性骨髄炎)の原因

骨髄炎は、細菌が骨の中に侵入することで起こります。 細菌が骨にたどり着く道筋は、主に2つあります。

  1. 体の外から直接、骨に菌が入る
  2. 体の中から血液に乗り、菌が骨まで運ばれる

それぞれの原因を、もう少し詳しく見ていきましょう。

体の外から直接入る場合

ケガや手術などがきっかけで、細菌が骨に届く場合です。 例えば、骨折で骨が皮膚を突き破ったり(開放骨折)、 釘を踏んだりして、傷が骨まで達すると感染します。

特に、あごの骨に起こる「顎骨骨髄炎」には注意が必要です。 虫歯や歯の治療をきっかけに、口の中の細菌が あごの骨に感染することがあります。 口の中はもともと細菌が多いため、治療が難しいです。

体の中から運ばれてくる場合

体のどこか別の場所で起きた感染が原因となる場合です。 例えば、皮膚のおできや喉の炎症を起こした菌が、 血液の流れに乗って骨まで運ばれてしまいます。

治りにくい理由と「黄色ブドウ球菌」

骨髄炎の原因菌で最も多いのは、黄色ブドウ球菌です。 この菌は、骨を治りにくくする厄介な性質を持っています。

実は、この菌は骨を作る細胞の中に入り込み、 そこに隠れて生き延びることができるのです。 細胞の中に隠れると、お薬や体を守る免疫の攻撃から 身を守ることができるため、菌がしぶとく残ります。

さらに悪いことに、隠れた菌は骨を壊す細胞を 元気にする物質を出し、骨のバランスを崩します。 この性質が、骨髄炎が治りにくく、慢性化しやすい 大きな原因となっています。

感染のルート

具体的なきっかけの例

体の外から直接入る

・骨が飛び出るほどの大きなケガ(開放骨折)

・骨の手術

・釘を踏むなどの深い傷

・虫歯や歯の治療(あごの骨)

体の中から運ばれてくる

・皮膚のおできや、のどの炎症

・おしっこの通り道の感染症

・菌が血液に乗って骨にたどり着く

骨髄炎(化膿性骨髄炎)の症状

骨髄炎の症状は、急にあらわれる「急性」の場合と、 長く続く「慢性」の場合で大きく異なります。 また、年齢によっても症状の出かたに特徴があり、 見逃さないように注意深く観察することが大切です。

からだにあらわれる主なサイン 骨髄炎になると、感染した場所と全身の両方に、 以下のような症状があらわれることがあります。

  • からだ全体の症状 高い熱が出て、ブルブルと震える寒気がします。 からだが重くだるく、疲れやすい状態が続きます。 食欲がなくなったり、体重が減ったりもします。
  • 感染した場所の症状 ズキズキと脈を打つような、とても強い痛みです。 感染した部分が赤くパンパンに腫れあがります。 触ってみると、明らかに熱を持っているのが特徴です。 膿(うみ)が皮膚からあふれ出てくることもあります。

【特に注意】年齢による症状のちがい 骨髄炎は、年齢によって症状のあらわれ方が様々です。 特に、自分でうまく症状を伝えられないお子さんの場合は、 周りの大人が変化に気づいてあげることが重要です。

研究でも、お子さんの骨の感染症は発見や対応が遅れると、 関節が壊れたり、骨の成長が止まったりする危険性が 高まることがわかっています。

年齢

特徴的な症状

お子さん

・わけもなく機嫌がわるくなる

・痛いほうの手や足を動かそうとしない

・急に歩きたがらなくなる

大人の方

・高い熱が出ないことも多い

・背骨に感染すると、じっとしていても続く

しつこい背中の痛みが特徴

慢性化すると、激しい痛みや高熱はおさまります。 しかし、鈍い痛みが続いたり、膿が出たり止まったりを くり返すため、根気強い治療が必要になります。 気になる症状があれば、自己判断せずにご相談ください。

骨髄炎(化膿性骨髄炎)の検査・診断

骨髄炎の診断は、いくつかの検査を組み合わせます。 まるでパズルのピースを一つひとつ集めるようです。 一つの検査だけで診断を確定することはできません。

特に、お子さんの骨の感染症は注意が必要です。 研究では、診断や対応が遅れてしまうと、 骨の成長が止まるなどの後遺症につながる危険性が 高まることがわかっています。 そのため、迅速で正確な診断がとても大切です。

診断は、主に以下の4つの方法を組み合わせて行います。

1. お話を聞き、からだを調べる(問診・診察) まず、症状について詳しくお話をうかがいます。 いつから、どこが痛むか、熱はあるかなどを確認し、 過去のケガや病気についても教えてもらいます。 診察では、痛む場所を直接見て、触れて、 腫れや熱っぽさなど炎症のサインを探します。

2. 血液検査 体の中で炎症が起きているか調べるために採血します。 体の中の「火事」の大きさを知るための検査です。

検査項目

どんなことがわかる?

白血球数

細菌と戦う兵隊のような細胞の数です。

感染が起きると数が増えることがあります。

CRP値

炎症が起きると肝臓で作られるタンパク質です。

数値が高いほど、炎症が強いことを示します。

3. 画像検査 骨やその周りの状態を詳しく見るための検査です。 骨の中を「のぞき見」するようなイメージです。

  • レントゲン検査 骨の形や破壊の様子を確認する基本的な検査です。 しかし、骨の変化はすぐには画像にあらわれません。 症状が出て1〜2週間しないと見つからないこともあります。
  • MRI検査 骨の中の炎症を、ごく初期の段階から見つけます。 レントゲンではわからない変化もとらえるため、 早期診断では非常に頼りになる検査です。

4. 細菌検査(原因菌の特定) 骨髄炎の原因となっている菌を特定する検査です。 どの薬が効くかを調べるための、最も重要な検査です。 膿や血液、手術で取った骨の一部などから、 原因菌を見つけ出し、最適な治療法を決めます。

これらの検査結果を総合的に見て、診断を確定します。 気になる症状があれば、ためらわずにご相談ください。

骨髄炎(化膿性骨髄炎)の治療

骨髄炎の治療は、大きく2つの方法が中心です。 原因菌をたたく「薬物療法」と、悪い部分を 直接取り除く「外科的治療(手術)」です。 この病気は治りにくく、治療が長引くこともあります。 根気強く治療に取り組むことが非常に重要です。

薬物療法(お薬での治療) 治療の基本は、原因となる細菌に効くお薬、 抗菌薬(こうきんやく)をしっかり使うことです。

  • 投与方法 主に点滴で、お薬を直接血管の中に入れます。 骨は血の流れが少ないため、お薬が届きにくい場所です。 そのため、4〜8週間と長い期間の点滴が必要で、 多くの場合、入院での治療となります。
  • 薬の選択 血液や膿を調べて原因菌を特定します。 その菌に最も効果的なお薬を選ぶことが、 治療を成功させるためのカギとなります。

外科的治療(手術) お薬だけでは治らない場合や、病気が慢性化して 膿がたまったり、骨が死んだり(壊死)した場合は、 手術で悪い部分を取り除く必要があります。

  • 手術の目的 ・たまった膿(うみ)を体の外に出す ・細菌に感染して死んだ骨や組織(腐骨)を取り除く
  • 主な手術方法
  • 持続洗浄療法 感染した部分をきれいに掃除し、チューブを入れます。 そのチューブから洗浄液を流し続け、 骨の中を常に清潔な状態に保つ方法です。
  • 最小侵襲手術 特に糖尿病が原因で足に骨髄炎が起きた場合など、 体への負担をできるだけ小さくする手術です。 研究でも、この方法は患者さんの生活の質を保ち、 医療の負担を減らす上で有効とされています。

状態によっては、組織の回復を助ける治療を 組み合わせることもあります。 どの治療法を選ぶかは、患者さんの状態によって異なります。 担当の医師とよく相談しながら進めていきましょう。