自己免疫疾患

原因不明の熱や続く倦怠感。その不調は、本来ウイルスなどから体を守るはずの「免疫」が、自分自身を攻撃している危険なサインかもしれません。この免疫システムの誤作動によって引き起こされるのが「自己免疫疾患」です。

ひとくちに自己免疫疾患と言っても、関節リウマチや橋本病など、その種類は100種類以上も存在します。遺伝的な要因に、ウイルス感染やストレスといった環境的な要因が複雑に絡み合って発症すると考えられており、誰にでも起こりうる病気なのです。

この記事では、まだ謎の多い自己免疫疾患について、その原因から種類、最新の研究でわかってきたことまでを詳しく解説します。ご自身の体で何が起きているのかを理解し、不安を解消するための一歩としてお役立てください。

自己免疫疾患の概要

私たちの体には、外から入ってきた細菌やウイルスなどから体を守る「免疫」という仕組みが備わっています。

この免疫システムが何らかの理由で誤作動を起こし、自分自身の正常な細胞や組織を敵と間違えて攻撃してしまう病気、それが「自己免疫疾患」です。本来、体を守るはずの免疫が、自分自身を攻撃してしまう状態を指します。

自己免疫疾患は、症状が現れる場所によって大きく2つのタイプに分けられます。

  • 臓器特異性疾患 特定の臓器や組織だけが攻撃されるタイプです。(例:甲状腺、皮膚など)
  • 全身性疾患 全身の様々な臓器や組織が攻撃の対象となるタイプです。(例:関節、皮膚、腎臓など)

この病気の原因はまだ完全には解明されておらず、遺伝的な要因や環境的な要因が複雑に関係して発症すると考えられています。

例えば、自己免疫疾患があると特定の手術の結果に影響が出るかどうかが研究されたことがあります。多くの論文を系統的に調査した結果、現時点では明確な関連性はないと報告されています。このように、自己免疫疾患については今も世界中で研究が続けられている分野なのです。

自己免疫疾患の種類

自己免疫疾患とひとくちに言っても、実は100種類以上もの病気が含まれていると言われています。

どの臓器や組織が自分の免疫細胞に攻撃されるかによって、大きく2つのタイプに分けることができます。

1. 臓器特異性自己免疫疾患

特定の臓器や組織だけが攻撃の対象となるタイプです。症状が出る場所が限られているのが特徴です。

攻撃される場所

病気の名前の例

神経系

多発性硬化症、ギラン・バレー症候群

甲状腺

橋本病、バセドウ病

皮膚・毛根

尋常性白斑、円形脱毛症

すい臓

1型糖尿病

特に神経系が攻撃される病気の中には、他の病気との関連が研究されているものもあります。

例えば、多発性硬化症は統合失調症という心の病気と関連があることが報告されています。しかし、同じ神経系の病気でもギラン・バレー症候群では、はっきりした関連が見つかっていません。このように病気によって特徴が異なり、現在も研究が進められています。

2. 全身性自己免疫疾患

特定の臓器だけでなく、全身のさまざまな場所が攻撃の対象となるタイプです。症状が全身に及ぶため、診断が難しいこともあります。

  • 関節リウマチ
    主に関節が攻撃され、痛みや腫れ、変形が起こります。
  • 全身性エリテマトーデス(SLE)
    皮膚、関節、腎臓、神経など、全身のさまざまな臓器に症状が現れます。
  • シェーグレン症候群
    主に涙腺や唾液腺が攻撃され、目や口が乾燥する症状が特徴です。

自己免疫疾患は非常に種類が多く、症状も複雑です。そのため、かかりつけ医の先生向けの継続的な研修でも、自己免疫疾患はまだ十分に扱われていないという報告もあります。専門家による正確な診断と治療がとても重要になる分野なのです。

自己免疫疾患の原因

自己免疫疾患がなぜ起こるのか、その原因は一つではありません。 いくつかの要因が、まるでパズルのピースのように組み合わさって発症すると考えられています。

大きく分けると、生まれ持った「遺伝的な要因」という土台に、生活の中の「環境的な要因」というきっかけが加わって、病気のスイッチが入るとイメージすると分かりやすいでしょう。

1. 遺伝的な要因

生まれつき、自己免疫疾患にかかりやすい体質を持っている方がいます。 ご家族に同じ病気の方がいると、少し発症しやすくなるのはこのためです。

しかし、最も大切なのは、遺伝的な要因があるからといって、必ずしも病気になるわけではないということです。 あくまで、病気になりやすい「可能性」を持っているに過ぎません。

2. 環境的な要因

遺伝的な要因を持つ人が、以下のようなきっかけにさらされることで、免疫システムの誤作動が始まると考えられています。

  • ウイルスや細菌への感染 風邪のような身近な感染が、病気の引き金になることがあります。 特にEBウイルスというウイルスは、免疫の誤作動と深く関係していることが知られています。
  • 生活習慣や周りの環境 紫外線や喫煙、過度なストレスなども発症のきっかけになります。 タバコが免疫のバランスを崩すことや、日光の浴びすぎが皮膚の細胞に影響を与えることなどがわかっています。
  • 女性ホルモンの影響 多くの自己免疫疾患は、男性よりも女性に多く見られます。 このことから、女性ホルモンが免疫システムの働きに何らかの影響を与えていると考えられています。

科学の進歩でわかってきたこと

かつて、結核を予防するBCGワクチンが、1型糖尿病という自己免疫疾患の原因になるのではないか、と考えられた時期がありました。

しかし、その後の研究でこの説は明確に否定されています。 2022年に発表された研究では、過去の複数の報告を統合し、86万人以上の大規模なデータを分析しました。 その結果、BCGワクチンを接種した人とそうでない人で、1型糖尿病の発症リスクに差はないことが明らかになっています。

自己免疫疾患の症状

自己免疫疾患の症状は、攻撃される体の場所によって大きく異なります。 全身に共通して現れるサインもあれば、特定の臓器だけの症状もあります。 原因がわからない不調が続くときは、注意が必要かもしれません。

多くの自己免疫疾患でみられる、全身のサインには次のようなものがあります。

  • 原因不明の熱が続く
  • 体がだるく、疲れやすい(慢性的な疲労感)
  • 関節の痛みや朝のこわばり
  • 筋肉の痛みや力の入りにくさ
  • 皮膚にできる赤い発疹(皮疹)
  • 口の中にできものができる(口腔内潰瘍)

また、免疫が体のどの部分を攻撃するかによって、次のような特徴的な症状が現れます。

攻撃される場所

こんな症状が出ることがあります

皮膚・毛髪

赤い発疹、水ぶくれ、髪が抜ける(円形脱毛症など)

神経

手足のしびれ、筋力の低下、めまい

目・口

目の乾き(ドライアイ)、口の渇き(ドライマウス)

消化器

腹痛、下痢、血便

さらに、自己免疫疾患は心にも影響を及ぼす可能性が研究でわかってきました。 例えば、神経系が攻撃される自己免疫疾患があると、統合失調症という心の病気になるリスクが高まる可能性が報告されています。

身体の不調だけでなく、気分の落ち込みや思考の変化など、心のサインにも注意することが大切です。 ここに挙げた症状は一例であり、気になることがあれば自己判断せず、専門の医療機関に相談しましょう。

自己免疫疾患の検査・診断

自己免疫疾患の診断は、一つの検査だけで決まるものではありません。 お話を聞く問診や診察、様々な検査結果を総合的に判断します。 まるでパズルのピースを一つひとつ集めて全体像を明らかにする作業です。

まず、症状や生活習慣について詳しくお伺いする「問診」から始まります。 いつから、どのような症状があるかなど、あなたの言葉が最も重要な情報です。 次に、関節の腫れや皮膚の状態などを直接確認する「身体診察」を行います。

そして、診断をより確かなものにするために、次のような検査を進めます。

検査の種類

どのようなことを調べる検査か

血液検査

診断の手がかりを探す、非常に重要な検査です。

・炎症反応の確認

体の中で「火事」が起きていないか調べます。(CRPなど)

・自己抗体の検査

自分の体を間違って攻撃する物質がないか調べます。(抗核抗体など)

・血算

血液の成分を調べ、貧血などがないか確認します。

画像検査

体の中の状態を目で見て確認するために行います。

・X線(レントゲン)検査

主に関節や骨の状態を調べます。

・CT・MRI検査

臓器や脳などを、より詳しく立体的に調べます。

・超音波(エコー)検査

臓器の形や血の流れなどをリアルタイムで確認します。

生検

皮膚や臓器の組織を、ごく少量だけ採取する検査です。

採取した組織を顕微鏡で詳しく調べることで、病気の確定診断に繋がります。

その他の検査

疑われる病気や症状に応じて、追加の検査を行います。

・尿検査

腎臓に影響が出ていないか調べます。

・シルマー試験

涙の量を測り、ドライアイの程度を評価します。

これらの検査は、症状に応じて必要なものを組み合わせて行います。 原因がわからない不調が続く場合は、自己判断せず専門の医療機関に相談しましょう。

自己免疫疾患の治療

自己免疫疾患の治療は、病気を完全に無くすことよりも、まず症状を和らげることが目標です。 体の内部で起きている免疫システムの誤作動を抑え、普通の毎日を送れるようにコントロールします。 治療は一つではなく、病気の種類や重さに合わせて、いくつかの方法を組み合わせるのが基本です。

治療の中心は、お薬を使った薬物療法になります。 主に、体の状態に合わせて次のようなお薬が使われます。

  • ステロイド薬 体の中で起きている炎症という「火事」を強力に消し止めるお薬です。 免疫の過剰な働きを抑える効果があります。
  • 免疫抑制薬 活発になりすぎている免疫細胞全体の働きを、穏やかにするお薬です。
  • 生物学的製剤 免疫の働きに関わる特定の物質だけを狙い撃ちする、比較的新しいお薬です。 症状の原因に直接アプローチします。

これらの薬物療法で改善が難しい場合には、血液の中から悪さをしている物質(自己抗体)を直接取り除く「血漿交換療法」という専門的な治療を行うこともあります。

また、最近では西洋医学だけでなく、東洋医学的なアプローチも注目されています。 例えば、シェーグレン症候群という自己免疫疾患の患者さんを対象とした研究が参考になります。 この研究では、漢方薬による治療が西洋医学の治療と比べて、症状を改善させる割合が高かった(86.03% 対 67.75%)と報告されました。 さらに、副作用が起こる確率も、漢方薬の方が低かったという結果が示されています。

どの治療法を選ぶかは、医師とよく相談することが最も大切です。 お薬の治療と合わせて、十分な休息をとりストレスを避けるなど、日々の生活を整えることも症状の安定には欠かせません。