体の中心で上半身と下半身をつなぐ「土台」である骨盤。この重要な骨が折れる「骨盤骨折」は、全骨折の約3%と稀ですが、命に関わることもある非常に危険な怪我です。単に骨が折れるだけでなく、大量出血や内臓損傷を引き起こすリスクを伴います。
さらに、骨盤骨折後に「敗血症」という重い感染症を発症すると、死亡リスクが3倍以上に跳ね上がるという衝撃的なデータもあります。交通事故のような大きな衝撃だけでなく、高齢の方ではくしゃみや軽い転倒が原因になることも珍しくありません。
この記事では、見過ごされがちな骨盤骨折の本当の恐ろしさから、その原因、症状、そして最新の治療法までを詳しく解説します。ご自身や大切なご家族を守るために、ぜひ正しい知識を身につけてください。
骨盤骨折の概要
骨盤は体の中心にあり、上半身と下半身をつなぐ土台です。 この非常に重要な骨が折れてしまうことを「骨盤骨折」といいます。
骨盤は体を支えるだけでなく、お腹の腸や膀胱、生殖器など、 大切な内臓を守る「器」のような役割も担っています。 また、周りには体を動かす大きな筋肉や神経、太い血管が集まっています。
骨盤骨折は、すべての骨折の中で約3%を占めるといわれています。 骨折の中でも特に注意が必要で、命に関わることもある重大な怪我です。 なぜなら、折れた骨が周りの血管や内臓を傷つけてしまうからです。
- 大量出血のリスク 太い血管が傷つくと、大量に出血して命が危ない状態 (出血性ショック)になることがあります。
- 内臓損傷のリスク 膀胱や腸が傷つくと、おしっこやうんちが出せなくなるなど、 深刻な問題が起きる可能性があります。
- 感染症(敗血症)のリスク 大きな怪我で体の抵抗力が落ちると、ばい菌が全身に広がる 「敗血症(はいけつしょう)」という重い病気になることがあります。 ある研究では、骨盤骨折後に敗血症を発症すると、 死亡するリスクが3倍以上高くなると報告されています。
このように骨盤骨折は、単に骨が折れるだけの怪我ではありません。 命に関わる合併症を引き起こすことがあるため、 迅速で適切な診断と治療がとても重要になります。
骨盤骨折の種類
骨盤骨折と一言でいっても、骨の折れ方によって種類が異なります。 この種類分けは、治療方針を決めるための大事な「ものさし」です。 けがの重さや治療法も、この分類によって大きく変わってきます。 主に「骨盤の輪っかの安定性」と「折れた場所」で分類されます。
1. 骨盤の輪っかの安定性による分類
骨盤は、内臓を守る「骨盤輪(こつばんりん)」という輪っかの形をしています。 この輪っかが壊れているかどうかで、大きく2つに分けられます。
- 安定型骨折 骨盤の輪っかの一部が折れていますが、全体の構造は保たれています。 骨のズレが少ないことが多く、比較的安定している状態です。
- 不安定型骨折 骨盤の輪っかが2ヶ所以上折れてしまい、ぐらぐらになった状態です。 大きな力が加わった時に起こりやすく、重症になることが多い骨折です。
2. 折れた場所による分類
どこが折れたかによっても、けがの重大さや治療法が変わります。
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種類
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特徴
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骨盤輪(こつばんりん)骨折
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股関節の受け皿以外の、骨盤の輪っかを構成する骨の骨折です。
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寛骨臼(かんこつきゅう)骨折
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股関節の「受け皿」にあたる部分の骨折です。歩く機能に直接影響します。
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脆弱性(ぜいじゃくせい)骨折
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骨がもろくなる骨粗しょう症が原因で、軽い力で折れてしまう骨折です。
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特に、股関節の受け皿である「寛骨臼」の骨折は、歩行に大きく関わります。 高齢の方では状態が複雑になりやすく、ある研究では、 外科医や麻酔科医、老年病の専門医によるチームでの治療が、 回復のために不可欠であると示されています。
また、骨がもろくなって起こる「脆弱性骨折」では、注意が必要です。 最初の骨折の後、さらに別の場所が折れてしまうことがあります。 ある研究のまとめでは、この骨折の進行は患者さんの約11%に見られ、 手術をしない保存療法の場合は16%にまで上がると報告されています。 そのため、最初の診断と治療法の選択が非常に重要になるのです。
骨盤骨折の原因
骨盤骨折が起こる原因は、大きく2つに分けられます。 骨に加わる「力の強さ」と、骨自体の「もろさ」です。 原因は、年齢によっても大きく異なる傾向があります。
1. 非常に強い力が加わる骨折(高エネルギー外傷)
若い人に起こる骨盤骨折は、このタイプがほとんどです。 交通事故や高い場所からの転落など、非常に大きな力が、 骨盤に直接加わることで発生します。
- 交通事故 自動車やバイクの事故、歩行中に車とぶつかるなど。
- 高所からの転落 工事現場やビルの窓など、高い場所から落ちる。
- スポーツでの怪我 激しい接触や転倒で、強い筋肉が骨を引っ張り、 骨の一部がはがれる「剥離骨折(はくりこっせつ)」が起こることもあります。
2. 弱い力でも起こる骨折(脆弱性骨折)
高齢の方では、骨がもろくなる「骨粗しょう症」が原因で、 日常のささいな動きでも骨折してしまうことがあります。 これを「脆弱性骨折(ぜいじゃくせいこっせつ)」と呼びます。
- 家の中でつまずいて転んでしまった。
- ベッドから寝ている間に落ちてしまった。
- くしゃみや咳をした時の衝撃で折れることもあります。
体重と骨折リスクの関係
近年、体重と骨折リスクの関係についても研究が進んでいます。 例えば、複数の研究結果をまとめて分析した信頼性の高い報告があります。 その報告によると、年を重ねた女性の場合、肥満(太っていること)は、 骨盤骨折のリスクを下げる可能性があるとされています。 これは転倒した際に、厚い脂肪がクッションの役割を果たすためと考えられます。
しかし、同じ研究では、肥満が背骨の骨折リスクは高めることも示されています。 そのため、骨折全体のリスクを考えると、適切な体重管理が重要です。
骨盤骨折の症状
骨盤骨折の症状は、骨の折れ方や程度によって大きく異なります。 我慢できないほどの痛みもあれば、気づきにくい鈍い痛みの場合もあります。
主な症状
骨折したときに最もよく見られるのは、以下の症状です。
- 痛み 足の付け根(そけいぶ)や腰、お尻に強い痛みを感じます。 体を動かしたり、座ったり、歩こうとしたりすると激痛が走ります。 あまりの痛みに、立つことも座ることもできなくなる場合があります。
- 腫れとあざ 骨折した周りの皮膚がパンパンに腫れることがあります。 皮膚の下で出血(内出血)が起こるため、 紫色や青色のあざができるのが特徴です。
見逃してはいけない危険なサイン(合併症)
骨盤骨折は、単に骨が折れるだけの怪我ではありません。 骨盤の中にある大切な血管や内臓を傷つけ、命に関わることもあります。 次のような症状は、特に注意が必要な危険なサインです。
- 大量出血によるショック症状 太い血管が傷つくと、大量に出血して血圧が下がり、 意識がもうろうとする「出血性ショック」になることがあります。
- 臓器や神経の損傷 折れた骨が周りの臓器を傷つけることで、以下のような症状が現れます。 ・膀胱や尿道の損傷:おしっこが出ない、血が混じる ・腸や直腸の損傷:お腹の痛み、血便 ・神経の損傷:足のしびれ、力が入らない
- 敗血症(はいけつしょう) 大きな怪我で体の抵抗力が落ち、細菌が全身に広がる重い感染症です。 ある研究では、骨盤骨折後に敗血症を発症した患者さんは、 死亡するリスクが3倍以上高くなると報告されています。 また、敗血症を発症した場合、1年後には約半数の方が亡くなるという、 非常に厳しいデータも出ています。
一方で、骨粗しょう症の進んだ高齢の方では、はっきりした痛みを感じず、 我慢してしまうケースもあるため、「転んでから調子が悪い」といった、 ささいな変化にも注意することが大切です。
骨盤骨折の検査・診断
骨盤骨折が疑われる場合、まずはお医者さんによる問診と診察から始まります。 いつ、どこで、どのようにケガをしたのかを詳しくお話しください。 痛みの場所や強さ、体を動かせるかなども大切な情報になります。 お医者さんは痛い場所を優しく触ったり、慎重に動かしたりして、 骨盤がぐらついていないか、つまり「安定しているか」を調べます。
次に、骨の状態や隠れたダメージを正確に知るために、画像検査を行います。
- X線(レントゲン)検査 骨の写真を撮る、骨折診断の基本的な検査です。 骨盤の正面からの撮影で、多くの骨折を発見できます。
- CT検査 体を輪切りにしたような、とても詳しい写真を撮る検査です。 骨盤は複雑な形なので、X線では見えない細かな骨折や、 骨のズレを詳しく確認するために行います。 また、骨盤内の血管や膀胱、腸などの臓器に、 傷がないかを確認するためにも、この検査は非常に重要です。
これらの検査に加えて、尿路の損傷が疑われるときには尿検査も行います。
診断後の注意点:見逃されやすい「新たな骨折」
一度診断された後も、特に骨がもろくなっている方は注意が必要です。 治療中に痛みが続く場合、最初に折れた場所とは別の場所が、 後から新たに折れている「骨折進行」という状態かもしれません。
ある研究をまとめた報告では、骨盤の脆弱性骨折をした方のうち、 約11%に、この「骨折進行」が見られたとされています。 特に、手術をしない保存療法の場合は、16%にまで上がることがわかっています。 痛みがなかなか良くならない場合は我慢せず、すぐに主治医に相談しましょう。
骨盤骨折の治療
骨盤骨折の治療は、骨の折れ方や全身の状態をみて決まります。 治療法は大きく分けて2つあります。
- 保存療法:手術をしない治療
- 手術療法:手術をする治療
交通事故などの大けがで大量に出血している場合は、命が最優先です。 まず出血を止める治療を行い、全身の状態を安定させます。
保存療法(手術をしない治療)
骨のズレが少ない「安定型骨折」の場合に選ばれることが多い方法です。 ベッドの上で安静に過ごし、骨が自然にくっつくのを待ちます。 その後、リハビリで少しずつ体を動かす練習を始めていきます。
しかし、ただ安静にしていれば良いというわけではありません。 ある研究のまとめでは、骨がもろくなっている方がこの治療法を受けた場合、 約16%の方に、別の場所が新たに折れる「骨折進行」が見られました。 痛みが変わらない、または強くなる場合は我慢しないでください。 すぐにお医者さんに伝えることが、とても大切になります。
手術療法(手術をする治療)
骨のズレが大きい「不安定型骨折」では、手術が必要です。 ずれた骨を正しい位置に戻し、金属などでしっかりと固定します。 主な手術方法は、以下のとおりです。
- 内固定術 プレートやねじ(スクリュー)を使い、 体の内側から骨を直接固定する方法です。
- 創外固定術 体の外に組んだ金属の枠(創外固定器)で骨を支えます。 大きなけがの緊急時に、出血を抑えるためにも使われます。
- 人工関節置換術 股関節の骨折がひどく、元に戻すのが難しい場合に行います。 傷んだ部分を、人工の関節に入れ替える手術です。
特に高齢の方の骨折では、もともとの病気なども関係してきます。 そのため、より良い回復のためには、チームでの治療が不可欠です。 ある研究でも、骨を治す整形外科医だけでなく、全身をみる医師や リハビリの専門家などが協力することの重要性が示されています。