長鎖脂肪酸代謝異常症

新生児スクリーニングで指摘されることもある「長鎖脂肪酸代謝異常症」をご存知でしょうか?この病気は、生まれつき体内でエネルギーを作る仕組みに問題があり、特に心臓や肝臓、筋肉などで必要なエネルギーが不足してしまう希少疾患です。

私たちの体は脂肪を燃やしてエネルギーを生み出しますが、この病気では遺伝子の設計図のミスにより、その大切なプロセスがうまく機能しません。低血糖や筋肉の痛み、心臓の不調など、命に関わる急な症状を引き起こすこともあります。

しかし、早期発見と適切な食事管理、治療によって、症状をコントロールし、健やかな成長と質の高い生活を送ることが可能です。この記事では、長鎖脂肪酸代謝異常症の概要から症状、診断、治療までを詳しく解説します。お子さんの未来を守るために、ぜひご一読ください。

長鎖脂肪酸代謝異常症の概要

この病気は、生まれたときから体の中のエネルギーを作る仕組みに問題がある病気の一つです。 私たちの体は、ご飯やパンなどの糖分だけでなく、脂肪からも大切なエネルギーを作り出しています。 特に、心臓や肝臓、筋肉など、多くのエネルギーを使う臓器では、脂肪を分解してエネルギーを生み出しています。

例えるなら、体の中には小さなエネルギー工場「ミトコンドリア」がたくさんあります。 そこで脂肪を効率よく燃やし、ガソリンのようなエネルギーを作っています。 長鎖脂肪酸代謝異常症は、このエネルギー工場で問題が起こる病気です。 「LCHAD(エルチャッド)」という特別な機械(酵素)が、うまく働かないために起こります。 その結果、脂肪から十分なエネルギーが作られなくなってしまうのです。

必要なエネルギーが足りないと、体はうまく動けなくなります。 例えば、血糖値が急に下がったり、筋肉が繰り返し壊れたりすることがあります。 また、心臓や肝臓の働きにも問題が出ることがあります。

長鎖脂肪酸代謝異常症の種類

「長鎖脂肪酸代謝異常症」と一口に言っても、実はいくつか種類があります。これは、体の中で「長鎖脂肪酸」という脂肪をエネルギーに変えるときに、どの部分で問題が起きているかによって分けられるためです。まるで、工場の中で担当する機械が違うように、それぞれの種類で特徴が異なります。

私たち医師は、どのお子さんがどのタイプの病気なのかをしっかり見極めることを大切にしています。その上で、それぞれに合った治療や生活の工夫をお伝えしています。

代表的な種類をいくつかご紹介しましょう。

・LCHAD(エルチャッド)欠損症

・この病気は、脂肪からエネルギーを作るための特別な「機械(酵素)」が足りないために起こります。

・特に心臓、肝臓、骨の筋肉など、たくさんのエネルギーを使う場所で困りごとが起こりやすくなります。

・必要なエネルギーが作れないために、急に血糖値が下がったり、筋肉が壊れて痛くなったり(横紋筋融解症)、心臓や肝臓の働きが悪くなったりすることがあります。

・また、体の中に本来はいらない「有害な物質」がたまってしまうことで、目の見え方や手足のしびれ(末梢神経障害)といった症状が出ることがあります。

・このLCHAD欠損症では、病気をできるだけ早く見つける「早期診断」がとても大切です。

・そして、一人ひとりの体に合った「食事の工夫」をしっかり続けることで、子どもの頃に命にかかわるような急な体調不良を防ぐことができます。

・さらに、大人になっても元気に生活を送り、生活の質を高く保つことにつながると言われています。

・VLCAD(ブイエルカッド)欠損症

・この病気もLCHAD欠損症とよく似ていて、脂肪をエネルギーに変える別の酵素の働きが悪いことで起こります。

・症状もLCHAD欠損症と似たようなものが出ることがあります。

・CPT-I(カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ・ワン)欠損症やCPT-II(カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ・ツー)欠損症

・これらの病気は、脂肪をエネルギー工場であるミトコンドリアという場所へ「運び入れる仕組み」に問題がある場合に起こります。

・特にCPT-II欠損症では、運動を頑張った後などに筋肉が痛み、横紋筋融解症が起こりやすいことが特徴です。

これらの種類の病気全体に共通する注意点として、体調が悪いときや、激しい運動などで筋肉に大きな負担がかかると、「横紋筋融解症」という、筋肉の細胞が壊れてしまう状態になりやすいということがあります。この状態は、腎臓にも負担をかけてしまう危険性がありますので、十分な注意が必要です。

もちろん、無理な運動は避けることが大切ですが、一方で、運動を全くしないと体力が落ちてしまったり、全身の身体機能が低下したりするという長期的な問題も起こりやすくなります。そのため、患者さん一人ひとりの体の状態に合わせて、安全にできる運動の方法を見つけ、生活の質を高めていくことがとても重要だと私たちは考えています。

長鎖脂肪酸代謝異常症の原因

私たちの体は、とてもたくさんの情報を書き込んだ「遺伝子」という大切な設計図をもとに作られています。この遺伝子には、体が健康に働くための指令がぎっしり詰まっています。長鎖脂肪酸代謝異常症は、残念ながら、この遺伝子という設計図に小さなミスがあるために起こる病気です。

体の中には、「ミトコンドリア」という小さなエネルギー工場があります。この工場で働く「機械」(酵素)は、すべて遺伝子の設計図通りに作られます。もし、この設計図に問題があると、脂肪をエネルギーに変えるための大切な機械が、うまく作られなかったり、十分に働かなくなったりするのです。

その結果、体に入ってきた「長い脂肪」がきちんと処理されずに残ってしまいます。単にエネルギーが足りなくなるだけでなく、この処理しきれない脂肪が、体にとって「悪い物質」に変わってしまうのです。具体的には、長鎖3-ヒドロキシアシルCoAや、それに対応する3-ヒドロキシアシルカルニチンといった物質が体にたまり始めます。

これらの悪い物質は、私たちの体の中で毒のように働き、細胞を傷つけてしまいます。特に、心臓や肝臓、筋肉といった、多くのエネルギーを使う大切な臓器に大きな負担をかけます。さらに、目や手足の神経細胞にも影響が出ることがわかっています。生まれつきの遺伝子の問題が、このような体のトラブルを引き起こす根本的な原因なのです。

長鎖脂肪酸代謝異常症の症状

長鎖脂肪酸代謝異常症は、体がエネルギーを上手に作れなかったり、体の中に悪いものが溜まってしまったりすることで、様々な症状が起こる病気です。お子さんの年齢や病気の重さによって、現れる症状は異なります。

エネルギー不足で起こる症状

心臓や肝臓、骨の筋肉は、たくさんのエネルギーを使う大切な場所です。この病気では、脂肪からエネルギーをうまく作れないため、これらの臓器でエネルギーが足りなくなり、様々な困った症状が現れます。

・低血糖(ていけっとう)

・体が脂肪をエネルギーとして使えないと、血糖値が急に下がりすぎてしまいます。

・赤ちゃんや小さいお子さんでは、ぐったりする、体がぴくぴくする(けいれん)、意識がぼんやりするなどの重い症状が出ることがあります。

・心臓や肝臓の不調

・心臓の筋肉に十分なエネルギーが届かないと、心臓の病気(心筋症)を引き起こすことがあります。

・息切れやむくみ、不整脈(心臓の動きが乱れる)などの症状が現れることがあります。

・肝臓の働きにも影響が出て、体がだるくなったり、皮膚や白目が黄色くなる黄疸(おうだん)が見られたりすることもあります。

体に悪いものが溜まって起こる症状

脂肪からエネルギーを作る途中で、体にとって有害な物質ができてしまい、それが体に溜まることで細胞が傷つけられ、症状につながることがあります。

・横紋筋融解症(おうもんきんゆうかいしょう)

・これは、筋肉の細胞が壊れてしまう状態を指します。

・激しい運動をしたり、熱が出たり、ごはんが食べられない状態が続いたりすると、筋肉に強い痛みを感じたり、手足に力が入らなくなったりします。

・おしっこが赤茶色になることもあります。

・筋肉が壊れた影響で、腎臓(じんぞう)にも負担がかかってしまう危険性があります。

・運動は大切ですが、無理は禁物です。しかし、運動を全くしない状態が続くと、かえって体力が落ちたり、心臓病などの他の病気にかかりやすくなったりする危険性があることも分かっています。私たち医師は、お子さん一人ひとりの体の状態に合わせて、安全にできる運動の方法を一緒に見つけることが大切だと考えています。

・目や神経の症状

・目や手足の神経に影響が出るのは、体の中に増えてしまう「長鎖3-ヒドロキシアシルCoA(ながささんヒドロキシアシルコア)」や「3-ヒドロキシアシルカルニチン(さんヒドロキシアシルカルニチン)」といった悪い物質が、細胞を傷つけてしまうためです。

・色素性網膜症(しきそせいもうまくしょう)

・目の奥にある網膜(もうまく)という部分に異常が起き、夜になると物が見えにくくなったり、見える範囲がだんだん狭くなったりする症状です。

・末梢神経障害(まっしょうしんけいしょうがい)

・手足のしびれや痛み、感覚が鈍くなるなどの症状が現れます。

・これらの症状は、すぐには気づきにくい場合もありますが、日常生活に影響を及ぼすことがあります。いつもと違う様子がないか、ご家族の方も注意深く見てあげることがとても大切です。

これらの症状を早く見つけ、食事の工夫などをきちんと続けることが、お子さんの命を守り、大人になっても元気に過ごすためにとても大切だと考えられています。

長鎖脂肪酸代謝異常症の検査・診断

この病気の検査は、お子さんの未来を守るためにとても大切です。私たちは、少しでも早く病気を見つけ、適切なケアを始めることを目標としています。

全ての赤ちゃんが受ける新生児スクリーニング

日本では、生まれたばかりの全ての赤ちゃんが「新生児スクリーニング」という大切な検査を受けます。これは、足の裏からほんの少しだけ血を採るだけで、たくさんの病気の可能性を調べられる検査です。

この検査は、まだ症状が出ていない段階で病気の兆候を見つけるために行われます。長鎖脂肪酸代謝異常症も、この新生児スクリーニングで見つかることが多い病気の一つです。

詳しい検査で診断を確定

新生児スクリーニングで長鎖脂肪酸代謝異常症の疑いがあるとわかったら、次にさらに詳しい検査に進みます。

・血液や尿の検査

・体の中で「病気に関わる特別な物質」が増えていないか確認します。

・この病気では、脂肪をエネルギーに変える途中で、体にとって良くない物質が溜まることがわかっています。

・遺伝子検査

・この病気は遺伝子の設計図のミスによって起こります。

・そのため、遺伝子検査を行い、病気の原因となっている遺伝子の変化があるかどうかを調べ、診断を確定します。

早期診断が未来を左右する理由

長鎖脂肪酸代謝異常症は、症状が出る前に見つけることが何よりも重要です。なぜなら、早期に病気を診断し、その子に合った食事の工夫や生活管理を始めることが、とても大切だからです。

もし、病気に気づかずにいると、低血糖になったり、筋肉が痛んで「横紋筋融解症(おうもんきんゆうかいしょう)」という筋肉の細胞が壊れる状態になったりするリスクが高まります。このような状態は腎臓にも負担をかけてしまうことがあります。

長鎖脂肪酸代謝異常症の治療

長鎖脂肪酸代謝異常症は、生まれつき体の中のエネルギー工場(ミトコンドリア)が、脂肪を上手にエネルギーに変えられない病気です。残念ながら、今のところ病気そのものを完全に治す方法はありません。でも、先生たちは、この病気のお子さんが元気に毎日を過ごせるよう、いろいろな方法でサポートしています。治療の目標は、病気の症状を和らげ、悪くならないようにしっかり管理していくことです。

治療で最も大切なことは、毎日の食事の工夫です。体の中でうまく使えない「長い鎖の脂肪」が多い食べ物を控えることが重要になります。わたしたちは、特に小さいお子さんの元気な毎日と、大人になったときの健康を守るために、早く病気を見つけて、その子にぴったりの食事の工夫を続けることがとても大切だと考えています。これによって、命に関わるような急な体調不良をぐっと減らし、大人になっても質の高い生活を送れるようになることが分かっています。

心臓は体の中で一番頑張って働く筋肉です。この病気では、心臓のエネルギー工場(ミトコンドリア)の働きが悪くなり、脂肪をエネルギーに変えることが難しくなります。その結果、心臓のエネルギーが足りなくなり、心臓がどんどん弱ってしまう「心不全」という状態につながることがあります。さらに、エネルギー工場がうまく動かないことと、脂肪が上手に使えないことは、お互いに影響し合って、心臓をもっと弱らせてしまうという悪循環になることもわかっています。

先生たちは、この悪循環を少しでも止めるために、お子さんの心臓の働きを助ける薬を使ったり、体の代謝を調整する薬を使ったりして、心臓を守る治療を行っています。どのような治療が一番良いかは、お子さん一人ひとりの体調や病気の様子によって異なります。

そのため、クリニックの先生や栄養士さんと一緒に、粘り強く治療を続けることが大切です。定期的に検査をして、体の様子を細かくチェックすることで、安心して毎日を過ごせるようにサポートしていきます。