骨が皮膚を突き破り、体の外にまで飛び出してしまう「開放骨折」。交通事故や転落事故などで強い力が加わった際に起こる、最も緊急性の高い骨折の一つです。見た目の衝撃だけでなく、その後の治療経過を大きく左右する深刻なリスクをはらんでいます。
開放骨折で最も恐ろしいのは、骨が直接外気にさらされることによる細菌感染です。ある研究では、閉じた骨折に比べて感染症のリスクが約3.6倍にも高まると報告されています。この感染症が、治療を長期化させ、時に深刻な後遺症を残す原因となるのです。
この記事では、開放骨折の危険性から原因、そして命と体の機能を守るための治療法までを詳しく解説します。ご自身や大切な人を守るため、正しい知識を身につけましょう。
開放骨折の概要
骨折の中でも、特に緊急での治療が必要なのが開放骨折です。 これは折れた骨の先が、体を守る皮膚を突き破ってしまい、 体の外にまで骨が飛び出してしまった状態を指します。 皮膚に傷がない通常の骨折(閉鎖骨折)とは大きく異なります。
私たちの体を守る皮膚というバリアが壊れてしまうことが、 開放骨折の最も注意すべき点です。 骨が直接、外の空気に触れることで、土やほこりなどにいる 細菌が骨に付着し、感染症を起こす危険が非常に高まります。 この骨の感染症を「骨髄炎(こつずいえん)」と呼びます。
開放骨折の注意点を以下にまとめます。
- 骨が体の外に露出している 皮膚の傷から折れた骨が見えている、あるいは飛び出しています。
- 細菌感染のリスク 骨が直接ばい菌にさらされ、骨髄炎を起こす可能性があります。
- 治りにくくなる可能性 一度、骨髄炎になると骨がつきにくくなり、治療が長引きます。
この危険な感染を防ぐため、治療では抗生物質が使われます。 けがの後、できるだけ早く抗生物質を使い始めるべきとされます。 しかし、その根拠はまだ十分ではないという専門的な報告もあります。 いくつかの研究をまとめた分析では、早く薬を使い始めても、 感染予防の効果に大きな差はなかったと結論づけられています。 だからといって、けがを放置して良いわけではありません。 何よりも、すぐに病院で適切な治療を開始することが重要です。
開放骨折の種類
開放骨折は、骨が皮膚を破って外に出た状態を指します。 しかし、傷の大きさや深さは、けがの状態によって様々です。 皮膚や筋肉など、骨の周りの組織がどれだけ傷ついているか。 この違いで、治療の方法や感染症にかかる危険性が変わります。
そのため、治療を始める前に骨折の状態を正しく分類します。 この分類には「グスティロ・アンダーソン分類」が使われます。 傷の大きさと、周りの組織のダメージの程度で3つに分けます。
|
分類
|
傷の大きさ
|
周りの組織の損傷
|
|
TypeⅠ
|
1cm未満
|
ほとんどなく、傷がきれい
|
|
TypeⅡ
|
1cm以上
|
軽度から中等度の損傷がある
|
|
TypeⅢ
|
10cm以上
|
損傷が非常に大きい
|
TypeⅢは特に損傷が激しいため、さらに3つに細かく分かれます。
- Type Ⅲ-A 骨折した部分が、皮膚や筋肉である程度は覆われている状態です。
- Type Ⅲ-B 骨がむき出しになり、皮膚や筋肉が大きく失われた状態です。
- Type Ⅲ-C 骨折だけでなく、近くの重要な血管まで傷ついている状態です。
骨が体の外に出ると、細菌が入り込み感染症を起こしやすくなります。 ある研究では、開放骨折は閉じた骨折に比べ、 感染症のリスクが約3.6倍も高くなることが報告されています。 特に、分類がTypeⅡより重いと判断されると、 その危険性はさらに約3.1倍に高まるというデータもあります。 このように骨折の種類を正しく見極めることが、適切な治療への第一歩です。
開放骨折の原因
開放骨折は、骨が折れるほどの非常に強い力が原因で起こります。 この強い力で折れた骨の先端が、皮膚や筋肉を突き破り、 体の外にまで飛び出してしまうのです。
具体的には、以下のような大きなエネルギーが加わるけが、 「高エネルギー外傷」が主な原因として挙げられます。
- 交通事故(自動車、バイク、自転車など)
- 高い場所からの転落
- スポーツでの激しいぶつかり合い
- 工事現場や工場で機械に巻き込まれる事故
ある研究では、こうした高エネルギー外傷を負った場合、 手術後の感染症にかかるリスクが約1.5倍に高まるとされます。 骨折だけでなく、周りの筋肉や皮膚も大きく傷つくためです。
開放骨折は、手術後の感染症を起こす大きな危険因子です。 複数の研究をまとめた分析によると、閉じた骨折に比べて、 開放骨折は感染リスクが約3.6倍にもなると報告されています。
他にも、以下のような状態は感染のリスクをさらに高めます。
- 多発外傷 体の複数箇所を同時にけがすると、体の抵抗力が落ちます。 感染リスクが約2.4倍に高まるというデータもあります。
- 喫煙 タバコは血管を細くして血の巡りを悪くします。 そのため傷の治りが遅れ、感染リスクが約1.8倍になります。
また、高齢の方は骨がもろくなっていることが少なくありません。 そのため、ご自宅での転倒といった比較的軽い衝撃でも、 開放骨折を起こす可能性があり、特に注意が必要です。
開放骨折の症状
開放骨折が起こると、けがをした場所に特徴的なサインが現れます。 折れた骨が皮膚を突き破るため、見た目にも危険な状態です。 単なる骨折とは異なる、注意が必要な症状が出ることが特徴です。
まず、骨折した部分には、次のような症状がはっきりと現れます。
- 激しい痛み 骨が折れているため、じっとしていても耐えがたい痛みを感じます。
- 傷口からの出血 骨の周りには血管も多いため、傷口からたくさん血が出ることがあります。
- 強い腫れ けがをした場所が、内出血や炎症でパンパンに腫れ上がります。
- 皮膚から骨が見える 傷口からのぞく折れた骨の白い先端や、完全に外に飛び出している骨です。
特に警戒が必要なのが「コンパートメント症候群」という状態です。 これは筋肉を包む膜の中で内出血や腫れがひどくなり、 内部の圧力が異常に高まってしまうことで起こります。 圧迫で血の流れが止まると、筋肉や神経が死んでしまう危険があります。 ある研究では、このコンパートメント症候群が一緒に起こると、 手術後の感染リスクが約3.8倍に高まると報告されています。
【コンパートメント症候群の危険なサイン】
- 時間とともに痛みがどんどん強くなる
- 皮膚がパンパンに腫れて、色が青白くなる
- しびれを感じたり、触られた感覚が鈍くなったりする
- 指や足先が自分の思い通りに動かせない
交通事故のような大きなけがでは、体全体に危険が及ぶこともあります。 大量に出血して血圧が下がるなど、命に関わる症状も出ます。 これらの症状は、一刻を争う緊急事態のサインです。
開放骨折の検査・診断
開放骨折が疑われる場合、まず正確な状態を知ることが大切です。 検査の目的は大きく2つあります。 「骨の状態」と「感染のリスク」を詳しく調べることです。 これらを元に、一人ひとりに合った治療計画を立てていきます。
骨がどのように折れているか、まずは画像を使って詳しく調べます。
- X線(レントゲン)検査 骨がどこで折れ、どれくらいずれているかを確認します。 骨折の診断で、まず初めに行われる基本的な検査です。
- CT検査 体を輪切りにしたような、とても詳しい画像を撮影します。 複雑な骨折や関節の近くの骨折を立体的に把握できます。
次に、開放骨折で最も注意すべき感染症に関する検査をします。 傷口から細菌が入り、骨の感染症を起こすことを防ぐためです。
- 培養検査 傷口の組織や液体を少し取り、細菌がいないか調べます。 どんな種類の細菌がいて、どの薬が効くのかを特定します。
これらの検査と同時に、患者さんご自身の状態も詳しく確認します。 手術後の感染リスクは、けがの状態以外にも影響されるためです。 ある研究では、以下のような状態が重なると、 感染のリスクがさらに高まる可能性が報告されています。
- コンパートメント症候群がある 強い腫れで血の流れが悪くなる状態で、感染リスクが約3.8倍になります。
- 多発外傷 体の複数箇所をけがしていると、抵抗力が落ち、リスクが約2.4倍に高まります。
- 喫煙の習慣がある タバコは血の巡りを悪くするため、リスクが約1.8倍になるとされます。
これらの情報をすべて集め、骨折の状態や感染の危険度を判断し、 安全で最適な治療方法を慎重に決めていくのです。
開放骨折の治療
開放骨折の治療で最も大切なことは、2つあります。 感染を防ぐことと、骨を正しい位置でつなぐことです。 治療はけがの状態に合わせて、段階的に進められます。
1. けがをきれいにする処置(初期治療) 病院に着いたら、まず感染を防ぐ処置を最優先で行います。 これは治療の土台となる、非常に重要なステップです。
- 洗浄 手術室で、骨折部分を大量のきれいな水で徹底的に洗います。 骨についた土や砂、細菌を洗い流すことが目的です。
- デブリドマン 傷口の異物や、傷ついて死んでしまった組織を取り除きます。 これらの組織は細菌の栄養源となり、感染の原因になるためです。
2. 骨を固定する手術 骨折した骨を元の位置に戻し、ずれないように固定します。 固定の方法には、主に2つの種類があります。
- 創外固定(そうがいこてい) 体の外に設置した金属の器具で、骨を固定する方法です。 感染のリスクが高い場合や、皮膚の傷がひどい場合に選びます。
- 内固定(ないこてい) 体の中で、骨を直接プレートやねじで固定する方法です。 感染のリスクが低いと判断された場合に行われます。
3. 感染症とたたかう薬物療法 開放骨折では、骨の感染症「骨髄炎」を防ぐことが重要です。 そのため、抗菌薬(抗生物質)の点滴が欠かせません。
- 抗菌薬の選択 けがの重さや感染リスクを考え、薬を慎重に選びます。 例えば、ピペラシリン/タゾバクタムという薬は、 現在広く使われる薬と同等の効果が期待できるという報告もあります。
- 投与のタイミング 抗菌薬は早く使い始めるべき、と一般的には言われています。 しかし、その根拠はまだ十分ではなく、専門家の間でも 研究が続けられている分野です。
- 破傷風の予防 土などで汚れた傷では、破傷風を防ぐ予防接種も行います。
皮膚の傷が大きい場合は、後日、皮膚を移植する手術も行います。 治療後は、体を動かす機能を回復させるためのリハビリが大切です。 早期からリハビリを始めることが、元の生活に戻るための鍵となります。